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第4話「背負いし者たち」

静寂に包まれた世界には、パチパチという焚き火の音が響き渡っていた。


そこには1人の男が座し、対面に丸太の山があった。


男は山の頂にある一本の丸太を穏やかな目で見つめていた。


まるで男はその一本の丸太の断面と顔合わせて、語り合っているかの様だった。


やがて焚き火の音が途切れた・・


刹那、男は近くにある斧を手に取り、完全な暗闇の中で丸太に切り掛かる。


バリバリと木が割れる音が響き渡った。


そうかと思えば、男は後退し背後にある弓を手にする。


幾つもの矢を番え、一気に複数の矢を丸太に当てていく。


無数の矢が丸太を削ぐ様な音を奏でている。


間髪入れずに今度は、側にあった槍を手に取り、残像が幾つも映る程の突きを放つ。


丸太はガツガツと穿たれてる音と、木片がパラパラと落ちる音を発していた。


怒涛の様な瞬間がピタリと止まると、再び焚き火の音が聞こえてきた。


炎が大きくなり、丸太が映し出される。


そこには木彫りの神々しい蛇が出来上がっていた。


辺りは静寂に包まれ、炎に照らされた蛇だけがユラユラ揺らめいていた。



エルネイ「ガルバリノか。」


ガルバリノ「邪魔したか。」


エルネイ「いや・・何かあったんだな?」


ガルバリノ「ああ、どうやら北とやりあった奴らがまたくるらしい。」


エルネイ「いよいよか。」

-ペルー南部-ビルカスウアマン

アルバラド「ゴホ、ゴホ。

ピサロ派のバルディビアが、あの地にサンティアゴなる街を作ったらしいな。」


カスティニャダ「ああ。」


アルバラド「あの地にどんな期待をしておるのだ?」


カスティニャダ「さあな。

実際お上に送ったあんたの報告書で、誰も興味を示さなくなったのにな。」


アルバラド「無論だ。兵の消耗が激しすぎる。

おまけに大した収穫もない。」


カスティニャダ「インカと違って金がある気配もないしな。

ん?何か忘れているような・・」


アルバラド「ゴホ、ゴホ・・赤字も甚だしい。」


カスティニャダ「ちなみに、バルディディビアについて行こうって奴はほとんどいなかったらしい。」


アルバラド「我らのご老人様がピサロと揉めて、あの地に希望を求めた。

が、あれが運の尽きだったかもしれんな。」


カスティニャダ「かもな。

結局覇権争いに破れ、あんたのボスも殺されちまったしな。」


アルバラド「ワシももう長くない。

とは言え、死刑になったご老人様よりはましか・・

マプチェ・・あいつらはワシらの死神よ。」



-南のマプチェの地-

ナウエル「タイエルはよく生き延びることが出来たね。」


リカラエン「死から遠い男と呼ばれてるぐらいだからな。」


ツルクピチュン「獣の四肢を持った化け物か・・想像がつかないな。」


ナウエル「心配すんなって、化け物だろうとなんだろうと俺が倒すからさ。」


おもむろにナウエルが複数の暗器を取り出し、遠くに見える柱についてる的の真ん中に3発とも命中させる。



ツルクピチュン「確かに、君の動きも人のものとは思えないね。」


ナウエル「ヒドイなぁ、僕は化け物なんかじゃないよぉ。

こうやって言葉だって話すんだし。」


ツルクピチュン「ああ君はとっても人間らしいよ。

ただ言葉を話さない人もいる。

何を持って人とするんだろうね。」


ナウエル「できる事が限られてても、色々でき過ぎても化け物扱いされる事もあるしなぁ・・」


リカラエン「ナウエルが今考えてる事は、人の定義うんぬんとは少しズレてるかもね。

化け物なんて言ってくる奴の心境は、大概は単に不安だったり、悔しさを鎮めたり、賞賛したいだけ。」


ナウエル「はあ。

何だかよく分からなくなってきたなぁ。」


ラウタロ「ところで、そいつらも言葉らしきものを話すらしいな。

案外、その化け物も只の人なのかもな。」


リカラエン「只の人ねぇ・・」


ナウエル「さて、まだ午後の集まりまで時間があるな。

ちょっと水浴びしにいかないか?」


ラウタロ「いいな、俺もそうしよう。」


ツルクピチュン「僕は遠慮しとくよ。」


ナウエル「そっか。」


ツルクピチュン「じゃぁね。」


ラウタロ「またな。」


リカラエン「ラウタロ、怪我してくるんじゃないよ。

今日の祭事は特別なんだから。」


ラウタロ「ああ、分かってる。」

 

ナウエル「リカさん、安心してよ!僕がついてるんだから!」


-南マプチェの地-川沿い

ツルクピチュンは、1人川原の傍で座り込んでいた。


ツルクピチュン「得体の知れない侵略者。

ナウエルの様な強さもなければ、ラウタロの様な賢さもない。」


ツルクピチュン「僕には何ができるのだろう。

得意なのは、戦いとは関係ないこの水切りぐらい・・」


ツルクピチュンは石を投げた。


石はどこまでも川を跳ねて進んでいった。



-ペルー南部-

グレゴリオ「マプチェか・・」


ロレンツォ「暇になっちゃいましたねぇ。

んーまたあの地に戻るってのもいいかもしれませんね。」


カスティニャダ「正気か?待てよ。

確かに・・バルディビアは遺恨を気にするような奴じゃないな。」


ロレンツォ「そう言えば、僕たちが戦った相手の斧が金色に光ってませんでした?」


!!


カスティニャダ「・・思い出した・・奴のインパクトがあり過ぎて、すっかり忘れておったわ・・」



「みなさーん。」


カスティニャダ、ロレンツォが声の方へ振り返った。


エレロ「ひょっとして、南へ向かうのではないですか?」


ロレンツォは怪訝そうな顔でエレロを見る。


エレロ「やはりそうでしたかー。

私も連れてってくれませんかね?

一文無しになっちゃいまして・・」


ロレンツォは呆れた感じでエレロに言った。


ロレンツォ「まぁた、賭け事ですかぁ?」


エレロ「今回は返せそうにないので、逃亡も兼ねてます。」


カスティニャダがしばらく間を開けて、口を開いた。


カスティニャダ「・・ふん。

まあ、よかろう。

奴も使える奴が一人でも多い方がいいだろう。

再び死神退治といくか。」


カスティニャダ一行は、石の墓標を後にした。



石の墓標には、

「1542年 ゴメス・デ・アルバラド死去」と刻まれていた。


ゴメス・デ・アルバラドは、ピサロから離反したディエゴ・デ・アルマグロの元で征服者として名を馳せた。


1538年 ディエゴ・デ・アルマグロの処刑


1541年 フランシスコ・ピサロの暗殺


南アメリカでのスペイン勢力の覇権は、この時目まぐるしく揺れ動いていた。


そして、翌年の1542年にアルバラドは病に倒れ人生の幕を閉じた。



-南のマプチェの訓練場-

何者かが石に縄をつけた武器を振り回し、投げた。


飛んで行った石は、大岩に命中し、激しい音をたてて大岩の中央を貫通していった。


エルネイ「相変わらずいい腕だな。」


威風堂々とした男の名はエルネイ。

肩幅が広く、彼の雰囲気は誰しもが特別な存在だと肌で感じる程、異質感があった。


マプチェ族のシンボルでもあるバンダナは付けておらず、幾つもの髪の束をたなびかせた独特の出立をしている。



ガルバリノ「お前には負けるよ。

頼んだぞ、我らの未来を。」


石を貫通させた人物は、ガルバリノといい、タイエルと共に「南の二鷲」と呼ばれている。

野生的な長髪の男性で、勇壮な雰囲気のある戦士だった。


石に縄をつけたアメリカ大陸特有の武器(スペイン人などによりボリアドラスと呼ばようになった)の達人だった。



エルネイ「そう言えばあんた。

特別目をかけてる奴がいたよな。」


ガルバリノ「なぜかほっとけなくてな。」


エルネイ「俺がちっちゃい頃はなんも教えてくれなかったのによぉ。」


ガルバリノ「お前は特別だろ。

だいたいお前に何かを教える必要があるのか。」


エルネイ「・・かもな。」



エルネイ「・・けどよぉ。

未来へ導く役目ってのは、俺じゃあないな。」


エルネイのその言葉にガルバリノは神々しい孤独を感じた・・


2人の後方から少女の声が聞こえた。



グアコルダ「お兄ちゃん、アウカマンさんがルカを直してほしいみたい。」



-アウカマンの住居-

「南のニ鷲」も名を馳せていたが、それより以前から特に白兵戦で名を轟かせた人物がいた。


名をアウカマンといい、父は「マプチェの五大樹」筆頭である英傑クリジャンカである。


ナウエルは、戦士として申し分のない血脈を受け継いでいた。



トンカントンカン


長身を生かして、ルカの頂きを修理しているエルネイ。


アウカマン「悪いなエルネイ、手伝ってもらって。」



エルネイがルカを直していると、地元の者でないある一行が通りかかった。


フェニストン「ここが南の地か・・噂どおり猛者揃いには見えるが・・」


灰色のバンダナの寡黙な少年は、心中で呟いた。


マイロンゴ「おい見ろよ。

あのおっさん、テントなんか直してんぞ。」


粋がった感じの巻き毛の少年マイロンゴは、遠目からエルネイを馬鹿にし始めた。


マイロンゴ「でかい図体してんのに、情けねーな。」


マイロンゴ達の背後から、寒気のする複数の声が聞こえきた。



「おい、こいつでちょっと、からかってみろよ。」


マイロンゴ達が振り向くと、瓜二つの人物が2人立っており、マイロンゴに斧を渡してきた。


マイロンゴ「なんだよ、お前ら突然?気色悪りぃやつらだな、誰だよ?」


マイロンゴ「ん?なんだこの斧・・柄に何か付いてるな・・」


マイロンゴに対し、奇怪な2人は再び同時に話し始めた。


「グワノだ。」


マイロンゴ「グワノ?グワーノって言や・・・まさかトゥンベス島のグワノ兄弟・・」


グワノ兄弟「トゥンベス島は我らの地だ。」


フェニストンは2人を見て、頭の中で呟いた。


フェニストン「確かトゥンベス島は、ここから北の地域・・噂では新たな勢力が大きな町を作ったと聞いたが・・」


フェニストン「この2人は居場所を失って、南下して来たって所か・・」


グワノ兄弟「どうした?

お前の言う情けない奴に、こいつをぶつけてみてくれないか?」


マイロンゴ達は奇妙な感覚に包まれながら、グワノ兄弟のおどろおどろしい声に呑まれている。


マイロンゴはグワノ兄弟から渡された斧を改めて見た。


斧の柄を握ったままの腕が切り落とされた状態でぶら下がっている事に気付き、青ざめた。


そして腕の切り口からはまだ血が滴り落ち続けていた。


マイロンゴはあまりの衝撃に斧を手放す事も出来なくなっていた。


マイロンゴ「そ・・遭遇した者の体の一部を奪うってのは、本当みたいだな・・」


フェニストンがまた頭の中で呟いた。


「聞き間違えれば耳を・・言うこと違えれば口を・・」


マイロンゴ達と共にいた横幅のある少年コルピジャンは、理解が追いつかなく、ただただ思考が停止している。


グワノ兄弟「器用に動かせるのは口だけか?

うまく投げることが出来ぬのであれば、おまえのこの腕は不要であろう。」


グワノ兄弟「我らが今この場で。」


グワノ兄弟は各々が持つ一振りの長柄の斧を傾けぶつけ合わせ、マイロンゴの前でクロスさせた。


斧がぶつかり合ったカンという冷たい音が響き渡り、再びグワノ兄弟は口を開いた。



グワノ兄弟「切り落とす。」


マイロンゴ「ま、まってくれ・・」


マイロンゴはそう言葉を発する事以外できなかった。


グワノ兄弟達の斧が動き、ブンと音がすると、ボトッと地面に何かが落ちる音がした。



マイロンゴは悲鳴を上げた。

「ぎゃあぁああぁ!俺の腕が!!」


表情一つ変わらないグワノ兄弟たちは、調子外れな柔らかみのある声を発した。


「さっ、投げよ。」


マイロンゴは恐る恐る、自身の手元に目線をやった。


「・・あれ?あっちの腕か・・

脅かすなよ・・」


マイロンゴの声はまだ震えつつも、去勢を張る様な言動で、精一杯自身を保とうしていた。


マイロンゴは考えた。

「今はこいつらに大人しく従うしかないか・・

ええい、どうにでもなれ!」


マイロンゴは、ルカを修理しているエルネイの背を目掛けて、思いっきり斧を投げた。

-河原-

ラウタロ達が半裸で水浴びをしている姿があった。


ラウタロは、ナウエルの傷だらけの逞しい身体に目をやりながら、呟いた。


ラウタロ「またお前とここに来るとはな。

どんな形であれ・・生きていたとは・・」



◉読んでいただき、有難うございました!

次回の話は、月曜12:00公開です。

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