『ふたつの泉、あふれる夜 ~わたしだけの洪水~』
その夜は、なんだか特別だった。窓の外では、まんまるのお月様が、まるでナギのことを見守るみたいに、優しい光を投げかけている。部屋の中の空気は、少しだけひんやりとしているのに、ナギの身体の周りだけは、内側から湧き上がる不思議な熱気で、ほんわりと蒸し暑いくらいだった。
ナギは、広々としたベッドの真ん中に、ぽつんと座っていた。膝を抱えるような姿勢で、ぼんやりと窓の外を眺めている。でも、心は窓の外じゃなくて、もっとずっと内側…自分の身体の奥深くへと向かっていた。
(……なんだか、へん……)
さっきからずっと、身体がむずむずする。
お腹のずっと奥の方…子宮のあたりが、きゅう、って甘く疼いて、放っておくと、とろりとした温かいものが、じわぁって滲み出してくるのがわかる。それはもう、恥ずかしいとかじゃなくて、身体が「感じたいよ」って言ってる、正直なサインだって、ナギは知っていた。
それだけじゃない。
胸も、なんだかいつもよりずっと敏感になっている。ルーメア・フラウナの薄いナイトウェアが、軽く肌に触れるだけで、乳首がきゅん、と反応して、その周りがじわじわと熱を持ってくる。まるで、下の疼きと、胸の疼きが、見えない電話線みたいなので繋がっていて、お互いに「もしもし?」「はーい!」って呼びかけ合っているみたいだった。
「……ふ……っ」
思わず、熱っぽい吐息が漏れた。もう、我慢できない。
今日は、なんだか、もっと深く…もっとたくさん、感じてみたい気分だった。いつもの穏やかな確認じゃなくて、身体が求めるままに、この不思議な疼きの正体を、確かめてみたかった。
ナギは、ゆっくりと、でも躊躇いのない手つきで、抱えていた膝をそっと開いた。そして、自分の右手をするりと脚の間へと滑らせる。
ナイトウェアの裾を少しだけたくし上げると、もうすでにしっとりと濡れ始めていた、ナギだけの秘密の場所が現れた。月明かりが、その潤んだ肌を、まるで濡れた花びらのように、艶めかしく照らし出す。
指先で、そっと触れてみる。
ふっくらと柔らかくて、熱い。指が触れただけで、くちゅ、と小さな水音がして、待ちかねていたみたいに、とろりとした愛液がさらに溢れ出して、指にねっとりと絡みついてきた。
「ん……あっ……もう、こんなに……」
自分の身体なのに、まるで自分じゃないみたい。こんなにも素直に、正直に、快感を求めている。その事実に、背筋がぞくぞくっと震えた。
指一本を、ゆっくりと、その熱い泉の中へと進めていく。何の抵抗もなく、ぬるり、と吸い込まれるように入っていく。中は信じられないくらい熱くて、柔らかくて、まるで生きているみたいに、指の動きに合わせてきゅ、きゅう、と優しく脈打ちながら締め付けてくる。
「……あ……ぁ……ふ……きもち、いい……すごく……」
自分の声じゃないみたいな、甘く掠れた声が、静かな部屋に響く。快感の波が、穏やかに、でも確実に、下腹部から腰へ、そして背中を伝って、ナギの全身へと広がっていく。まだそれは、優しい、心地よい感覚。
でも、その瞬間。
下の心地よさに、まるで呼ばれたみたいに、胸の奥が、きゅぅぅん……!と、さっきよりも強く、甘く締め付けられた。ああ、やっぱり繋がってるんだ。
ナギは、空いていた左手を、まるで導かれるように、自分の左胸へとそっと添えた。
ナイトウェアの薄い布越しでもわかる。乳首が、つん、と硬く尖っていて、その周りがじんわりと熱を放っている。布地の上から、指の腹で、その先端をくるり、と優しく撫でてみる。
「ひゃ……!?」
それだけで、びくん!と身体が勝手に跳ねて、下の指を包んでいた膣がきゅうっと強く収縮した。驚いたような、でも甘くて蕩けた声が、ナギの唇からこぼれ落ちる。
もう、身体は正直だ。どうすればもっと気持ちよくなれるのか、ナギ自身よりもよく知っているみたいだった。
親指と人差し指で、硬くなった乳首を、布ごとそっと挟む。あの、秘密の快感を覚えた夜のように。怖くない。だって、これはわたしの悦びだから。
ほんの少しだけ力を込めて、乳首の根元から先端に向かって、優しく押し出すように、搾る。
「……んんっ……! あ……!」
指先に、とろり、とした確かな感触。見なくてもわかる。ナイトウェアの布の上に、真珠みたいに綺麗な乳白色のしずくが、ゆっくりと滲み出してきた。ぽたん、と重力に引かれて、その一滴がナギのお腹の上へと、静かに落ちた。
その瞬間、さっきまでの下からの快感とは違う種類の、温かくて、甘くて、胸の奥から全身へととろけるように広がっていく、優しい優しい快感がナギをふわりと包み込んだ。まるで、温かいミルクのお風呂に、心ごと浸かっているみたいだった。
そして――そこからが、本当にすごかった。
下の指は、ゆっくりと、でも確実に、熱い内壁を撫で、くちゅくちゅと音を立てながら愛液をかき混ぜる。
上の指は、優しく、でも着実に、硬くなった乳首を挟み、搾り、甘いしずくを生み出し続ける。
すると、信じられないことが起こった。
下からは、もう、くちゅ、じゅる、という音を絶え間なく立てながら、透明で熱い愛液が、まるで小さな川みたいに、とめどなく溢れ出してくる。指を伝い、太ももを濡らし、シーツの上にどんどん大きな染みを作っていく。
上からは、ぽたり、ぽたり、と温かい母乳が、まるで尽きることのない泉のように滴り続けている。ナイトウェアの胸元を濡らし、お腹の上で小さな水たまりを作り、それがまたゆっくりとシーツへと流れて、下の愛液と出会っていく。
ふたつの泉。
ナギの身体の上と下に現れた、まったく違う性質を持っているけれど、どちらも紛れもなくナギ自身から生まれた、悦びの源泉。
それが今、同時に、力強く、豊かに、溢れ出して、止まらない!
「あ……! ああっ……! すご……っ、どっちも……とまんないよぉ……! あぁ……んっ……!」
ナギの意識は、もうぐにゃぐにゃだった。
下の、熱くて、もっと直接的で、身体の芯を直接揺さぶってくるような、激しい快感の波。
上の、温かくて、甘くて、心を蕩かしてしまうような、優しく包み込んでくれる快感の波。
その二つが、交互に、あるいは同時に、嵐のように押し寄せてきて、混じり合って、お互いをさらに強く、大きくしていく。ナギはもう、自分がどこにいるのか、どうなっているのか、考えることもできない。ただ、このとてつもない快感の奔流に、翻弄されるだけだった。
指の動きが、無意識に速くなる。下の指はもっと深く、もっと強く、敏感な場所を探して突き上げる。上の指は、乳首を痛みを感じる寸前まで、強く、強く搾り上げる。
呼吸が、はっ、ひゅっ、はっ、と短く、荒くなっていく。部屋に満ちていた、甘いミルクの香りと、濃厚な愛液の香りが、さらに強く混じり合って、ナギの理性を完全に溶かしていくようだった。
視界の端が、チカチカと白く点滅する。時間の感覚がぐにゃりと歪んで、一瞬が永遠みたいに長く感じられる。もう、自分が何をしているのか、わからない。でも、やめられない。
ただ、身体が求めるままに。快感の大きなうねりに、小さな舟みたいに、ただただ身を委ねて。
「……んっ……はぁっ、はぁっ……! も、もっと……! もっと、ほしい……! あああっ……だめぇ……!」
下の指が、膣の一番奥の、一番感じやすい壁を、ぐり、と強く押した。同時に、上の指が、硬く尖った乳首を、ぎゅううっ!と力強く搾り上げた!
その瞬間――。
「いっ、……いぎゃああああああああーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!」
身体の、本当に奥の奥の方で、何かが、パーーーーンッ!!!と、眩い光と共に弾け飛んだ!!!
快感の、経験したことのないほどの巨大な津波が、何の容赦もなく、ナギの全身を飲み込んだ!
びくんっ! びくんっ! びくんっ! びくんっ!!!!!!
身体が、意思とは全く関係なく、硬く、高く、弓なりにしなって、ベッドの上で激しく跳ねる! 下腹部が、子宮が、まるで別の生き物みたいに、ぎゅううっ! ぐぐぐっ! と激しく痙攣し、収縮を繰り返す! そのたびに、熱くてとろとろの愛液が、まるで決壊したダムみたいに、どっと溢れ出して、シーツをびしょ濡れにしていく!
胸もまた、その衝撃に呼応して、激しく波打ち、硬く尖った乳首からは、まるで小さな噴水がいくつも現れたみたいに、乳白色の母乳が、ぴゅっ! ぴゅっ! ぴゅーっ! と、何度も何度も、勢いよくほとばしり出た!
「ああああああああーーーーーっっ!!!! はっ、あっ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ…………!!!!!」
喉が張り裂けんばかりの絶叫が、部屋中に響き渡る。もう、意識なんてどこか遠くに飛んでいってしまっていた。ただただ、この凄まじい絶頂の嵐の中心で、翻弄され、打ちのめされ、快感に溺れるしかなかった。手足は硬直し、勝手に動き、涙が止めどなく溢れ、口からは意味にならない喘ぎ声と、嗚咽が途切れ途切れに漏れ続ける。
上からも、下からも、悦びのしずくが、溢れて、溢れて、溢れて、止まらない。
愛液が、太ももを熱く伝い、シーツに深く染み込み、その一部は、ナギのお腹の上で、滴り落ちた母乳と混じり合って、白く濁った模様を描いている。
母乳が、胸からほとばしり、ナイトウェアをびっしょりに濡らし、お腹を伝い、シーツに白い点々とした跡を残していく。
熱い。濡れている。甘い匂い。濃い匂い。
自分の身体から、こんなにもたくさんの種類の、たくさんの量の、悦びの証が、溢れ出している。
その圧倒的な事実が、快感の極みの、そのさらに奥で、ナギの魂を、ぶるぶると震わせた。
もう、恥ずかしいなんて気持ちは、ひとかけらも残っていなかった。
昔の、巫女だった自分も、清らかでいなきゃっていう思い込みも、何もかも、全部、この激しい悦びの洪水に、きれいに洗い流されて、どこか遠くへ消えてしまった。
代わりに、ナギの胸の中を満たしたのは、涙が出るほどの、圧倒的な自己肯定感。
(……これが……これが、わたし……)
(わたしの身体……わたしの、ほんとうの悦び……)
(汚れてなんかない……穢れなんかじゃない……)
(……ただ……ただ、綺麗……)
(わたしは、これで、いいんだ……! これが、わたしなんだ……!)
自分の身体が、こんなにも豊かに、激しく、美しく、悦びを生み出せるなんて。
その神秘と、力強さと、そして、どうしようもないほどの愛おしさに、ナギは打ち震えていた。これは、誰かに見せるためじゃない。誰かに与えるためでもない。ただ、ナギが、ナギ自身のために感じて、生み出した、完璧で、かけがえのない、わたしだけの悦びの世界。
どれくらいの間、そうしていたんだろう。
永遠にも感じられた激しい痙攣の波が、ようやく遠い雷鳴のように遠ざかり、荒れ狂っていた嵐が、少しずつ、静かな凪いだ海のように、穏やかになっていく。
ナギは、全身の力を完全に抜いて、まるで抜け殻みたいに、ぐったりとベッドの上に沈み込んでいた。
呼吸はまだ、はぁ、はぁ、と少しだけ荒いけれど、深く、深く、満ち足りた空気を、ゆっくりと肺いっぱいに吸い込む。
そっと目を開けると、窓から差し込む月明かりが、さっきよりもずっと柔らかく、優しく見えた。
身体は、汗と、そして二種類のたくさんのしずくで、頭からつま先まで、ぐっしょりと濡れていた。シーツには、白い母乳の染みと、透明な愛液の大きな染みが、まるで前衛芸術の絵画みたいに、大胆に広がっている。
その光景は、他の誰かが見たら、きっと、とても淫らで、恥ずかしいものなのかもしれない。
けれど、今のナギには、それが、この世のどんな宝石よりも、神聖で、美しいもののように見えた。
わたしの身体が生み出した、悦びの確かな痕跡。
わたしが、わたしとして、ここに生きて、感じている、大切な証。
ナギは、そっと濡れたままの頬に、自分の手を当てた。涙の跡も、もう乾き始めている。
そして、ゆっくりと、本当にゆっくりと、心の底から満たされた、穏やかで、慈しむような微笑みを浮かべた。
それは、新しい自分自身が、今、この瞬間に生まれたことを祝福するような、静かで、でも、とてつもなく確かな微笑みだった。