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ポン太郎物語  作者: 玉城まりも
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1 ポン太郎と仙人タヌキ

四月


桜の花びらがヒラヒラと舞い散っている。


新しい学年になって新しいクラスメイトは誰かな?とドキドキワクワクとしていたのだけど、一人の転校生を除きクラスメイトの半分は前の学年と同じだったので、新しい学年になって新鮮といえば新鮮だけど、思ったより新鮮味がなくて味気なかった。


ぼくは教室の窓から桜をきれいだなと思いながらボンヤリと見ていると。


クラスメイトの一人であるふとし(人間)がやってきた。


太はぼくの学年で三番目に身体が大きくて、キッズ相撲大会で全国に出場した強い人間だ。


太はニヤニヤとしていた。


「おい、ポン太郎。この雑誌に載っている男ってお前んとこのじいちゃんだろ。おれのママがいってたぞ!」


太は週刊女性エイトのとあるページを開いてぼくに見せてきた。



そこに書かれている内容は―――


『美人有名女優、謎の男性と密会か!』というタイトルで、ドラマに映画に今引っ張りだこになっている美人有名女優と謎の男がツーショットになっている記事だった。


ぼくは素直にこういった。


「うん、そうだよ」




この日、学校の宿題がなくて用事もなかったので、ぼくの家で太と遊ぶことになった。


太の家はぼくの通学路の途中にあるので、ランドセルを玄関に置くとすぐにぼくの横に並んで一緒にぼくの家へと目指した。


道端にチャンバラするには丁度いい木の棒を拾ったので、太とチャンバラごっこをした。


「どりゃー!」

「ブレイクファイヤー!」


「真剣白刃取り!」


「スターソードジェネレーション」


と必殺技を繰り出していたらあっという間にぼくの家に着いた。


ぼくはただいまーといいながら家の中に入り、太はお邪魔しますといいながら家の中に入った。


家の中に入ると茶の間に太が雑誌で見せてきた有名美人女優とツーショットになっていた男がテレビとおせんべいを食べながらあぐらをかいていて、ぼくは目が点になった。


「・・・・・・・・・・・えっと、不法侵入?」


「何でそうなる」


謎の男が飽きれた顔でそういった。


すると太がソワソワとして、


「え、え!この人がポン太郎のじいちゃん!?超―カッコいい!若い!イケメン!えっとあの、おれのママと婆ちゃんと姉ちゃんがあなたのファンです!サイン下さい!あ、おれ、太といいます!ポン太郎の友だちです!」


謎の男は二十代前半に見える王子様系イケメンだった。とてもおじいちゃんとはいえない見た目だけど、ぼくにとってはじいちゃんだからじいちゃんと呼ぶ。


「はっはっは!太君というんだね。いいともいいとも、確か君のママとお婆ちゃんとお姉ちゃんだったね。三枚書いてあげるよ」


とぼくのじいちゃんは適当な紙でいかにも芸能人風のサインをした。


サインの名前は『仙太郎せんたろう』。


ぼくのじいちゃんの名前は仙太郎という。


太は三枚のサインを手に入れて大興奮している。


ぼくは仙太郎じいさんたずねた。


「ねぇ、お母さんはどこに行ったの?」


「わしが羊羹が食べたいといったら慌ててサンダルを履いて買い物しにいったぞ」


太が落ち着いたところで仙太郎じいさんは語り出した。


自分の武勇伝を太に聞かせてやろうと思ったのだろう。


ぼくは仙太郎じいさんの自分語りが好きではなかった。


一度話すととても長くて最悪六時間くらい一人でしゃべっているときがある。


本当は逃げたかったのだけど、ぼくの立場では逃げることは許されない。


太だけでも逃がそうと思ったのだけど、太はあこがれの有名人とお話ができてうれしいです!みたいな顔をしていたので逃がすことができなかった。


「わしは千年生きてるタヌキなんじゃよ」


「本当ですか!?」


太のリアクションがすごかった。


「だからポン太郎のじいちゃんといっても本当の祖父ではなく、血の繋がりでいえば千年は離れているんじゃよ。ただ呼び方が面倒くさいから血の繋がりのあるタヌキはわしをじいちゃんと呼んでるだけじゃよ」


仙太郎じいさんは新鮮な聞き手を得てニヤニヤとしている。


「あれは千年前、わしは海の近くで生まれた。食べ物を恵んでもらおうと舟に乗ったら今でいう中国に出航してしまった」


「大丈夫だったんですか?」


太はハラハラした顔でたずねた。


「わしは船乗りにタヌキ鍋にされそうになった!」


「タヌキ鍋!」


「わしは三日間舟の中を逃げ回り、最終的には船乗りと仲良くなった。


 今でもよく思えている、船乗りの肩に乗って海を眺めたことを―――舟が中国に到着し、わしは思い切り走りたくなり陸をとにかく走った。


 仲良くなった船乗りは、わしの走りについていけずどこかにいってしまった。そして、なんやかんやで桃源郷に着いた」


太は小さい声で「桃源郷って何?」と聞いてきたので、中国の仙人が住んでいるといわれている土地だよ、と教えてあげた。


「いや、少し省略し過ぎたな。右左右右上右左下ダッシュでジャンプ。


 くぐってくぐって登って登って降りてジャンプジャンプ。


 途中で陸亀を助け一緒に引き連れ右左左下上としたら桃源郷に到着。


 桃源郷は絵にも描けない美しい土地だった。


 そこに麗しいき仙女が現れ『私の亀を助けてくれてありがとうございます、お礼をしたいのでどうぞ私の屋敷にいらしてください』といわれ、わしは三日三晩楽しく宴会をした。


 宴会の食べ物の中に仙桃があってな、その仙桃を食べたからわしは仙人になった。ほれ雷ドーン」


「わぁ!!」


晴れた空なのにぼくの家に凄い音とともに雷が落ちて、ぼくと太は座ったままの姿勢で一緒に飛び上がった。


仙太郎じいさんはにやにやとしていた。


「わしは桃源郷で満足するまで遊び倒し、仙人のメジャーな乗り物である筋斗雲に―――何?筋斗雲を知らない?筋斗雲は雲の乗り物じゃよ。


 わしは筋斗雲に乗り日本に帰国した。


 そうそう帰国の道中でヒッチハイクをしていた者たちがいてな、確か―法師、豚、カッパ、猿の四人組で日本に観光に行きたいといっていたので筋斗雲に乗せ、今でいう香川県でその四人組を降ろした。そしてわしは京の都でーー」


「あのーそれで仙太郎おじいさんは何者なんですか?」


太が小さく手を上げた。調子良く話しをしているのに遮ってしまって申し訳なさそうな顔をしていたが太はこれだけはどうしても聞いておきたいという顔をしていた。


「わしは化け狸じゃよ」


「ごめんなさい、仕事という意味で。ママは仙太郎おじいさんをアイドルだっていっていたけど婆ちゃんは政治家って。でも姉ちゃんはバイオリニストだって」


「今はバイオリニスト。けど、二十五年前はアイドル。五十年前は政治家。わしは多趣味でな」

「それ趣味ですか!?」


太はまたすごいリアクションをした。


ぼくも昔は今の太のようなリアクションをしていたけれど、疲れてしまってリアクションをしなくなった。


だって色々と突っ込みどころが多すぎるもん。


「久しぶりに音楽をやりたくなってバイオリンを触っていたらいつの間にか世界的に有名になってしまって、


 テレビを見ていたら急にアイドルになりたくなって仲間と一緒にローラースケートで滑りながら歌って踊っていたらファンが五十万人なってしまって、


 日本の政治にちょっかい出したくなって人間を上手い具合に化かしまくってたら突然現れた政界の超新星といわれ、


 そして今にいたる」


「へぇー」


太は目をキラキラさせた。


仙太郎は太にニコリとした。


「そんなわけで、太君の家族のキヨさん美智代さん花音ちゃんによろしくいっておいてね」

といって、なぜかリビングの窓から外に出ていった。



ドロン



タヌキがものすごい勢いで庭を走り抜け、塀を飛び越え屋根を上り木に飛び移った。


思わずぼくと太は「え!」と声を上げ、太はぼくの顔を見て、


「さっきのリアルタヌキって仙太郎おじいさん?」


「そうだけど・・・・・」


「え、あれ?何で泥棒が逃げるみたいに外に飛び出たんだ?」


「わ、わかんない」


その時、ぼくのお母さんが帰ってきた。なぜだか玄関が騒がしかった。


「ポン太郎~帰ったよー」


「お母さんおかえ・・・・その人たちは何!」


玄関にたくさんの女の人がいた。年齢は若い女性からおばあちゃんまで。


「セン様!セン様!貢物です、受け取ってください!」


「あの時助けていただいた鶴でございます」


「お金をたくさん払うので五分のだけでも音楽レッスンを受けたいです!」


「十月にものバトルが開催されるんですけどそのご相談で」


「やっぱり政界にはあなたさまの力が必要なんです!」


「あ、婆ちゃん」


太がポツリと呟いた。大勢多数の中に太のお婆ちゃんがいた。


「この方たちはさっきそこで会って仲良くなったの。ポン太郎、お茶をだしてあげて。あれ、仙太郎おじいさまは?」


「外に出ていった」


とぼくがそういった瞬間、大勢の女性たちは、


「また逃げられた!」


と叫んでいた。


「みんな!さっき仲間から連絡があったわ、今度は二丁目に現れたそうよ!」


「よし、みんなで捕まえましょう!」


『おーーー!!!!』


女性たちは一致団結して、ぼくのおじいちゃんを捕まえに行った。


何人かの女性は縄や網を持っていたけど、それをどう使うのかはぼくは知らない。


ぼくのおかあさんは呑気に、


「相変わらず人気者ね、仙太郎おじいさまは」


といっていた。


ちなみに太のお婆ちゃんはバズーカみたいなものを担いでどっかいってしまった。


ぼくと太は嵐が過ぎ去った玄関で少し茫然としたあと気を取り直して、


「ねぇ、相撲でもやらない?」


「お、ポン太郎にしてはいいこというじゃん!」


ということでぼくと太は庭で日が暮れるまで相撲をした。


あとで知ったことなんだけど、週刊女性エイトで有名美人女優と密会していた謎の男・Sは複数の女性とトラブルになっていることが判明、と書かれていた。



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