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ポン太郎物語  作者: 玉城まりも
4/22

4 ポン太郎と漢字の書き取り

ある日のこと。


ぼくのクラスで漢字テストをやった。


昨日、鬼瓦先生が漢字テストを明日やるから漢字の勉強をやるようにといっていたんだけど、ぼくはすっかり忘れてしまってテストの点数は六十八点だった。


太は「オレは七十点を取ったぞ!」といって教室のど真ん中で自慢していた。


「今回のテストで百点は一人だけだった」

と鬼瓦先生がいうと、全員の視線が一人のクラスメイトに当てられた。


クラスメイトの岡本 博士(ひろし)だ。


岡本博士は背が低く丸メガネをかけている人間の子で、学年で一番頭が良くて、家は動物と人間を診察することができる総合病院を経営している。


博士だからあだ名はハカセ。ハカセはいつも辞書や百科事典を読んでいる。けれど、動物辞典を読んでいるときはウヘヘヘとかグフフフとか変な声を出す変態でもある。



ハカセはみんなに注目されたことで恥ずかしそうに頭を掻いている。


次の休み時間に、何人かのクラスメイトがハカセを取り囲んで、

「ハカセ、何か難しい漢字書けよ!」

「書けるだろ!」

「早く書け!」


仕方がないなぁという顔でハカセは自由帳を机から取り出して、漢字を書いた。


薔薇、林檎、腎臓、骨粗鬆症、檸檬。


『すげー』


ハカセを取り囲んだクラスメイトは目をキラキラさせた。


「薔薇って何て読むの!」

「バラだよ」

「バラってあの花の名前だよな!よし、覚えよう!」


そして、ハカセを取り囲んだクラスメイトは自分の自由帳いっぱいに薔薇薔薇薔薇薔薇と書き始めたのだった。


――――そうか、難しい漢字を覚えれば人気者になれるんだ。


ぼくはハカセたちのやり取りを見てそう思った。


だからぼくは漢字を頑張ることにした!!!難しい漢字覚えるぞ!


ぼくは宿題漢字ノートに漢字をたくさん書いた。もちろんきちんと宿題の漢字の書き取りをしたうえで、他の漢字を書いた。


宿題漢字ノートに書いたのは、いっぱい漢字を練習すれば先生に褒めてもらえるかな?と思ったからだ。

ぼくは漢字をたくさん書いた。ただ無心に漢字を書いた。


―――――――――――――――


気が済んだので、宿題漢字ノートを明日先生に提出しよう。



次の日。


昼休みに鬼瓦先生に呼び止められた。


「山野」

「はい」

「何か悩んでいることはないのか?」

「・・・・・・?ないです」

「・・・・・・そうか、もし困ったことがあるんだったら相談して欲しい」

「・・・・・・?分かりました」


宿題の漢字以外に漢字を練習したから褒められるかな?と思ったけど、予想外な反応だった。


というよりも鬼瓦先生、ぼくを何か心配してた?ぼく何かしたかなぁ。心当たりがないや。


気を取り直して漢字を頑張ろう。


今日は新聞紙の文字を見ながら漢字の書き取りをすることにした。


カッコよくて難しそうな漢字を書いてると何だか頭が良くなった気分だ。


するとお母さんが新聞紙を覗きこんで、

「あら、学校で事件があったのね」

といっていた。


この漢字の書き取りも宿題漢字ノートに書いて先生に提出した。


すると、鬼瓦先生に昼間呼び止められて、

「山野」

「はい」

「本当は悩み事とか困ったこととあるんじゃないのか?」

「悩み事?・・・・あ」

「あるんだったらいって欲しい」

「最近お母さんがおむすび作ってくれないことです」

「そうじゃなくて・・・・・・まぁいい。山野、これから毎日先生と交換日記をしよう。思っていることをこのノートに書いてほしい」

「え?」

「お願いだ、日記を書いてほしい」


なぜだか分からないけど、ぼくは鬼瓦先生と交換日記をすることになった。


とりあえず、ぼくは鬼瓦先生から渡されたノートに日記を書くことにした。



四月○○日晴れ

今日は晩御飯に、

めキャベツを食べた。

ジュージューとお肉といっしょに、

いためて食べた。


と書いて鬼瓦先生に提出したら、先生はいつもぼくのことを見てくるようになった。


その日の先生のコメントは、

「いつも楽しそうにクラスメイトと遊んでいますが、たとえば一方的にボールを当てられたり、学校の途中で荷物を持たされたりしていませんか?毎日楽しく過ごしていますか?」


このコメントを読んで、なんじゃこりゃ?と思った。



四月○×日くもり

今日はお姉ちゃんが、

てつやで何かを作っていました。何を作っているのかな?と思ったら、

ケーキでした。

スターの形に切ったフルーツをのせて、

たべました。




そしたら鬼瓦先生は午後の授業を変更して、「いじめ」についての授業をした。


クラスの皆は何だか不思議そうな顔をした。


ぼくも不思議だった。ぼくが知る限りクラスでいじめをしているふうには見えなかった。




それはそうと、ぼくはいつも通り漢字の練習を頑張り日記も書いた。


家にたまたま「仏教のおはなし」という本があり、難しそうな漢字がいっぱい書かれてあった。漢字は難しかったのだけど、ふりがながあったからなんとなく仏教について分かった。


つまり、仏教の世界では死ぬと天国や地獄以外にもあの世の世界があるってことだよね。


ぼくは宿題漢字ノートに難しい漢字をいっぱい書いた。満足した。漢字の意味はあとで調べよう。

日記にはこう書いた。



四月○△日

今日は武器屋に行った。本物の銃があった。


先生のコメントは、

「銃?おもちゃだよね?」


だから本物って書いたじゃん。


このごろ日記を書くのも面倒臭くなってきた。でも、先生に交換日記しようといわれたからには、きちんと日記を書かなければならない。


ぼくは文章が短くても日記を書く努力をした。つまり継続は力なり。これは新しい漢字を覚えるときについでに覚えた言葉である。


『お母さんに新しい縄跳びを買ってもらった』


『アヤメちゃんが家庭科で使う包丁を忘れたので包丁を学校に持ってきてあげた』


『近所の大工さんから木のはへんをもらったから金槌で小物を作った』


『図鑑でトリカブトが毒を持っていることを知った。そういえばそこら辺の山で見たかもしれない』


『おつかいを頼まれてたくさん油を買った』


『練習してやっと火の粉を出せるようになった』


『テレビで富士山についてやっていた。富士山の周りって森なんだね』


『初めて仙太郎おじいさんが自動車に化けるところを見た』


『アメリカに行きたい』


でも、今日は眠い日である。眠くても漢字の練習は頑張る。継続は力なりだ。


今回は少年名探偵の事件簿という小説に書かれている漢字を宿題漢字ノートに練習するか。


あ、この漢字とこの漢字は前に練習したけど形と意味が似ていてあやふやになっている。覚えるために何回も練習しよう。


今気づいたけど、このノートは交換日記用のノートだった。どうしよう。消そうかな。面倒くさいからこのまま鬼瓦先生に提出しよう。




鬼瓦先生は夜、ぼくの家に電話を掛けてきた。


電話はお母さんが出て、話しが終わるとお母さんはぼくに変なことを聞いてきた。

「ポンちゃん、何か悩んでるの?」

「うーん、何もないけど。どうしたの?」

「さっき鬼瓦先生がせっぱ詰まった声で、ポン太郎君家で変わった様子はありませんか?って聞かれて・・・・で、特に変わりませんといったのだけど。そしたらポン太郎君、悩みがあるみたいで話しをよく聞いてくださいっていわれちゃって」

「悩み・・・・・?悩みって作ったほうがいいの?」

「悩み、あるの?」

「うーん、今作るから考えさせて」

「ないのね」


ぼくの悩みは鬼瓦先生がどうしてぼくのことについて悩んでいるのかが悩みだ。


心当たりがない。


ぼくは元気に学校に行き、友だちと遊び、給食を食べ、友だちと遊び、漢字の練習をしている。


ぼくは悩んだすえ、友だちに相談することにした。


「太、ぼく最近なにか心配されることやったっけ?」

「心配されること・・・・・あったあった。給食の牛乳四本を一気に飲んだとき」

「その時かな~」

「どうしたんだ?」

と聞かれて、鬼瓦先生がぼくのことをなぜか心配していることを話した。

「いつから心配されるようになったんだ?」

「いつから・・・・あ、交換日記をする少し前から?」

「確かそのころポン太郎漢字にはまってるとかいってなかったか?」

「そういえば・・・・・」


何かヒントになるものはないかな?と思い、宿題漢字ノートと交換日記を改めて見てみた。


けど、ヒントはなかった。


太がオレに見せろといわれたので宿題漢字ノートと交換日記をみせた。


「お前本当に漢字にはまってるんだな。読めない!」

「頑張ったんだよ~」


ぼくは自慢げにいった。


そんな時だった。


ハカセがちらりとぼくの宿題漢字ノートを見て、ギョッとした顔になった。


「さっき鬼瓦先生がポン太郎を心配してるって小耳に挟んだけど・・・・」

「うん、何でぼくを心配しているのか分からない」

「その宿題漢字ノートと交換日記をぼくも見ていいですか?」

「いいよ」


ハカセはじっくりとぼくの宿題漢字ノートと交換日記を読み比べた。


ハカセはぼくの顔を見て渋い顔をした。


「これは鬼瓦先生が心配しても仕方がないですよ」

「何で?」

「何でって、ポン太郎。これ本当に意味分かって書いているのですか!?」

「一応は」

「誰でもノートいっぱいの『悲』や『苦』や『怒』や『憎』や『辛』を見ればビックリしますよ!」

「・・・・・・あれ?」


ハカセが宿題漢字ノートのとあるページを開いてビシっと指をさした。


たくさんの『悲』とかの漢字は、ぼくが漢字を頑張ろうと思い始めた日に書いたものだ。


ハカセは続ける。


「この『集団集団集団』や『暴力暴力暴力』『虐め虐め虐め』というのは何なのですか!?!?」

「それは新聞に書かれてあった難しい漢字を練習しただけだよ。」

「あとこの交換日記にもかなり問題があります!」

「何で?普通に書いただけだよ」

「いいですか?よく読んでください。

『今日は晩御飯に、

めキャベツを食べた。

ジュージューとお肉といっしょに、

いためて食べた』。これ一番左の文字を下から読むと『い・じ・め』と読めるんです!」

「たまたまだよ」


「これだけじゃないんです!

『今日はお姉ちゃんが、

てつやで何かを作っていました。何を作っているのかな?と思ったら、

ケーキでした。

スターの形に切ったフルーツをのせて、

たべました。』これもさっきと同じように読んでみてください!」


ぼくと太は声を合わせて、

『た・す・け・て』

といった。


「鬼瓦先生はおそらく、ポン太郎は集団で殴る蹴るなどのいじめを受け、日記という手段を使い暗号で先生に助けを求めた、と思ったに違いありません!」


「頭いい!さすがハカセ!だてに眼鏡をかけていないな!」


と太はハカセを褒めたたえた。


「ポン太郎はいじめをした人に憎しみを抱き、漢字ノートにこう書きます。『人間人間人間、餓鬼餓鬼餓鬼、畜生畜生畜生、修羅修羅修羅、地獄地獄地獄、堕堕堕』」


これは『仏教のおなはし』という本を見ながら書いた漢字だ。


「ついにポン太郎は我慢できなくなり、『学校』『皆』『絞』『斬』『殴』『中毒』『廊下』『撒く』『火達磨』『焼焼焼焼焼焼焼焼焼』『燃燃燃燃燃燃燃燃』『骸』『髑髏』『証拠』『隠滅』『樹海』『埋』『逃亡』『自動車』『海外』。


 つまりこれは学校を襲撃し、廊下に油を撒き、焼いて燃やして、証拠を樹海に埋めて隠し、自動車で逃亡し、海外に行くぞ。そして、学校襲撃する下準備として必要なものをきちんと調達していることがこの日記に書かれているんですよ!」


「ポン太郎、お前学校を燃やす気だったのか!?いじめられたらオレに相談しろ!倒してやる!?」

太はいった。


ぼくは震える声で、

「これは少年名探偵の事件簿に書いてあった漢字を書いただけだよ・・・・・・

どうしよう、鬼瓦先生はとんでもない勘違いをしているのかもしれない。




鬼瓦武史の日記。


『私のクラスメイトに山野ポン太郎というタヌキの男の子がいる。


 山野は私の目が節穴のせいで集団暴行を受けるといういじめにあっているらしく、ある日突然宿題漢字ノートに自分の気持ちを書き始めた。


 よほど辛い思いをしているに違いない。交換日記で助けてと書くぐらいだ。

 

 でも、どこにもいじめの痕跡が見つからない。さりけなく山野に何かあったのか?と聞いてもおむすび食べたいというだけだった。教師として不甲斐ない。

 

 恐らくいじめているのは化け者の子ではなく人間の子だ。人間この野郎地獄に落とす、と暗に表現していた。

 私は山野を守るため学校にいる間はできるだけ山野から目を離さないようにした。けど、ダメだった。山野は凶器を集め始め学校を燃やし、富士山の樹海に何かを埋め、アメリカに逃亡するつもりだ。


 よく知らないが仙太郎という化け狸が自動車になり飛行機になって行くつもりだろう。教師として、いや人間として山野の犯行を止めなければいけない!山野はまだ小学生だ、いくらでもやり直しはできる!』



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