表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

22話:ポスト2101-2200

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

すでに陰上でライバルとなり得る存在など倒しきって一部は吸収したが、逸材はまだ世間に星の数ほどいるのだ。

等級はそれをより分けるためのふるいである。高い等級を維持するには、まちのために相当な金をかける必要がある。つまり高収入の見込みが強い。

収入が能力をそのまま表すわけではない。天才の上に立つ非才など珍しくもなく、収入が上がったからといって能力が上がったとは限らないだろう。

だがそれで構わない。たとえ凡人だろうが、等級が高いという時点でメラーの収益に多く貢献しているし、モチベーションの高さも期待できる。

また、まちを新たに複数作るため多数の人材を欲しているというのも嘘ではない。できれば質の高い方がよいが、まずは数を揃える必要がある。

最悪、親の脛をかじってアイドルオタクをやっているだけの愚鈍な遊び人でも大歓迎である。それはそれで親の金とコネにつながるのだから。

放蕩な我が子を世間体のためにメラーという一流企業へ入れたがる金持ちならば、解雇されないよう手を尽くすだろう。それに乗るだけでよい。

那尊の狙いどおり、他社の根幹業務を支える敏腕がキャリアアップのためメラーの門戸を叩くというなら、招き入れるまでである。

あらゆる分野に展開するメラーにとっては大抵どの企業も競合しているため、特定の企業を狙ったヘッドハンティングでなくともよい。

ニッチな産業の、潰しが効かないスキルしか持っていない人材でもよい。メラーならどうにでも使いこなせる。潰しを効かせるのはメラー側である。

高等級即正社員というエサで雑に人材募集するだけで敵戦力を削りつつ吸収し、やがて各市場の占有率をも奪える公算が高いのだ。

多額の金を使って等級を上げようとする者が続出しており、まちの収益は急増した。好待遇で雇われるための先行投資と言えるだろう。

メラーはその期待を裏切らない。約束をたがえない。規定の等級を満たしていれば試験すらなしに、かならず従業員として採用する。

等級が高ければ正社員である。特段に高ければ業務の内容や勤務地について、ある程度は本人の希望どおりに融通する。

そうした対応も話題を呼ぶ。信頼はさらに高まり、事態に拍車がかかった。まちの収益の増え方は一段と勢いを増している。

「採用されたのをSNSで報告する人めっちゃ多いね」「等級だけで雇ってもらえるの確定だもんな。那尊の話に嘘はなかった」

「しかしメラーはヤバくない?さすがに一気に雇いすぎてる気がするよ。今は儲かっても雇った従業員を近いうちに持て余すはず」

「あれだけ多様な事業をしている巨大なグループなので人材の使い道も無数にあるはずです。持て余すわけがありませんよ」

「那尊さんが言ってたよね。まちを複数作るなら人手は大量に必要って。持て余すどころか足りないんじゃないかな」

「まちを作った後はどうなる?」「運営に回るんじゃね?最初から完成後の運営志望って奴も多い。まちと全然別の業務を志望する奴さえいる」

「解雇は普通にあるんでしょ?まち作りが終わったら逆に大量解雇されるんじゃ?」「番組でも言ってたけどそんな簡単に解雇できないから」

「志望した業務を割り振られても、その後に人事異動がないってわけでもねーよな。向いてないなら他んとこへ飛ばされるに決まってる」

「まちの成功は住民という人材を効率的に使った結果だよね。住民は従業員じゃないけどさ。街に住ませて業務やらせるだけで膨大な利益を稼いだ」

「人の使い方が上手いんだろう」「住民に関しては上手いとか効率的とかいうレベル越えてるだろ。使い方がまったく異次元の発想」

「つうか陰上中でメラーに転職するサラリーマンが増えてるってニュースになってんだが。むしろ他のすべての企業がやばくない?」

「ベテランが大量に抜けたら会社がガタガタになる」「うちの客先は中小だけど経営幹部の中からもそういう人が出てきて困ってるって言ってた」

「そこいらの中小の幹部よりメラーの平社員の方が高収入だもんな。しかも幹部としての経歴やリーダーシップがプラス評価されるだろうし」

「でもやっぱ他の企業よりメラーが一番ヤバイ気がする。前職で高い役職にいたからっていきなりそこまで高給で雇うのはリスクありすぎ」

「そもそも等級だけで採用確定もな。等級が高ければどんな奇人変人でも拒めず絶対に採用しないといけない」「那尊自身が奇人変人枠だがな」

「変な奴だろうが等級が高い時点でおそらく何らかの長所があるはずで、人材の扱いに長けるメラーならそれを活かせるって話でしょ」

「等級の高さはまちへの期待だと思ってるって那尊さんが言ってたけど、等級18の私はまちが成功しようが失敗しようが正直どうでもいいよ」

「俺も正社員確定の等級持ってる。でも街のアイドルが好きってだけだから新しいまちに興味ないしメラーのために働くつもりもない」

既存のまちの住民を、新たなまちの建設に携わせることをメラーはアナウンスする。住民も様々なスキルと資格を持っており、戦力となり得るのだ。

大半は付け焼き刃程度だが、最前線の作業を任せられる域の住民も散見された。そしてこの場合は前者でも用を成す。

すべての住民には少なからずファンがついているため、現場に出てくるだけでもファンのモチベーションは高まる。

高いスキルと人気を併せ持つアイドルは人材として申し分ない。本人が戦力となり、周囲にも好影響を及ぼす。

最初の街の周辺に観光施設を作った時、住民はせいぜい陣頭指揮を執る程度だったが、今回は実際に作業もする。

住民は皆、規律を守れる素質を持っているので、初対面だらけの集団でも規範を示してくれるはずだ。

街でオファーを出す。業務のため他の地域に長期滞在せざるをえないが、自らのスキルを活かせる稀な機会であるため、積極的に受ける住民も多い。

顔ぶれが発表されるとメラーの従業員募集への応募者が一段と増えた。これだけでもすでにアイドルの効能が現れていると言ってよいだろう。

メラーに雇われるだけと思って見送っていた者も、ひいきのアイドルと共にまぢかで働けるとなれば話は違ってくるのだ

もちろん建設現場も撮影、配信される。端整なアイドルが汗まみれ泥まみれで力仕事をこなす姿は、さらなる人気を呼んだ。

当然だが、それらはメラーが元々抱えている一級戦力に早さも正確さも遠く及ばない。実力や経験が乏しいので仕方ない。

しかしそんなことは重要ではなかった。まち建設のエンタメ化は利益を生む。短期的には投げ銭、長期的にはまち自体の人気獲得である。

建設が終わって完成してからが、まちの本番なのだ。建設段階から配信映像を盛んに見ている者は、開業時点で強い愛着を持っているだろう。

できるだけ多くの者に周知し興味を惹くのはコンテンツビジネスの第一歩だが、最もむずかしい部分でもある。大抵はここでつまずく。

那尊が何かにつけて大衆の興味を煽るのも、このためだ。どれだけ良質なコンテンツを用意しても客がいなければ始まらない。

新たなまちは、既存のまちの続きでもあるため、既存のまちが飽きられてもいけない。飽きさせずにここまでやってきた。

強引でも新展開を打ち出し続ける必要があるのだ。那尊は従業員を多く抱えて焦っていると言ったが、実際には強引さを正当化する建前にすぎない。

何もかも順調なように見える那尊がそのような泣き言を吐露してみせるのも、大衆を惹きつける効果がある。

まちの建設計画は一般向けに公開されているが、それには不可解な部分があった。もちろん同様の狙いも含んでいる。

「仕事終わって夕日にたたずんで缶コーヒー飲んでる作業着のイケメンっていいよね」「アイドルは何を着ても様になるからずるい」

「女に工事なんて無理だと思ってたけど案外戦力になってて驚いた」「近年はゼネコン大手も女性人材を求めてるよ。普通に仕事できる」

「てか配信見てて思ったけど土木工事って早い時間に終わるんだな」「日没後の工事って危険だから。あと騒音とかの法規制のせいでもある」

「重大な過失があった上で事故が起きて死傷者が出たらきわめてまずいでしょうね。現場監督、ひいてはメラーの責任問題になるはずです」

「那尊ならそれもエンタメって……さすがに言わないか」「配信できるわけないし」「ディレイなしの生配信だからできるっつーかされると思う」

「現場にアイドル投入してるのは大丈夫なのかな。本当に死んだりしたら……」「安全性の高い作業を割り振るとか配慮されてるようだけどね」

「それより建設計画だけど、なんでどのまちも敷地内の2割くらいで工事終わらせるんだ?街の中のほとんどが更地っておかしいだろ」

「後で大きな施設とか作る予定とかあるんじゃね?」「無理に建物建てなくていいじゃん」「じゃあなんで更地まで壁で囲むんだよ」

「現場に入ってる住民は何も知らされてないっぽい。メラー社員は知ってる人もいるんだろうけど、あえて伏せてる感じがする」

「金が尽きただけとか」「まち1個作るのに数十兆かかるって話だし、いくつも作るんだから金欠も仕方ないか」「仕方ないでは済まんでしょ」

「今更だけど国家予算並みの金を一気に動かすんだよね。陰上経済どうなっちゃうの」「最初に女性だけの街作った時もGDPかなり上がったからな」

「そりゃ地方の政治家なんてメラーに頭上がらなくなるよね。まちを作るだけで絶大な経済効果が生まれる。詠尾もそうだったんだろうね」

「お金の問題もだけどさ、建設するための資材ってどうなってんの?めちゃめちゃ大量に要ると思うんだけど、どこから調達するの?」

「今からいきなり買おうとしたってどこもすぐ品切れするだろうな」「まさか更地のまま放置してるのは材料不足のせいなのでは」

「元々溜め込んでたらしいよ。最初の街が完成してから、てか最初の街を作り始めた時からそれとは別で世界中から掻き集めてたんだって」

「そういえば陰上各地のメラーの倉庫になぜか大量の建材が運び込まれてるってニュースをしばらく前に見た記憶ある」「全部計画通りなわけね」

「ならば、資材は心配ないようですね」「じゃあ結局なんで更地の部分があるんだよ」「今までの流れからすると、もしかして……」

更地の謎について関心が高まったところで、メラーは回答する。おなじみの設備改善システムである。

これまでは観光施設やライブ会場など小規模な単位だったが、今回は複数のまちで、それぞれ8割の面積を使って大規模に実施するのだ。

住民自身のための施設が作られていくことを想定してるが、特にそれを強制するわけではない。

更地に何を作るかは住民の自主性に委ねられるが、例によって配信視聴者や観光客の意見を参考にしてもよい。

もちろん他のまちの住民と相談するのも可能である。他のまちを真似るのも、被らないように別のものを作って特色を出すのも自由だ。

また、既存のまちも含めて外周にも同様のシステムで施設を建造する方針をメラーはアナウンスする。これは主に観光客用の施設が作られるだろう。

要は今後のまち作りの大部分に住民の意思が反映されるのである。それだけに、失敗してもメラーへ責任転嫁しにくい。自由には責任が伴うのだ。

また、まちごとにあらゆる儲けのうち一定割合がこれらの原資となるため、住民に分配される利益の割合は既存の街よりほんのわずか減少する。

費用の半分はメラーが負担するため、実際は少ない資金でも次々に施設を建てられるようになっている。住民を苦しませる目的などない。

一見すると自由、エンタメ、ビジネスを旨とする那尊のサービス精神が如実に現れた大胆な措置のようだった。

しかし真相は、そのような前向きな理由ばかりではない。むしろ苦肉の策と呼ぶべきで、メラーにとってはギリギリの綱渡りに近い状態なのだ。

最大の問題は資金不足である。まちを新たに複数作るには莫大な費用が必要で、いかにメラーでも一度にすべてを背負えるものではない。

次は材料。手配のために相当な期間を費やしてきたが、それでも未だに充分な建築材料をまかないきれないのだ。

諸般の事情により緩い条件で無理に採用したので、社内の新人材にも不安がある。本来は現場へ出す前に、まずは充分な教育をしておきたかった。

住民も厳選せねばらない。最初の街の成功に釣られ利己的なやからが多数応募してきているので、入念にふるい落とすべきだろう。

これらの問題を解決するには時間が必要なのだ。時間さえあれば資金も材料も調達できる。従業員の教育、住民の厳選も済む。

そして設備改善システムは時間稼ぎに都合がよい。建設すべき施設を決めるために住民は話し合いを重ね、時間を浪費してくれるのだから。

その過程もエンタメとして使えることはすでに先の街で実証済みである。住民は視聴者へ相談し、視聴者は熱心に口と金を出すのだ。

設備改善システムを先の街の観光施設やライブ会場で試したのは、そもそもこの問題をごまかして乗り切るためである。

那尊は他にもいくつか対策案を持っているが、問題を解決しつつ客を楽しませられる設備改善システムが最も合理的という結論に至った。

初見ならば住民も世間も馴染みのないシステムに面食らい、楽しむどころではなかっただろう。まずは小規模の施設で慣れさせねばならなかった。

これによってメラーは今までどおり、対外的に弱みを見せず、むしろ気前よく大盤振る舞いをしているように映る。信頼が保たれるのだ。

公示されたメラーの決算を分析し、財政面の事情からごまかしを見抜き指摘する者もいたが、あまり広く支持される意見ではなかった。

一度にすべての街を完成させればメラーでも破綻の危険がある、などと主張してもそれは仮説にすぎず、大抵の庶民は企業会計に疎いのだから。

すべての新たなまちで同時期に建設計画が竣工した。全体の2割の面積にすぎないが、生活に支障が出ない程度の施設はひと通り揃っている。

厳選した住民を入れて開業する。先例があり運営の信頼も堅いため、最初から大人気で順調に利益を稼ぐ。

まだアイドルとして活動する者が少なく、観光施設が乏しい段階にもかかわらず、まちの外には観光客が詰めかけている。ボランティアも大忙しだ。

住民は地味な業務をこなしているだけでも配信で多額の投げ銭を得られ、他の住民にも一部還元され、設備改善の資金としてもプールされる。

複数のまちを一気に完成させるほどの巨額の資金はなくとも、経営状況自体は申し分ない。この先も順調に利益を出し続けられるだろう。

ここで設備改善システムの追加ルールをメラーはアナウンスする。今後、メラーが負担する費用の割合は、住民や客が条件を満たすことで増える。

何の条件も満たしていなくとも最低5割が保証されており、この時点で世間の相場より格安で施設を建設できるが、条件次第で6割にも7割にもなる。

条件や増大分の割合はメラーがその時々で一方的に発表するが、基本は他愛のない内容かつあまり意地の悪いものにならないよう配慮されるらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ