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事件解決から数日後。私は懲りなく亮ちゃんのマンションにたむろしていた。――どうせ、自分の家にいても碌なことがない。
亮ちゃんは話す。
「そういえば、お前……事件について事情聴取を受けたんだってな。まあ、遺体の第一発見者なら当然か」
もちろん、私が言うことは分かってた。
「そうよ。刑事さんに色々なことを聞かれたけど、私はただありのままを話すしかなかったわ。私が少女たちを殺害した訳じゃないし」
事情聴取の時に、新庄刑事は荷田敏彦が取調中に吐いたことをすべて話してくれていたな。確か、荷田敏彦がキツネのお面を被っていた理由は私の予想通り「火傷を隠すため」で、遺体の横に彼岸花を添えた理由は「死者への弔い」とか言ってたな。あれだけ用意周到だと、荷田敏彦という男が許せなくなる。――まあ、死刑はないとしても重い罪は免れないだろう。
そんなことを思い出していると、亮ちゃんは私に対してある事を話した。
「彼岸花もそろそろ枯れる時期か。――ここは、一つ見に行くか」
「見に行くって言われても、私……彼岸花の花って嫌いなのよね。だって、彼岸花って『死者の血を吸ったから花びらが赤くなった』って迷信が残ってるぐらいだしさ。結局、迷信は迷信でしかないんだけど……」
「まあ、そう言わずに……」
亮ちゃんは、私の手を引いてマンションから出て行く。そして、芦屋川沿いを南へと進んだ。
確かに、川の土手には赤い彼岸花が咲いている。ここまで多いと、自分の気がどうかしてしまいそうだ。
やがて、市民公園の方まで出ると――あの時のように無数の彼岸花が咲き誇っていた。ここの彼岸花は、まだ枯れていないようだ。
彼岸花の絨毯を見ながら、亮ちゃんは話す。
「俺、昔から彼岸花という花が好きなんだ。確かに、お前が言うとおり赤い彼岸花には禍々しいイメージがあるかもしれないが、白い彼岸花の花言葉は『あなただけを思う』という」
ちょっ、それって……プロポーズ? 私は困惑した。
「あの、亮ちゃん……何が言いたいのよ? まさか、『私と付き合ってくれ』とか言うわけ?」
やはり、私の言いたいことは図星だったらしい。
「その通りだ。――頼む、俺と付き合ってくれ」
そんなこと言われちゃうと、仕方ないなぁ。
「分かったわ。――亮ちゃん、これからもよろしくね」
そう言って、私は亮ちゃんの手を握った。流石にキスまでは恥ずかしいけど、手をつなぐぐらいなら許されるだろう。
――その日の彼岸花は、私と亮ちゃんの恋の成就を見守っているようにも見えた。(了)