18話:ポスト1701-1800
この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku
一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。
那尊「あ、忘れていましたね。融資の最後の条件は期限です。といっても、返済期限についてではありません。融資を決定する期限です」
那尊「今から半年後までに融資の話がまとまらなければそれまで。気は進みませんが、さっき言ったように弊社が女性だけの街を新しく作ります」
那尊「また、融資に値する事業がひとつ見つかった時点で受付は終了します。言い換えるなら早い者勝ちです。どうかお急ぎを」
那尊「エンタメの構図として二項対立が分かりやすいのです。展開が長く変わらなければ市井の熱も冷めてしまうでしょう。ライブ感が重要です」
「ライブ感?その場のノリってことかい」「那尊さんってエンターテイナーだよね。すごい社長さんなのに」「あまりに軽すぎる気もしますが」
那尊はまたもや国中の話題を独占した。わざわざライバルを作るなど誰しもにとって完全に予想外だったのだ。
そのために融資までするのも理解しがたい。女性だけの街は既に大成功しているのだから、新たな街をメラーだけで黙って作れば盤石である。
降って湧いた話に、経済界がどよめく。善意による好機なのか悪意による罠なのか、メラーの真意をはかりかねているのだ。
国内大企業で構成された経済団体が緊急会合を開く。団体の目的は陰上経済の発展に貢献するという建前だが、実際はメラーを打倒するためである。
普段なら表に出せない不正まがいの密談をしている。しかし今回は当然、那尊の提案について話し合わなければならない。
数十社の代表が一同に介しているが、実質的な発言権を持つのはその中でも各方面への強い影響力を持った数社のみだ。
「では当団体としては那尊氏の話に乗るのだな?」「まだ決定ではありません。ただ、メラーが半分も融資してくれるのは大きなチャンスです」
「しかも最大でも年利1%で、返済期限もない。政府の起業支援制度でもこんな良心的な条件はあり得ねえよ。完全に儲け話だぜ」
「事業の内容も規模も何もかも不確定なのに、なんでメラーはそこまでしてくれるの?」「那尊氏がエンタメだと言っていただろう」
「ただのエンターテインメントでそこまでリスクを負うというのは信じがたいですが、全国波で大々的に宣言したのですから嘘ではないでしょうね」
「ま、後になってなかったことにしてくれなんて言えねえわな。会社の信用が落ちる。銀行までやってるグループでそうなりゃ致命的だ」
「でもどうするの?対抗できる事業なんて簡単には思い浮かばないでしょ」「そのために今ここで知恵を出し合うのだ」
「猶予はたった半年しかなく、総経費の半分は私たちが用意しなければなりません。となると、事業内容はできる限り早く決める必要があります」
「メラーが何年もかけて準備したのに、私たちはそれと同じくらいのを半年で考えるなんて無茶だよ。女性だけの街ってやっぱすごいよ」
「そもそもなんであんな成功したんだい?すべての住民に1000万払ってから家賃で同じだけ取る理由が分からねえ。税金取られて損だろ」
「それは各所で頻繁に論じられていますが、未だによく分かっていませんね。那尊さんに聞いてもルール違反の住民を追い出すためとしか……」
「1000も動かす理由になってないんだよね。景気よく見せかける循環取引みたいなのでもなさそうだし」「話が脱線している。事業内容を決めねば」
「単純に女だけの街を真似すりゃいいんじゃねえか?」「メラーの後追いになります。世間からは比較され確実にイメージが悪くなるでしょう」
「そのメラーが融資って形でケツ持ってくれるっつー話だろうが」「メラーのお墨付きになるんだよね。いいと思うよ」
「いや、メラーが融資するのは街に対抗できそうな事業の場合だけなのだ。真似するだけでは対抗できないと判断されるのではないか?」
「あまり関係ない話ですが、ナズプロモーションさんはかつて芸能界でメラーに対抗できていましたよね。何かご意見はありませんか?」
狭凪「特にありません。というか、対抗なんて絶対に無理です。あの人には我々が束になっても勝てません。話に乗れば飲み込まれるのが落ちです」
「どうしたというのだ?えらく消極的なようだが」「始まってもいないのにもうビビってんのかい」「何か理由があるのでしょうか?」
「ナズは芸能界トップのメラーを抜いたと思ったらすぐ抜き返されちゃったからでしょ」「メラーに王座を譲るのはどの業界でも珍しくないが」
狭凪「みなさん、那尊さんの実力を見誤っています。今考えている10倍と思ってください。街の成功はそれだけの実力があったからです」
「だからそのつえー那尊をバックにつけるにはどうすりゃいいかっつってんだよ。融資を受けるのはバックにつけるので間違いねえだろ」
「いいこと思いついたんだけど、男性だけの町でよくない?女性だけの街があんなに成功してるんだから男性だけの町も成功するでしょ」
「たしか那尊さんは以前、男性だけの町を作る人がいたら協力すると仰っていました」「そうかい。自分で言ったなら反対はしねえはずだよな」
「しかしそれは女性を男性に変えただけにすぎず、やはりただの真似だろう。印象が悪くなり、対抗できないのではないか?」
「需要はあると思います。女性だけの街の成功によって、男性だけの町も作ってほしいという声が各所で聞かれるようになりましたから」
「那尊も二項対立が望ましいっつってたし、うってつけだよな。事業内容はとりあえず男だけの街ってことで話進めるか」
「そんでさ、男性アイドルが必要だよね」「アイドルが不在ならば人気は出ないだろう。女性だけの街もまずアイドルで人気を獲得したのだから」
「アイドルとなりゃ今この場で一番得意なのはナズか。ナズ中心の事業にするのかい?」「そうそう」「狭凪さん、やっていただけますか?」
狭凪「正直やりたくありませんが見返り次第です。弊社は所属している女性アイドルをメラーに奪われて苦しいので、少しでも利益がほしいのです」
狭凪「確認しますが、半分はメラーの融資、もう半分はこの団体の各社が出資し、その金額比率に応じて事業の利益を分けるという仕組みですね?」
「おおむねその認識でよい。厳密には外部からも出資を募って合弁企業を作り、その合計と同じ額をメラーが融資するという流れになるはずだが」
狭凪「では弊社は出資しません。しかし大株主並みの待遇をください。具体的には出資額で上位5社の平均と同じだけ出資した待遇です」
「本気?」「それはあまりにも欲張りすぎです」「無茶な要求だ。受け入れかねる」「ノーリスクで利益だけかすめ取ろうってか?舐めんなよ」
狭凪「まあこうなりますよね。はっきり言っておきますが、この程度でいちいち仲違いするのは事業の成功率を下げるだけですよ」
狭凪「メラーは街を作るために一時期、世間から猛烈に批判されました」「マスコミに裏から手を回してメラー叩きを主導したのはアンタだろうが」
狭凪「ええ、その甲斐あってナズはメラーを追い落として業界トップに浮かび上がれたんです。全社員で盛大に祝杯を上げました」
狭凪「逆にメラーは、そんな落ち目の時でも内部から那尊さんを糾弾する声は聞こえてきませんでした。完璧な一枚岩なのだと思います」
狭凪「女性だけの街という怪しい事業に巨額を投じて陰上中から馬鹿にされるなど、関係者にしてみれば愚痴のひとつもこぼしたくなるでしょう」
狭凪「あれだけ巨大なグループです。普段から不採算事業を押し付けられ、割を食わされ、不本意な序列に甘んじている企業もあるはずです」
狭凪「外からは推し量れないあつれきも無数にあるでしょう。なのにメラーが今まで一度も揺れていないのは、那尊さんがいるからだと思います」
狭凪「あの人の手腕がすべてを統率し、万全に機能させているのです。全体の合計がどれだけ大きな力でも、統率されなれば発揮できません」
狭凪「一方で、今この場にそれはありますか?うちがリスクを背負わないというだけでたちまち気色ばむあなた方に、私はまとまりを感じません」
「試したってこと?」「たしかに団結は必須だ。反省しなければ」「じゃあ出資せず大株主並の待遇という要求は、なしという方向で……」
狭凪「半分は試すためですが半分は本気ですよ。私の要求に耐えられないようでは、今後起こり得る数々の困難にも耐えられません」
「結局は利己のための方便じゃねえか。つかアンタまさかメラーのスパイじゃねえだろうな。この場をぶち壊してメラーにいくらもらえるんだい?」
狭凪「私を追い出したいのならそれもいいでしょう。了承してもらえないなら降りるだけです。後は私抜きでどうぞご勝手に」
「まあ待ちたまえ。男性だけの町を作るにはナズの力が必要なのだ」「芸能プロダクションってメラーとナズの二強でその下はイマイチだもんね」
「失礼ですが、そんなにもメラーと勝負するのがおそろしいのですか?半分はメラーが支えてくれるのですよ?」
狭凪「おそろしいですね。メラーに対抗するのは分の悪い賭けです。私は身をもってそれを痛感しました。リスクなんて背負ってられません」
狭凪「先ほど、メラーが半分融資してくれるならチャンスとか儲け話とか仰っていましたが、私はそう思いません。何か裏があるに決まってます」
狭凪「あなたたちは弊社タレントのスポンサーとして仕事と資金を提供してくださっているので、今後もよしなにお願いしたいのです」
狭凪「でもそれとこれとは別です。たとえビジネスパートナーの勧めでも、勝てないのが分かっている勝負に全力で突っ張るわけにはいきません」
「俺だってアンタと組むのは嫌だぜ。弱気な言葉ばかり垂れやがってよ。勝負するなら他人の金を使う、勝ったら利益はもらう。そんな話あるか」
「しかしナズ抜きでは町はできない。どうかこらえてくれ」「でも狭凪さんがやりたくないなら無理かも。いい考えだと思ったのに」
「少し妥協していただけませんか?ナズが出資しなくても利益は分配します。が、議決権は持たず意思決定に関わらないという条件でどうでしょう」
狭凪「要するにナズは事業のために男性アイドルを出すだけでよいのですね?リスクを背負わないのですから、それで充分です」
「正直納得できねえが、アンタが口出ししてこないなら我慢してやる。その代わり手を抜くんじゃねえぞ。アイドル出せって言われたら出せよ」
狭凪「ええ、そこは約束します。事業が成功した方が弊社がもらえる利益も多くなるんですから、手は抜きません。全力で供給します」
「さておき、事業を立ち上げるにあたって合弁会社を設立しなければならないのだが、社名はどうする?」「んなもん適当に決めとけ」
「ではナズプロモーションさんが中核となりますから、ナズジョイントベンチャーで」「まんまだな。別にいいけどよ」「本業の宣伝になるかもね」
「名目上の代表も狭凪氏でよろしいかな?内部では特に序列をつけるわけではないが」「構いません」「いいよ」「勝手にしてくれ」
狭凪「この事業に関して、私やナズの名前は出さない方がよいと思います。私はかつてメラーを猛批判していたので、きまりが悪いと言うか……」
「アイドルが主役でそれを手配するのがナズだから名前を出さないなんて無理だぜ。つーかライバル感出るだろ。那尊もよろこぶに決まってら」
「てゆうかさ、狭凪さん以外にもここにいるみんなメラーのことめっちゃ叩いてたし別にいいんじゃない?私は叩いてないけど」
「どうしても承服できないなら、代表は狭凪氏の単独でなく出資額上位複数名による共同代表という形にするというのはどうだろうか?」
「他の人の名前もズラズラと出せば、狭凪さんが目立たなくなるわけですね。我々にも少々の面子はありますし、その方がよいでしょう」
狭凪「分かりました。それでお願いします。変な注文ばかりつけてすみませんね」「本当だぜ、まったくよ」
「さっき言ってた1000万ってさ、町でやらなくてよくない?」「異論はありません。根拠不明な処理ですから実施する方がおかしいと思います」
「金の話なら住民や客からとことん搾り取るってのはどうだい?融資の返済もあるしよ、ガンガン儲けねえとな」
「うむ、賛成だ。まずはメラーへの利払いを抑えるために元金を少しでも減らし、経営の早期安定化を優先すべきだろう」
「でもいっぱい搾り取ったらネットやマスコミに叩かれるよ」「那尊が露骨にビジネス臭出しても褒められてんだから心配いらねえよ」
「女性だけの街は色々と無駄が多いように見えます。全体を真似しつつ、そうした細かい部分ではコストカットを徹底していきましょう」
狭凪「メラーとは別のやり方をするのですか?私は反対します。すべてあちらと同じようにしてください。1000万は実施してください」
狭凪「那尊さんがしていることなら間違いなはずがありません。下手に違う手法を取れば痛い目に遭いますよ」
狭凪「それと、那尊さんは口で言っているほどビジネスを優先していないと思います。あなたたちはもっと那尊さんを分析すべきです」
「はあ?なんだそりゃ」「どうにも要領を得ぬようだが」「すみません、反対というならもっとはっきりした根拠を教えていただきたいのですが」
狭凪「他に根拠なんてありません。ただ、那尊さんが何の意味もなくそうしているわけがないというだけです」
「やけに信頼してるんだね、那尊さんのこと」「やっぱスパイじゃねえのか?」「いずれにせよ、根拠がそれだけではどうにもならぬ」
狭凪「疑われるのはもっともです。しかしどうか最初の数ヶ月だけでも、すべて女性だけの街と同じように運営できませんか?」
狭凪「そうすれば、なぜ街がそうしているのか分かるかもしれません。やめるかどうかの判断はそれからでも遅くありません」
「敵の行動の意味を探るためにコストをかけるというわけか」「その分だけ圧迫された利益はアンタが負担してくれんのかい?」
狭凪「いえ、それは無理です。私はこの事業に資金面で負担する気はないと先ほど約束しました。みなさんの負担でお願いします」「だよね」
「じゃあ偉そうに口出ししてんじゃねえよ。意思決定に関わらねえってのも約束だろうが。アンタは二度とこの場にツラ見せんな」
「ええと、ではやはり我々の利益を最大化するために女性だけの街の無駄な面は徹底的に切り捨てるという方針で」「うむ、それでよい」
かくして話はまとまり、出資を広く募り、事業内容と規模が内定した。メラーに打診すると、めでたく融資を受けられることとなった。
大きく報じられて世論が盛り上がり、出資企業とその額はさらに急増する。ついに女性だけの街にライバルが登場するのだ。
しかし今すぐにではない。土地の選定、街の建設、システムの開発などのために最低でも10年はかかる予定である。
「女性だけの街は開業まで数年程度じゃなかった?」「あれはメラーの人手と技術力があったから。街を作るって本来とんでもない大事業だよ」
「ナズJVって名だたる企業が協力してるのに、メラーに及ばないの?」「まあ土木建築に関してもメラーに勝てる企業ってないから」
「女性だけの街は那尊がテレビで計画を初めて明かした時にはもう内部でかなり準備が進んでたんじゃないかな」