7 ポン太郎と強羅拳(ごうらけん)
新しい学年に慣れたころ、学校の掲示板にクラブ・部活の部員募集のポスターがたくさん掲示された。
ぼくが通う木の葉の森小学校はクラブ・部活活動が盛んで数も多い。
鉄棒クラブや跳び箱クラブ、吹奏楽部に水槽学部。バレー部、サッカー部、オカルト研究会、手芸部、マヨネーズ愛好会。
数多くあるクラブや部活の中で部員数が多いのが『強羅拳部』である。
朝礼で担任の鬼瓦先生がいった。
「今年から私が強羅拳の副顧問になった。もし強羅拳部に入りたいと思う人がいるなら私にいうように。迷っているなら体験入部ができるから体験してから入部するかを決めてもいい」
太がいった。
「センセー顧問の先生は誰なんですかー?」
「顧問は校長先生だ」
『!』
クラス全員が驚いた。
校長先生は御年三百歳を越えたカメの化け者で、ヨボヨボ過ぎて長時間人間に化けることができない。
ただ長年の修行の成果だとかいって、杖を使えばカメの姿で二足歩行ができる、ある意味すごいカメだ。
けれど歳のせいで耳が遠くこの前鬼瓦先生が、
「教室の蛍光灯が切れて取り替えたいので、脚立と予備の蛍光灯どこにありますか?」
という質問に対して校長先生は、
「キャット・・・・猫に呼び鈴つけてどうするんじゃ?」
ぼくは丁度そのやり取りを見ていて、色んな意味で校長先生大丈夫かな?と思ってしまった。
朝礼が終わってすぐ、クラスメイトの阿部、鈴木、渡辺が『俺たち強羅拳部に入ります!』と鬼瓦先生にいいにいった。
鬼瓦先生は笑顔になった。
「よし、阿部、鈴木、山野、渡辺。まずは体験入部をしよう。今日から三日間部活をやって本当に強羅拳をやるかどうかを決めよう?」
え?
ちょっと待って?何でぼくの名前も含まれてるの?
阿部はいった。
「みんなで頑張るぞ!」
鈴木、渡辺はいった。
『お―――!!!!!』
オレたち仲間だというわんばかりに、三人はぼくの肩に腕を回した。
「ちょ、ちょっと待って!ぼくはたまたま黒板の日付を今日に変えようと鬼瓦先生の側を通っただけで―――」
「部活は昼休み、放課後、たまに朝練。今日に昼休みにでも部活にくるといい。強羅拳部はいつも校庭でやっている、校庭に集合だ」
『はい!四人で行きます!』
「何でぼくまで!?」
なぜかぼくまで強羅拳部に体験入部することになった。
ここで強く入部しませんといわなかったのは、盛り上がっている鬼瓦先生と阿部、鈴木、渡辺に水を差すようなことをしたくなかったからだ。
昼休み。校庭だ。
そういえば、ぼくは強羅拳部が何をやる部活なのか知らなかった。
阿部、鈴木、渡辺に聞けばよかったんだけど、のこのこ校庭にまでついてきて、「強羅拳部って何をやる部活なの?」とは聞けなかった。
校庭ではすでに上級生たちが、ハッ!ハッ!といいながら拳を空中に突き上げていた。
「新入部員集合!」
鬼瓦先生が入部希望の生徒を一か所に集めた。(ぼくは入部希望の生徒ではない)
「説明するぞ。強羅拳は強羅カメ吉校長先生が創った拳法。柔道・空手・合気道・中国拳法を合わせたものだ」
なるほど、強羅拳部は格闘技部なのね。
鬼瓦先生は続ける。
「強羅拳は心身ともに鍛える。そのために体力作りや、腕立て伏せもやる。その上で―――」
一呼吸おいて、
「手に気を溜めて強羅破をするのが最終目標である」
「へ?」
ぼくは間抜けな声を出してしまった。
ナニヲイッテイルンダ?
途中まで普通のどこにでもあるような格闘技の説明だったのに、いきなり強羅破?
「強羅破をマスターすればどんな強敵が現れても勝てる可能性がある。達人になれば月を壊すこともできる」
阿部、鈴木、渡辺はその説明を聞いてソワソワし始めた。いかにも早く強羅拳をやりたいといった感じだ。
「ただし、強羅破はそう簡単にできるようなものではなく、修行しなければできないものである。逆をいえば、きちんと修行をしていれば強羅破ができるようになる」
名前を知らない新入部員が手を上げて質問した。
「鬼瓦先生は強羅破ができるんですかー?」
鬼瓦先生は拳を握って力強く答えた。
「できない!そもそも強羅拳という名前をこの学校に来て初めて知った。だから私は強羅拳部の副顧問になった。私も強羅破をできるようになりたい!」
強羅拳の、おそらく基本的な型を終えた上級生たちが、身体に力を込め、
「う、ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!」
「ふん・・・・・んぬぬぬぬぬ」
「強羅破!強羅破!強羅破!強羅破!で、できない!まだ修行が足りないのか!」
「オレは才能ないのかな・・・・・・」
「諦めるな!五十年修行して強羅破を習得した人がいるんだぞ!」
「あ、ちょっとだけ強羅破がでた」
鬼瓦先生は手をパンパンと叩き、
「新入部員はこれから強羅拳の基本的な型の練習だ。私は強羅破はできないが校長先生から基本的な型を教えてもらった。これから私が型をやるからみんなは私のマネをして身体を動かそう」
ぼくは鬼瓦先生の動きをマネてカメカメ拳の基本的な型をやった。
「ほっほっほ。みんな元気でやっているかね」
いつの間にかカメの姿をした校長先生が、ぼくたちの様子を見に来ていた。
その日の夜、ぼくは家族に強羅拳部の話しをした。
「父さん、実は強羅破できるぞ」
「本当!?」
ぼくのお父さんは木の葉の森小学校の卒業生だ。
ぼくが強羅破を見たいというと、お父さんはいいぞといってくれた。
庭に空き缶を置き、お父さんは身体に力を込め、手に力を込め、そして、手が光った。
「強羅―――破!!!!!!!!!!」
お父さんの手から光線が出て、空き缶の上半分が消滅した。
ぼくはパチパチとした。
「わぁ―――!すごーい?」
お父さんのためにすごーいとはいったけれど、実はあまりすごくはなかった。
なぜなら、普通にタヌキの妖術のほうがすごいからである。
ぼくの気持ちを察したのか、お父さんはいった。
「父さんたち化け狸は特に強羅破を必要としてないけど、格闘技として強羅拳をやってもいいとは思うぞ。興味がないならそれは仕方がない」
といいながら物置から瓦を持ってきてそのまま二十枚重ね、手で一気にバリンとした。