毒
「貴方、彼女のことをよく知っているの?」
ライサはそそくさとパーティを後にするクリスティーナに目をやりながら
連れのアランに尋ねた。
「クリスティーナのことかい?彼女のことを知らないヤツなんかいないさ」
「そう・・・パーティの華というわけね」
ライサの口調に、どことなく毒を感じてアランは顔を顰めた。
「彼女は単なる華じゃない。みんな彼女を愛してるんだよ」
アランの言葉に、ライサが今度はあからさまに嫌そうな顔をした。
その表情を見たアランに向かって、ライサが吐き捨てるように言った。
「そう・・・銀のスプーンを咥えてこの世に誕生したお姫様は
チャーミング王子まで手に入れたというわけね」
クリスティーナだけでなく、エドワードとも古くからの友人であるアランが反論した。
「世間はいろいろと取りざたしているが、あの二人なら仲のいい兄と妹のようなものだよ」
一瞬、なんのことか分からないという顔をしたライサが
バカにしたように微笑む。
「エドワード?ああ、あの人の良さそうな騎士さんのこと?
貴方って、何も分かってないのね」
「いったい君は何を言って・・・」
アランの言葉を遮って、ライサがニッコリと微笑んだ。
まるでそれまでの会話全てがなかったかのように。
「ねぇ、アラン。私、喉が渇いてしまったわ。
何か、飲み物を取ってきてくださらない?」
何か釈然としないものを感じながらも
貴族として身についたマナーから、彼は丁寧にお辞儀をして言った。
「これはこれは、レディをもてなすことを忘れるとは、紳士にあるまじき振る舞い。
ただいますぐにお持ちいたしましょう」
シャンパンのトレイを持って客の間を歩いている執事を呼び止めに
アランが行ってしまうと、ライサはそれまでの妖艶な微笑を一瞬にして消し去った。
あの日レイフのオフィスで見かけたクリスティーナと
彼女を追うために自分を置き去りにしたレイフの姿を思い出していたのだ。
「ああいうタイプが一番嫌いよ。
銀のスプーンを咥えてこの世に誕生したその日から
誰からもちやほやされて、守られて。そして全てを手にするんだわ」
グラスを片手に戻ってくるアランに笑みを返しながら
ライサは心の中で誓っていた。
「あんな小娘にレイフは渡さない。彼は私のものよ」




