23話:ポスト2201-2300
この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku
一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。
たとえば発表から10日間のうちに、投げ銭合計額の下2桁がゾロ目の日が出れば、そのまちで次に建設が決定した施設はメラー負担が3割追加される。
発表日、業務に遅刻する住民がひとりもいなければ3日間はすべての施設で2割追加。午前は晴れ、午後から雷雨なら1割追加……など。
また、公式サイトのアンケートで選ばれたり、那尊みずからが配信しながらダーツで決定する場合すらあるとのこと。
まちの利益、設備改善システムの資金、建設案ごとの予算、メラーの負担などの金額は一般向けに簡略化され常に公開されている。
「いつものことながら変なとこで適当というか、ゆるいというか」「ちょっと雑すぎないか?天気とかダーツとか。遊びかよ」
「分かりやすくていいじゃん。この構造ならあの工法が使えるから材料費が何百万炎浮きます、とか言われても分かんねえし」
「まあそういうのも建築知識ある住民が考えて話し合って案を決めるはずだけどね。その上でメラーもチェックして調整してくれるだろうけど」
「メラー負担が1割違えば何千万、施設によっては何億も変わってくるわけだよな」「雷落ちるだけで億が動くってマジ意味分からん」
「面白いけどあまりに享楽的」「メラーにとってはそれくらい軽いのか」「ていうか最低5割も負担してる時点でありえない気前のよさ」
「何箇所もまちを作れる財力がそもそも尋常ではない。経営陣と私たちの金銭感覚にははなはだしい断絶があるに違いない」
「メラーが倒産するとか言ってる奴いるけど、倒産寸前の企業がこんなに湯水のごとく金使うわけないよな。この現実を前にすれば説得力ゼロ」
「アンケで選ばれるって、俺らが協力すれば好きな条件を選べるの?」「ファンの結束力が試されるな。まだアイドルほとんどいないけど」
「でも大切なのは割引率より何を建てるかだろう。住民がほしい施設、観光客がほしい施設って多分かなり違うし」
「もし住民が新たな住宅を作っていかなかったら住民はずっと増えないのかな。今の2割時点の住民数のまま、まちだけ拡大していくの?」
「そりゃそうなるだろうな。でもひとりの稼ぎは他のすべての住民にも還元されるから、住民が増えた方が既存の住民にとって都合がいいはず」
「人が増えたらまち全体の人気につながって収益が増えて設備改善の資金も潤うから、住宅を新設していくのは割と優先度高いと思う」
「住宅以外だったら何を作ればいいんだ?」「とりあえず食料や日用品を扱う店でしょう。それが品切れすると住民生活が脅かされますから」
「最初の街の最初の状況がそういう感じだったよね。あれはあれで住民が困り果てて面白かった」「不謹慎すぎるだろ」
「海辺のまちでは観光客用に豪華客船を買う方向で住民の話がまとまりつつある」「なるほど。まずそれを目玉にして客を増やして利益を得るのか」
「船とかありなのか」「金で解決できるなら大抵の案は通るらしい」「そういうとこもゆるいよね」「メラーはめっちゃ融通利かしてくれるんだよ」
「高級クルーザーでアイドルが船内ライブやってディナー食べながら見れたら最高じゃん」「俺なんて屋形船で宴会くらいしかやったことないよ」
「ディナーショーってすごい料金取られそうなイメージ」「メラーなら安くしてくれるのでは?ライブを無料にするくらいだし」「夢が膨らむね」
「なんか私たちまで金銭感覚バグってきてないか?みんな言ってることが景気よすぎだろ」「でもメラーはそれに応えてくれそうな信頼感がある」
人は大きな金の流れが分かりやすく可視化されれば否応なく興味を惹かれる。誰しもが人生を金に支配されているのだから無理もない。
たとえば同時に複数の条件を満たすとメラー負担が10割、つまり無料で建てられる可能性が出てくるならば、条件の詳細が気になるものだろう。
設備改善システムとはマネーゲームである。箱庭の中で右から左に金をいくら転がすかというだけでもエンタメ化できる。
しかもその産物は観光で現実に体験できる。ネット配信を通して味わったのとは別の楽しさだが、つながりはあり、自分もつながりに行けるのだ。
体験に代価を払った分だけ、さらに施設が増えていくのが約束されている。自分の金がどれだけまちの発展に貢献したのか数字で確認できる。
アイドルは最悪、引退してしまえばそれで終わりだが、まちは形として残る。やりがいを見出し、まちに精神依存する者が後を絶たない。
これを支えるメラーの信望もますます高まっていた。まち事業以外でも他分野へ展開するメラーにとって、イメージアップは重要である。
世のほぼすべてのエンタメは魅力を伝えるために宣伝するが、それも行きすぎれば反感を買ってしまう。押し付けが嫌がられるのは必然だろう。
那尊はイメージを重視しており、メラーの宣伝は常に最小限にとどめている。それはまち事業においても同様である。
次々と斬新な策を打ち出して世間の話題をかっさらい、アイドルや設備改善など強い魅力で客を誘引して逃さない。宣伝など不要なのだ。
すべてのまちは順調に発展してアイドルも続々と育ち、全国ライブができる域まで至った。もちろんそのライブは無料である。
アイドルたちは他のまちに移動しながら全国ツアーを展開する。ファンはそれを追いかけて各地の施設を利用し、まちの利益となる。
まち同士、アイドル同士の連動企画も組まれ、さらなる盛り上がりを見せていた。多数の要素が相乗効果を生み出しているのだ。
年月が経ち、どのまちも敷地すべてが施設で埋まった。外周の観光施設も充実している。それらの改築のために設備改善システムは存続する。
無論そのために住民の利益はわずかに圧迫されているが、皆が充分な利益を得ているため文句を言う者はいなかった。
那尊「真の女性だけの街、真の男性だけの町を作ります。が、メラーはそのために1炎たりとも負担しません」
「え?どゆこと?」「真の女性だけの街とは一体……」「よく分かんねーけど、じゃあ誰の金でそれを作るんだよ」
那尊「真の女性だけの街は既存の女性だけの街の住民のお金で、真の男性だけの町は既存の男性だけの町の住民のお金で作らねばなりません」
「え?どゆこと?ほんと分かんないんだけど」「作らねばって、なんかそういうルールでもあんのかい?」「まず真というのは何なのですか?」
那尊「弊社がまち事業を始める以前、女性だけの街というのはこのように楽しさを提供するようなものではなかったはずです」
那尊「ただ男性のいない環境で暮らしたいという、女性の切なる願いでイメージされた概念でした。便宜上、それを真の女性だけの街と呼びます」
「あ、ほんとだ。今と全然違う」「そうした願望を持って今の女性だけの街に移り住み、現実は違えど満足している人も多いようですけどね」
「外歩いてる姿をカメラで四六時中撮られてネットに晒されたり、家賃で毎月1000万も請求されたりなんて、誰も想像してなかったよな」
那尊「当時イメージされたものを、できる限り忠実に作りたいのです。理想は、普通の生活環境から男性がいなくなるというだけなのですが」
那尊「言うまでもなくそれはただの男性差別なので、結局のところ壁で囲って高い入場料を取ることで擬似的にそうした状況を作るしかありません」
那尊「しかしビジネスにはしません。非営利です。メラーはその基礎的な状況を作るよう努めるのみです。取った入場料はメラーのものとしません」
那尊「真の女性だけの街を作り、発展させ、維持していくのは、そこの住民や既存の女性だけの街の住民の仕事です。真の男性だけの町もです」
「あの、それはメラーさんにとって何か得があるのでしょうか?営利企業が非営利でやるなら、ただの慈善事業ではありませんか?」
那尊「ええ、そう認識していただいて結構です。でも慈善と言うより私個人の自己満足のようなものと言うべきかもしれません」
「ならば、自己満足のために住民に負担させるのですか?道理に合っていないように思えますが」「住民にしてみりゃたまったもんじゃねえよな」
那尊「はい。ごまかさずに言えばそうです。ただし無理強いするわけではありません。希望する人以外からはお金を取りません」
那尊「また希望者からも多く取りません。ひと月にせいぜい数千円程度を上限とする予定です。それを払った住民への見返りなどはありません」
那尊「資金面だけでなく実際の建設工事も同様に、希望する住民の労働力のみを充てます。他から資金や労働力を直接投入できないようにします」
那尊「重機などは特に制限なく使用可能ですが、それを購入する資金もやはり希望者の寄付のみによって賄われます」
那尊「あくまで住民の善意、自由意志によって真の女性だけの街、真の男性だけの町は作られるのです。異性の力が混ざってはいけないのです」
「今ようやく思い出しました。那尊さんは以前にも、そのような内容を仰っていました。たしか、最初の街を作っている時でしたか」
「じゃあずっと前から考えてた壮大な計画じゃん。成功させたげようよ」「んな話あったっけか?全然覚えてねえや」
那尊「今まで、私は利己のために女性だけの街のイメージを捻じ曲げてしまいました。お金儲けのために元のイメージを利用したのです」
那尊「その罪を償わねばなりません。これはルールのようなものではなく、道義上の問題です。まち事業を主導した私個人の責任です」
「言ってることおかしいぜ。自分に責任があるなら住民の金と労力を使うなんてやっぱ筋が通ってねえよ。他人に自分のケツ拭かせるつもりか?」
「まちのおかげでみんな楽しめてるしどうでもよくない?」「会社全体による事業なので、那尊さんだけの責任ではないように思います」
那尊「ありがとうございます。そのように擁護してもらいたくて必死に事業を展開してきたのです。目論見通り、功を奏したようですね」
「それを言ったらお終いだろうが。しおらしい態度だと思ったらよ」「なんだか那尊さんらしくて、むしろ安心しました」「これ全部計算なの?」
那尊「まち事業については、最初に女性だけの街を作ってからここまで計算していました」「えぇー……ホントのホントに?」
那尊「でもここからは計算できません。私にできるのはビジネスの勘定だけなのです。ビジネスでない真まちは予測できません」
那尊「予測できないからこそ、どうなるのか知りたいというのもあります。すなわち私個人の趣味に、大勢の住民を巻き込もうとしているのです」
「でも一口数千円って少なすぎねえか?そんなんだと建物1個建てる金を集めるだけで何ヶ月もかかるだろ。労働力の方もよ」
「もしかしたら街が完成するまでに那尊さん死んじゃうかも」「あまり縁起でもないことを言うものではありません」
那尊「私のエゴのために住民の方々へ大きな負担をかけるのは避けたいですからね。生きて完成を目の当たりにできなくても仕方ないのです」
那尊「真まちなんてくだらない、誰がそんなもののために負担するかと住民から猛反発を受け、一向に進まなくてもよいでしょう」
那尊「そういったことまで含めて予測できないからこそ楽しみなのです。私にとって義務であり、望みであり、そして実験です」
ほとんどの住民がこころよく協力した。今や那尊は陰上中から慕われており、それはまちでも例外ではない。
那尊本人のそとづらのよさもあるが、全住民が那尊のおかげで高収入を得ているのが大きい。月に数千炎など何の負担にもならないのだ。
むしろその程度で那尊への謝意を示して世間体を保てるのだから割のよい投資である。すでに真まち作りは社会的正義となっていた。
一からまちを作るには幅広いスキルが必要となる。自分たちの手で成し遂げようというのだから、それは新たに身につけねばならない。
メラーは以前からまちの周辺であらゆる資格の講座を運営している。受講し、晴れて資格取得へ至る住民も多い。
そのような者がにわかに増えていた。那尊の願いを叶えるために金を出すだけでなく、努力しようというのだ。というのは表向きの理由にすぎない。
そうした方が人気につながり視聴者からの投げ銭も増えるという打算が隠れている。個人配信を主な活動とする者にも配信ネタとして好都合だった。
住民の間でも活発に知識を共有し合っている。定期的に勉強会がもよおされ、すでに資格を取得している者が講座の真似事をする場合さえある。
一丸となって真まち作りに突き進む様子は世間を感動させた。那尊への恩返しであり、社会への貢献なのだ。人気はますます高まる。
実のところ、こうした流れも那尊の計算どおりである。結局すべてビジネスなので読むのはたやすい。ビジネスしか分からないというのも嘘だ。
ビジネスでないから分からないと言ったのは、みずからのキャラ付けと劇的な展開を演出するためである。少しの弱みは人々に愛嬌として映った。
真まちが作られていくのは確実だが、完成を見られるかどうかは那尊の寿命次第なので、そこだけは本当に分からない。
だが見られずとも仕方ない、ではなくどうでもよい。那尊にとっては世間の関心を煽る舞台装置であり、反応を観察する実験にすぎないのだから。
そもそも真まちは性差別を前提としている。やむを得ない事情があるわけでもないのに異性を排除するなど、本来なら決して許してはいけない。
これまでのまちは、一般の商業施設でも見られるようなレディースデーの延長、要するに差別でなくビジネスのための優遇という論理が通った。
だが真まちはビジネスではないと公言している。異性を排除するのに足るだけの建前が用意されていないのだ。
那尊個人への敬愛をエネルギー源にそんなものを作ろうとしている。那尊ひとりのために差別という愚行を大衆が正当化しようとしている。
この点に深刻な危機感を抱き警鐘を鳴らす者もあったが、誰も耳を傾けない。もはやその言葉は暴走する社会から悪として扱われかねない。
那尊は今までの行ないによって自分が大衆に強く支持されているのは分かっていた。真まち作りはその度合いを詳細に確認する実験でもある。
那尊のために差別を許容する者は、那尊のためにみずからが他者を差別するかもしれない。犯罪を起こすかもしれない。命を投げ出すかもしれない。
たとえそうなっても那尊の良心は痛まない。その本質に迫りかけた一人の男を消した時でさえ逡巡しなかった。そもそも善悪に頓着がないのだ。
だが普通の人間が善悪を重視するのは分かっている。善悪以外の機微も熟知しており、個人だろうが大衆だろうが意のままに操縦できる。
那尊はただビジネスがしたいだけだった。ビジネスのためなら善人にも悪人にもなるし、善意も悪意も熱意も敬意も利用する。
投げられたボールを追いかける犬の習性を人間が利用するのと同じく、人間の習性をビジネスモンスターが利用しているだけなのだ。
女性だけの街という前代未聞のビジネスに手を出した時のように、最終的な成功のためならどれほどのリスクも恐れない。
数年後、人間の命を使った新事業をメラーはアナウンスする。それが社会に糾弾されつつも最後には受け入れられるのを、モンスターは知っていた。
完結




