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「――それで、遺体の詳しい状況について教えてくれないか」
亮ちゃんにそう言われたからには言うしかない。私は遺体目撃時の様子を彼に事細かく説明した。
「私、その日はチャリで散歩してたのよね。風も気持ち良かったし。そうしたら、河川敷で誰かが倒れてた。私は倒れてた人に対して声を掛けたけど、いくら声を掛けても反応がない。――呼吸音が聞こえないし、頸動脈に触れたら脈を感じなかったから、その時点で『ヤバい』って思ったのよ。それからは新庄さんの言う通りよ」
「なるほど。――しかし、お前も厄介ごとに巻き込まれてしまったな。それが連続殺人事件だと気づいたのはいつだったんだ?」
「新庄さんに言われてからよ。『同様の手口による事件が2件発生してる』って言われたのよ。それで、よく見たら遺体に一輪の彼岸花が添えてあって……私はなんとなく恐怖心を覚えたわ」
「まあ、彼岸花は『死者を弔う花』なんて言うからな。――とはいえ、昔から言われている『死者の血を吸って花びらが赤くなる』というのは迷信でしかないんだが」
亮ちゃんに言われて、私は思わず目を丸くした。
「そ、そうなの?」
「そうだ。そんな迷信に騙されるお前もどうかしている。確かに彼岸花は花びらから禍々しい雰囲気を醸し出しているが、そんな怖がる必要はない。――まあ、相次ぐ少女の遺体に彼岸花が添えられているのは不気味ではあるな」
「そうね。犯人が何のために遺体に彼岸花を添えているのか分からないわよ。そもそも、『どこから彼岸花を調達してんのよ』って話だし」
「ああ、それなら見当が付いている」
「ホントに?」
亮ちゃんは、パソコンの画面をこちらに向けてきて――地図を見せながら言う。
「本当だ。――芦屋と神戸の境目というのは森林地帯になっている。それはお前もよく知っているな?」
「分かるわよ。港楠大学の六甲キャンパスから向こうは六甲山地だし」
「正解だ。――それで、森林地帯の中に墓地があるのは知っているな?」
「それも知ってるわよ。斎場もあるんでしょ?」
「正解だ。――これは俺の考えだが、恐らく犯人は墓地に生えている彼岸花を集めてから、少女たちを殺害したんだ」
「何のためによ?」
私がそう言ったところで、亮ちゃんは当たり前の答えしか返さない。
「流石の俺もそこまでは分からない」
「そうよね……」
「まあ、今の俺から言えることはこんなところだ。――とりあえず、新庄とかいう刑事が言っていたことはメモしているし、俺からも援護射撃するつもりだ」
「ホント?」
「本当だ。俺が嘘を吐くはずがないだろう。――それはそうと、原稿の締め切りが迫っている。都紀子、お前との話はこれでおしまいにしたい」
「仕方ないわね……。でも、亮ちゃんが言ってたこと、刑事さんにも話しておこうと思う」
「そうか。それは助かる。――それじゃあ、俺はこれで」
そう言って、亮ちゃんは原稿の執筆を再開した。