08話:ポスト701-800
この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku
一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。
「興味なくてもとりあえず公式サイトでアカウント登録した人は多いみたい」「てかメラーアカウントって現代人ならみんな作ってるでしょ」
「那尊も言ってたように、一種の社会実験だよね。ビジネス色が強いけど、女性だけの環境で何が起こるのか。すでにワクワクしてきた」
「もう街は大半が開発済みらしい」「でも開業まで年単位でかかるんだよな。内定者も増えてきてるけど街の規模からするとまだ全然足りてない」
期待に応えるためという理由で、唐突に開業予定日が大幅短縮された。もちろんメラーとしてはこれも予定どおりである。
話題性を優先した安易な手法ではあるが効果は抜群で、世論を尊重する態度に大衆からのイメージがよくなっている。
全体の5割にあたる部分は開発や必要な手続きが大方済んでおり、そこはすぐにでも限定的な開業ができるのだという。
内定者と再び連絡を取る。早まった予定日に合わせて前倒しで移住できるか確認し、可能な者から住居を割り当てる。
突然かつ一方的な予定の変更に不信を抱いたり憤慨する内定者もいたが、ごく一部にとどまった。特に損などをさせられているわけではないのだ。
やがて、女性だけの街の開業日が訪れた。初日は割り当てられた住居への引越し作業で手一杯になる者ばかりである。
だがのっけから問題が起こる。街の中の店は、商品が補充されず品切れが多発している。店員がいないのだから当然だろう。
セルフレジはしつらえてあるため商品さえあれば会計はできるのだが、売り切れていればどうにもならない。
一応、街の開業から一ヶ月間はメラーのスタッフが深夜帯に、すべての小売店への商品の搬入と店頭への品出し作業だけはする予定になっている。
しかしスーパーやコンビニなどは、昼頃にもなれば品切れ商品が目立ち始める。倉庫に搬入されただけで店頭に出ていない商品は山ほどあるのだ。
品出し作業のオファーは全住民に出されているが、気付かないか、気付いても引越し作業を優先して受託しない者がほとんどを占めていた。
引っ越しが一段落して店に食料品を買いに出かけてみると目ぼしい商品はすでになくなっているという有り様である。
メラーが開発した住民専用のSNSでは、早速この問題について大量の不満と不安が投稿されている。
「おなかすいた。今日何も食べてない。みんな何食べてるの?」「街に来る時に駅前でご飯買ってきてよかった。でも明日から食べるものないよ」
「私は早い時間に買い物済ませたけど、隣の家の人は全然買えなかったから分けてあげた」「やさしい」「いきなりサバイバルみたいだね」
「レストラン入ったら店員さん一人しかいなくて食事が出てくるまでに1時間もかかった」「ワンオペじゃん。可哀想」
「てかメラーは何考えてんの?どうやって生活しろっての?ありえなくない?アイドルとかなんとか以前の問題。これからどうなるの?」
「こういうのも面白いってんでしょ。だって今の状況は世界中に配信されてるんだよ。見世物にされてるんだよ」
「うちらが苦しんでるのがメラーにとっては飯の種ってこと?ふざけんな」「大体、運営が店をちゃんとやってないのが悪い」
「まあ店内や街中のカメラだけだと私らがどれだけ苦しんでるのか正確には分からないだろうけどね。ちょっといい気分はしないよね」
「じゃーこのSNSも見られてるの?」「ここは住民以外閲覧も投稿もできないようになってる。住民が外部に晒す可能性もあるけど」
「でもみんな応募した時点で言われたよね?街の営みは住民自身の力によって成り立たせるように努力してくださいって。これでしょ」
「俺らが頑張って店員やらないといけないんだな」「オレっ娘いるじゃん」「ネットに書き込む時は一人称俺の女性って多いよ」
「那尊さんによればサボっててもお金もらえるって話だと思ったんだけど」「結局は働かないと街がうまく回らないってわけ」
「休日どう過ごせばいいの?ショッピングもランチも映画もジムもスパもエステもネイルもマッサージも何もできない。外に戻りたくなってきた」
「街中カメラだらけだから出歩くのもイヤ。常に監視されてる」「それは侵入者を防ぐためだから仕方ないよ。我慢しよう」
「壁があるんだから侵入者なんているはずないでしょ」「いたとしても極稀だしね。カメラで監視される対象の99%は侵入者じゃなくて私たち」
「みんなのためにバリバリ働くよ。今日の深夜のコンビニの業務受けた」「もう働くの?転居作業残っててそれどころじゃないよ」
「私はハンバーガー屋の業務やりたいんだけど、最初にメラーの人から安全のための指導受けないといけないみたいでまだ迷ってる。どうしよ」
「指導って何?」「安全ってのは防災や食糧衛生関連じゃないかな。火気を使う飲食店ではそういう資格持ってる人の指導を受けないと働けない」
「あれ?前に飲食店で働いてた時には指導なんてなかったような」「それは業態とか規模にもよるから」
「飲食って厨房に入る時のルール厳しいんだよね。清潔にしないと食中毒が出るから。あと定期的な検便も必要」「検便とか私絶対無理だわ」
「街を成り立たせるには誰かがやらないといけないんだろ。みんな頑張れ」「那尊さんはやりたい人がやればいいって言ってたのに。話が違う」
「一応は街出てすぐのとこにお店いっぱいあるんだって。将来は観光客が来るからメラーの人が店員やってる」
「でもそこは男も普通にいるから」「私らが使ったら負けって感じするよね」「勝ち負けの問題?便利ならそれでいいじゃん」「男は敵だよ」
「街の中に籠もって飢え死にするくらいなら外出るよ。別に出入りは自由だし」「遠いけどね、外。防犯で街の真ん中に家集められてるから」
「そういえば今私家賃1000万炎滞納してる状態みたいなんだけど、業務やれば本当に報酬で1000万炎もらえるの?もらえなかったら……」
「もう働き始めた人によれば大丈夫」「実際の報酬は常に1000万固定ってわけでもないらしいね。税金とかの調整でちょっと増減する月もあるって」
「個人事業なんて初めてだから年末調整どうしたらいいのか分からない」「確定申告ね。それはメラーの税理士が代行してくれる」
「すごい不安だったけどみんなで話してたら落ち着いてきた。こういう場があるのは素敵だよね」「同じ問題を共有してる住民の集まりだもんね」
「ていうかリアルで集まりたい。これからの話も決めた方がいいと思う」「でも大勢で集まれそうな場所って多分カメラで配信されてるよ」
「配信されててもいいでしょ?別に秘密にしないといけない会話じゃないよね」「まあリアルで集まりたい人はそうすればいいんじゃないの」
街の外壁の周辺でもボランティア活動が始まっていた。とはいえ、今の段階だと作業はあまり多くはない。
一部の免許を持った者は街の住環境を維持するために必要な物資を遠方からトラックで運送する役割を与えられているが、それ以外は警備である。
過疎地域の山中なので侵入を試みる者などおらず、それ以前に入りたくなるほどの魅力を感じる者が陰上中にほとんどいない。
まったく無駄なことをしているようで警備担当は気が緩む。だが侵入者がいた場合にそれを見逃してしまえば報酬がふいになってしまう。
報酬とはファン等級である。等級はこれでしか稼げない分もあるので真面目にやるしかない。
ボランティアとは建前で、実質は労働のようなものなのだ。やらない自由はあるが、やるならば半端は許されない。
メラーから警備を担当する時間や場所などを指示されているわけではなかった。それを強制すると法的に労働と見なされるというのが理由らしい。
あくまでもボランティアの活動に応じて等級が与えられ、侵入者があればそれにペナルティを受けるという説明を受けただけにすぎない。
時間や場所はボランティア内で話し合って決めている。他者が許容するなら24時間連続で警備しようが、一ヶ月休み続けようが自由である。
メラーはそれ自体には何ら関知せず、誰がどこでどれだけ警備をしたのか記録し、それに応じて等級とペナルティを与えるのみだ。
運送についても、何の物資が街に必要でそれがどこにあるのかという情報が与えられ、車両が貸し出される以外はほとんど似たようなものだった。
壁周辺にはボランティア用の宿泊施設の他にも店が点在しているが、金銭報酬はないため利用する者はあまり多くない。
宿泊施設には個人ごとに部屋と食事、端末やネット回線が無償提供され、共用の書籍や娯楽用品まで備え付けられている。
ただしこの活動によって得られる分の等級が上限に至るか、規定の期間が過ぎるか、重大な違反や過失をすると、提供はすべて打ち切られる。
「マジ天国なんだが、ここ」「ネカフェよりサービスいいよね。飯が旨いしいくら食っても無料とか。いいのかこんなんで」
「給料出ないのと警備が突っ立ってるだけで退屈なのだけはちょっとなあ」「それくらい全然許容範囲だわ。むしろ普通の仕事より楽」
「運送は逆に長距離走らされる。穢不治までの往復で一日1000km移動した人もいるとか」「正規雇用だと働準法違反になりそう」
「まあノルマ緩いし等級上がりやすいメリットもあるけどね。各地のメラーの宿を無料で使えるし期限に間に合うならついでの観光すら許されてる」
「お前ら、俺が警備してる時に気を抜くのはやめてくれよ。ペナルティは連帯責任だからな」「暇すぎてどうしても気が抜ける。ミスったらスマン」
「等級下がった方がここに長くいられるからいいだろ」「いつまでもいられるわけじゃないけどね。期限は定められてる」
「僕はむしろできるだけ長くここにいたい。だから警備の時間もっと短くしてもらいたい」「俺も」「シフトはみんなで話し合って決めるしかない」
「風呂済ませたら俺の部屋集まって徹夜で栗鉄99年やろうぜ」「昨日徹マンやっといて今日もかよ。いいけど」「深夜3時から警備あるしもう寝る」
「友達と連日ゲーム三昧って小学生以来だ。人生の中で今が最も幸せな時期なのでは」「いい年こいた大人がこんな生活してて本当にいいのかな」
「メラーはなんでここまで厚遇してくれるんだろう。そんなに重大な任務には思えない」「雇用して給料出すよりは安く済むのでは」
「ずっと前に那尊さんがテレビで説明した時は奴隷労働とか叩かれたから、そのイメージを払拭する目的もあったのかも」「にしてもやりすぎだろ」
「ボランティア期限内に住民投票に選ばれなかったら投票分の等級1をもらえないまま引退だよな。そこだけは厳しい気がする」
「まあ何回もチャンス与えられてて一回でも上位数名に入ればいいわけだから、それ全部が駄目だったらもらえないまま引退でも仕方ないよ」
「だいたい住民は本当に俺らに投票するのか?住民なんて初日に街に入っていくの以外で見たことすらない。あっちも俺らをほぼ認識してないだろ」
「那尊さんが言ってたようになんか気まぐれとかで適当に投票する人がいるだけなのかな」「じゃあただの運任せ?不条理すぎるだろこのシステム」
「出入り口付近の警備担当した時に住民が通りかかったら頑張ってアピールしてみようかな」「そんなんで投票してもえるとは思えない」
「侵入者見逃した奴ってやっぱここ追い出されるのかな」「ボランティア分の等級も下げられるし多分二度と上げられなくなる」
「真面目にやってても他人の連帯責任でそこまでひどい罰食らうのかな。事前の説明はその辺り曖昧だった」「まあメラー次第なんだろ」
「警備をしている時の私たちもカメラで世界中に配信されてるんですから、メラーもあまり横暴はしないと思いますけど」
「それよりアイドルのライブや地域の活性化って本当にできてるのか?壁の外で寝泊まりしたり突っ立ってるだけだと全然分からん」
「街の中ではまだアイドル活動なんてできるような段階じゃないっぽいよ。生活するだけでもやっとだとか」「食べ物にも困ってるらしい」
「え、何が起きてるんだ?」「俺たちは好きなだけタダ飯食って遊んでるのにな」「女性だけの街なのに外周にいる男の方が快適なのか」
「今配信見てんだけどスーパーの商品ほとんどなくなってる。ほらこれ」「ほんとだ、なんでこんな……ていうか店の中まで配信してるんだな」
「住民は業務をすれば簡単に儲かるって話じゃなかったのか」「ここのように至れり尽くせりじゃないから未だに業務できてない人も多いんだと」
「もう外に帰りたがってる住民も出てきてるって話も」「食料もないならそりゃそうだ」「壁出てすぐスーパーあるんだから出ればいいのに」
街の開業から数日後、住民生活のさんたんたる様相に、どうにか対策してほしいという陳情がメラーの窓口まで大量に届いた。
住民自身からだけではない。配信や報道で街の実態を知って心を痛め、住民に同情した外部の視聴者によるものも多く含まれている。
投げ銭とプレゼントの解禁をメラーはアナウンスする。内外で負の感情が蔓延するのを、那尊は見計らっていた。
プレゼント候補のリストには食料品や日用雑貨が多く含まれている。どれも街で需要が高い物ばかりなのだ。
住民はそのリストから欲しい物を好きなだけ選択する。リストにあるものをすべて選択することも可能で、特に制限はない。
間を置かず、視聴者は事前に購入した疑似通貨を消費して住民にプレゼントする。皆、住民が心配で一刻も早く助けるために必死だった。
さらにそれと同時に住民に配達業務のオファーが出される。時間と体力に余裕のある住民は進んで受託し、早速業務に取りかかる。
小売の品出し作業より簡単で分かりやすいため、受託する者が多いのだ。配達に必要な鞄や自転車、自動車まで無料で貸し出される。
街の出入り口には倉庫も併設しており、プレゼント候補の物資があらかじめ大量に運び込まれていた。
配達業務の内容は、指定された品をそこから指定された住所へ届けるだけである。かくして住民は当面の危機を脱した。
さらに住民個別の配信チャンネルを開設したことをメラーはアナウンスする。機材は各人に配布しており、それを使っていつでも配信してよい。
視聴者は公式サイトから、どの住民が配信しているのかひと目で分かるようになっている。開設の数十分後には個人配信する住民も出てきた。
始まった途端に視聴者数が急増する。街は世界中から関心を向けられており、この数日のハプニングでさらに気を惹いているのだ。
配信者は一様に、プレゼントで助けられたことに感謝の意を示す。たったそれだけで視聴者からの多額の投げ銭が頻繁に飛び交う。
ただ興味が集まっているからというだけではない。根本的に住民は容姿が優れているのだ。初見で好印象を抱かせる。
容姿だけでなく喋り方や声色や仕草、衣類やインテリアのセンス、全体の雰囲気など人に好かれる魅力を多く持った人材をメラーは厳選している。