変貌
「なんだって?」
レイフの言葉に、父が信じられないという顔で彼を見つめた。
それは私も同じだった。
レイフは、父の会社の株をほとんど手に入れたばかりか
この、代々スペンサー伯爵家が所有してきた領地と家屋敷一切合財を
手に入れたと宣言した。
父の経営は堅実で、本来ならこのような事態に陥ることなど
考えられないことだった。
しかし、数年来の不況から会社を、従業員たちを守るために
領地と家屋敷を銀行の抵当にして資金繰りに当てていたのだ。
「君は、私たちにこの家から出て行けと言いに来たのかね?」
こんな状況になっても、父は冷静だった。
レイフの次の言葉を聞くまでは・・・。
「いいえ。私が望むものをくださるのなら
この屋敷は、これまでどおり住んでくださって構いませんよ」
望むもの。
彼はその言葉を口にしながら、まっすぐに私を見つめていた。
彼の欲しいものは誰の目にも明らかだった。
「君がクリスティーナを愛しているのなら・・・」
父の言葉を、レイフが冷たい笑みを浮かべながら遮った。
「クリスティーナを愛している?私が?」
これがさっきまで優しくからかうような笑顔を向けていた男なの?
同じ顔をした全くの別人・・・レイフのそんな劇的な変わりように
私は口を開くことも出来ずにその場に凍り付いていた。
そんな私に、優しさの欠片もない笑みを見せた後
彼が父に向き直り、ゆっくりと口を開いた。
「エリック・タイラーの息子が、あなたの娘を愛すことができるとは
よもや思われないでしょう?」
「エリック・・・タイラー・・・・」
土気色に変わった父の顔色を満足げに眺めると
レイフが続けた。
「さすがに、自分が殺した男の名前は忘れていないようですね」
彼は何を言っているの?
答えを求めて向けた視線の先で、父が崩れ落ちるように倒れるのが目に入った。
「お父様っ!」
父に駆け寄る私には目もくれずに
レイフがドアを開け、執事のアルバートを呼んでいた。
アルバートが救急車を呼ぶために部屋を出て行くと
レイフが呟いた。
「まだ死なせない。あなたには本当の絶望というものを
じっくり味わっていただく」
私は、あの時何も分かっていなかった。
レイフの憎しみも、彼が私に近づいた本当の目的も。




