19 ポン太郎と常闇の青空 その二 迷宮の迷路
常闇の青空市場にて、ぼくは茶筒缶を買ってから、屋台で焼きおむすびを買って食べた。
太はイカ焼き・唐揚げ・綿あめ・かき氷・焼きそば・その他もろもろを食べた。(昼食ではなく、あくまでおやつとして食べた)
ミミはきれいなネックレスを買った。
ぼくは太に言った。
「太、そんなに一気に食べるとお腹壊すよ」
「大丈夫だ!おれの腹は鉄でできているから腹は壊さねぇ!」
本当に大丈夫かなぁ?と思いながらぼくたちは市場をとにかくウロチョロとしていた。
本当は買いたい物はたくさんあったけど、ぼくたちはまだ子供だからお金はたくさん持ってない。
だから、大人買いしている大人を見て「いいなぁ~」と思いながら見ていた。
市場をウロチョロしていると、あるものにとても興味が惹かれた。
『特設開場 出張ダンジョン・迷宮の迷路(子供向け・初級・中級・上級)』 主催ホームセンター赤松
ぼくは首を傾げながら言った。
「出張ダンジョン?」
太は目をキラキラさせながら言った。
「面白そう!」
ミミは出張ダンジョンの立て看板を見ながら言った。
「迷宮の迷路(子供向け)をクリアするとお菓子を貰えるんだ」
すると、出張ダンジョン・迷宮の迷路の受付係のお姉さんに声を掛けられた。
「お客様、よろしければ参加しますか?今でしたらすぐにご案内できますよ」
ぼくたち三人は顔を見合わせて、
『参加する!』
元気良く言った。
それに受付のお姉さんはコクリと頷いた。
「はい、承知いたしました。では、出張ダンジョン・迷宮の迷路についてご説明します。
出張ダンジョン・迷宮の迷路は子供向け・初級・中級・上級があり、原則子供向け以外は命の保証はできません。
ダンジョン内は迷路になっており魔物が存在し、参加者たちに襲いかかります。ダンジョンの最も奥にいるボスを倒したらダンジョンクリアです。途中で見つけた宝箱は参加者たちの所有物となり自由にお持ち帰りいただいて大丈夫です」
ミミは心配そうに言った。
「命の危険ってなら私参加しない!」
「安心して下さい。子供向けがあります、ダンジョン内に魔物はいますが脅かすだけで危害を加えることはありません。体調不良等を起こした場合、魔物の仮装をした人間のスタッフがいるので声をおかけ下さい。
なお、子供向けにはボスも宝箱もありません。このスタンプカードに平仮名のスタンプ四つを集めてゴールをすればダンジョンクリアです。
お客様はダンジョンに参加しますか?子供向け・初級・中級・上級、どれを選びますか?」
ぼく・太・ミミは顔を見合わせて言った。
『子供向け!』
「はい、ではこの受付カードに名前をご記入下さい」
渡された受付カードには種族を書くスペースと名前を書くスペースがあった。
ぼくは聞いた。
「この種族って?」
「種族には人間や犬、猫等を記入お願いします」
「分かった!」
ぼくは種族にタヌキと書いた。もちろんミミは猫と書いた。
太は当然人間と書いた。
そして、荷物は邪魔になるからと受付で荷物を預けた。
「ではお客様三名ご案内しまーす!」
案内されたダンジョンはキャンプでよく見るようなテントだった。それも四つ。出入り口にはそれぞれ子供向け・初級・中級・上級と看板があり、ついでにヒマワリによく似た魔物四体が静かにジッとしていて額に『システム制御装置』と書かれていた。
ぼくたちが子供向けダンジョンに入ろうとすると、上級ダンジョンから鎧を着た大人たちがゾロゾロと出てきた。
ぼくたちはダンジョンに潜入した。
ダンジョンに一歩入った途端、そこはテントではなく洞窟だった。しかもどこからか洞くつ的な音楽が流れていた。
「すごいな!」
太のその感想にぼくも同意した。
「テントは小さかったのに、中は凄く広いわね!」
ミミのその感想にぼくは同意した。
ぼくたちは洞くつ型の迷路を探検した。途中でアスレチックスになっていたりゲームがあったりと楽しかった。魔物が脅かしてきたけど、そんなに怖い魔物ではなかった。
もちろん平仮名のスタンプも集めた。
集めた平仮名は三つで『ひ』『ま』『わ』で、残りは一つだけだ。
そんな時だった。
太が急に青い顔をし始めた。
「・・・・・ポン太郎、おれ、ダメかもしれない・・・・・」
嫌な感じがした。
「・・・・・何が?」
「おれ・・・・・漏れそう・・・・・・・腹の調子が・・・・イタタタタタタ!!!」
緊急自体発生!
「もう!だから一気に食べるとお腹壊すよって言ったじゃん!」
「そうだけどイタタタタタタ!!!!」
ミミが言った。
「あそこに人間のスタッフがいるからさっさと行ってきなさいよ!」
「あ、本当だ!おれ、このダンジョンから離脱する!ポン太郎たちはおれにかまわずこのダンジョンをクリアしろ!じゃあな!」
と太は人間スタッフのもとにかけより、無事にダンジョンから離脱した。
ぼくはプンスカとしながら言った。
「全く太はしょうがない奴め!」
「仕方がないわよ、太はそういう奴だから」
「そうだね。ぼくたちは太に構わずダンジョンクリアしよう」
ぼくたちは最後の平仮名スタンプを探した。そして発見した。最後の平仮名は『り』だった。全部合わせて『ひ』『ま』『わ』『り』だった。
だからダンジョンの出口に向かおうとしたら。
グララララララ!!!!
ダンジョンが大きく揺れた。
ダンジョンの外で事故が発生していた。
常闇の青空市場にどこからか物凄く巨大な岩が飛んできて、ドスーン!!!と落ちてきた。
巨大な岩が落ちた衝撃でアスファルトで固めた地面が破片となっていくつかの塊となって飛び散り、その塊の一つが出張ダンジョン・迷宮の迷路子供向けに静かにジッとしていたヒマワリの魔物『システム制御装置』に直撃。
すると、なんてことでしょう・・・・・・・
『迷宮の迷路子供向け』と書かれた立て看板が『迷宮の(オブ)迷路地獄級』となってしまい、見た目テントだったダンジョンが立派な建物になってしまいました。
慌てた出張ダンジョン運営スタッフたちはシステムを治そうとするが元に戻らず、しかし、地獄級ダンジョンには子供が二名取り残されている!本当にヤバイ!どうする!
出張ダンジョン運営スタッフたちは、今回常闇の青空市場に来ているお客を見て――――――
ポン太郎視点に戻る。
グララララ、ダンジョンが大きく揺れ、揺れている間にダンジョンの景色が何度も変わった。
ジャングル・砂漠・氷河・火山・墓場・和風屋敷。
揺れが治まるとダンジョンはどっかのお城になった。
「え・・・・・・なにこれ・・・・・・」
ぼくはそう言うしかなかった。今までと明かに雰囲気が違っていた。
「洞くつからお城になったからね・・・・・・」
そうミミは言葉を漏らすが、ミミも分かっているのだ。明かに、『ヤバイ』ということを。何が、というのは分からないが、本能の部分で自分の命がヤバイということを。
ぼくはミミに聞いた。
「取りあえず・・・・・・出口探す?」
「うん・・・・・」
結局ダンジョンを進むしかないのだ。
ミミがカチッと何かを踏んだ。
ゴロゴロと音を立てながら大きな岩がぼくたちに向かって来た!
どうする?
『わぁ――!!!』
逃げる。
凶暴な魔物が現れた。
どうする?
『わぁ――!!!』
逃げる。
ポン太郎が壁に手をついたらカチっと音がした。
天井から矢が雨のように降ってきた。
どうする?
『わぁ――!!!』
ぼくは矢を避ける
ミミはとっさにリアル子猫の姿になり、ぼくにしがみついた。
スライムが現れた。
どうする?
「・・・・・・先に進もうか」
「うん」
スライムは動きが遅かった。
それからも魔物や罠はぼくたちに襲い掛かってきた。ぼくたちはただウロチョロと逃げるしかなかった。
「ハァハァ・・・・・これはもう子供向けダンジョンじゃないね・・・・・」
ぼくは大きく息を切らせていた。
「ハァハァ・・・・・・そうみたいね・・・・受付のお姉さんは魔物は襲ってこないとか言っていたのに・・・・」
「どうしよう・・・・・・こういう緊急な時は大人に助けを求める、動き回らず安全な場所で助けがくるのを待つ、と学校では教わった気がするけど・・・・・・」
「・・・・・・周りは魔物しかいないし、安全な場所ってどこ?」
「じゃあどうしよう」
「ポン太郎、何とかしてよ」
「ぼくはただのタヌキだよ・・・・・」
『・・・・・・・・・・』
ガォー!!!
『わぁ―――!!!!』
また魔物が襲ってきた。ぼくたちはとにかく逃げた、逃げた、逃げた。
もはやどこを走っているのかも分からない。そして。
行き止まりになってしまった。正面からは魔物が迫っている。
どうする?
「もぉ~!叉た火!」
ミミが苦し紛れに叉た火を放り投げた。威力は無いに近い。ろうそくに火が灯るくらいだ。
その叉た火が、たまたまダンジョンの中にあった燭台に当たり、燭台に火が灯った。と同時に
宝箱が出現した。
『あ、宝箱だ!』
ぼくとミミは同時に叫んだ。
迫りくる魔物、背後は行き止まりの壁。
ぼくは願った。この絶体絶命の大ピンチから打開できる何か良い物が宝箱から出てきますようにと、ぼくは願った。
宝箱から出てきたのは――――
《誰かの0点の答案用紙!!!》
ぼくとミミは顔を見合わせ、ミミは言った。
「何でよ――――!!!!!!!!何で0点の答案用紙なの!?何で?何で!剣とか魔法の杖とか出てきてよ!何で0点の答案用紙なの!?」
ミミはブチ切れていた。
ぼくはもう半泣きになりながら、
「もうこうなったらこれをこうしてこうしてやる!えい!」
ぼくは0点の答案用紙で紙飛行機を作り、思い切り投げ飛ばした。
すると、魔物たちはなぜだか一斉に逃げていった。
魔物たちがなぜ逃げたのかはぼくには分からなかった。
とりあえず・・・・・
『た、助かった・・・・・・・』
ぼくたちはその場にへたり込んだ。
その時だった。
突然魔法陣が現れ、その魔法陣から鎧を着た大人たちが出てきた。彼らは迷宮の迷路上級から出てきた
大人たちだった。
「やっと子供たちを見つけたぞ!」
大人たちがぼくたちを見て歓声を上げる。
「え、え?」
何が何だかなんだか分からないが、ぼくたちはどうやら助かったらしい。
鎧を着た大人たちが色々話してくれた。
彼らはたまたま常闇の青空市場に来ていた冒険者パーティー・ドラゴンバスターズ。
突然市場に大きな岩が落ちてきて、その影響で出張ダンジョンのシステム制御装置が故障してしまい子供向けダンジョンから地獄級ダンジョンに変化してしまった。
常闇の青空市場放送で、
『ご来場者様の中に地獄級ダンジョン攻略できる方はいませんか~タヌキ一匹猫一匹がシステムの故障により地獄級ダンジョンに取り残されてしまい救助が必要です。誰か地獄級ダンジョンに挑戦できる人いませんかぁ~!』
という出張運営スタッフの呼びかけに、たまたま常闇の青空市場に来ていた魔女、召喚士、騎士、冒険者たちその他もろもろが百人ほどが集まりポン太郎たちを救助に向かったらしい。
その話しを聞いて、ぼくは何だか沢山の人に心配をかけてしまったことに忍びなく思ってしまった。
「ぼくたち、沢山の人に心配かけちゃって・・・・・・・」
鎧を着た大人の一人が言った。
「気にするな。子供を守るのが大人の役目だ。それにさっき念話で子供たちを保護したと伝えたら、皆
このダンジョンのボスに挑むと言っていたぞ。ついでに俺たちもボスに挑む」
「うん」
鎧を着た大人たちに『帰還の指輪』を渡され、ぼくとミミはダンジョンから脱出することができた。
「うわぁーん!ポン太郎!ミミ!よかった!本当に心配した!」
外に出た途端、太に泣かれてしまった。
「太・・・・・・心配かけてごめん」
「よかった、よかった!!」
ミミも言った。
「ただいま、太」
ぼくは大きく息を吸った。やっぱり外の空気がおいしかった。
すぐに出張運営スタップからシステムの故障で命の危険にさらしてしまったことに謝られた。
お詫びに、と運営スタッフから色々もらった。
・お菓子
・なんかの地図
・月の石
・雨を呼び寄せる団扇
・ダンスができる笛
ぼくはお菓子と月の石を貰い、ミミは雨を呼び寄せる団扇とダンスができる笛を貰った。
なんかの地図は太が欲しいと言ったのであげることにした。
安心したらぼく・ミミ・太はお腹がきゅ~と鳴った。
お昼ご飯の時間だ。
何を食べよう?
ダンジョンに残った鎧を着た大人たち・ドラゴンバスターズはポン太郎たちが脱出するのを見送ってから、何やら違和感があることに気づいた。
「おい、何か変じゃないか?」
「気づいたか?あれほどいた魔物がここら辺にはいないんだ」
「隊長!これを見つけました!」
ドラゴンバスターズの隊長は隊員からある物を渡された。
「紙飛行機?」
紙飛行機を広げると、それは0点の答案用紙で名前は『べぶぜぶぶ』と書かれてあった。
隊員の一人が0点の答案用紙を鑑定すると、
『蠅の王・幼き日のベブゼブブの0点の答案用紙』
『効果は魔物をすごく避けることができるぞ。レア度は最高ランク』
ドラゴンバスターズの隊長は言った。
「良い物を手に入れた」