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第一話 狐の少女とおどおど

完全息抜き作品。自己満多めです。

 この男、小坂勝人は18歳の高校三年生だ。

 勝人は「超インドア派」(自称)なので今日もテレビの前に座っている。そんな彼が外出しない理由は外に出たくないなどという普通の理由ではなく、どこに行けば良いのか、何からすれば良いのか、優先順位を決められないだけという特殊な理由なのだ。

 こうして迷っているうちに何かをするような時間帯ではなくなってしまい毎日その時に流れているテレビを見るくらいしかやることがない。

 これは流れているから見ているのであって自発的にしていることではない。

 

「どこがストライクなんだよ! 絶対入ってないだろ」


 今日もたまたま流れていた野球中継を見ながら画面に映る球審に文句を言っている。

 もちろん、野球経験は皆無だ。それどころか勝人にスポーツ経験はない。

 体重も身長も高三男子の平均といった所で運動神経も悪いというわけではないのだがやりたいスポーツを決められないがために中高共に帰宅部なのである。

 そんな勝人がベッドでスマホをいじっていた時……。


「なんだ、この光! 魔法陣……?」


 勝人のベッドに光り輝く魔法陣が広がる。

 勝人は特段アニメ好きというわけではない。しかしこれは誰がどう見てもアニメや漫画に出てくるそれ。そのため思わず魔法陣とつぶやいてしまったという次第だ。

 次の瞬間、魔法陣の光が強さを増す。


「ウッ、眩しい!」


 魔法陣の光が限界に達した時、今までとは真逆に勝人の視界から光が消える。

 かなり暗いが全く見えないというわけでもない。なにか植物のようなものが光っており。その微弱な光に照らされているこの空間は洞窟のようにも見える。

 手に持っていたスマホも驚いた時に投げ捨ててしまったのでどこにあるか見つけられない。


「洞窟? ここ何処?」


 勝人が発した声が壁に反響して彼の耳に返ってくる。人工物は見当たらないのでおそらく人が作った部屋などではないだろう。気温は少し肌寒いくらいだ。

 勝人は自分が置かれている状況を把握するために今から取るべき行動を思案する。


(どうしよう。移動して情報を集めた方がいいのか。それとも頑張って出口を探す……いやいや、外がジャングルで猛獣がいたらどうする。そもそもこれは現実か? とりあえずもう少し考えてから行動するか。でもこの洞窟の中に危険生物がいないとも限らないし)


 これは勝人の悪い癖だ。勝人は重度の優柔不断であらゆることを決断することが出来ない。この癖のせいで勝人は進路のような重要ことからご飯などの軽いものまであやふやな決定を繰り返しながら生きてきた。

 この人生最大のピンチでもその癖が治ることは無かった。

 勝人が思案を巡らせているとお尻のほうからとても苦しそうな声が聞こえてきた。


「ぃて……さぃ」

「なんだ?」

「どいてくださーい!」

「うわっ! すみません」


 勝人は飛び退いた勢いで尻もちをつく。

 声を荒げた人物は両手で服の汚れを払いながらゆっくりと立ち上がる。それでも勝人に目線を上げる必要はなかった。

 勝人の目の前に立つのは一人の少女だ。頭には柴犬の耳のようなものが付いている。

 その不思議な少女は覚悟を決めたような表情で勝人の目を見ると、閉ざしていた口を開く。


「ウノハはこのダンジョン『カエデ』のダンジョンマスター代理を務める、妖狐族のウノハです。ウノハはあなたをこのダンジョンのダンジョンマスターに任命します」


 この二文に詰め込まれた情報は勝人の脳が処理できる情報量を超過していた。

 勝人の脳は与えられた情報を整理しようと懸命に働き、目の前にいる少女に質問をするという選択にたどり着くことに成功する。


「あの。質問してもいいかな」

「答えられるのだけ答える」

「わかった。まず、ここは何処かな?」

「さっきも言った」


 優しくない答えをきっかけに勝人は少女の最初の言葉を思い出す。まるで国語のテストのようだ。

 勝人が本文から抜き出したのは「ダンジョン」である。


「ダンジョン。ダンジョンってあのゲームとかアニメのダンジョン?」

「げーむ? とかあにめとかは知らないけど、ダンジョンはダンジョン。あとこのダンジョンには『カエデ』っていう名前がある」


 勝人はここがアニメやゲームなどに登場し、主人公やプレイヤーがモンスターと戦う迷宮「ダンジョン」ではないかと考えた。

 しかし少女からは期待していた情報が得られず、この考えは保留になる。

 場所に関する質問を放置した勝人は次に気になった「ダンジョンマスター」について聞くことにした。


「じゃあ『ダンジョンマスター』ってなにかな? 君もその『ダンジョンマスター』なんだろ?」

「むぅ……君じゃない。ウノハにはウノハっていう名前がある」


 勝人は少し面倒くさいと感じたが幼い少女のこだわりにムカつくほど腐った人間ではない。普通ならここからでも話が進むのだが勝人にはもう一つ工程が存在する。


(ウノハか、なんて呼ぶのが正解だろう。呼び捨て? それともちゃん付け? ウノハさんは流石におかしいよな。でも、ちゃん付けしてそんなに子供じゃないって怒られたらどうしよう。少しでも早く現状を把握したいのに。あーもうどうすれば)


 もし聞いている人がいれば、どれでもいいと言われるようなことを悩んでいると。

 意外にもウノハが話を進めだした。何も起こらない、喋らない。そんな状況に痺れを切らしたのだろう。


「『ダンジョンマスター』は一つのダンジョンに一人しかいない偉い人でその人が味方の場所とかダンジョンの形とか決めてる。ダンジョンに住む人たちはみんなダンジョンマスターに従う」

「なるほど。教えてくれてありがとうウノハ」


 自分の中から帰ってきた勝人が質問に答えてくれたウノハにお礼をする。ちなみに勝人がウノハと呼んだのは呼び捨てで良いと決めたのではなく、慌ててお礼をした結果だ。

 幸いウノハに不満は見られないので今後もウノハと呼び捨てにすることが決定した。

 問題が1つ解決した勝人はもっと重要な問題に思考を戻す。


(ウノハの話を聞いている限り「ダンジョン」というのは俺が想像している物みたいだ。仕事と名前からして「ダンジョンマスター」というのはダンジョンの管理者的なことだろう。しかし本当にこんな女の子がダンジョンマスターなのか? 親とかいないのか聞いてみ……いや待て、これでウノハのご両親が無くなっていたらどうする。今この子に泣かれでもしたら僕には対処できない)


 これは勝人の癖の良い部分である。この時の勝人は知らないがこの予測は正解だ。ウノハが泣き出していたかどうかは別として気まずい空気が流れることは確実だっただろう。

 この悪い癖の良い部分によって勝人は他人から極端に嫌われるということがあまりない。

 冷静に罠を回避した勝人は本文で最も重要といえる言葉を思い出す。


「最後にもう一ついいかな?」

「うん」

「俺をダンジョンマスターに任命するって言った?」


(俺がダンジョンマスター? 意味が分からない。どうして俺なんだ。というかそんな役職が俺なんかに務まるわけがない。だって今の状況もまだ呑み込めてないんだぞ?)


 勝人は癖を治せないだけで、理解はしている。その為いかにもリーダーな役職であるダンジョンマスターは自分には務まらないと考えた。

 だからもし勝人がダンジョンマスターになるという話ならば断わる必要があると考えている。


「そうだよ。あなたがダンジョンマスター」

「いや! それは無茶だ。俺はダンジョンマスターにはならない」

「ダメ! ダンジョンマスターになってくれないと『カエデ』が無くなっちゃう」


 突然の告白に勝人は頭を悩ませる。それは目の前に立つ少女が可愛いからではなく、彼女の言っていることが本当だと思えたからだ。先ほどからこの子以外の気配を感じないので彼女の発言は嘘ではないと感じた。

 しかしそれと同時にそんなことを言われては余計断らなくてはいけないとも思う。


(そんなことを言われてもなぁ。そもそもこれは夢なんじゃないのか? なんかのドッキリとか)


 そんな今更なことを考える勝人だがこれは本気で考えているのではない。目の前の問題から逃げているのだ。自分をつねって夢ではないことを確認したし、こんな大掛かりなドッキリを仕掛けられる覚えもない。

 いま突きつけられた問題からどうにかして目を逸らそうとしている勝人の頭に全く知らない声が届く。


『頼む、ワシからもお願いする。このダンジョンのダンジョンマスターになってくれ』

「誰だ、この声!」

「あっ! 神様だー!」

「神様?」

『ああそうじゃ。ワシはこの世界の神じゃ』

「神様。ちゃんと召喚術のスクロール使ったよ」

『うむ。ちゃんと見ておったぞ。よく頑張ったな』

「そうでしょ? もっと褒めて」


 勝人を置き去りにして繋がっていく会話を冷ややかな目で見ている勝人に神様と名乗る声だけの人物が再び話しかける。


『コホン。それで勝人君。キミにはこのダンジョンのダンジョンマスターになってもらいたい』

「あ、はい。もう聞きました」

『それではこの願い受けてくれるかな?』

「絶対に嫌です!」


 神様の質問に勝人は即答で断りを入れる。

 リーダーや委員長など大勢をまとめるようなことは絶対にやりたくないと思っている勝人は、ダンジョンマスターもその類だと考え絶対に引き受けないと決めた。

 こういった決断が早い理由は本人も理解できていない。


「そもそもダンジョンってなんなんですか?」

『そうじゃな。丁度良い機会じゃしこの世界について教えてやろう』



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