表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

17話:ポスト1601-1700

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

それこそメラー自身に節度がない状態である。権力とは、振るえるだけ振るえばよいというものではない。振るわないことにも意味があるのだ。

だがそうなると、問題の対策には別の手が必要である。結局のところ、地元民には利益を与えて溜飲を下げてもらうしかない。

不満をやわらげるためには特段の厚遇が必要だった。メラーによる直接の雇用はその一環である。

地域で営業する事業主の世帯からひとり、希望さえあればメラーが正規雇用する。たとえば個人商店を営んでいれば、本人やその家族が対象となる。

就労先は女性だけの街の関係施設、具体的にはメラーが経営する観光客向けのホテルや飲食店、小売店など。

もちろん一般社員のように仕事ぶりを評価し、昇給や昇進も同一の基準で行なう。就労者自体は特別扱いしないが差別もしない。

だがひとつ、特約がある。就労者の仕事ぶりの評価によって、世帯が営業する事業のサービスをメラーが利用する。

換言すれば、就労者の働きがよいほど、その家族が経営する店からメラーが多くの物を買うのだ。メラー側の事情は関係なく、不要な物でも買う。

逆に言えば、家族のうちひとりをメラーで働かせれば家業は潤うのだ。売れ残った物でも相場価格で買い取ってくれる。

商店ではなく一次産業でもよい。耕種農家からは農作物を、畜産農家からは家畜や牛乳や鶏卵を買う。メラーならそれらを、いかようにも活用できる。

三次産業では単純にその分のサービスをまとめて利用するのは難しい場合が多いので個別に相談するが、大抵は無期限、無利子での出資となる。

通常では考えにくいこの破格の条件での人材募集をメラーが大々的に宣伝すると、地域では我先に門戸を叩く者が続出した。

「これってやっぱメラーに何の得もなくない?」「地元民からのイメージはよくなった」「それだけ?くだらなすぎない?」

「長い目で見ればイメージアップって肝心だと思うよ。そういうの考えてない観光施設は地元民に嫌がらせされる。客まで被害を受ける」

「嫌がらせされましたなんて口コミに書かれてたら、まず利用しねえわな。商売成り立たねえわな」「そういう口コミ消して炎上したりな」

「嫌がらせされたら警察呼べばいいじゃん」「警察沙汰なんて客商売にとって最悪だろ」「軽い犯罪なら懲りずに繰り返す者も多いですからね」

「近隣でのイメージが大切なのは分かるけど、それにしてもやりすぎじゃね?社員として雇ってもらえる上に家族がやってる店も潤うって」

「人材を強く求めてるから譲歩してるって建前だけど、世界的大企業がド田舎の無学歴人材すら正社員雇用とか本来あり得ないよね」

「え、無学歴って義務教育終わってすぐでもいいの?」「実際それで採用されて既に現場出てる子いるらしいよ」「社会経験ゼロのガキじゃねーか」

「子どもが頑張って働いた分だけとーちゃんかーちゃんの店が楽になる。その熱意にメラーは期待してるのかな」

「熱意がいくらあっても現場で即戦力にはならんだろ」「即戦力じゃなくていいでしょ。経験を積めばいつか戦力になる。そのためには熱意が第一」

「メラーって観光業でもノウハウ溜め込んでるからな。新人でも使えるようにするためのマニュアルとかあるんじゃね?」

「そういう人材まで雇ってるって分かればちょっとくらいサービスが悪くても観光客は許容する。それが狙いだと思う」

「たしかに。街の中でも住民のひどいサービスを許す女性観光客が多かった」「その応用か。なら世間知らずの未成年だろうが使い物になるな」

「人材募集を大きくアピールしたのも近隣地域だけでなく世間に知らしめるためだろうね。パッと見でほぼ慈善事業だから文句をつけにくい」

「取り柄に乏しい平凡な一般人をアイドル同様に仕立て上げたり、能力の低い人材を現場で通用させたり、メラーは人の扱い方が器用だね」

「能力よりコネかな。ひとり働かせればその家族との間にコネが作れる。ひとつひとつの事業者は小口でも地域まるごとなら馬鹿にできない」

「まあ田舎って横のつながりが強いしね。あいつが仲良くしてる相手なら、うちも仲良くしといてやるかってのが当たり前にある」

「まるで封建時代の政略結婚だな。和平のために我が子を差し出す」「むしろでっち奉公」「それで一家は安泰だし充分じゃん」

「でもこれで得するのって事業者とその家族だけだよね。事業者に雇われてる労働者、つまり地域の店の店員とかだと何も得がないよね」

「メラーのおかげで勤め先の業績が伸びるから間接的には得すると思う。少なくとも賃金交渉はしやすくなるだろう。労働環境も向上する」

「地域にメラーの金が回るってわけだ。表向きは円満だけど、地域経済はメラーに強く依存していくはず。メラー抜きでは成り立たなくなる」

「もう地元民はメラーを悪く言えないよね」「今回も譲歩しまくってるように見えて実はメラーの方が得してるのかもな」

メラーが地域の商店から買い取った在庫は、いかにも地味で不人気、その割に元値の高い物ばかりだった。売れ残るのには理由がある。

食料品、日用品、衣料品など地元の人々の日常生活を支えるための、全国どこでも購入できるありふれた物が多くを占めている。

メラーは買い取った物を観光施設で住民や観光客に無償提供しているのだ。何をいつ提供するかは告知などしておらず常に出し抜けである。

提供された物を住民や客が受け取らねばならぬ義務を負っているわけではない。しかし無償ならとりあえず受け取っておくのが人の性だろう。

これは配信の視聴者をも楽しませており、一種のサプライズとして成立している。飽きさせないためのコンテンツの一環である。

たまたま振る舞われた地元特産品の菓子を人気アイドルが気に入って高く評価すると、またたく間に全国的な人気商品となった。

女性だけの街は地域の宣伝にもなっており、住民は広告塔の価値を帯び始めた。地元民にとって街の必要性がますます大きくなっている。

メラーのライバル企業の商品宣伝になってしまう場合も多いが、コンテンツに利用するメリットの方が大きいため問題ではない。

また、そのような利敵行為を気にしない寛大な組織風土によって、内外からさらなる信頼を獲得していた。

メラーはあらゆるものを飲み込み急速に成長してゆく。その最前線にいる女性だけの街は、外のアイドルさえ吸収し始めている。

既存の芸能事務所との契約をやめて、街に移り住もうという者が多数出ているのだ。陰上中の女性アイドルがメラーに列を作っていた。

狭凪はこの事態に危機感を抱き、歯噛みする。宿敵メラーを抜いて芸能事務所として国内トップの座に躍り出たのはもう何年も前だ。

しかしそこから再逆転され、あれよあれよという間に差を広げられ、今ではもう二度と追いつけそうにない。なぜこうなったのか。

メラーが女性だけの街などという怪しげな事業を打ち出し、そちらに傾注し勝手に自滅し始めた頃、俺は那尊を愚か者と見下していた。

街の開業当初も、どうせ失敗して巨額の赤字を出して経営破綻さえあり得ると考えていた。少なからず願望も混ざっていたが、妥当な予測だろう。

なのに現在、メラーはそれをまるで裏切って大成功しているし、あろうことか陰上のアイドル業界の勢力図が丸ごと書き換えられようとしている。

この流れをどうにか食い止めたいが、どうすればそれが叶うのか見当もつかない。尋常なやり方では街を上回れない。

あれは世界的な超巨大資本が相当な力を注いで作り上げたものだ。真似をすればよいのだろうか?いや、それでも生半可では無理だ。

国内の数多の大企業がメラーに対抗するために結集できれば、理論上は資本の規模だけなら勝てるかもしれない。

だが真似をしている限りは劣化版にしかならない。しかも二番煎じでイメージは最悪。その分だけ不利になってゆく。

そんな泥舟を漕ぐために団結できるだろうか。各社が出資を渋り、結局は資本規模でも勝てず早々に沈没するのがオチだ。

奇跡的にすべて順調に進むとしても俺はその音頭を取れない。あれだけ大っぴらにこき下ろしたのだ。どのツラを下げて真似できる。

俺がメディアにはたらきかけてメラー批判をさせたせいで、経済界の重鎮たちも疑いなくメラーを叩いた。それが常識人の振る舞いのつもりだった。

メラーに対抗できる望みのある強者を俺が消してしまったのだ。泥舟どころか、まともな船頭もいない。勝負の土台にすら立てない。

丹念に準備されていたんだろう。今にして思えば、那尊は最初に計画を語った時から明らかに不評を買う狙いがあった。

中途半端な説明に終止したり、男に無報酬の警備をやらせると言い放ったり、世間から批判を受けたままメディアに出なくなったり……。

俺はまんまとその演出に乗せられ、芸能界トップの座につく絶好のチャンスと踏んで一番槍となってメラーを攻撃し続けてしまった。

すべては那尊の掌上なのだ。元々メラーに対抗できる勢力を作るなど難しいのに、念を入れて可能性を完全に絶ってきていたのだ。

周到なことに、女性だけの街はそのほとんどの部分がメラーグループの資本で完結しているらしい。外部に頼らず独力だけで運営できる。

なぜか最近は競合他社の商品まで宣伝するようになり、その恩恵にあやかった企業は、過去に街を叩いておきながらすでに気を許してしまっている。

奴が次々と繰り出す手ははなはだ予想がつかないし、こちらの唯一の取り柄である芸能プロデュースでも勝てる気がしない。

アイドルの不祥事さえ逆用する手腕は化け物じみている。凡人をアイドルのように光り輝かせるなどカッパー=ニグラス的転回だ。

だいたいビジネス的な仕組みで女性だけの街を運用するというのが別次元の発想であり、巨額を投じてそれを実行するのは正気の沙汰ではない。

実行して仕組みを成立させ、客を集めて強固な人気を獲得し、既存の事業と連携して利益を出し、地域と共存し、社会全体へ影響を与えている。

そしてついにうちからも、メラーへの移籍を希望するアイドルが出てきた。飯の種を奪われているのであり、見過ごせない実害だ。

このままでは非常にまずい。しかし一体どうすれば……いや、ともかく今日は那尊の語る内容に集中するとしよう。

那尊が生放送のテレビ番組に出演するらしい。数年ぶりなので、また新しく何かをするのではないかと目されている。

那尊「女性だけの街に対抗するような事業を他社が立ち上げるなら、メラーバンクはそれに融資いたします。つまりお金を貸すのです」

那尊「融資額は最大で総経費の5割。事業に必要なお金の半分を捻出できたなら、もう半分はメラーが出すという意味です」

那尊「無論、利子はいただきます。お金を貸すという行為はリスクがあるので、それに釣り合うだけの見返りは必要なのです」

那尊「具体的には諸経費の1割ごとに元本の年0.2%です。3割の融資が必要なら0.6%、上限5割なら1%いただきます」

那尊「弊社の利益はそれだけで結構です。事業がどれだけ成功して利益を上げようとも、弊社は融資による利子以外はいただきません」

「自分たちが成功例になって他人を乗せて金貸して利子で儲ける魂胆か。うまくできてやがらあな」「あ、そういうことなんだ。すごーい」

「失礼ですが、利息はそんな簡単な仕組みでよいのですか?普通は担保の有無や返済期限など様々な条件から計算するものだと思うのですが」

那尊「ええ、構いません。簡単で分かりやすい方がいいのです。担保など必要ありませんし、返済期限も設けません」

那尊「ただ条件がみっつあります。ひとつめは、先に述べたとおり女性だけの街に対抗できそうな事業であることです」

那尊「あまりにも雑な事業計画では、リスクが大きすぎて融資できません。これは一般的な事業への融資と似たような事情ですね」

那尊「対抗できそうというのは曖昧ですが、女性だけの街からお客を奪えそう、と言い換えてもよいでしょう」

那尊「要は、まったく別分野の事業ではいけません。あと、事業の規模が小さくてもお客を奪うのは難しいはずです」

那尊「ふたつめ。元本や返済額、利子額の公開に合意していただきます。誰でもいつでも簡単にそれを確認できるようにするのです」

「公開って重要?」「意味が分からねえな」「目的はなんでしょうか?公開させてメラーさんにメリットがあるのですか?」

那尊「他人のお金のやり繰りを覗くのは面白いではないですか。これもエンタメなのです。事業者がどう行動するのか、気になるでしょう」

那尊「街に対抗する事業はメラーにどれだけ借りて、どれだけ返して、どれだけ利子を取られたのか。話題になるでしょう」

「出たよエンタメ。あんたいっつもビジネスとエンタメだな」「そんな理由で公開させるのですか……」「でも面白そうだよね」

那尊「世間の興味を惹いて話題を巻き起こすというのは事業者にとって好都合です。事業の成功に向けた工夫の一環とも言えますね」

那尊「事業が成功すれば利益が上がり、融資している弊社も助かるのです。利子などいくらもらっても、元本が完済されなければ水泡なので」

「しかしそもそも、対抗できる事業というのはメラーさんのライバルになるのでは?お金を貸してまで、みずから敵を作ろうというのですか?」

那尊「ライバルがいた方が盛り上がるでしょう。競い合う相手がいた方が比較できるでしょう。すべてエンタメのためです」

那尊「実は弊社の独力で女性だけの街を新たにひとつ作る計画もありましたが、つまらないのでやめました」「マジかよ」「それ見たかったかも」

那尊「別の誰かがやれば、やり方も変わってくるはずです。私が想像もつかないことをやる人を応援したいのです。そのための融資です」

那尊「ちなみに融資とは別で、ご入用なら通常のように弊社へ業務をご依頼ください。街を作った時のような大規模な工事です」

那尊「さすがに無償とはいきませんが、我々としても全力で応援したいので特別に割引価格でお受けいたしましょう」

那尊「配信や投げ銭のようなシステムを作る場合は、そのアドバイスくらいなら無償で行ないます」

那尊「もっとも、女性だけの街にこだわる必要はありません。対抗できそうな事業であればなんでも構わないのです」

那尊「それ以外でもメラー側から何かできるなら可能な限りお手伝いしますので、なんなりとご相談くださいませ」

那尊「とはいえ、メラーが支援するのは準備段階までです。どんな事業にせよ、営業が始まれば口出しはできません。ライバルとなるのですから」

「すみません、さっき融資の条件がみっつあると仰ったと思うのですが、最後のひとつはなんなのですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ