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20話:ポスト1901-2000

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

当初は批判の声を黙殺していたJVだが、ものすごい勢いで噴出してくるそれらを抑えきれず、ついに謝罪会見に追い込まれた。

しかし会見の場には狭凪をはじめとした出資各社トップの姿はない。自社の名に傷がつくのをおそれ、幹部たちに代役させているのだ。

「このたびはお騒がせしている件について、世間の皆さまをご不快な気持ちにさせてしまい大変申し訳なく思っております」

「報道に関して事実と異なる部分も多く、住民に行なった聞き取り調査において違法な薬物の使用や賭博行為などは確認されていません」

「これ以上デマが出てくるなら、弊社として対抗措置を取らざるを得ません。どうか真実のみ報じていただきたい所存です」

「しかし住民がそう誤解させさせかねない行動を取ったのも事実であり、この点につきましては今後の円滑な事業運営のために重々反省すべく……」

あまりにずさんな謝罪会見に、世間からの反感が一気に高まる。保身のつもりが、からきし逆効果だった。

「なにあれ。ふざけてんの?」「典型的な炎上会見」「誠意の欠片も感じなかったな。どうにか標的を逸らしたいって気持ちだけは汲み取れた」

「デマを流したメディアのせい、誤解した客のせい。いや、お前らがアイドルをちゃんと管理してないのが原因だろ。何が重々反省だよ」

「デマや誤解じゃなく全部事実だよね」「個人配信中に違法賭博やってた奴いるしな。公式動画は消えてるけど外部に拡散されまくってる」

「拡散って許されてんの?」「街は禁止だけど町は許可してる。その方が宣伝になるから。まあ公式が消した動画まで拡散するのはどうかと思うが」

「聞き取り調査ってのは何?」「どうせそういう行為をしたか、他の住民がやってるのを見たかって聞いただけでしょ」「素直に言うわけねえわな」

「皆さまを不快にさせてるって言い方自体が不快。大勢の感情を決めつけやがって」「不快とか誤解とか客の心の問題にしてくるのがあり得ない」

「開き直ってデマを訴えるとか言い始めたのはさすがに呆れた。真実を言ってないのはどっちなんだか」「謝罪風の煽りを通り越して脅しだよね」

「メラーの謝罪と何もかもが違う。那尊さんは他責的な態度を全然取らなかった。自分の責任として謝罪した。謝罪を言葉だけで済まさなかった」

「世間をお騒がせしている件、なんて濁さなかったしな。経緯と問題点と処遇を包み隠さず説明した上でアイドルとファンにフォローまで入れた」

「そういえば女性だけの街はファンに投げ銭の返金とかやってたよな。町はどうすんの?」「何もしないんじゃない?特に言及されなかったし」

「そもそもお偉いさんがひとりも出てこないってのがおかしいよね。ナズが中心になってるんだから狭凪だけでも顔見せろよ」

この一件で男性だけの町は深刻な状況におちいる。大規模なビジネスに不可欠である信頼をひどく損なってしまった。

アイドルファンの女性にとっては世界中で唯一、ここでしか満たせない需要があったにもかかわらず、急速な客離れが起きているのだ。

運営に対する不信感が爆発して収拾がつかない。世間からのみならず、JV内部からさえも上層部への不信感が生まれている。

並大抵では失った信頼を取り戻せないだろう。今後のロードマップを根底から修正する必要があり、もはや事業撤退さえ考慮せねばならない。

狭凪は自身が謝罪会見に出られないと決まった時点で、事態の好転を諦めていた。しかしここまで悪化するのは予想外である。

JV内部でアイドルの不祥事のもみ消しが始まった頃から組織の代表として謝罪会見をする用意をしていたが、結局それは許されなかったのだ。

他の出資会社にしてみれば狭凪だけ矢面に立たせていては共同代表の面子が立たない。が、共に出て自社の評判を下げるのは避けねばならない。

他者に責任を押し付けたいがそれを世間にけどられたくないという都合のよい思惑から、各社から名の知れていない三下を出す策を選んだのである。

これによって一応は、各社が会見に出席したと言い訳だけはできるはずだったのだが、もはやそのような次元の問題ではない。

狭凪は反対したが、意思決定には関わらないとの取り決めのせいで無視された。共同代表のひとりではあっても、ただのお飾りなのだ。

1000万炎を含めたあらゆる面を街と同じように実施すべきだと繰り返し提言しているが、やはりそれも無視され続けている。

町の投げ銭は街のそれより高額だが、運営の取り分が多いため住民への分配はむしろ少ない。プレゼントも、配信用カメラの操作も同様である。

元々プロのアイドルが多いのでライブはすぐに始められた。しかし、そのチケットやグッズの値段も運営の儲けのために高額なのだ。

町の周辺で展開している観光客用の飲食店や小売店や宿泊施設、その他あらゆるものが同様に、住民や客からの搾取を優先している。

利益を最大化するには、メラーからの融資をできるだけ早期に多く返済し、利払いを減らしていかなければならない。

が、その方針のせいで客を遠ざけている面もある。どうしても女性だけの街と値段を比較されてしまうためだ。

値段を下げれば質の低下も避けられない。低価格で高品質を保つには利益が犠牲になり本末転倒となる。

多数の企業が参加しているが、大抵の分野でメラーより劣っているため、そもそも同水準の価格と品質を提供することすら困難である。

JVは今頃になってこれらのジレンマに気付いた。メラーによる5割もの融資は、利益優先の経営を強制するための罠だったのだろう。

街に対抗できるほどの事業を立ち上げるには巨額の資本が必要で、メラーがその半分も出すなら誰だって飛びつくのが分かりきっている。

それでも街の成功が脳裏に焼き付いているので、真似をするだけで簡単に大儲けでき、無理なく返済していけるつもりだった。

大枠で街を真似しながら不合理な部分を最適化すれば、さらに利潤を拡大できるはずである。だが、その考えが間違いだった。

一見無駄の塊である1000万炎は、無駄どころか最重要なのだ。利益のためにそれを捨てたせいで取り返しのつかない損害が出ている。

通常の経営はあの手この手で節税するところを、街はむしろ積極的に税金を払うためにしているのだから理解できないのは仕方ない。

だが、自治体や政府への合法的な利益供与という副次効果まで含めて完全に理解できていても、やはり実施をためらわざるをえなかっただろう。

全住民分の1000万炎に発生する税金は重すぎて、利益を致命的に圧迫するためだ。それこそ黒字など望めなくなり、事業を畳むはめになる。

自治体や政府にとって、町からの税収は街ほど大きくないため特別な取り計らいをする意味がない。

今後、町は何をするにしても公的な手続きや扱いにおいて差をつけられるだろう。街のようにスピード感のある展開は難しいなのだ。

開業まではメラーが仲介して適切な段取りで進めたので早かったが、もうメラーは面倒を見てくれないどころか戦うべき敵となっている。

まずメラーからの融資が重荷である。イメージ悪化から売り上げが低迷している町には利払いだけでも精一杯で、元本を減らすのが容易ではない。

とどのつまりメラーはこのまま何もしなくともJVから利息を吸い取り続け、それによって男性だけの町の運営を阻害し続けられるのだ。

大衆も町の不穏な運営状況に気付いた。公開されている元本の減り方が次第に鈍り、とどこおっている。それどころか、利息でついに増え始めた。

女性だけの街という手本があり、手厚い支援を受けていながら、大変な失態を演じてしまった。JVは出資各社の会合を開く。

「まさかこんなことになるなんて……」「もうやだよ」「この先ずっとメラーに貢ぎ続けるのか?」「なんとか今の状況を脱しなくてはならぬ」

狭凪「各社が追加で資金を拠出して、それを元本の償還に回せばいいんじゃないしょうか?元本が減れば利子も減り、少しずつ楽になるはずです」

「1炎も出してないアンタがそれを言うか。つーか二度とここに来んなって約束だよな?」「別にいてもいいじゃん。みんなで考えようよ」

「今は本業も不調なので追加で出すのは厳しいのだ。町の失敗で我が社まで株が落ちてしまっている。他の出資社も似たようなものだろう」

「まず狭凪さんが出してもらえませんか?今までいっさい負担をしていないわけですし、ナズはまだ余裕があるはずですよね」

狭凪「冗談じゃありません。私は最初から負担しないという契約だったでしょう。今更になってそれを反故にされても困ります」

狭凪「追加で拠出というのはあくまでも今の状況を改善するための提案です。私はそもそも勝負していないのでそれに協力する義理はありません」

「は!この期に及んで自分の腹を痛める気はないってか。そうやってまた他人を勝負に乗せて利益だけ掠め取っていくつもりだろうがよ」

狭凪「こうなるのが分かっていたから自分では勝負しないんですよ。あなた方こそ、これは儲け話だったはずじゃないですか。続けないんですか?」

「我々はどうやら思い違いをしていたようだ。愚かにもメラーの誘いを疑いもせず受けてしまった」「全部那尊さんの罠だったんだね。騙された」

「融資っつーのは表向きは支援だが、本当の狙いは利益優先の運営を強いる鎖だったってわけかい。そうなりゃ街と比べられ叩かれるのは当然だ」

「だが町作りは巨額がかかるため、融資なしではそもそも作ることすら至難だった。融資を持ちかけられれば乗ってしまうのも仕方なかった」

「今更悔やんでも仕方ありません。仮に狭凪さんの提案通りに各社の協力で負債を減らしていったとして、その先によい未来は見えていますか?」

狭凪「いえ、私にはそこに展望を描けません。さっさと借金を返して事業撤退、JVは解散が最善だと思います。すなわち損切り一択です」

「おいおい、洒落になんねえ金を突っ込んでんだぜ?これで終いなんて勘弁してくれ。うちの会社潰れて従業員みんな路頭に迷っちまうよ」

「あのさ、今って女性だけの街と結構違うことだらけじゃん?狭凪さんの言うとおり、それ全部同じようにしたらいいんじゃないの?」

「メラーがなぜそうするか、我々が理解できない点も合わせるというのか?危うい経営判断となるだろう。合理性を説明できないのだから」

「それをやらなければ、おそらく成功しないのでしょうね」「やったからって成功するか分かんねえじゃねえか。社内を説得できる気がしねえよ」

狭凪「もう世間からのイメージは最悪なので今から街を忠実にコピーしても失敗します。最初からそうしていれば望みがあったかもしれませんが」

「融資を完済し、悪印象を払拭してようやく振り出しに戻るというわけか。そのためにどれだけの費用が必要となるか」

狭凪「たとえ女性だけの街と同じ条件が整ったとしても、すべてにおいて比較されて、やはりイメージは段々と悪くなっていくと思います」

狭凪「はっきり言ってこちらは妙策を次々と打てるような知恵袋がありませんからね。後追いで真似をして叩かれるのが関の山です」

狭凪「そして真似をするにしても、こちらは参加企業が多いため意思決定において確実にワンテンポ遅れます。大所帯の欠点でしょう」

狭凪「その前に、街がやったことの意味を検証するならツー、スリーテンポと、町は街にどんどん遅れていくはずです」

狭凪「ずっと遅れて真似をする。一度だけならまだしも、それが何度も繰り返されれば客は白けてゆくでしょう」

「那尊さんが対立構造を作ったのもこのためですかね。先を行く者、後から真似する者。二者しかいないならその関係は必ず強調されます」

「手詰まりってわけかい。こんなとこで終わるなんてなあ」「まだ半年なのに」「事業をしりぞき、各社の拠出で完済するしかないようだな」

町事業の撤退をナズがアナウンスし、国内に激震が走る。アイドル関連の展開もすべて中止する。被害を最小限に抑えなければならない。

住民との契約も当然打ち切る。人気が出るはずと当て込んで長期契約を結んでいたため、それぞれ高い違約金が発生し、無駄な被害が増える。

周辺の施設や店舗も畳まざるをえない。インフラも失われ、住民は住み続けられなくなる。数カ月後には町全体がもぬけの殻と化すだろう。

嘆き悲しむ者は多いが、撤退を予測したり望んだりする声も以前から上がっていたせいか、ことのほかすんなりと受け入れられた。

ファンになってからの期間がまだ短いのも一因だろう。運営側はともかく、ファンの傷が浅く済んだ点だけは不幸中の幸いである。

出資各社は町の失敗により手痛い被害を受け、本業にも悪影響が出ている。各分野で大企業のサービスの質が下がり、評判が落ちているのだ。

様子を虎視眈々とうかがうメラーは、機を見て攻勢をかけた。ライバルが弱った分だけその分野でのサービスを向上させ、客の需要を満たす。

これによってメラーはますます上り調子となった。街でもそれ以外の事業でも大成功を収め、今やその勢いは留まるところを知らない。

国内の競合他社を結集させた上でまとめて叩き潰したのである。大企業が束になってもメラーに勝てなかったのである。

企業価値の下がったそれらの経営陣にポストを用意し会社ごと買収する。身をもって那尊の力を痛感したため、軍門にくだることに迷いはない。

だがそこに狭凪は含まれていなかった。芸能界でナズがメラーに再逆転された頃から人前に出てくる機会が減っていたが、ついに失踪したためだ。

JVに社名が冠されていたため町事業の撤退でナズの評判も急激に悪化し、狭凪が消えたこともあり経営破綻してしまった。

JVもじきに破綻、解散のはずだった。しかし手続きには一定割合以上の出資社の賛成が必要であり、メラーが多数を買収したので解散はまぬかれた。

ただの善意でそうしたわけではなく、JVの資産が目当てだ。男性だけの町を手に入れた。強引なさん奪でなく穏便な禅譲の形を取る必要があった。

町の再興をメラーはアナウンスする。使える物は大量に残っており、何より男性だけの町は本来なら強い需要があるのだ。

ただし、やり方はすべてメラー流である。大衆はおおむねJVの運営態度に不満があったので、もろ手を上げてメラー運営を歓迎する。

「まさかメラーが総取りするとは」「手塩にかけて育てた我が子を食った」「JVの方がメラーにビビってたんだろうけどな」

「出資させて、融資して、いくらかの利子を取ったけど会社ごと買収して……結局メラーにとっては得だったの?あんま意味なかったんじゃね?」

「買収した会社はどこも経営不振に陥ってたし、その債務まで丸呑みしたわけだから財務上は赤字かもな」

「ライバルを殲滅したんだからメリットのが強いに決まってる」「ますますメラーが強大になるのか。街作る前の時点でほぼ敵なしだったのに」

「全部那尊さんの計算どおりでJVはハメられたのかな」「街をパクるだけで成功したはずだからハメるとかじゃないでしょ」

「街が先に道筋を示したのに、それから外れてどんどん変な方向に進んで勝手に自滅した。それでも最後に買収で助けてあげる那尊さんはすごい」

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