表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三つ星料理人チョー・リョーリスキーの手記

作者: 山田


俺はチョー・リョーリスキー!

鍋を振れば雷鳴が轟き、包丁を握れば稲妻が走る――三つ星レストランの厨房を支配する男だ!

料理はただ腹を満たすものじゃない。料理は魂を震わせる芸術であり、人生を変える魔法だ。



俺は三つ星レストランの料理長、チョー・リョーリスキー!

だがな、星なんて飾りにすぎん。俺が信じるのはただひとつ――**うまいか、うまくないか!**

その一点だ。


俺の厨房は戦場だ。

炎は剣、包丁は槍、鍋は盾。

客は王であり、同時に審判。

その裁きを正面から受け止め、勝ち続けてきたからこそ、いまの俺がある。


そして、ここに集まったお前ら――

料理を愛する読者よ!

これから俺と一緒に「味覚の冒険」に出発する。


ただし覚えておけ。

これは単なるレシピ本じゃない。

計量カップに従って塩を量る退屈な教科書じゃない。


この本は――

俺の汗と涙と、炎の情熱で書き上げた「食の武勇伝」だ!

お前らの舌を鍛え、心を揺さぶり、人生を変える。



俺が最初に料理と出会ったのは、まだガキの頃だ。

ボロボロの長屋、油の切れたフライパン、冷めかけたスープ。

だが、そのスープをすすった瞬間――俺の舌は稲妻に打たれた!


「料理ってのは……人を生き返らせる力がある!」

そう悟ったのが十歳のときだ。


それから俺は迷わず包丁を握った。

だが道は血と汗にまみれていた。


修業先の厨房じゃ、毎日が地獄。

鉄鍋を洗えば手の皮は剥け、師匠の罵声が飛んでくる。

「お前の切った玉ねぎはダメだ! やり直せ!」

「そのソースは水だ! 料理じゃねぇ!」


涙と汗で視界が曇っても、俺は包丁を置かなかった。

なぜなら、あの日のスープの衝撃が俺の胸を燃やし続けていたからだ。


そしてある夜、師匠が突然こう言った。

「チョー、お前が作れ。今日のメインを」


俺は震える手で肉を焼き、ソースを作った。

客が口に運ぶ、その瞬間――厨房の時間が止まった。

やがて客から笑みがこぼれた。

「うまい……」


その言葉を聞いたとき、俺は悟った。

俺はこの道で生きる。料理で世界を震わせる!

そこから、俺の本当の戦いが始まったんだ。



俺が修業時代に最初に叩き込まれたのは、包丁の握り方でもソースの作り方でもなかった。

「料理人はまず耐える者だ」――それが師匠の口癖だった。


朝四時に仕込みが始まり、深夜一時に片付けが終わる。眠る時間は三時間。目を閉じたと思えばすぐに怒号が飛ぶ。

「チョー! 貝の砂が残ってるじゃねぇか!」

「チョー! 盛り付けが死んでるぞ!」

「チョー! その皿は誰に出すつもりだ、犬か!?」


俺は何度も心が折れかけた。だが、そのたびに思い出すのは、あの日すすったスープの衝撃だった。料理は人を生き返らせる。ならば、俺は料理で生きるしかない。


ある日、師匠が客のために作った料理を、裏で味見させてもらったことがあった。小さなひとくちの魚料理だ。だが口に入れた瞬間、世界が変わった。

「……これが、本物の“味”か」

ただの白身魚なのに、海の力と大地の香りが同時に爆ぜる。舌の奥から脳髄まで、雷鳴が走った。


俺はその夜、火傷だらけの手で鍋を握りながら誓った。

「いつか、この味を超えてみせる。いや、俺が世界を震わせる料理を作ってみせる!」


そこからだ。俺は狂ったように練習を始めた。

人が寝ている時間に包丁を握り、人が笑っている時間にソースを仕込み、人が恋をしている時間にオーブンを睨みつけた。

手はボロボロになり、とても苦しかった。


だが、不思議なことに――苦しさよりも熱が勝った。

俺の中で炎が燃えていた。

いつか、師匠の背中を、越えるために。


修業を積んだ数年後、俺は自分の店を持った。といっても、最初は三つ星どころか星の影もない小さな店だ。

借金を背負い、ボロい厨房で、客は一晩に三組来れば良い方。だが俺の心は燃えていた。


「星を取る? そんなの夢物語だ」

同業者は笑った。近所の料理人からも馬鹿にされた。

「客が来ねぇのは腕のせいだ」

「やめちまえ、チョー」


だが俺は知っていた。料理は人の心を動かす力を持っている。信じなければならなかった。


ある晩、一人の客がふらりと店に入ってきた。ボロボロのコートを着た中年の男だ。

「腹が減って、寒くて……温かいものを頼むよ」

俺は迷わず、全力でスープを作った。骨から丁寧に旨味を引き出し、香味野菜を忍ばせ、最後に俺の情熱をひとつまみ。


男は一口すすった瞬間、黙り込んだ。そして、涙を流した。

「……あったかい……こんなに、あったかい料理は初めてだ」


そのとき、俺は確信した。

料理は胃袋を満たすだけじゃない。魂を救う力がある。

そして、その料理を作れるのは――俺だ。


噂は少しずつ広がり、客は増えていった。

「チョーの料理は生き返る味だ」

「一皿で人生が変わる」


やがて、俺の店に覆面調査員が現れた。星を与える、あの恐ろしい審査員だ。

出す料理は一皿一皿が勝負。震える手を押さえながら、俺は炎を操り、皿に心を注いだ。


数か月後、発表の日――

俺の店に、**一つ星**が輝いた。


だが、俺の戦いは始まったばかりだった。

一つ星は通過点。

俺の目標は、ただひとつ――三つ星だ!



一つ星を得てからの道は、血と修羅の連続だった。

客の期待は膨れ上がり、批評家は牙を剥いた。

「一つ星で満足するな」

「二つ星になれなければ、すぐに消える」


俺はさらに技を磨いた。

火加減を極限まで操り、食材の声を聴くように包丁を振るった。

「お前たち、俺に語れ! 海の深み、大地の恵み、空の息吹!」

そう叫びながら、肉や魚や野菜に魂を込めた。

そんな生活を続けていくと、なんやかんやあって二つ星を獲得した


ある日、料理評論家たちを集めた特別な晩餐会を開いた。

前菜は大地の香りを閉じ込めた根菜のテリーヌ。

メインは火と氷を同時に操った肉料理。

デザートは光そのものを味わうような柑橘の泡。


食べた者は皆、言葉を失った。

やがて、ひとりの評論家が口を開いた。

「……チョー。お前の料理は、食材を超えて“世界”を語っている」


そしてその年。

俺の店に――**三つ星**が輝いた。


厨房で報せを聞いた瞬間、俺は包丁を置いて泣き崩れた。

修業時代に師匠の罵声を浴び、ボロい鍋で戦った日々。

借金にまみれ、客が来なくて泣いた夜。

それらすべてが、この瞬間につながっていた。


三つ星を取ったからといって終わりではない。

むしろ、ここからが本当の始まりだ。

星なんて飾りにすぎない。俺が信じるのはただひとつ――**うまいか、うまくないか!**


俺は今日も厨房に立つ。

魂を震わせる料理を作るために。

そして、この本を読むお前らに伝えたい。


料理は――戦いであり、愛であり、人生そのものだ!


チョー流・料理の鉄則


三つ星を取ったからといって、俺は天狗にならなかった。いやそれは嘘だ。ちょっとは天狗になった。まぁいい

料理は、慢心した瞬間に死ぬ。

だから俺は毎日、自分に言い聞かせる。


「料理人にゴールはない。鍋を振るその日が、常にデビュー戦だ!」


ここで、この本を手にしたお前らに伝えよう。

これが俺の“料理の鉄則”だ。



鉄則その一 「火は命、塩は魂」


火加減を操れない料理人は、ただの飯炊きだ。

弱火、中火、強火――そんな三段階じゃ足りねぇ。

炎には千の表情がある。

食材に語らせろ! 肉には怒れる炎、魚にはやさしい炎、野菜には陽だまりのような炎を。


そして塩。

塩はただの調味料じゃない。

一粒で食材を甦らせ、一握りで料理を殺す。

だから俺は塩を振るとき、必ず心で呟くんだ。

「お前に、生きろ」と。



鉄則その二 「包丁はペンであり剣である」


包丁を雑に扱うやつは、俺の厨房から叩き出す。

包丁は武器だ。だが、同時にペンでもある。

刃先ひとつで肉に物語を書き、野菜に詩を刻む。

切り口が美しければ、それだけで勝ちだ。

逆に、乱暴に刻まれた切り口は、食材の悲鳴だ。


料理人は包丁で戦い、包丁で語り、包丁で未来を切り拓く。

だから俺は毎朝、包丁に向かってこう言う。

「今日も一緒に戦ってくれ」



鉄則その三 「皿はステージ、盛り付けは演出」


お前ら、料理は味だけじゃねぇ。

皿の上は舞台だ。そこに立つ主役は食材、助演はソース、舞台美術は盛り付けだ。

客は舞台を一目見て、心を決める。

「この一皿は信じられるか、否か」

だから盛り付けを疎かにするな!

派手にしろって意味じゃない。

シンプルでもいい。ただし、“必然”がなきゃダメだ。


俺は皿を前にしていつも考える。

「この料理はどう生きたい?」

食材の声を聞き、その答えを形にするんだ。



鉄則その四 「料理人は食材の通訳者であれ」


俺たちが料理人だと勘違いするな。

本当の主役は食材だ。

俺たちはその言葉を人間の舌に翻訳してやってるだけ。

魚が「海を伝えろ」と叫ぶなら、その声を皿に乗せろ。

野菜が「大地の恵みを届けろ」と囁くなら、その思いを盛り付けろ。

肉が「生きた証を味わってくれ」と願うなら、その命を尊重して焼け。


料理人は王じゃない。

料理人は語り部であり、翻訳者だ。



鉄則その五 「料理は戦いであり、愛である」


忘れるな。

料理は戦いだ。客の期待、批評家の牙、厨房の地獄――全部と戦わなきゃならない。

だが、戦うだけじゃダメだ。

料理は愛だ。食う人を思い、支える人を思い、食材を思い――すべてを皿に込める。


戦いと愛、その両輪があってこそ、料理は魂を震わせる。



俺はこれらの鉄則を胸に、今日も厨房に立つ。

三つ星は通過点にすぎない。

次は四つ星だ? 五つ星だ?

いや、そんなものは存在しない。だから俺が作る。


「伝説の星」を、この両手で!



チョー流・実践レシピ


レシピその一 「魂を叩き起こすスープ」


材料(4人前)


* 鶏ガラ 1羽分

* 玉ねぎ 2個

* にんじん 1本

* セロリ 1本

* にんにく 2片

* 塩 ひとつまみ(最後に決める)

* 水 たっぷり


作り方


1. **骨の叫びを聴け!**

鶏ガラを下茹でして血を抜く。これをサボるとスープは濁って死ぬ。

2. **香味野菜を汗だくにさせろ!**

玉ねぎ・にんじん・セロリをざっくり切って、油を使わず鍋で焼き色をつける。ここで野菜が「俺たちを使え!」と叫ぶ。

3. **すべてをひとつの運命にぶち込め!**

鍋に鶏ガラと野菜を入れ、水を加え、弱火でコトコト。アクを取るときは「迷いを捨てる」気持ちでやれ。

4. **時間は魔法だ!**

最低でも3時間。炎を見つめながら、自分の人生も煮込め。

5. **最後に魂を授けろ!**

塩で整える。ただし分量に頼るな。舌で聴け。心で決めろ。


完成したスープは、ただの液体じゃない。

これは――魂を叩き起こす叫びだ!

飲んだ者は目を見開き、「生きててよかった!」と叫ぶ。



レシピその二 「恋に落ちるステーキ」


材料(2人前)


* 牛ステーキ肉 300g(厚めのカット)

* 塩 少々

* 粗挽き黒胡椒 少々

* バター 30g

* にんにく 1片

* ローズマリー 1枝


#### 作り方


1. **肉を愛せ!**

焼く前に常温に戻せ。冷たいまま焼けば肉は怯えたまま死ぬ。

2. **塩は誓いの指輪、胡椒は情熱の口づけ!**

両面にまんべんなく振れ。ためらうな。

3. **炎と肉を結婚させろ!**

フライパンを灼熱に熱し、肉を置く。ジュワァ! この瞬間が愛の始まりだ。

4. **バターとにんにくとローズマリーで三重奏!**

肉をひっくり返し、バターを入れる。溶けたらスプーンで肉にかけ続ける。

これは愛を注ぐ行為だ。怠るな。

5. **仕上げは余韻を信じろ!**

焼いたらすぐ切るな。5分寝かせろ。恋も料理も、余韻がすべてを決める。


皿に盛り、ナイフを入れれば――肉汁が赤いバラのように広がる。

食べた瞬間、相手は確実に恋に落ちる。



レシピその三 「涙が止まらぬオムライス」


材料(2人前)


* 卵 4個

* ご飯 400g

* 鶏もも肉 100g

* 玉ねぎ 1/2個

* ケチャップ 大さじ4

* バター 20g

* 塩・胡椒 少々


作り方


1. **チキンライスは心の土台!**

鶏肉と玉ねぎを炒め、ご飯とケチャップを混ぜる。ここで焦らず、米の一粒一粒に「ありがとう」と唱えろ。

2. **卵は命のベール!**

卵を割り、塩を少々。空気を抱き込むように混ぜろ。卵は優しさを求めている。

3. **炎の抱擁!**

フライパンを熱し、バターを溶かす。卵を流し込み、すぐに揺らしながら空気を含ませろ。

4. **運命の出会い!**

半熟状になったらチキンライスを乗せ、卵で包む。ここで一気にひっくり返せ! 勇気がなきゃオムライスは生まれない。

5. **最後の涙!**

ケチャップでハートを描け。客が泣くのはその瞬間だ。


このオムライスはただの食事じゃない。

これは――涙で心を洗う料理。食べた者は必ず泣く。

 

弟子たちへの教え


俺の厨房には、いつも若い命が飛び込んでくる。

夢に燃える者もいれば、逃げ場を失って来る者もいる。

だが、ひとつだけ共通しているのは――みんな「料理で生きたい」と叫んでいるってことだ。


だがな、俺は甘くはない。

弟子たちに最初に言う言葉は、決まっている。


「ここはレストランじゃない。ここは戦場だ!」




教えその一 「皿を洗え! 命を磨け!」


最初に弟子にやらせるのは、包丁でもソース作りでもない。

皿洗いだ。


皿を洗うってのは、ただの雑用じゃない。

客の口に入った料理の“最後の記憶”を見送る神聖な仕事だ。

皿一枚に残るソースの筋、パンのカス、飲み残しのワイン――そこには料理のすべてが詰まっている。


「皿を磨けない奴は、魂を磨けない」

俺はそう言って弟子の背中を叩く。




教えその二 「包丁を握るな、まずは食材と握手しろ!」


若い奴はすぐに包丁を握りたがる。だが俺は取り上げる。

「お前、にんじんの気持ちを知ってるか? 魚の声を聞いたことあるか?」


食材を切る前に、まずは手で触れろ。匂いを嗅げ。重みを感じろ。

それができなきゃ、料理はただの作業になる。


ある日、弟子の一人が焦って魚を三枚に下ろそうとした。

俺はその手を止めて、魚を丸ごと抱かせた。

「この魚は海を泳いでたんだぞ。命をいただくんだ。『よろしく頼む』って言ってから包丁を入れろ」

そいつは涙を流しながら魚に頭を下げた。

その瞬間、料理人として一歩踏み出したんだ。




教えその三 「失敗は料理の母だ!」


弟子が焦がしたソースを見て、泣きそうになっていた。

「すみません! もう一度やり直します!」


俺は鍋を奪って舐めた。

「苦ぇ! だがこれは“経験”の味だ!」


失敗は恥じゃない。隠す方が恥だ。

大事なのは、そこから“何を学ぶか”。

焦げの苦味から甘味を引き出す工夫をする奴もいれば、二度と焦がさない工夫をする奴もいる。

どちらも正解だ。


俺は弟子に言う。

「お前ら、失敗を恐れるな! 恐れるべきは“挑戦しないこと”だ!」




教えその四 「料理人はひとりじゃない」


厨房は戦場だ。だが戦うのは一人じゃない。

サラダを担当する奴がいて、スープを任される奴がいて、メインを仕上げる奴がいる。

一人が崩れたら全員が沈む。


ある夜、オーダーが殺到して厨房がパニックになったことがある。

弟子が泣き出した瞬間、俺は叫んだ。

「お前は一人じゃない! 隣を見ろ! 背中を見ろ! みんなお前と戦ってる!」


その声で厨房は立ち直った。料理は奇跡のように間に合い、客は笑顔で帰っていった。

その日から、弟子たちは互いを信じることを学んだ。




教えその五 「料理人は死ぬまで弟子」


最後に俺が伝えるのは、この言葉だ。

「お前らは俺の弟子であり、俺もまた料理の弟子だ」


俺たちに“完成”なんてない。

だから学び続ける。

新しい食材に出会えば、そこに頭を下げる。

知らない技法を見れば、膝を折って学ぶ。

そうやって死ぬまで弟子であり続けるんだ。




俺は今でも弟子に厳しい。

だが、あいつらが巣立ち、自分の厨房で炎を操る姿を見ると――俺の胸は誇りでいっぱいになる。


料理の道は孤独だが、弟子たちがいる。

そして、弟子たちがまた次の世代へ炎を受け継ぐ。

それこそが、料理の本当の“継承”なんだ。


世界料理決戦・炎のバトルフィールド


三つ星を取ったある日、俺の店に一通の招待状が届いた。

差出人は「世界料理協会」。

内容はこうだ。


> “世界各国の料理人が一堂に会し、腕を競い合う祭典――

> **グローバル・クッキング・コロシアム**への招待状”


料理は平和の象徴だ?

いや、違う! ここでは料理は武器、皿は戦場、審査員は裁定者。

勝った者は世界の頂点、負けた者は厨房を去る。


俺は迷わず受けた。

「世界よ、俺の炎を見ろ!」



第一戦 “氷の女王” スープ・ヨクツクール(ロシア代表)


バトルテーマは「スープ」。

スヴェトラーナは氷点下の環境で育った魚とビーツを使い、宝石のように透き通った冷製ボルシチを仕上げた。

その輝きは氷の宮殿のようで、観客は息を呑んだ。


だが俺は立ち上がり、叫んだ。

「スープは魂を叩き起こすものだ!」


俺が出したのは、炎で煮込んだ“魂のコンソメ”。

火で骨を焼き、三日三晩煮込んだ澄んだ黄金の液体。

飲んだ審査員が涙を流し、こう言った。

「このスープは……生きる力そのものだ!」


勝者――チョー・リョーリスキー!




第二戦 “香辛料の魔術師”スパイース・タークサン(インド代表)


テーマは「肉」。

ラージェシュは百種のスパイスを操り、肉たっぷりカレーを芸術の域にまで高めた。

食べた審査員の舌が痺れ、頭が爆発するような香りに酔いしれた。


だが俺は微笑み、牛肉を取り出した。

「肉とは……愛だ」


俺が作ったのは“恋に落ちるステーキ”。

バターとローズマリーの香りに包まれ、ナイフを入れれば赤いバラが咲くような断面。

一口食べた審査員は顔を赤らめ、恋する乙女のようにため息をついた。


勝者――チョー・リョーリスキー!



第三戦 “砂漠の錬金術師”デッザート・シカ・イーラナイ(モロッコ代表)


テーマは「デザート」。

ハリムはデーツと蜂蜜を使った千夜一夜のスイーツを披露。香りは甘美、見た目は黄金の宮殿。

観客は「これぞ砂漠の宝」と称えた。


俺は黙って卵を割り、ご飯とケチャップを用意した。

観客がざわつく。

「まさか……デザートでオムライス!?」


そうだ。俺が出したのは“涙が止まらぬオムライス”。

このオムライスは完璧な割合で砂糖が入っている。

つまり、甘い!ということはデザートと言ってもいいのではないか?!

半熟の卵がとろけ、ハート形のケチャップが皿に浮かぶ。

審査員の一人がスプーンを口に運んだ瞬間、堰を切ったように泣き出した。

「母の味だ……いや、それ以上だ……!」


勝者――チョー・リョーリスキー!



こうして俺は世界の猛者たちを次々と倒し、決勝戦に進んだ。

決勝の相手は――**“暗黒料理帝王”カーナシキ・リョリーニン(フランス代表)**。

料理界を支配しようと目論む恐るべき男だ。

彼が操るのは、禁断の料理。食べれば美味い、だが心を支配される――“悪魔の皿”。


「チョー・リョーリスキー。お前を倒し、料理界を闇に沈めてやる」

「ふざけるな! 料理は人を救うためにあるんだ!」


世界の命運をかけた最終決戦が、いま幕を開ける――!




第八章 決勝戦 ― 炎と闇の饗宴


巨大なアリーナに、観客の熱気が渦巻いていた。

片側に立つは俺、三つ星料理長チョー・リョーリスキー。

もう片側に立つは“暗黒料理帝王”カーナシキ・リョリーニン。


「チョー、今日で料理界は俺のものになる」

「バカ言え! 料理は誰かの所有物じゃない! 人の心を照らす炎だ!」


審査員の合図とともに、決戦は始まった。



カナーシキ・リョリーニンの料理 ― “悪魔の晩餐”


彼が皿にのせたのは、漆黒のフォアグラがのった白身魚のムニエル。

一口食べれば、舌に広がるのは背徳的な快楽。

だが同時に、闇に引きずり込まれるような危うさもあった。


観客がざわめく。

「……すごい……」



チョー・リョーリスキーの料理 ― “太陽の晩餐”


俺が出したのは黄金色のブイヤベース。

魚介の旨みが太陽の光のように広がり、食べた者の顔に笑みを咲かせた。

「生きていてよかった……」

そんな言葉が漏れるほどに。



料理を食べ合う二人


勝敗を決める直前、俺はフォークを持ち上げた。

「カーナシキ、お前の料理……俺が食べる!」


観客が息を呑む中、俺は“悪魔の晩餐”を口にした。

……そして衝撃を受けた。

「これは……! 闇じゃない! 深い孤独と悲しみを、必死に料理で表現してるんだ!」


カーナシキの目が揺れる。

「……そうだ。誰にも理解されなかった。だから料理で叫んでいたんだ」


俺は笑った。

「だったら叫び合おうぜ。料理でな!」


カーナシキは震える手で俺のブイヤベースを口にした。

そして涙をこぼした。

「……こんなに温かい料理……初めてだ」



ベストフレンド誕生!


決勝戦は、史上初の“引き分け”。

だが俺とカーナシキは勝敗を超えた絆を手に入れた。


「チョー……これからは共に料理を作らないか?」

「ああ! 世界一のメニューを一緒に生み出そうぜ!」


二人は肩を組み、炎と闇を融合させた“炎と影のデュエット・メニュー”を完成させた。

黒と金が織り成す皿は、世界中の人々を虜にし、料理界の伝説となった。



式典での饗宴


後日、国際料理式典にて。

俺とカーナシキは並んで壇上に立ち、世界の首脳たちに料理を振る舞った。


「これが俺たちの答えだ!」

「料理は国をも超えて、人を繋ぐ!」


観客の拍手は雷鳴のごとく鳴り響き、俺とカーナシキはグータッチを交わした。

その瞬間――俺たちはただの料理人同士ではなく、**ベストフレンド**となったのだ。




秘密のレシピ


こうして俺、チョー・リョーリスキーは世界中を駆け巡り、宿敵すらベストフレンドに変えてきた。

料理とは――戦いであり、友情であり、愛そのもの。

だが……読んでくれたあんたにだけ、特別に教えたいことがある。


そう、俺の**裏メニュー**だ。




チョーの裏メニュー ― “真夜中のハンバーグ”


表では豪華なフレンチも作るし、王宮での饗宴も任された。

だが、俺がひっそりと作り続けている料理がある。

それが――ハンバーグだ。


牛肉と豚肉を合わせ、玉ねぎをじっくり炒めて混ぜる。

手でこねるときは、まるで相手の心を抱きしめるように。

空気を抜く音が「パシッ」と響いたら、それはすでに命が宿った証だ。


焼き上げれば、外は香ばしく、中からは肉汁が溢れ出す。

ソースはデミグラスでも、ケチャップでもいい。

だが俺がこだわるのは――皿に添える一言。

ソースで書くんだ。


**「おかえり」**


食べる者の心をほぐし、どんな疲れも溶かしてくれる。

これが、俺の裏メニュー“真夜中のハンバーグ”だ。




読者への贈り物


料理に大切なのは、高級な食材でも、派手な技法でもない。

一番大事なのは――**誰かを思う気持ち**だ。


あんたが今日、ひき肉をこねてフライパンで焼いたなら、それはもう立派な一皿だ。

食べる人が笑顔になったなら、あんたも俺と同じ料理人だ。



以上だ。

これで俺の物語は一旦幕を下ろす。

だが厨房の炎はまだ燃えている。

またどこかで、俺と一緒に料理をしようじゃないか!


**――三つ星料理長 チョー・リョーリスキー**


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ