01話:ポスト1-100
この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku
一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。
「社会はもっと女性に配慮すべきでしょ」「夜道を警戒せず出歩きたい。暴漢に襲われそうで怖い」「もう男性と同じ環境にいたくない」
昨今、インターネット上では様々な理由により男女の分断が進んでおり、このような過激な意見を表明する女性が後を絶たない。
「女性だけの街を作ってほしい。男性は立入禁止にして女性だけで暮らせる安全な生活環境。絶対に需要あるよね」
単なる夢物語だと一笑に付す者が多かったが、一部の女性による切なる願いであるのは間違いないだろう。
そこにメラーの女性代表・那尊が立ち上がった。メラーは世界的な大規模企業グループである。
女性だけの街を作るための現実性を伴った案を持っているのだという。しかも、グループとしてそれを実現させるのだとか。
「無理に決まってるぜ。男を排除するってのは男差別だろ。大企業様がそんなことして許されるわけねえ」
「街を作るってどゆこと?家とか店とか建てるの?女の子に工事させるの?きつい、きたない、危険ってやつでしょ?私そんなのできないよ」
「疑問は尽きませんね。それにお答えいただけるということで、本日は那尊さんをこの番組にお招きしました」
那尊「まだ計画段階ではありますが、弊社は女性だけの街を作り、運営します。女性だけとは無論、男性をそこから排除するという意味です」
那尊「一般にイメージされる女性だけの街は陰上の法律では作れません。すべての公共の場からの男性排除などできませんから」
那尊「しかしビジネスという形式、かつ私有地の中であれば、近い環境を作れるというのが弊社の見解です」
那尊「ビジネスにする理由は契約が必要だからです。契約は法律とは違ったルールであり、それによって男性の排除が可能になるのです」
「あの、とんでもないお話をされていませんか?男性の排除とは差別ではありませんか?企業のコンプライアンスとしてどうなのかと……」
那尊「便宜上、排除という言葉を使っていますが女性を優遇して男性は優遇しないだけです。と言ってしまうのはまるで言葉遊びですね」
那尊「しかし現実に、レディースデーのように女性だけ優遇して男性や性的少数者を優遇しなくとも社会には問題視されません」
「ふーん、俺はレディースデーって男差別だし問題だと思うけどな」「でもやってるお店が多いのは違法じゃないからってことでしょ」
那尊「優遇しければなぜ排除になるのかとの疑問もございましょうが、それはまた別の機会に。今は社会通念上の問題がないとご納得ください」
那尊「ビジネスでなくとも、私有地でさえあれば法律によって男性の排除が可能です。私有地とはもちろん、弊社が権利を有する土地です」
那尊「これについても今は詳細な説明を割愛いたします。ビジネス、私有地という要素により男性の排除ができると認識していただければ充分です」
那尊「さて、先ほどからビジネスと言っているように、慈善事業ではありません。下世話な話ですが、あくまでもお金儲けを目的としています」
那尊「女性だけの街という願望を悪用しているようで我々も気が引けます。が、ビジネスでなければ男性の排除ができないので、やむを得ません」
那尊「どのようにお金儲けをするのかというと、芸能プロデュース、主にアイドルのマネジメントです」
「はあ?アイドル?」「ってあの、歌って踊るタレントですよね。それがなぜ女性だけの街に関係あるのでしょうか」「アイドルがいる街ってこと?」
那尊「はい。街にたくさんの女性アイドルを集めれば効率よくマネジメントできるでしょう。けれど集めるのはアイドルに限りません」
那尊「街なのですから住居や色々な施設が必要になります。当然そこで働き生活するのは女性ではありますが、アイドルだけではないのです」
那尊「多数のアイドルをまとめてマネジメントするのですから、スタッフも多数でなければなりません。言うまでもなく、それは全員が女性です」
「アイドルも住む人も働く人もみんな女の子なんだ。すごい」「お話を伺っても、やはり私には女性だけの街というのは想像しづらいですね……」
「効率的なマネジメントで利益が出るってのかい?そう上手くいくもんかね?大体、なんでそのために街なんて作る必要があるのかも分からねえよ」
那尊「なにぶん弊社が社運をかける新事業なので、この場で詳細をすべて明かすわけにもいきません」
那尊「また、おそらく人類初の試みでもあるため、手探りで進めなければなりません。至らぬ点があるのは承知しています」
那尊「それでもなお、女性だけの街を望む人々の期待に答えたいのです。全社的に尽力してゆく所存ですので、どうか温かくお見守りください」
番組には国内だけでなく世界中からも大反響があった。だが、称賛よりはむしろ批判の方が多くを占めているようだ。
「普通に男性差別でしょ。男性を排除するわけじゃなく優遇しないだけとか言ってたけど単なる詭弁だし。大企業としてありえない価値観」
「でもレディースデーって文句言う男はいてもそれを理由にやめる店はないよな。一応の筋は通ってる気がする。俺は納得いかないけど」
「別に男が損してるわけじゃないのにレディースデーに文句言ってる男ってなんなの?」「女だけ割引したらしわ寄せが男に行くに決まってるだろ」
「女性は食べる量が少ないから値段を安くできるんでしょ」「女性だからって食べる量が少ないと決めつけるのは差別だよ」
「そんで結局どうやって利益出すんだろうな。ろくな説明がなかったからわけ分からん。アイドルを使って何かするらしいってのは分かったけど」
「というかなんで金儲けの手段でアイドルなんでしょうか?みんなで普通の仕事をして普通に稼ぐだけでは駄目なんですか?」
「メラーって今は巨大なコングロマリットだけど元は芸能プロダクションだからな。どうせ独自色みたいなの出したいとかしょーもない理由だろ」
「アイドルを優遇するってことかな。それはそれで他の職業への差別になるのでは」「男差別だけでなく職業差別もかよ。クソ企業が」
「てかビジネスだから、私有地だから男性排除できるってどういう意味?ビジネスならむしろ排除したら炎上するだろ」「もう炎上してるけどな」
「面白そうだし俺は別にいいと思うよ、女性だけの街。普段の生活ぶりや人間関係がどうなるのか興味ある」
「女子校みたいなもの?いい匂いしそう」「女子校は臭いよ。男子にモテるためのケアとかしないから。下ネタトークも多い」「それは人による」
「古代の後宮だろ。宦官がいないだけ」「王もいない。宮女は王のためにルールでガチガチに束縛されてたけど、街には多分それがないよね」
「契約とか言ってたじゃん。何か変な縛りがあるに決まってる。信用ならない」「ビジネスって、もしかして住民からの罰金で稼ぐつもりなのかも」
芸能業界でメラーに次ぐ大手ナズプロモーションの男性社長・狭凪はこうした世論を確認し、報道陣に対して得意顔でコメントする。
狭凪「男性の排除については差別ではないという理論が成り立つかもしれません。そこは百歩譲って個々人の考え方次第ということで」
狭凪「でもビジネスとして成立するとは到底思えません。アイドルを集めて街を作って儲かるならみんなやってるでしょう」
狭凪「とはいえ、やろうと思っても簡単にはできません。規模にもよるでしょうが、街作りなど途方もない投資が必要になはずですから」
狭凪「だからこそ、なぜそんな大きな事業をやろうとしているのか、まるで理解できません。一体どれほどの自信があるのかも分かりません」
狭凪「まだ計画の詳細が公表されていないので分からないことだらけですが、必ず失敗すると断言できます」
狭凪「メラーエンタテインメントさんは、よきライバルとして尊敬しています。でもこのような荒唐無稽な計画に甘い評価はできません」
狭凪「え?対抗してうちが真似をするなど絶対にあり得ませんよ。物珍しさで会社の宣伝にはなるかもしれませんが、失うものの方が大きいです」
狭凪「所属アイドルにそのような危ない橋を渡らせるわけにもいきません。と宣言したうちの方がイメージアップになるんじゃないですかね」
狭凪「加えて分析するなら、こういった新事業をグループのトップ自らが民放のバラエティ番組で発表するというのはセンセーショナルな手法です」
狭凪「世論を味方につける狙いがあったのでしょう。でも肝心の事業内容が全然駄目。これでは味方になってくれる人などほとんどいませんよ」
他の競合事務所も異口同音だった。すなわち、芸能関係者なら誰しもがメラーは失敗する、アイドルにそのような力はないと考えているのだ。
いや、芸能以外でもあらゆる分野の経営者、専門家、コメンテーターが連日にわたってメラーを批判している。
そんな中でも女性だけの街を根強く求める者は残っている。長年、求めながらも個人の力ではどうにもならなかったが、今は状況が変わった。
力を持った大企業が作ってくれるというのだ。人々からこき下ろされる計画であろうとも、応援せずにはいられない。
「でも正直つらいよ。私の夢を叶えてくれるっていうのに世界中からこんなに叩かれるなんて、まるで私が叩かれてるみたいな気持ちになる」
「そうは言ってもまだどんな事業か全然分かんねえじゃん」「これほど叩かれてる計画が成功するわけないでしょ。実現性ゼロ」
「もっとちゃんとした計画で炎上しないようにしてほしかった」「あの那尊ってのはただの無能だね。俺の方がもっと上手くやれそう」
「那尊さんのやろうとしてることは嬉しかったけど、今は憎む気持ちの方が大きい。応援するのやめようかな」「分かる。一気に冷めてきたわ」
「他人が叩いてるからって諦めるの?みんなその程度の気持ちなの?私は諦めないよ。たとえ今回が失敗でも次があるって信じてる」
「失敗したら二度と誰もやらないに決まってるよ。以前失敗したからって理由でさ」「メラーのせいで女性だけの街は永遠に叶わないのが確定した」
「お前ら文句言ってるけど結局は人頼みだろ。女なんて所詮こんなもん。何が女性だけの街を作ってほしいだよ。自分で作れ」「男は黙ってろ」
新事業を巡って憎悪がうずまき、男女の分断はより一層激しさを増している。もはや計画倒れはまぬかれないように思われた。
このような雰囲気が醸成されているのを見計らって那尊は再び番組に出演する。だが他の出演者は、なかば呆れ気味である。
「今回は計画の新情報を発表するとのことですが」「新情報って体の言い訳だろ。哀れだねえ」「ちょっとやめなよ。感じ悪すぎでしょ」
那尊「そうですね。まず言い訳と謝罪をせねばなりません。先日の発表のせいで世間の皆さまをお騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした」
那尊「計画の全容が固まりきっていないために、あのような半端な情報になってしまったのです。今後は二度と同じことがないように……」
「さっさと新情報ってやつ出さねえか?口ぶりからすると今回は半端な情報じゃないんだよな?生放送だが覚悟はできてるんだよな?」
「なんでそんな怒ってんの。那尊さんは別に悪いことしたわけじゃないのに」「まあ今はちょっとした発言でも炎上してしまう時代ですからね」
那尊「もちろん今回は全容を固めております。さすがにこの場で詳細すべてをご説明する時間はないので概略に留まってしまいますが」
那尊「それをもって前回失った信用を取り戻したい所存です。新事業の成功のためにも必要だと受け止めております」
那尊「では前の続きから。なぜアイドルなのか?マネジメント次第ではありますが、たくさんのお金を稼ぎやすいからです」
那尊「ビジネスですからお金稼ぎは重要なのです。誰にでもできる普通の仕事を普通にやっていては多く稼げません」
那尊「しかしアイドルは投じたコストよりはるかに多いお金を稼ぐ可能性を秘めています。我々にはその可能性を高めるノウハウがあるのです」
「自分らの得意分野だからってことかい」「メラーさんはそれで陰上の経済界をのし上がり、ついには世界進出したという実績がありますしね」
「え、じゃあやっぱり街作る必要なくない?アイドルの人だけでよくない?普通の仕事する人、いらなくない?」
那尊「アイドルを街の中に集め、まとめてマネジメントすれば効率がよくなるのです。集めるというのは住んでもらうということです」
那尊「住むとなればお店や施設が必要なので、そこで働く人もいなくてはなりません。アイドルだって休日にはショッピングをしたいでしょう」
「ああ、前もその話してたな」「では女性だけの街というのは、あくまでもアイドルが主役なのですね?」
那尊「アイドルが街で一番の稼ぎ頭となるのは間違いないでしょう。とはいえ、稼いだお金の量で序列を作るという話ではありません」
那尊「主役や脇役という関係性ではなく、あくまで色々な役割の女性たちが暮らす運命共同体なのです」
那尊「あえて言うなら、アイドル以外の女性は街に住むためにアイドルの稼ぎを利用すると捉えてもよいのではないかと思います」
那尊「街全体として大赤字なら、弊社としても街を存続していけなくなりますから。つまるところ事業から撤退しなければなりません」
「アイドルは街のためにどのように稼ぐのですか?街で女性アイドルがライブをして、女性住民がお客としてお金を払うということですか?」
「それだと街の中だけで完結してるから稼ぎにならねえだろ」「ライブは街の外でやってもよくない?女の子は街の出入り自由でしょ?」
那尊「ええ、自由です。出稼ぎのように全国で興行をもよおし、得た収入を街の運営に充てるのはよい案だと思います」
「そもそも街を作って運営するってどういうことだ?建物を建てて道路引くのか?」「私やったことあるよ。ムシタウン」「それはゲームでしょう」
那尊「そうですね。まずは主要都市から離れすぎていない地域の山野を切り開くか、廃村を更地して街作りに適した土地面積を確保し……」
「そんな段階から始めるのですか?あまりに多くの時間や費用がかかるような気がします。既存の街を作り変えてはいけないのでしょうか?」
那尊「既存の街では難しいでしょうね。そこで社会生活を営んでいる人を、後からやってきた私たちが押しのけるというわけですから」
那尊「土地や建物に対する莫大な買収費用、解決が難しい権利の問題などによって早々のとんざが予測されます」
那尊「でも誰も住んでいない野山ならそれらは問題となりません。これはこれで開発費用が莫大になってしまうのですが」
那尊「メリットとしては、やはり一から作った方がある程度は自由にデザインできるというのが大きいでしょう」
那尊「けれども、都市開発とは民間企業の独断が通るものではありません。法を遵守し、自治体の手続きが必要となります」