屈辱のもうもう
〝もうもう〟とは一体どのような状態かわかるだろうか? お子さんのいる方なら「あ、もしかして」と思われるかもしれない。
もうもうとはお尻の穴を見せるために取る姿勢のことだ。保育士で乳児クラスを担当していた時、便が出たらシャワー後「はい、もうもうしてー」と言って、お尻がきれいになったか確認していた。
床に両手をついてお尻をあげる。
それが子どもの、もうもうだった。
なぜ、こんなことを書こうと思ったのか、その経緯を少し話したい。
先日、『脂質異常症』という文章を投稿したのだが、そこで話した作家さんのエッセイの中に〝痔〟の話が出てくる。
そのエッセイは本当におもしろくて、私は繰り返し読んだ。ある施設で借りているものだったので返してからも、施設に行くたびに手に取って読んでいる。
もう、読まないと体が(頭が)おかしくなるような中毒状態なのだ。そして一人でもいいから、このエッセイの面白さを共有したいと思い、施設のスタッフの方々に布教を始めた。そうするうちに、とある方とお尻関係へと話題が広がったのだ。(小学生並みの下ネタ)
スタッフの中に元看護師さんがいた。くだんの作家さんが痔の手術の様子をリアルに書いておられて、看護師さんってすごいな、と思っていたので、エッセイを布教しつつ看護師さんを尊敬する旨を伝えた。
するとその方はこんなエピソードを教えてくれた。友達の看護師で肛門科で働いている方がいたようだ。昔の話らしいけれど、その頃はコンプライアンスとか患者の尊厳とか皆無に等しく、ただ効率よく診察することが求められていたらしい。
その友達の病院でも同様であった。
診察室にくたばった画用紙にヘタくそな手描きの絵で、三種類のもうもうポーズが描かれており、患者は医師がくるまでに衣服と下着を脱ぎ、いずれかのポーズをして待つようになっていたらしいのだ。
戸惑って用意ができていないと、怒られることもあったらしい。恐ろしい!!
それは「どれも絶対に選びたくないもうもうポーズ」だったらしい。
私はその光景をリアルに思い描いた。
笑ってはいけない。でも、笑える。そう思っていたのだけれど、それを教えてくれた方本人が大笑いしながら教えてくれたので、遠慮なく笑った。きっとシュールな場面選手権、優勝! だろう。
患者も気の毒だが、医師もなかなかの精神の持ち主だと思う。だって診察室の扉かカーテンを開けたら、お尻全開の人がいるのだ。「うっ!!」となるのは一般人だけで肛門科医にとっては日常の一コマなのだろう。
思春期の娘が渋りながら家族の食卓につく、みたいな。
世の中には知らない世界がたくさんある。
できれば私は知らない大人の前で屈辱的なもうもうしなくていい世界にいたい。
そう願った瞬間だった。
読んでいただき、ありがとうございました。