第25話 食事に行く
ラティカを冒険者に登録した後は、俺達は食事をしに行くことにした。
「ラティカは何か好きなものはある? やっぱ肉とか?」
「おお。もちろん肉は大好きだぞ。特に魔物の肉が好きだ」
「魔物の肉なんて売ってるのか?」
異世界に来てから毎日食事をしているが、肉屋にも飯屋にも魔物の肉なんてなかったぞ。
「そういえば、人間が魔物の肉を食べているところは見たことがないな。なぜ食べないのだろうか。あんなに美味いというのに」
「魔物を使った料理は私も聞いたことありません。人間にとっては魔物の肉は固くて食べにくいですし、味も良いとは言い難いです。魔物によっては毒もあるので、基本的には食べることはないですね」
その言葉を聞いて、ガーンとラティカが衝撃を受けていた。
「なんと。人間はアレの美味さがわからんのか。毒も刺激があってよいスパイスとなるのに。もったいない」
「普通の人間は毒をスパイスにはできないんだよ」
毒なんてものを食べれば死んでしまう。
加熱によって毒抜きをしたり、毒のある部位を取り除いたり、なんとか避けようとするものだ。
……冷静に考えて、そこまでして食べたいというのもすごい話だな。
日本人なんかは毒のある魚をわざわざ食べているし。
フグなんていい例だ。
「し、しかし。毒のない魔物もおるぞ? そういうのは食べないのか?」
「ええと……。もしかしたら、どこかには魔物を食べる者もいるかもしれませんが、私の知る限りでは魔物の食事は一般的ではありませんね。先ほども言った通り、味も食感も人間には合わないので」
「となると街には売っていないか」
食べもしない肉をわざわざ売っているわけないし。
「そ、そうか……。魔物の肉はないのか。むう……。今から街の外へ飛んで行ってどこぞのオークの巣でも襲ってこようか?」
「とんでもないことを考えてるな。というかオークの巣なんてあるのか」
ラティカによって、オークの生態が垣間見えた気がした。
「いまここでドラゴンにはなるなよ。大騒ぎになる」
「わかっておる」
「ならもう夜だから街の外に出るのは無理だな。門は締め切られて出入りはできない。食べるなら明日だな」
街を出入りする門は日が昇っている間しか通れない。
それが王都のルールである。
街から街への急ぎの伝令だったり、王族・貴族などの立場の上の人間による命令があるならば話は別だが、そうでなければ普通は通れないのだ。
ましてやいち冒険者が夜中に魔物を狩りにいきたいというごく個人的な内容など、受け入れられるわけがない。
夜間に魔物を倒すならば、昼間のうちに王都を出てどこかに待機しておくしかない。
「魔物の肉以外にも美味しいものはあるかもしれないだろ? 酒場でいろいろ注文して、気に入る食べものを探そうぜ」
「酒場。そうか酒場か。そうだな! 人の街には、魔物の肉がなくとも酒があったな!」
酒場という言葉を聞いて、ラティカの目がキラキラ輝きだしている。
「やっぱりお酒は好きなの?」
「もちろん大好きだ。我は酒を飲むために生きていると思っていたほどだ」
「筋金入りの酒好きだな」
飲みサーの大学生もこんな感じだったなー。
酒場にたどり着いて、席に案内されるや否や、さっそくラティカは酒を頼み始めた。
「とりあえずこの店の酒を全て持ってきてくれ」
「え!? ぜ、全部ですか!?」
注文を取りに来た店員さんが驚いている。
そりゃそうだ。
とりあえず生みたいな要領で酒全部もってこいと言ってるんだから。
「ラティカ。全部飲んだら他の客が酒を飲めなくなるだろ。自重してくれ。あと、とりあえずで全部頼んでたら後には何を飲むんだよ」
「それはもう、他の店から持ってきた酒を頼むに決まっているだろう」
「どんだけ酒を飲むんだ」
このドラゴン、もしかして俺が思うよりもずっと酒豪なのかもしれん。
「とにかく店の酒全部頼むのは禁止。どうしても飲み足りないならはしごしよう」
「承知した。それに店を移動する必要はない。主殿に負担をかけてまで酒を楽しもうとは思わぬ。久方ぶりの酒であることだし、今宵は嗜む程度にしておこう」
「それはよかった……」
ホッと一息つく。
「というわけでそこの小娘。酒の銘柄はなんでもいいから、とりあえず3樽もってこい」
「嗜む程度って言ったよね!」
「ラティカの酒の量はおかしいです……」
「これでも嗜む程度だぞ?」
「いやお前の飲む酒の量はおかしい」
「む? 我の酒の量がおかしいって少なすぎるという意味よな?」
そんなわけねえだろ。
多すぎるって意味だよ。
「安心しろ。もちろんこの後で少なくとも5樽は頼むから」
おいやばいぞこのドラゴン。
嗜む程度の酒で最低でも8樽は飲もうとしてやがる。
「えっと……、3樽ですよね。たぶんあるとは思いますけど、ほんとに頼みます?」
「お願いします。あとこの人、追加で5樽以上頼む予定らしいので、そっちの準備もお願いします」
「かしこまりました。うーん。在庫あったかな? まあ酒屋に注文しに行けば大丈夫かな?」
そう言って、店員さんが裏に回っていった。
大変だな。
これからはラティカを酒場に連れて行くときは、事前に話を通しておこうかな。
「ふふ。数百年ぶりの酒よ。ふふふふ」
ニコニコと笑って酒を楽しみにしているラティカ。
それを見ると、彼女が幸せそうだし悪くないと思ってしまう。
その後は持ってきた料理を3人で食べた。
アイナは割と何でも美味しそうに食べる。
ラティカは意外にも肉ではなく野菜の方を気に入って食べていた。
ちなみに、追加で頼んだ5樽も飲み干したラティカはさらに酒を追加。
ラティカが最終的に飲んだ酒の量は樽10個ぶんだった。
地球も異世界も含めて、ここまでの酒豪は初めて見た。




