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【神戸市内で女子高生死亡 連続殺人事件と同一犯か 神戸新報 202×年10月6日】
私は、たまたまスマホに表示されていた記事を読んでいた。
記事によると、殺害されたのは「安西直子」という女子高生で、警察の調べによると死因は絞殺とのことだった。
しかし、それ以上に気になったことが――「遺体の横に彼岸花が添えられていた」ということだった。仮にそれが事実だとしたら、私が目撃してしまった遺体と同一犯による犯行なのか。マズいな。
そう思った私は、なんとなく新庄さんのスマホに電話をかけた。
ありがたいことに、電話はすぐに繋がった。
「――もしもし、新庄さん?」
「あっ、伴埜さん。一体、どうされましたか?」
「実は、あるニュース記事を目にしてしまって……。見出しには『神戸市内で女子高生死亡』と描かれていましたが、記事を読むと『遺体の横に彼岸花が添えられていた』と書かれていたんです。それで、新庄さんは――この事件を『私が目撃した遺体と同一犯である』と結びつけているんでしょうか?」
私が言いたいことは、新庄さんにも分かっていた。
「もちろん、その通りです。安西さんの遺体は一連の事件と同一犯による犯行であると見ています。まあ、模倣犯という可能性も捨てきれませんが……」
やはり、そうなのか。私は新庄さんの話を聞きながら納得していた。
それから、私は新庄さんにあることを尋ねた。
「新庄さん、一連の事件の犯人について何か分かっていることはありませんか?」
私がそう尋ねたところで、新庄さんは矢継ぎ早に話す。
「実は、容疑者について3人の候補が出てきました。一人目は『稲村蒼汰』という人物、二人目は『荷田敏彦』という人物、そして三人目は『穂樟二郎』という人物です。他に分かっていることと言えば、稲村蒼汰は大学生であること、荷田敏彦は職業不詳だということ、穂樟二郎は神戸在住ながら事件発生時に決まって芦屋市内にある監視カメラの映像に映っていました」
「なるほど。――こうやって見ると、三人とも怪しいですね……」
稲村、荷田、穂樟……。確か、「稲荷」という字は「稲に荷」と書くが……特に関係はないか。ついでに言えば「穂樟」という名字は「フォックス」とも読めるし、下の名前が「二郎」だから、「パンパカパーン」というファンファーレでおなじみの映画会社を連想してしまう。――夢の国に買収されたけど。
そんなことを考えていると、新庄さんから事件に関する重要な手がかりを提示された。
「――そういえば、死亡した安西直子さんが証言していましたが、彼女は『キツネのお面を被ったストーカー』に付きまとわれていたそうです。これがどういう意味を持つのかは分かりませんが、恐らく容疑者を特定するための手がかりだと思われます。一応、参考までに……」
キツネのお面。私が想像したモノは言うまでもなくお祭りでおなじみの白と赤のお面である。まさか、犯人は顔を特定されないようにわざわざその素顔を隠したのだろうか。
私は、なんとなく新庄さんに話す。
「新庄さん、ちょっと待ってください。もしかして、犯人は顔を見られたくないからお面で顔を隠していたんじゃないんでしょうか? 例えば『何らかの事故で顔に火傷を負ってしまって醜い顔になってしまった』とか……そんな感じですよ」
私の話は、新庄さんに――効いた。
「なるほど! つまり、伴埜さんは『顔に大きな火傷がある人物』を探し出せば事件の容疑者にたどり着くと言いたいんですか」
「はい。――まあ、あくまでも一般人の考えでしかありませんし、あまり鵜呑みにしない方が良いと思いますが」
「いや、良いんですよ。そういう考えが事件解決のヒントにもなり得ますし。――ああ、渡瀬さんにもよろしくお願いします」
「もちろんです。一連の話は亮ちゃんにも伝えておきますから」
そう言って、私は新庄さんとの話を結んだ。
それにしても、我ながらファインプレーである。というか、大きな火傷が原因で顔を隠すしかなくなったというのはありきたりな話でもある。ならば、考えられる可能性は――。
そんなことを考えていると、スマホが短く鳴った。
通知を見ると、亮ちゃんからメッセージが来ていた。
――都紀子、例の事件に関する記事は読んだか?
――もちろん、俺は読んだ。安西直子という女子大生がアパートの一室で殺害されたという記事だな。
――俺はその記事を読んだ時点で、犯人の目的というモノに対して目処が付いた。
――これはあくまでも俺の考えでしかないが、犯人は恐らく「変質者」と呼ばれる類の人物だ。
そこまで読んだところで、私もすかさずメッセージを送った。
――亮ちゃん、ちょっと良いかしら?
――実は、さっきまで新庄さんと話してたんだけど……彼が言うには、「稲村蒼汰と荷田敏彦、そして穂樟二郎」という3人の容疑者がいるらしいのよね。
――それで、私は私で「犯人は顔に火傷の痕があるんじゃないか」って言ったのよ。
――そうしたら、新庄さんは何かを思いだしたかのように電話を切ったわ。多分、何か思うことでもあったんでしょうね。
メッセージを送った端から既読マークが付いていく。そして、亮ちゃんはあるメッセージを私宛に送信してきた。
――それだ。都紀子、でかした。
――俺は今から刑事に連絡するから、お前は少し待っていろ。
――それじゃあな。
亮ちゃんからのメッセージはそこで終わっていた。――彼、一体何に気づいたのだろうか? 私はそれが気になって仕方なかった。