13 ポン太郎と野菜姫
日曜日。
もちろん学校はお休みである。
ぼくは何となく少し早起きをして、朝ごはんを食べて、散歩に出ることにした。
別に何の予定もない。何をするってわけでもない。
ただ何となく散歩がしたいから散歩をしているのである。
四月の朝はまだ少し寒い。けれど桜の花は散ってしまい新しい緑の葉っぱが顔を出している。
チャリンチャリン!チャリリリリリン!チャリン!
自転車のベルがうるさい。
このうるさいベルはどこのどいつだ?と思い後ろを振り向くと、太であった。
ぼくはいった。
「太―!うるさーい!おはよ」
「よおポン太郎おはよう。おれはうるさくねぇ、ベルがうるさいんだ」
と言いながら太は自転車から降りた。
「で、何?」
「何でもねぇ、ただポン太郎がいたからベルで威嚇してみた」
「威嚇・・・・」
「ポン太郎は何やってたんだ?おれは自転車でそこら辺走り回ってた」
「ぼくはただの散歩だよ。歩っていただけ」
「一緒に遊ぶか?」
「何して遊ぶ?」
「ドッチボールは?」
「二人でドッチボールやってもつまらないし、ボールないじゃん」
「あ、そうだった。おれとしたことが!」
とそんな時だった。
「だったら二人ともこの前の借りを返しなさいよ!」
クラスメイトの女子・田中亜豆。犬の化け者だ。今は人間の女の子の姿であるが、彼女の犬姿はダックスフンドによく似ている。
「借りって・・・・・もう十分返したと思うけど・・・・」
ぼくはあきれてしまった。
「そうだぞ!ぶつけたのは悪かったと思うが・・・・・」
太もあきれたように言った。
亜豆の言う『借り』と言うのは小学二年生の時に、太と一緒に紙飛行機で遊んでいる最中に誤って亜豆に紙飛行機を当ててしまったことである。
ぼくは開き直るわけではないが何度も謝ったし、給食のデザートを五回亜豆にあげた。
太だってぼくと同じように謝ってるし、『家に忘れてきたー!』ていう亜豆に太は消しゴムを十回ほど貸してあげている。
それでも亜豆は『借り返せー!』と騒いでいる。
ぼくは聞いた。
「どうしたら借りを返せるの?できればもう返したくないんだけど・・・・」
太もうんうんと頷いていた。
亜豆はふふん、と胸を張ってこう言った。
「私の野望に付き合いなさい!」
亜豆の野望とは?
「ここを私の王国にするの!!」
ここは亜豆の家の庭である。庭というより何も植えていない畑であった。
亜豆の家はとても大きな農場で、大地主。月光町の野菜は亜豆の家で大体作られている。
つまり亜豆はお金持ちのお嬢様。大きなお屋敷に住み、池に錦鯉が泳いでいる。
とまぁ亜豆の説明はこれくらいにしといて、亜豆が『ここを私の王国にする!!』と言った場所は、広い農場のごく一部の狭いスペースである。狭いスペースと言っても教室ほどの広さはある。
「ここで何をするんだ?泥の城を作るのか?」
太は聞いた。
「そんなロマンないことはしないわよ!トウモロコシの王国を作るのよ!」
「トウモロコシ・・・・・?」
ぼくにはトウモロコシの王国がロマンあるとは思えなかった。
けれど太は違った。
「トウモロコシ!おれ好きだぞ!」
「で、ぼくたちは何をするの?」
ぼくは聞いた。けどこれから何をするのか大体予想は付いていた。
「もちろん、トウモロコシを植えるのよ!夏になったら収穫してお腹いっぱい食べたいのよ!」
亜豆は準備万端にトウモロコシの苗と、苗を植えるためのシャベルを持っていた。
「お、やるやる」
太はやる気満々。ぼくは嫌々、だって面倒くさいじゃん。
「えーめんどくさ・・・・」
「手伝ってくれればお昼ご飯におむすびがでるよ」
「やる!!!」
ぼくはやる気満々。
てなわけでぼくはトウモロコシの苗植えを手伝った。
おむすびのために頑張った。
てなわけで苗を植え終わってお昼ごはん。
亜豆のおばあちゃんが握ってくれたおむすびだ。
「おめぇさんたち亜豆のためにありがとなぁ~亜豆は少しバカだからよぉ~、ばあちゃんは心配でよ~」
「ちょ、おばあちゃん!本当のこと言わないでよ!」
亜豆はバカだった。この前きゅうりを咥えて『遅刻遅刻~』と言っていた。もちろん遅刻した。もちろんきゅうりは自家製である。そんな彼女のおやつは大根である。
「おいしいぃ~~~~~~!!この絶妙な塩加減、このお米のおいしさ、おかかに梅干し、全部のおむすびがおいしいぃぃぃぃ~~~~」
ぼくはひたすらおむすびを頬張った。
「おむすびもおいしいけど、漬物とトン汁がおいしいぃぃぃ~~~てか何でもおいしいぃぃぃぃ~~~~」
と太はあまりのおいしさに絶叫した。
本当に何でもおいしかった。
お腹いっぱいになった。
ぼくはおむすびを十五個食べた。おいしかった。
そして、ぼくと太と亜豆はフリスビーで遊ぶことになった。
もちろん太がフリスビーを投げる役で、ぼくと亜豆が取に行く役だ。
楽しかった。
夕方になり、ぼくと太はもうそろそろ帰ることにした。
亜豆はじゃあねと手を振った。
その時。
亜豆の家の屋敷に次々とベンツやリムジンといった黒い高級車が停まり、一斉に車の扉がバンっと開いた。
中から黒服にサングラスを掛けたゴツイ男たちがでてきた。
そして黒服のゴツイ男たちは、
『お嬢!ただいま帰りました!!』
と亜豆に頭を下げた。
屋敷から亜豆のおばあちゃんが出てきた。
黒服サングラスにプラスして顔に傷がある男がいった。
「組長!例の白い粉仕入れましたぜ!これをばら撒いて・・・・ひひ、想像しただけでよだれが出る!」
ぼくと太はお互い顔を見合わせて。
『え?』