09話:ポスト801-900
この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku
一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。
中でも特に脚光を浴びるのは、プロとして芸能界で活動していたアイドルたちである。女性だけの街の花形とすべく、数名が抜擢されていた。
本人の元々の知名度に街の話題性が合わさり、記録的な視聴者数と投げ銭合計金額を叩き出す。
謝意を伝えた後は自己紹介や他愛のない雑談など面白みのない内容に終止する配信者がほとんどだが、それだけでも顔や名前を世に広く認知された。
投げ銭についての配信者自身の取り分は3割にすぎないが、ほんの数十分で同年代の平均年収分程度の利益を獲得した者も出ている。
彼女らが稼げばメラーはもちろん、すべての住民にまでほんの少しずつ分配される。配信していない住民もすでに相当な利益を得ていた。
今回の一事は住民を人質にした露骨な稼ぎ方としてメラーを批判する者もいるが、住民自身の責任だと考えられなくもない。
また、街から出れば食糧の確保は容易で、そもそもメラーは予定を早めて街を開業したため少々の不備があっても仕方ないという擁護もできる。
住民たちの配信の人気ぶりも各所で取り上げられ、同情の的だった街は一躍羨望の的となった。批判の声など、すぐさまかき消される。
個人配信に関連したこれらの数字は公表されており、誰がどれだけ視聴やチャンネル登録をされ、何炎投げられたか一目瞭然となっている。
配信内容は遡って無料視聴が可能で、スタッフの手によってハイライト部分を抽出した、いわゆる切り抜き動画もすでにアップロードされていた。
しかし第三者による動画の無断複製、転載、編集などをメラーは固く禁じている。大手メディアにさえ利用許諾を与えていない。
静画についても同様である。著作権や肖像権を根拠とした措置であり、公式サイトと現地以外で住民の姿を見る機会は実質なくなっていた。
メラーに所属する一般的な芸能人とも一線を画す扱いであり、世間は困惑する。この機会に売り込んだ方が、ビジネス上は明らかに有利なのだ。
那尊「たしかに、お金儲けを優先するならばこのような厳しい規制は必要ありません。勝手に宣伝してもらえるというのは、ありがたいものです」
那尊「しかし彼女たちはアイドルや配信者である前に、街の住民なのです。アイドル業も配信業もしない住民との境目は曖昧なのです」
那尊「街の運営責任者として平穏を守る義務があります。人気配信者が世間で過度に持て囃されれば、平穏な暮らし願う人にも迷惑が及ぶでしょう」
那尊「無論、弊社の公式サイトで顔や名前などいくらかの個人情報を公表できるよう、全住民には契約時に許可をいただいております」
那尊「が、そこまでなのです。それ以上を弊社がほしいままにしてよいという契約にはなっていません。限度があり、節度が必要なのです」
那尊「つまり見られたくない人が見られないようにせねばなりません。また、見たくない人が見ないで済むのも重要だと考えております」
那尊「はっきり申し上げて、街の配信者は今後急速に人気を伸ばしていくと私は確信しております。彼女たちはその素質を持っていると保証します」
那尊「人気がありすぎるというのも弊害はあるでしょう。昨今は人気を集めるひとつの存在が、多くのメディアで重点報道される傾向にあります」
那尊「毎日のように朝から晩までそれを見せられて食傷してしまうという経験をした人も多いのではないでしょうか?私もその一人です」
那尊「今日もまたこの人の顔ばかりを見せられるのか……と嫌われてしまっては、宣伝の狙いとして成功とは言えません。ただの押し付けです」
那尊「私自身もメディアに近い立場にいるので、そうしなければならない事情をメディアが抱えていると理解しているつもりです」
那尊「営利、圧力、記者の矜持、公器としての責務、そういったものによって報道が自由にいかなくなる場合も多々あるのでしょう」
那尊「しかしやはり、受け手は最大限にかえりみられるべきだと思います。受け手不在の報道など虚しいだけではありませんか」
那尊「メディアの事情に口をさしはさむわけではありませんが、メディア自身にそれができないなら、せめて街については弊社がそうしたいのです」
那尊「要するに好かれるより、まず嫌われないのを優先したいのです。知名度はすでに充分なのですから」
那尊「ちなみにメディアでの報道を完全に規制しているわけではありません。動画や画像を使わなければ心ゆくまで報じてくださって構いません」
那尊「現状、それを使わない報道はあまり盛り上がっていないようですが、今後もメディアに利用許諾を出さない方針です」
那尊「さて、それっぽい話をしてきましたが全部建前です。とはいえ、まるきり嘘というわけではありません。すべて事実です」
那尊「されど二の次です。ビジネスが第一です。弊社は儲けなければなりません。儲け優先なら厳しい規制など不要?いえ、実は必要です」
那尊「街の配信者を見るためには公式サイトを閲覧するしかない、という仕組みにした方が儲けにつながるではないですか」
那尊「弊社と直接関係ないテレビや雑誌、外部サイトで住民の顔を見て満足されてしまっては困るのです。どうか公式配信を見てほしいのです」
那尊「見たくない人に見せるわけではありません。しかし好んで見てくださるファンの方々には充分なサービスを提供いたします」
那尊「さいわい、すでにたくさんのファンを獲得した住民も出てきています。サービス拡充により、この流れを促進していきたいのです」
「前半はいい事言ってると思って軽く感動してたのに結局建前かよ。感動を返してくれ」「でも嘘ではないんだから別にいいじゃん」
「建前だとしても筋は通ってる。女性だけの街を住環境として期待して移住してきた人だっているんだから配慮はすべき」
「ならなんで顔や名前を公式に載せるなんて契約にしてんの?」「ビジネスでないと街は成立しないから折衷案だろ」「中途半端ともいう」
「あいつ本当にずっとカネカネ言ってんのな。みにくい金の亡者」「まあそれくらいでなければこんな超巨大企業作れないのでしょうね」
「この動画も公式だけで配信されて他では禁止なんだよな。内容が気になる奴は否が応でも公式サイトに吸い寄せられるって寸法か」
「どの住民より那尊の動画の再生数と投げ銭が一番多いんだが」「街の支配者だから当然」「妙にフランクでユーモラスだしな。魅力あるよ」
「那尊さんはさすがに喋り慣れてるよね。配信した住民たちのほとんどはトークが下手に感じた」「それが成長していくのを楽しむんだよ」
「もしかして、わざと変な話をして自分が叩かれることで配信者が叩かれないようにしてる?」「ヘイト管理か」
「だとしたら相当なやり手だよな。あれだけの成功者がプライド捨てて自分から潰れ役を選ぶなんて、儲けのためでも簡単にはいかない」
「いや最初にテレビ番組で街の計画を発表した頃から割とおかしな言動で叩かれてるだろ。そういう酔狂人ってだけ」
「でもさ、見たくない人間に見せないようにするってのはいいよね。共感したよ」「最近の卑球の小山報道とか常軌を逸してるしな」
「メディア露出が多すぎたら嫌われるっつっても知られるメリットの方が多いだろ。自分から商機を捨ててるのと同じ。愚かな選択」
「配信やアイドルって限られた信者から搾り尽くすビジネスだから知られてなくていいんじゃね?」「それでも広く知られてる方が得に決まってる」
「てか知名度はもう充分って言ってたじゃん」「現職の元首ですら国民の認知率は半数未満だったりするのに充分なわけない」
「住民の欲しい物は大抵プレゼントで手に入るようになっちゃってるけど、これって女性だけの街の意味ある?」「収入も投げ銭で充分だしな」
「もはや住民にとって業務も買い物も無意味だよね。配信してない時ですら投げ銭やプレゼントの機能は有効だし」
「プレゼント配達の業務をやる住民がいなかったら結局それも成り立たないけどね」「逆に言えば配達する人さえいればいいんじゃないか」
「でも何もしない奴のファンをやる奴なんていないだろ」「いや、顔がいいってだけで身銭切って応援する奴は結構いるんだよ」
「ただ生きていくだけなら食って寝てりゃいいけど、頑張って魅力振りまいとけば信者が増えて一財産築けるんだからみんなそうするんじゃないか」
「そういえば住民が1個だけ欲しい物を大量の視聴者がプレゼントしまくって100個届いたりしないの?」
「住民がリストから選ぶ時に欲しい数を設定して視聴者がプレゼントとして発注するごとに減っていく。設定さえ間違ってなければ心配はない」
「それよりファン向けサービスの拡充ってのが気になったんだけど」「配信関連でまた変なことやるらしい。ファンがカメラを操作できるとか」
街のいたる場所に設置されたカメラは大別して防犯用と配信用があり、防犯用の数や設置場所は明らかにされていない。
だが配信用はそれがもれなく公式サイトで公表されており、撮影映像をリアルタイム、あるいは過去にさかのぼって視聴できる。
標準状態では可能な限り広い空間を映す角度に設定しているのだが、ある程度は角度を遠隔で調整できるようにもなっている。
また、短距離のレール上に設置されたカメラも存在しており、これはレール上をスライドして位置を調整できる。完全な定点ではないのだ。
金を払った視聴者がこの角度や位置を調整する主導権を獲得できるようになる新機能をメラーはアナウンスする。
ただし永遠に主導権を握っていられるわけではない。時間が限られており、握り続けるには次の時間の分を事前に払う必要がある。
また、他の視聴者がより多額の金を払えば次の主導権は奪われてしまう可能性がある。それを防ぐためには、さらに多額を払うしかない。
言わば、主導権をかけたオークションのようなものである。数十年前の一般家庭におけるテレビのチャンネル争いと表現すべきだろうか。
一度に握っていられる時間は主導権争いにかかわった人数や金額で変動し、それが激しいほど短時間になる。入札単位は100炎。
敗れれば全額返金され、主導権を獲得できれば必要な額以上は返金される。たとえば1000炎で入札して100炎で充分だった場合は900炎が返金。
誰にも主導権を握られていないカメラは角度と位置が標準状態に戻る。閑散とした場所のカメラは100炎だけで長時間握り続けられるだろう。
払われた金額のうち3割が被写体となった住民に分配されるので、投げ銭に近いシステムとも言える。
ただし映った時間や距離が一定の水準未満ならその限りではない。一瞬だけ遠くに映る程度では分配されないのだ。
被写体が複数人ならば各人の時間や距離に応じて分配される。必定、人数が多いほどひとりあたりの取り分は減る。
どのカメラで撮影され、誰がいつ主導権を獲得し、そのためにいくら支払い、どの住民に何炎分配されたのかという情報は映像に付属し残り続ける。
さらにこれとは別で、ファン等級によって同時に視聴できる動画や配信の最大数が増えるシステムの導入をメラーはアナウンスする。
今までひとりの視聴者は同時にひとつしか視聴できなかったが、今後は等級を上げれば複数を同時視聴できるのだ。
移住当初、住民のほとんどは街中の大量のカメラで常に撮影されることを強く忌避していたが、見返りを得られるため今ではそれが薄れている。
むしろみずから映りにいって収入や人気につなげる者さえ多い。少し出歩くだけでも小銭程度が稼げる。
「カメラ操作して何か意味あるの?」「好きな住民が通った時に追いかけて映せる」「ストーカーかよ。気色悪すぎるだろ」
「住民はそれも了承して街に住んでるから」「収益分配されるしな。あとストーカーといっても直接的に危害を加えられたりしない。安全」
「本当に見世物って感じになってきたね。了承してるとはいえ可哀想」「こんなんで金もらえるなら俺なんてどんだけでも映してもらいたいけどな」
「ファンにとっては嬉しいサービスなんですかね」「好きなアイドルをちょっとでも長く、近く、いい角度で映したいってのはあるんじゃないの」
「カメラ映像の履歴も公式でいつでも見れるから、後で眺めて楽しむ」「ああ、だからそのために金を払ってでもカメラ動かしたいわけね」
「そういうファンにとっては次の時間の主導権分を金払い忘れててカメラの位置と角度がデフォ状態に戻っちゃったら最悪だよな」
「自動で次の分も金払い続ける設定あるんだよ。逆に設定切り忘れて払いっぱなしになったらマズいから何回分先までとか上限はあるけどね」
「時間切れ間際に高額を被せて邪魔できるわけだよな」「金払ってまでそんな嫌がらせする奴いるか?」「マウント行為としてやる奴多そう」
「相手より100炎でも上回ってたら絶対奪い取れるわけじゃなくて、残時間が少なくなると奪い取るのに必要な金額が急激に上がるようになってる」
「主導権争いはコスパ悪いってわけか」「システム上は青天井だから人気のカメラはほんの数十秒操作するために何万炎とかになるかもね」
「等級上げたら同時視聴できるってのは何なの?メリットある?ひとつで充分じゃない?みんな悪徳細子なの?」
「等級2で4つ同時、3で9、4で16、5で最大の25だっけ?誰がそんなに見れるんだろうな」「25なんてディスプレイいくつ必要なんだか」
「ブラウザでそれだけの数のタブを開いて再生しといて切り替えながら見ればいいのでは」「25個もタブ切り替えるのか。忙しすぎる……」
「てか等級上げなくてもそれできるんじゃね?」「いや、アカウント単位で管理されてるから上限越えた分は再生されない」「アカ必須ですしね」
「映像のサイズを変えたり、一画面に複数並べたり、それぞれを切り替えたり、拡大したり、音量を調整したりできる」「それに何の意味が?」
「指定した住民を追うように次々とカメラ映像を自動で切り替えて映していく設定もある。AIが住民を判別してる」
「その機能を使って分割した小窓にお気に入りの住民のリアルタイムの生活を色んな角度から映して眺めて楽しむわけか」「やっぱキモいわ」
「カメラ操作にもそういう機能あるんだよな。狙った住民を正面に映すように自動調整できる。複数カメラの主導権買い占めも重要になる」
「大抵の定点カメラは高所から見下ろすけど、配信用は人と同じ高さまで下げたりそのまま水平方向を映しながら水平移動できるのもあるからな」
「物珍しいシステムとは思いますが、大体そこまでして追いかけたい住民が存在するんですか?そんな熱狂的なファン存在するんですか?」
「今の段階だとおそらく多くないけど、那尊さんは人気が今後どんどん高まっていくって言ってたから増えると見込んでるんだろう」
「アイドルオタクはすでに人気が出そうな配信者に目星をつけてるはず。誰のファンになるかってのはオタクにとって死活問題だから」
「それっておかしくね?人気が出そうだからじゃなくて好きだからファンになるんじゃね?好きでもないのにファンになる人なんていないだろ」