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風来譚  作者: ふちのべいわき
第一章
9/18

第八話 劈掛拳

東京編


※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。

挿絵(By みてみん)




第八話

 劈掛拳



「おい磐城いわき! お前昨日そそくさとなに早退してんだよ。」

「すみません。ちょっと病院に…見舞いに行きたくて…。」

 あちらを見ても、こちらを見ても、必ず目に映る紙の束。

 それに埋もれるように各々の机に佇む社員たちは、それぞれの思案を胸に、モニターと睨み合っている。

「あと…早退じゃなく…定時上がりです…。」

 欣秀よしひでは東京のとある雑誌編集部で、バイク雑誌の編集者として働いていた。

「この前渡したヘルメットメーカーとのタイアップ企画、もうラフは描きあがってんのかよ。」

 カタカタとキーボードを叩く音の中で、欣秀は営業課のチーフに叱責される。

「いえ、まだ…。でも、その締め切りって、たしか週末って仰ってましたよね?」

「バカヤロウかお前は! 1日でも早く仕上げて先方に送った方が、評価がいいに決まってんじゃねーか!」

「…わかりました。今日中にラフを入れておきます。」

 消え入るような声で返事をしたあと、欣秀は俯きながら自分のデスクに座る。

 机の上は、ページを開いたまま積み上げられた雑誌、提携各社から送られてきた新製品の紹介資料、イベント告知のチラシ、ラフ用紙、校正用のゲラその他諸々が散乱している。さらにその上に、シャーペンに色ペン、消しカスがちりばめられていた。

 欣秀はそれらを右に左にとかきわけ、なんとか机の表面を発掘すると、そこにラフ用紙を置いて、ページのレイアウト図を描き始める…――余裕はなかった。

「磐城くん、ゴメン! こっちの隔月刊の新製品紹介ページ、ネーム書いてくれっかな! こっちの担当、風邪で寝込んじまってさ~! 至急! 今回モノクロ1ページだけだから!」

「…わかりました。」

「磐城先輩! この前言ってた電動バイクの発表会! 今日でした! 渋谷で16時! ごめんなさい! 今日、私広報車の引き上げに行かなくちゃいけなくて…! 写真とプレスリリース、もらってきてくれません!?」

「……了解ですよ。」

〝はぁあああ〟と長いため息をつき、欣秀は頭を掻きむしる。

(部下の管理ができねぇ上司に、スケジュール管理ができねぇ後輩……!)


~~


「やっと終わった…。あの広報、どんだけ喋るんだよ…しかも結局、目新しい内容はバッテリーの容量がデカくなったってだけだったし……あり得ない。」

 大して面白くない内容のプレスリリースと、ミラーレスが入った肩掛けカバンのベルトが、欣秀の肩に食い込む。

(今日はもう、病院行けないな…。ラフは入れたし、このまま直帰しちゃおう)

 タブレット端末のメッセンジャーアプリを開くと、欣秀は編集長に「直帰します」とだけメッセージを送る。

 ガラケー派だと、"すぐにメッセンジャー確認できないんですよね"と言い訳できるから、連絡を無視したい者には都合がいい。

 もちろん、近年のガラケーは、メッセンジャーを利用することもできるのだが…欣秀は内緒にしていた。

「ダメって言われても、既読になんかするもんか…。賞与なし残業代なしのブラック企業なんだから、これぐらい許されてトーゼン…。

 それにしても、あの桜井のオッサン…! なにが評価のため、だよ。営業は、編集の仕事量の多さなんかまるでわかっちゃいない! そんで営業先に得意顔すんのは、アイツなんだからなー…。」

 悪態をつきながら、欣秀は人が行き交う交差点へ差し掛かる。イライラすることは重なるもので、歩行者信号はちょうど赤になったところだった。欣秀はまた〝はぁ〟とため息をつき、腕を組んで辺りを見渡す。

「渋谷か…。」

 ほぼ年がら年じゅう、掃いて捨てるほどの群衆が歩き回っている、日本の若者文化の一大拠点・渋谷。見上げれば巨大な電光掲示板でモデルや俳優、二次元のキャラクターがなにやらくっちゃべっており、その周りをいくつものネオンサインが踊り狂っている。街の隅から隅まで所狭しと並べられた有象無象の店舗は、〝ウチが一番〟とばかりにそれぞれがそれぞれ有線放送を大音量で垂れ流し、それに人々の雑踏が加わって、もはや瞼を閉じても目が回ってしまいそうな様相を呈している。

 同じ東京とはいえ郊外方面で生まれ育った欣秀にとって、それは自分の性に合わない、近くとも遠い場所であった。

「あんまり、遊びに来たことってなかったな…。」

 せっかくだから、ちょっと呑んでから帰ろうか。

 そんな散歩欲に駆られ、欣秀はつま先を駅からセンター街へと向ける。


―小一時間後―

「どこに入ったら、いいんだ…。」

 目に映るのは、煌びやかな内装だったり、逆に陰鬱そうな外観だったりと、〝遊び慣れている人〟しか入れなそうな店ばかり。

 実際は、見た目に反してウェルカムムードな店がほとんどなのだが。いつもフランチャイズな店ばかり入る欣秀にとっては、どうにも個性が強ぎて腰が引く。

「ここまで来てチェーン店入ったんじゃ、意味ないしいなぁ…。調べてみるか。〝渋谷 流行〟と…。

 …うわ、タピオカばっかじゃないか…。」

 人通りの少なそうな路地に入り、タブレットを眺めながら歩く欣秀。不意に、壁にぶつかる。

「ったた…! 行き止まりか…ん?」

 見上げてみると、壁だと思っていたそれは…欣秀よりひとまわり大きい、ガタイの良いスキンヘッドの男だった。

「ひっごめんなさい…!」

「オイ兄ちゃん。お前がぶつかってきたせいで、俺のイチゴミルク&黒糖タピオカが、おじゃんになっちまったじゃねぇか…。」

 見ると、地面には無惨にタピオカと桃色の液体を撒き散らかした、ペットボトル容器が転がっている。

(見た目に似合わず、かわいいチョイス…。)

(じゃない! 聞いたことがあるぞ! 渋谷といえばタピオカの聖地! タピオカの街、SHIBUYA! そこでタピオカを無下に扱うことが、いかにguiltyなことか…!)

 そんな話をどこで聞いたのか。

「ごめんなさい! 弁償、しますから…!」

 欣秀は慌ててサイフを取り出そうとする。

「ただ弁償してもらうだけじゃ困るなぁ。こいつはよぉ、俺が小一時間必死に並んで手に入れた、タピオカちゃんなのよ。おめぇにわかるかぁ? 女子高生やギャルに混じって一人列に並ぶ、男の気持ちがよォ…!」

(面白そうじゃん…)

「しゅ、趣味嗜好は、人の自由かと…!」

 スキンヘッドは、欣秀につかみかかろうとする。

「慰謝料も払ってもらわねぇとなあ!」

「ひっ勘弁…!」

 欣秀はとっさに踵を返し、通路から逃げようとする…と、出口方向でまた違う男にぶつかってまう。

 よろけた男の手から、またもやプラスチック容器が落ちた。

「あーー!! 俺の黒糖ラテタピオカがー!!」

(こっちもかよ!)

 欣秀は逃げ場を失い、その場にへたり込む。

「おー、そこの旦那もタピオカを殺されたのか。なぁ兄ちゃん、こりゃあ500杯ほどご馳走してもらわねーと、気が済まねーかもなぁ? え? このタピオカスレイヤーさんよぉ。」

「そんな不名誉な称号…!」

 あとからぶつかった出口側の男…ラテタピオカの男は、しばらくわなわなとタピオカの残骸を眺めていたが、欣秀の震える声に気付くと、スキンヘッドと、欣秀を交互に見やる。

 そして「ほうほう」と顎に手を当て、頷いた。

「タピオカ殺しの兄さん、あんた、困ってる?」

 唐突に指をさされる欣秀。情けなく答える。

「え…えっ? ええまあ…。」

「んじゃこれは…人助けって形になんのかな?」

 出口側の男は欣秀をまたぎ、イチゴタピオカスキンヘッドの前へと出る。身長170㎝ほどですらりとした体格の、30代後半ぐらいの男だった。髪はオールバックで、こちらもまた荒々しい面持ちであるが。服装は、ワイシャツにスラックス、そしてネクタイと正装であった。

「…え?」

 殴られると思い目を伏せていた欣秀は、その男の行動に戸惑う。ラテタピの男はそれを気にも留めず、右手をイチゴタピの男へと突き出し、チョイチョイと指を曲げ、挑発のジェスチャーをした。

「…なんの真似だよ。」

「いや? 助けようと思って。暴漢に襲われてる兄ちゃんをさ。」

 ラテタピ男は薄ら笑いを浮かべ、おどけた声で答える。

「っ…なめんな!」

 すぐにイチゴタピは駆け出し、ラテタピの顔面へと拳を叩きつけようと振りかぶる――その瞬間。

 挑発していたラテタピの右手は、ムチのように弧を描き、一瞬のうちに、イチゴタピの顔面へ叩き下ろされる。

 男は鼻を抑え、頭を垂れる。ラテタピの男はさらに、両腕を扇の如く大きく開いたかと思うと、すぐさま、左手をピッチングフォームのように思い切り振るい、風切り音とともにイチゴタピの後頭部に叩きつけた。

 スキンヘッドの男は顔面から路地に叩きつけられ、その恵体はピクリとも動かなくなる。

「つ、つよ…。」

 欣秀はすっかり腰を抜かしてしまい、立てないでいる。

「いてて…ケガはないかい、兄ちゃん。」

 左手を押さえながら、オールバックの男は欣秀を見下ろす。

「はい…! えっと…ありがとうございます。」

「いいってことよ。それより、その礼といっちゃぁなんだが…。」

 そして手を差し出しながら、ニヤリと笑んだ。

「…はい?」

「俺と、相席バーに行ってくれねぇか。」


~・~・~


「…それが、私の後の師匠…宮野でした。」

「相席バー…というのは、なんでしょうか?」

 楓は、顔に疑問の念を浮かべる。

「あ、僕知ってるよ! たしか知らない男女が相席でお酒を呑んで、恋人作ったりするお店でしょ!」

「まぁまぁ。欣秀さん、彼女さんが欲しかったんですか?」

「私が行きたかったわけじゃないですよ!? 師匠に連れていかれただけで…!」

 ニヤニヤと笑う姉弟の視線を受け流し、欣秀は話を続ける。


~・~・~


「……全然ダメだったな………。…それにまさか、男は2時間ばかし居ただけで、2万5千円もとられるとは…。」

「…女の子が得する、システムですから…。」

 欣秀を誘ったこの男、宮野幸久みやのゆきひさは、〝渋谷で若い子と相席できる居酒屋あるよー!〟という話を聞き、正装に身を包んではるばる渋谷に来たのだが…。

 知らなかったのである。相席バーは、二人組じゃないと入れないことを。

 仕方なく、せっかく来たのだからと流行らしいタピオカを買い、路地裏を散策していたところ欣秀と激突。絡んでいた男を撃破し、見事〝人助けをした礼〟という形で、相方を手にしたところまではよかったのだが。

 席につくなりいきなり名前、年齢、趣味経歴など堅苦しい自己紹介を始めたりなど、若者ノリとは程遠い位置にある宮野の戦績は、散々な物であった。

「…んまぁ、自覚はしてるさ。俺なんかもう、ただの粗暴なおっさんで、カッコよくもなんともねぇってことはな…。」

 道玄坂の生垣そばに座り込んだ宮野は、強面のまま視線を落とす。

 欣秀は、短い時間ではあったが共に過ごしたことで、宮野が見た目ほど恐い人間ではないことをわかっていた。酒が入っているせいか、今もこうしてしおらしくしている。

「そんなことないですよ。さっき、私のこと助けてくれたじゃないですか。ビュッビュッって腕を振り回して巨漢をやっつけて。カッコよかったなぁ。」

「お? おお、そうか…カッコよかったか…。」

 宮野は少しだけ機嫌を持ち直す。カッコいいという言葉は、宮野にとって最上の誉め言葉であった。

(単純な男だ…)

「そういうお前…欣秀っていったか? お前は何で、あんなとこで絡まれてたんだよ。なんか渋谷に居そうって感じの風体でもなさそうだが。」

「それはですね…――。」


~~


「…なるほどなぁ。しかしそんな職場、お前よく耐えてんな、俺だったら、そんなムカつく上司、ぶっとばしちまうけどな。」

「いやいや、ダメですよ…クビになっちゃうじゃないですか…。」

「そうか? 俺はムカつく上司かたっぱしからぶん殴りまくってたら、いつの間にかそこそこの立場になってたけどな。」

「それ多分ヤバい企業ですよ…。」

「ま、たしかに世間一般的には、暴力を振るうのはよくないことなんだろうな。卑劣だって言う奴もいる。

 …だけど俺に言わせりゃな、いざって時、言葉ばっか達者で何も守れない奴のほうが、クズだ。俺はヘコヘコ媚びへつらうより、拳を選ぶね。」

 まるで自分のことを言われているような気がして、欣秀は皮肉めいて苦笑する。

「はは、すごいですね…そんなに自信満々に生きられたら、きっと人生も楽しいんでしょうね…。」

 この宮野という人は、きっと自分とは別種の人間なんだろう。そう区切りをつけ、欣秀はカバンを持ち腰を上げようとする。

「なんだお前その言い方は。まるで人生を投げてるような言い方だなぁ。」

 宮野は語気を強め、欣秀を呼び止めた。

「…え? いや。だって実際そうですよ。私なんて…。」

「月並みな言い方だが、やってみなくちゃわかんねぇじゃねぇか。」

 宮野は喧騒の中、星の見えない夜空を見上げ、小さく呟く。

「老師……そん時が、来たみたいだ。」

「…なんですって?」

 聞き取れなかった欣秀が耳を傾けようとすると、宮野は急に立ち上がり、「よし!」と気合を入れる。

「老師はよく言ってたさ。武術でいずれ、人を幸せにしろってな。

 お前が、〝強くなれば自信が持てる〟っていうんだったら、俺がお前を強くしてやる! お前、俺の弟子になれ!!」

「………は?」


~~


 修行の日々は、その週末から始まった。

「住宅街の公園……道場とかじゃ、ないんですね。」

「そんなもんあるわけねぇだろ、俺は武術の講師でもなんでもねーんだから。」

(じゃーなんで教える気になった…)

 欣秀は半袖ハーフパンツで、宮野はジャージ姿で、ブランコと鉄棒があるだけの、味気ない公園の土の上で向かい合っていた。

「だが、安心しな。俺はちゃんと中国に渡って、馬拳達ばけんたつ老師に拝師してる。…だからすげぇって自慢できる訳でもないんだろうが、正しい伝統に則った技は、教えられる筈だ。」

「はぁ…。」

(別に正統派だろうがそうでなかろうがどっちでも……というか、別に教えてもらわんでいいし!)

 半ば強引に修行を始めさせられた身。聞き慣れない言葉が多いこともあり、欣秀は聞き流すような形で生返事を繰り返す。

「うし! じゃあまず、立ち方からだ。そうだな、まずは馬歩まほから――」

「えっちょっと待ってください! 礼の仕方とか、そういうのから始めないんですか?」

 礼に始まり、礼に終わる。かつて父の影響で居合道を学んでいた欣秀は、武術とはそういうものであるという概念を持っていた。

「んなもん覚えたところで、強くなれねぇだろ。さ、まず立ち方からだ!」

 そのような形で、宮野の指導は徹底して、実戦・合理主義を目的とした内容で進められた。


~~


「欣秀。お前に教える武術はな、通備劈掛拳つうびへきかけんっていう中国武術だ。」

「つうび…なんですって?」

「へきかけん。ひかけんって呼び方でもいい。中国語ではPiguazhangだな。まぁ、読み方なんかどうだっていーんだよ。通備拳ってのは、北派の武術でな。理像会〝通〟、体用具〝備〟の理念にちなんで、〝通備〟って名付けられて…ああそんなのもどーだっていいか。

 とにかく、通備拳ってのは劈掛拳をベースに、八極拳はっきょくけん翻子拳ほんしけんを主に取り入れた拳法だ。そん中で、お前はまず劈掛拳を覚えろ。わかったか。」

「ぜんぜんわかりません。」

「だろうな。じゃ、まず見せてやる。」

 宮野は右腕をねじりつつ前に突き出し、そちらに背を向けてかがむ滾勒勢こんろくせいという姿勢をとる。そこから右足を踏み出しつつ、反転しながら右腕のねじれを一気に開放して弧を描かせ、遠心力を乗せた勢いで前方を斬り下ろす。

 すぐさま左手を伸ばし、胸を大きく開いた姿勢になると。伸ばし切った胸のバネを一気に収縮させる勢いで、ピッチングフォームが如く左腕で前方を斬り下ろした。

「あ、この前、助けてくれた時にやった技ですね。」

「これが劈掛拳の基本の基本、単劈手たんへきしゅって技だ。」

 このぐらいだったらネットで調べても出るだろーから、毎日家で復習するんだな。

 …文字で書いてもわかりづれーし!」

「読者に投げやりですねぇ!」

「まぁ、こんな感じで、劈掛拳ってのは腕をムチのようにぶん回す流派だ。掌の小指側で斬り下ろす〝劈〟と、親指側で大きく斬り上げる〝掛〟で、多彩な動きを作り出す。お前はこれから、これをメチャクチャ練習しろ。勿論、実戦で役立つ歩法とかもな。」


~~


「もっと足のエッジを使え! 足の外側を地面に食い込ませる意気で、思いっきり地面を押し蹴って進むんだ!

 そこの岩から、あっちの岩まで飛び移ってみろ!」

「む、ムリですよ…! 5mはある…!」

「弱音吐く暇あんなら、やってみろ!」

「くっ、もうどうとでもなれ……。ほっ!」


ガンッ


~~


「いいか欣秀。中国武術ってのはすべからく、徒手空拳だけでなく、武器術にも応用できるようにできてる。だから、これからはこうやって棒を使って、槍とか刀の練習もするぞ。」

冲捶ちゅうすいの要領で槍を突いたり、劈掛の要領で刀を振り回せばいいんですね。」

「そんな感じだ。」

「ところで師匠。師匠の棒の方が、どう考えても長い気がするんですが…。」

「目の錯覚だ。気にするな。」

「あと師匠の棒、とんがってません?」

「目の錯覚だ。いくぞ。」


ドスッ


~~


「痛っ…!」

「これが突き受けだ。相手の拳を制しつつ、こちらが殴る。」

「…もうちょっと、力抜いて殴れません…?

 わたし最近すごいんですよ…? 暴力団に毎日殴られてるって、会社で囁かれて…。

 実際は、もっと酷い人に殴られてるのに…。」

「何言ってんだ。散手さんしゅは、実戦を想定した組手だぞ。きちんと防御しないお前が悪い。…悔しいなら、ホレ。殴ってみろ。」

「…言いましたね。

 師匠、お覚悟を…!」

「ハハ、いいぞ、そうだ! どんどん前に出てこい! 滅多な事じゃ絶対下がるんじゃねぇぞ! 下がったら相手のペースだ! 前に出ろ!」

「こんの暴力しぃしょぉおオオ~~~!!」

「来いやぁ、貧弱弟子~~~!!」



~~


「ハッハッハ! 今日もお前はボロボロだな。その耐久力の高さだけは認めてやろう。」

「ハァ…ハァ……はぁ…。すみません、師匠…。せっかく(他の道場を脅迫して)他流試合を設けていただいたのに、良いところ見せられなくて…。」

「…ま、相手の方が上手だったってことだな。練習試合でよかったじゃねぇか。もっと精進しろ。」

「……私、やっぱり才能ないんでしょうか…。師匠が強いのはわかります。練習も…ガサツではありますが、間違ったことはしてないと思います…。

 なのに、私…。全然、ダメでっ…」

「おいおいなーんだお前泣いてんのか!? ハハ、上等上等!

 負けてヘラヘラしてる奴なんか、クズだ!

 才能なんかよりな、そうやって強くなりてぇって想える気持ちのがよっぽど大事なんだ! それによ…。

 才能がないやつが努力で勝ったほうが、カッコいいだろ?」


~・~・~


「…そんなこんなで、仕事の合間を見つけては師匠のとこ行って、ボコボコにされて…。

 かれこれ1年ぐらい、修行したというわけです。」

「まぁ…頑張り屋さんだったんですね。」

「たったの1年で、あそこまで動けるようになるんですか!?」

「いやいや。まだまだ形だけだよ。

 でも終始マンツーマンだったからね。学ぶスピードは速かったと思うよ。」

 蓮は興味津々といった顔で、欣秀ににじり寄ってくる。

「それで、今は辞めちゃったんですか?」

「辞めてはいないよ。旅に出るにあたって、ちょっとお暇してるだけ。」

「へ~! どうして旅に出たんですか?」

「それは…――」

 欣秀は口をつぐむ。

「こらこら、蓮ちゃん。あんまり質問攻めにしちゃあ、欣秀さんがかわいそうでしょう?

 今日はもう帰って、ご飯にしましょう? 二人とも、お腹空いてるでしょう。」

「あ~、困らせちゃってごめんなさい、磐城さん! ウチ、すぐそこですから、行きましょう! 姉ちゃんの作る料理、めっちゃ旨いんですよ~!」

「ふふ。大したものは作れませんが。腕によりをかけて、がんばっちゃいますよ~!」

「すみません…世話になります。」


~~


 清水姉弟の賃貸アパートは、こじんまりとした1DKだった。

 リビング兼ダイニングキッチンにつながって、和室が並べられている。そこは蓮の私室のようで、帰るなり蓮は着替えに入っていった。

(高野さんの部屋に比べると…。まだ飾り気があるな)

 若者が住む部屋ということで、ポスターや写真立て、ぬいぐるみにクッションなどなど…。高野だったら「いらん」と撤去するような物が、そこかしこに置いてある。しかし、しっかり者の楓がいるからだろうか、それらはきちんと整理整頓されており、ゴミも落ちていない清潔な部屋だった。

「どうぞソファに座っててください~。」

 荷物を玄関の脇にまとめると、楓は冷蔵庫を開け食材を取り出し始める。欣秀は〝汚さないように…〟と恐る恐る野宿旅で汚れた足を運びながら、二人掛けのソファに座る。

 他人の家というだけでも緊張するのに、女子の部屋。

 心を落ち着けるため、欣秀は背筋を立て、目を閉じて、ゆっくりと息を吸い、大きく吐く。

(………なんかめっちゃいい匂いしないか!?)

 気持ちを落ち着けるどころか、動揺が激しくなる。

(これも修行なのか…!)

 ぐうううと欣秀が歯を食いしばっていると、部屋着に着替えた蓮が居間に入ってくる。

「あはは、磐城さん。そんなに緊張しなくていいですよ。楽にしてください!」

 蓮はテーブルに麦茶入りのグラスを三つ置くと、ソファのはす向かいにある座布団に腰を下ろす。

「あ、かたじけない…! ごめん、私がそっち座るよ。」

「もー気にしなくていいですって! お客さんなんだから、くつろいじゃってくださいよ! …それよりも~……。」

 蓮は麦茶を一口飲むと、欣秀に近づき、小声で囁く。

「…好きなんですか? 姉ちゃんのこと。」

「ぶっ。」

 欣秀は飲もうとしていた麦茶をこぼしそうになり、慌てて手でそれを押さえる。

 料理に夢中になっている楓は、その様子に気付かない。

「…もしかして図星です?」

「そんなわけないだろう!?

 大体、おかしいじゃないか。蓮君もそうだけど、私と楓さんは今日、知り合ったばっかりなんだから…。」

「はは、たしかにおかしなハナシ。だけど、初めて会ってまだ数時間なのに、妙に仲良さそうなんですもん。

 だからかえって…って感じ? 運命の人に出会っちゃった……的な?」

「だとしたら、そうとうひねくれた運命だね…。

 違うんだ、私はただ…私は……。」

 楓に振り回されているだけなんだ、と言うのは、あまりにも不義理であった。それに少なからず、こうなって嬉しいと思ってしまっている本心も、確実にある。

「…たしかに、楓さんは魅力的な人だと思うよ。きれいだし優しいし…。ただ、だからこそ、私には不釣り合いだよ。私は無職の、放浪者なんだぜ?」

「不釣り合いかどうか、決めるのは姉ちゃんだよ。それに大丈夫、磐城さん、カッコいいから! 自信持ってよ!」

「そ、そうかな…。」

 欣秀はその言葉に弱い。

「しかしなんというか…、もし、もしもだけど、楓さんに彼氏ができたら、蓮君は寂しかったりしないの?」

 蓮にとって、楓は文字通り唯一の家族である。それがどっかの誰かの恋人になるのは、複雑な気分ではないだろうか。そんな疑問を、欣秀は投げる。

「全然。むしろ、姉ちゃんにはもっと幸せになってほしい。

 姉ちゃん、昔っから何かっていうと、僕のことばっかり優先してきたから…。僕、まだ中学生だけど、だいぶしっかりしてきたつもりなんです。だから、そろそろ姉ちゃんには、自分のことを考えてほしくて…。」

 楓にとっては、蓮の世話を焼くことこそが自分の生き甲斐であるのだから、それでもいいのだろう。

 しかし蓮もまた男で、自立心がある。いつまでも自分にかまけっきりな楓のことを、気にかけ続けているのだ。

「…優しいんだね、蓮君は。」

 あの姉にして、この弟あり、といったところか。

「えへへ。だから姉ちゃんの彼氏さんになって、あの性根を直してやってくださいよ!」

「そんなん…松岡修〇を鬱にしろっていうようなもんだけど…。」



「おまたせしましたぁ~! ごめんなさい、もっと材料があるかと思ったんですが、これぐらいしか作れなくて~。」

 話題に挙げていた本人が参上し、二人はハッと背筋を伸ばす。その前には、チャーハンとガラスープ三人前、それから大皿に盛り合わせられた大量のサラダが、次々と並べられる。

「せっかくこの港町に来てくれたんですから、名物のウニあたりを御馳走してあげたいんですが~…。」

「いえいえそんな! というかあの…私のチャーハンだけ、大盛り過ぎませんか…?」

「お客様ですから! たっぷり、食べてくださいね。」

「大丈夫ですよ磐城さん、僕のも大盛りですから。」

 たしかに蓮のものも楓よりは多いが、欣秀のものはさらにその上をいっている。

(普段小食だから、胃が縮まってるんだよな~。どうしたものか…。)

「あ、姉ちゃんソファ座っていいよ。疲れてるでしょ。」

「あらあら、ありがとう。じゃ、欣秀さん、お隣、失礼しますね~。」

「いえ、こちらこそすみません家主でもないのに…!」

 隣り合って座る二人を見て、蓮はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 欣秀の喉は、細くなるばかりであった。


~~


「へ~。じゃあ、蓮君はバスケ部なんだ。」

「はい。これでもスタメンなんですよ!」

「バスケなら、私も中学時代やってたよ。…背が伸びるって聞いてね…。」

「あはは、なんですか~その理由!」

「カワイイですね~欣秀さん。」

 会話を交わしつつも、欣秀は目の前のチャーハンの山に神経を集中する。

(量が…減らねえ…!)

 幸い、味は絶品級で、刻んだソーセージが入っているなど、家庭らしいアレンジも効いているが。

(楓さんは、多分、"どんどん食べな"って勝手にご飯よそってくれる、おばあちゃんになりそうだな…)

「磐城さん。岩手では、他にどんなところに行ったんですか?」

 意図してかしないでか、箸休めできるフォローに欣秀は思わず笑む。

「んっと…そうだね…。」

 ミラーレスの写真を姉弟と見返しながら、道程をなぞってみた。


「はじめは、武道の神様ってことで…達谷窟毘沙門堂たっこくいわやびしゃもんどうに行ったね。

 洞窟にお堂が組み込まれた、懸崖造りっていうとこで…。

 近くに、カップルで行くと嫉妬されて、不幸になるっていう弁財天があったりしてさ…。面白いとこだったよ。」

「まぁ。私は行けないかもですね~。」

「そうそう、その近くに、ポットホールとかがいっぱいある厳美渓ってキレイな渓流があるんだけど…。

 そこの団子がとっても美味かった!」


「キレイなとこっていえば、龍泉洞。日本三大鍾乳洞の一つでさ。

 地底湖の透明度が凄くてさ…。底まで何mもあるのに、底が見えそうだから…感覚がおかしくなりそうで。吸い込まれそうな魅力があったなー。

 あと、そこのドラゴンラーメンも! ピリ辛で魅力的だった!」


「そっから少し進むとね、道の駅 三田貝分校ってところがあるんだけど。名前のとおり、廃校を利用した駅舎で。懐かしい机とか椅子があってさー。

 そこのあげパンがおいしかった!」


「あはは。なんといいますか…。たくさん食べられたんですね~。」

 楓が苦笑する。

「ふだん、味気ないものばっかり食べてますからね…。」

 とはいえ、納豆飯自体は好きだから、毎晩食べられているのだが。

「あ! このチャーハンも、記憶に残る一皿になりますよ!」

「まぁ。思い出に残るようでしたら、嬉しいです~。」

 はちきれそうになりながら食べきったという、思い出になりそうであった。

 蓮は写真を見ながら、目を輝かせる。

「いいな~。僕も将来、旅人になろうかな~。」

「進路相談で苦労したくないなら、止めといたほうがいいよ…。」

「旅行になんて、連れて行ってあげたことないものねぇ。

 蓮ちゃん。なかなか時間をつくれなくて、ごめんね。」

 頬に手を添える楓に、蓮があわてて声をかける。

「あっ、そんなんで言ったんじゃないって姉ちゃん! 僕は現状で満足!

 もう少ししたら、僕もバイトできるようになるからさ。そうしたらもっと、余裕でてくるよ。」

「蓮ちゃん…。」

 互いを想い合う、良い姉弟愛だった。

(そしてそこに転がり込んでいる私…肩身がせめぇ…!)


「そういえば蓮ちゃん、明日は部活あるの?」

「ううん! 休み! だから姉ちゃんの手伝い、いけるよ!」

「あら。助かるわ。」

「あれ。蓮君も、シオサイで働いてるんです?」

「いえ。明日は、ちょっとしたイベントがあるんです。欣秀さんにも、先ほどお話しましたよね。私がそうだったように、ここには、向こうだったり、他の地域から移動して来た方々がいらっしゃるって。

 みんな、ここの方々にたくさんお世話になってます。だから、それぞれの特産品などを持ち寄って、交流会をすることになったんです!」

「実は企画したの、姉ちゃんなんですよ。」

「へぇ~、それはすごい。」

 口には出していないが、単なる御礼のためのイベントではなく、互いに理解し合って、軋轢をなくそう…という目的もあるのだろう。

 抜けているような言動だが、しっかりと現状を受け止め、それを改善する策を考えている。欣秀は改めて、"しっかり者なのだな"と感心する。

「あれ。すみません。楓さんって、今おいくつなんですか?」

「今年で24ですね~。えへへ、大学とか通ってないので、見た目だけですが~。」

(思いっきり年下じゃねーか!!)

 大学に通っていないとか、そういうことは関係ない。欣秀は年下の娘のほうがしっかり生きていること、そしてその娘に甘やかされている現状に、悶える。

「そうだ。磐城さんにも、参加してもらおーよ、交流会。」

「そうねぇ。欣秀さんにも、せっかくでしたら楽しんでいただきたいです。

 ただ、午後まで開催するイベントなので、欣秀さんのお時間が~…。」

「だいじょぶ、磐城さんには、もう一泊ぐらいしてもらおーよ!」

「ん"ん"っ!?」

 危うく、欣秀の満腹の腹が暴走しそうになる。

「う~ん、私はもちろん、大丈夫なんですが…。欣秀さんは、お忙しいですよね…?」

 恐らく、今、人生で一番忙しさとは無縁の生活を送っている。

「だいじょぶ! 予定なんかないでしょ!

 蓮が、自信満々に声を上げた。

「だって、旅人だもん!」

(ぐ…ないよ…。ないけどもさ…。)

 どうも欣秀は、蓮にあらぬ期待をかけられてしまっているようである。

 楓は困ったような、寂しいような顔で、欣秀の顔を覗いた。

(まぁ…変なハナシ、それに付き合うことが、恩返しになるなら…)

「…わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて……もう一日だけ、厄介になります。」

「やった~!」

 諸手で喜ぶ蓮。

「ただ、世話になりっぱなしも申し訳ないので。何かできることがあったら、遠慮なく言ってくださいね。」

「いいんですよ。ゆっくりしてってください。うふふ。明日も、賑やかにお食事できそうですね。」

「あっ、あとご飯は、並盛でいいですからね!? さすがに、申し訳なくって…。」

「ダメですよ~、しっかり食べなきゃ。今が育ちざかりなんですから~。」

(むん…!)

 姉弟の厚意が厚すぎて、涙目になってしまう欣秀だった。


~~


 その後シャワーをいただいた欣秀が、姉弟といろいろと話し込んでいると。すっかり夜は更け、時刻は22時を過ぎていた。

「そろそろ、寝ないとですね。蓮ちゃん、お布団敷きますよ~。」

「うん。磐城さんは、居間で姉ちゃんと一緒でいいよね。ソファどかさないと…。」

「そうだね……。いや、違う!」

 欣秀は蓮の両肩をぐわしと掴み、顔を近づけ小声で訴える。

「蓮君…? わかるよね。楓さんは女性。私は男! こういう場合、私と一緒に寝るのはき・み!!」

 蓮も負けじと、顔を近づけて反論する。

「なに言ってんですか! 寝る直前の時間って、何故だか話が盛り上がっちゃうもんですよ! 僕知ってます! ぴろーとーくっていうんでしょ!」

「それ絶対わかってないよね。」

 欣秀は、若干の涙を浮かべて懇願する。

「頼む! 君と一緒に寝かせてくれ! 君と寝たいんだ! じゃないと、私はもう…もう! どうにかなってしまうよ!!」

「よ、欣秀さん…?」

 唐突なホモ発言に、楓は困惑する。

「その…蓮ちゃんにはまだ、手を出さないでください…。」

("まだ"ってなんだよ…)

 嫌な勘違いをされる。

「いや~~~、僕の部屋汚れてるしぃ…。若者のプライベートを晒すのって、なんだか勇気がいるなぁ~~。」

 欣秀の叫び、届かず。蓮の返事は、冷ややかなものだった。

「うふふ。そうですね。蓮ちゃんももう、思春期ですものねぇ。欣秀さん、一緒の部屋で寝ましょうか。」

「き、キッチンの方の、フローリングでもいいですか! 私、寝袋あれば寝られるんで…!」

「ダメです! 風邪ひいちゃいますよ~!」

(ああああああ)


~小一時間後~


(早く寝よう…早く…。いや、もう寝るとかいう生命活動の概念すら、捨て去ってしまえ…。私は石、石だ…何故だか女性の寝室の隅に転がっている、ちょっと大きいただの人型の石………。)

 楓の横に並べられた布団で、欣秀は指一つ動かさず仮死状態となっている。

「…欣秀さん?」

「…………。」

「…もう、寝ちゃいましたか?」

「……………起きてます。」

「うふふ。そうですよね。慣れない布団ですものね。」

 普段はテントとシュラフ、薄手のマット越しに、地面の上で寝ている身。そんな欣秀からしたら、フカフカの布団は殺人的な快適さだった。寝られないわけがない。

 …それなのに意識を飛ばせないのは、他ならぬ楓のせいである。

「楓さんも、眠れないんですか? …まぁ、当然ですよね。素性の知れない男が、隣で寝てるんですから。恐いですよね。」

「ふふ。まぁ、緊張はしちゃいますね。恐くはないですが。」

「……あの、楓さん。一つ聞いていいですか。」

「はい。なんでしょう。」

「…どうして私に、ここまでしてくれるんですか。水族館を案内してくれたり、料理を作ってくれたり、泊めてくれたり…。」

「…そうですねぇ。かわいかったからですかねぇ。」

「…かわいかった?」

「ああ、ごめんなさい。お気に障りましたか?」

「いや。ただ……どうせならカッコいいって言ってもらいたかったな、なんて。」

「まぁまぁ。うふふ。」

 暗闇の寝室の中に、クスクスという声と、衣擦れが小さく響く。見えなくとも、目を細めて笑う楓が想像できた。

「…ごめんなさいね。でも、汗だくになりながらも、大きな荷物を背負って頑張って、アイスクリームを必死に食べて生き延びようとしてる欣秀さんが、なんだかかわいく見えちゃって…。

 いえ、かわいいって言うから変なんですね。えーと…愛らしいって言うんでしょうか。辛いながらも、目標に向かってひたむきに頑張る姿を見ると、褒めてあげたくなる、と言いますか…。」

「はぁ…。」

 確かにあの時の自分は必死だったと、欣秀は気恥ずかしくなる。

「それに、せっかく来てくれた旅人さんを、おもてなししたいって気持ちもあったので…。だから、水族館をご紹介させていただいたんです。

 ……はじめは、それだけのつもりだったんですよ? でも、お話をしているうちに、優しい人なんだなって思って。…私はほら。いつも、この性格を直したほうが良いって、言われますので~。

 それでいいんじゃないか、って仰ってくださった欣秀さんに、感謝したくなっちゃったんです。

 だから、いろいろと…。あはは、結局、いつもの甘やかし癖なんですかねー…。」

「…。」

 そう。大丈夫だ。

 欣秀は、自己に言い聞かせる。

(私は、楓さんのよくわからない欲求を発散させているだけ)

 そこに、特別な感情なんてない。

「………。」

「寝ましょう、楓さん。明日に響いちゃいますよ。」

「…そうですね。

 おやすみなさい、欣秀さん。」



ビジュアルノベルにしたものを作ってみました↓

https://freegame-mugen.jp/adventure/game_12487.html

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