第七話 いつくしまれて
岩手編
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
〝宮野師匠
お世話になっております。磐城です。
御息災でおられますでしょうか。また、人を殴ったりしてないでしょうか。殴ったりしていた場合は、私まで巻き込まないでくださいね。
私は今、岩手の北山崎ってところにいます。〝岩手〟の名を体現するかの如き、厳格かつ力強い岩壁の姿を拝見して、いつも力任せに生きている師匠はどうしているだろうか、と思い立ち、ご連絡差し上げたしだいでございます。
旅はなにかと生傷が絶えませんが、順調なもので、心優しい人も多く―
(略)(略)
ところで、師匠に一つ質問があります。師匠は、複数の相手と対峙した際は、どのような工夫をしてらっしゃいますか? 以前、3人組の男相手に手も足も出なかったことがあり、ご教示願いたいしだいでございます。
それはもうボコボコにされてしまいまして。もうあんな痛い想いはしたくないです。どうぞよろしくお願いいたします―〟
「…これでよし、と。」
岩手県沿岸部の景勝地・北山崎の手すりにもたれかかり、欣秀はタブレットでメールを送信する。延々と崖に打ち付ける波の来る先を見てみれば、もう夕暮れの闇が差し迫ってきている。
岩手入りしてから一週間。欣秀は岩手の名所を巡りつつ、のんびりと北上を続けていた。当たり前のことだが、土地の景色は移動を重ねれば重ねるほど変わっていくもの。
東京から600㎞ほども離れたこの地まで来てみれば、欣秀の目を奪う景色が辺りには溢れかえっていた。それらのためにいちいち立ち止まってしまったので、案外時間がかかってしまった旅路である。
「そんな岩手も、もうすぐ終わりだな…。」
国道45号を上り続ければ、青森はすぐ目の前になる。きっとその先には、更に欣秀の想像を超えるものがあるのだろうが。長く滞在した岩手県とさよならするのに、いささか寂しさも覚えるのであった。
第七話
いつくしまれて
―翌日―
「あっつい………!」
岩手最後の思い出にと、欣秀は青森の手前にある港町を散策する。県の端とはいえ漁港のほか線路も通っており、その駅の周りにはスーパーやホテル、食事処があったりと、そこそこ人通りのある町である。
「もう13時になる…のに、あんまり腹減ってないなぁ……。暑い…。」
6月。季節はもう初夏である。ところどころ肌が見える欣秀の道着は、一見風通しがよく涼しそう…なのだが、意外とその生地は通気性が悪い。剣道用のものと比べ居合道用は薄手なのだが、それが肌に貼り付いては不快感が増すばかり。おまけにその色は黒一色であるため、日光を集めに集めて、欣秀の息を上がらせる。
脱いだ羽織を腕に引っ掛け、欣秀はヘトヘトになりながら休憩できる場所を探す。
「……! あ、アイスクリーム…!」
駅まわりをグルリと一周して西口の通りを歩む欣秀の前に、〝アイスクリームはじめました〟という、爽やかな青に彩られた旗がひらめく。見たところ洒落た喫茶店のようで、満足な食事は摂れないかもしれないが。
「もうここにしよう! 入っちゃおう! 死ぬ…!」
バー&ダイニング『SHIOSAI』なる店舗に、欣秀は這い寄っていく。
ガラス張りの店舗入り口からは、白い内壁と木製のバーカウンターに、暖色を灯すいくつかのシーリングライト…と、いかにも〝シャレた人間が休日に立ち寄る〟ような雰囲気が垣間見える。
が、今の欣秀に狼狽する余裕はなかった。ドアを開け、なだれ込むように欣秀は入店する。
「いらっしゃいませー!」
カウンターの向こうで手を動かしていた40代ほどのオーナー夫婦が、オシャレとは程遠い欣秀を笑顔で迎えてくれる。平日で、変な時間だからか他の客はいない。
「お、お邪魔します…!」
欣秀は日光から逃げるよう、縦長の店舗の最奥、L字カウンターの端っこの席に座る。
「カエデちゃーん、おしぼりとお冷出したげてー」
メガネをかけたオーナーが、柔和な笑顔で、暖簾で仕切られた厨房の方へ声をかける。すぐに「はぁーい」とおっとりした声が返ってくると、ほどなくして若い女性が暖簾から顔を出す。
「いらっしゃいませ~。まぁ、すごい汗ですね!」
(うお…)
目の前に――天使が現れた。
(めっちゃ美人だな…)
まるで慈母のような暖かい眼差しを持つ、目尻の下がった瞳。触れたら震えそうな厚みを持ちながらも、気品の漂う小さな唇。こけすぎず、肥え過ぎずの豊かな顔が動くたび、一本に束ねられた栗色の長髪が、まるで紐暖簾のようにサラサラと動く。…あとついでに細身なぶん、胸元の膨らみが…
要約すれば、欣秀好みな女性が、そこには立っていた。
(そういえばここ最近、出る人物出る人物……野郎ばっかりだったからなぁ…)
そんな(欣秀にとっての)天使が、すべすべとしたその指を以て、恵みの冷水を渡してくれている。
「? どうしました? もしかして、お気分悪いですか?」
「あっいえ! 全然! むしろおかげさま(?)で元気元気! ベリーファイントゥーマッチです!」
欣秀はグラスを受け取ると、注がれていた水を一気に飲み干す。
「まぁまぁ、ほんとにお元気なんですね。ご注文はいかがいたしますか?」
「アイスクリーム、お願いしますッ…!」
かわいらしい注文である。
「かしこまりましたぁ。少々、お待ちくださいね!」
天使は、再び厨房へと姿を消す。欣秀は意味もなく、お手拭きで手を拭きまくる。
「カワイイでしょ、ウチの看板娘。」
欣秀の様子を見て察したのか、オーナーがそれを茶化す。欣秀は、もはや照れ隠しなんてしない。
「ええ…。まったく! おキレイな方ですね!」
背筋を伸ばし、堂々と答える。その潔すぎる態度に、オーナー婦人がぶっと吹き出す。
「そうだろ。あの子は気遣いもできてね。カエデが来てから、ちょっとだけ客足も伸びてきたぐらいなんだよ。特に会社終わりの時間なんかは、カウンターが埋まっちまうこともあってさ…。…お兄さん、競争率は高いよ?」
ショートカットでどこか男勝りな口調の婦人は、目を細めて欣秀をからかう。
「なんと…それはざんね……―あ、いえいえ。」
危うく、欣秀は自分の立場を忘れるところだった。
「私、旅人ですので。色恋を、しとる場合ではござらん…。」
格好をつけて、今度は堂々と虚偽を言う。
たしかに恋人づくりなんかしている余裕はないが、美人と時を忘れ話し込むぐらいはしたい……。そんな願望も、胸中にはあった。
「へェー若いのに立派なもんだねぇ。でもさ、茶ぐらいは誘ってみてもいーんじゃないかい? 青春なんて、あっという間だよ~。」
「いえいえ若いからこそ、修行をですね…!」
ニヤニヤと茶化すオーナーを、欣秀はむううと横目で睨む。
(そんなこと言ったって、どっちみちまぁ無理ですよ。普通の生活ならともかく…今の私の、こんな恰好では…)
欣秀が諦観のため息をついていると、「おまたせしました~」と渦中の人が戻ってくる。運ばれてきたガラスの器には、アイスクリームだけでなく、棒型のチョコレート菓子やトッピングシュガーもふりかけられており、カフェらしい、他とはちょっぴり一線を画した一品が載っていた。
「おお…かわいらしい。」
欣秀は手をつける前に、ミラーレスでその小洒落たアイスクリームを写真に収める。
「まぁ、カメラマンさんなんですか?」
「旅人なんだってよ。よくこの町に来てくれたもんだよねぇ。」
「へぇー! スゴいですねぇ!」
美人に褒められ、欣秀の口許は緩む。それを隠すようスプーンをとり、涼を一気に口の中へに掻き込んだ。
「っっっくあぁ! 生き返る~~!!」
頭がキンとするが、それ以上に全身に広がる冷たさが心地いい。
「うふふ。ありがとうございます。あ、旅人さん、ちょっと動かないでくださいね。」
カエデと呼ばれる娘はハンカチを取り出し、欣秀の口の脇についていたクリームを拭う。
「~~~!」
「はい、いいですよ。ふふ。カワイイ旅人さんですね!」
クールダウンした筈の欣秀の顔が、一気に熱を帯び始める。様子を眺めていた夫婦は目を細め、腹の立つ笑顔で声を上げず笑っている。
(これじゃまるで……キャバクラじゃないの…)
こういう時こそ冷静に。欣秀はギクシャクと居住まいを正す。
「し、失礼しました…お見苦しいものを。」
「いえいえ~。お気になさらず。旅人さん、このへんはもう見て回りましたか?」
「いえ。まだそんなには…。」
「そんなに見て面白いもん、ないでしょ! あはは。」
オーナーは苦笑しながら、会話に混ざってくる。
「シャッター下ろしてる店も多いしさ。色んな街を見てきた旅人さんからすりゃ、田舎だろう?」
「その町で店を開きたいって言ったのは、どこの旦那なんだか。」
グラスを磨きながら、婦人はあきれたように横目でオーナーを眺める。
「あっはっは。失敬失敬。まぁさ、都会には劣るかもしれないけど。海も山も川もあって。のんびりしたとこでしょ? ここはさ。」
「そうですね。正直、私はそっちのが好きかもしれないです。巡ってて楽しいとこですよ。じゃなきゃ、こんな汗だくになるまで歩きません。」
東京で暮らしてきた欣秀にとっては、角ばったコンクリートジャングル、籠る熱気、静寂を知らぬ喧騒で出来上がる〝都会〟は、辟易とする対象なだけであった。
ここまで来てそんな場所に出くわしたら、それこそスルーされたであろう。
「うーん。でも、せっかく来たなら、面白い場所にも行きたいですよね。道の駅に飾られてる、秋祭りの山車とかはどうでしょう?」
「琥珀見たってしょうがないしねぇ~。」
「…アンタ、この前の誕生日に贈ったネクタイピン、琥珀を使ってた筈だけど?」
「えっ、そ、そうだっけ…。あははは…。」
仕事そっちのけで、自分のために話題を展開してくれている。そんなのんびりとした時間に微笑みながら、欣秀はアイスをすくい続ける。
「あ! それなら私、『もぐらんど』をオススメしますよ~!」
そんななか挙手をしたのは、カエデだった。
「もぐ…らんど?」
「ええ。近くにある、水族館です。マイナーですが、水槽のトンネルがあったりして、キレイなんですよ~。」
「水族館か…。」
水族館見学は、欣秀にとって決して悪い案ではないのだが。
(くっユウトめ…!)
福島でユウトに言われた、〝女の子と行ってるんでしょ?〟という言葉が、脳裏でフラッシュバックする。
どうにも、一人で行くのが惨めに思えてしまった。
顎に手を当て考えあぐねた末に、ふと欣秀は、先ほどのオーナーの発言を思い出す。
(旅の恥は掻き捨て、だな…)
「いやぁ、一人で行くのは、寂しいんで止めときますよ~。お嬢さんが付き添ってくれるなら、行ってみてもいいですが!」
冗談めくように笑いながら、だが胸の底は震えながら、欣秀は言ってみる。なんの捻りもない誘い方だが、欣秀にとっては精一杯もいいとこだ。
「いいですよ!」
和気あいあいとしていた雰囲気が、一瞬、凍り付いたと錯覚してしまう。
やっちまった感。
平静を装うように、欣秀はカウンターにあったピッチャーを手に取り、グラスに水を注ぐ。
「な~んつったりしちゃったりしてね…あはは。」
「…行かないんですか?」
「………えっ。」
「一緒に行かないんですか? もぐらんど…。」
欣秀は恥を隠すのに夢中で、カエデの返答を聞き逃していた。
「…は? …え?」
ピッチャーから注がれる水が、グラスから溢れ始める。
「おー! よかったな旅人の兄さん! カエデちゃん、今日はお客さんもいないし、もう上がっていいよ!」
「いえいえそんな。夕方までは~…。」
「旅人さんを待たせちゃ悪いだろう? 夕方までは忙しくないから、いいさ。」
「えぇ…!?」
「あそこにはバス行かないから、タクシー呼んであげるよ! はい、これお祝い(?)に運賃!」
「え!!」
「行ってきな。フルタイムで計上しといてあげるから。」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきますね!」
「えぇーーーーッ!?」
「旅人さん…少し落ち着きなや。」
~~
〝デッカいバイクで客引きになるから〟とのオーナーの厚意で、道の駅に停めてあったロケットⅢを店の軒先に移し、バックパックと刀も置かせていただいたあと。
欣秀と清水 楓は、タクシーに乗り込む。
「もぐらんどまで、お願いします~。」
「承知しましたー。」
マニュアルトランスミッションに揺れる車体の後部座席で、男女二人が並んでいる。片や強張った表情で、片や笑顔のルンルン気分で。
(なんだこの状況…)
欣秀は仏頂面のまま、グルグルと脳を高速回転させる。
(落ち着け…冷静になれ。こんなときは、前回までのあらすじだ)
(私、社会人浪人の磐城欣秀は、神奈川から旅に出て―
埼玉でボコボコにされ、茨城でボコボコにされ―ダメだ、長すぎる! あと思い出したくない過去多すぎィ!)
人間、願望が叶った時は浮き足立って仕方ないものだと思われがちだが、実際それを目前にしたときは、むしろ狼狽してしまうものである。
「欣秀さん…大丈夫ですか? なんだかとっても難しそうなお顔ですが…。」
胸に手を当て、楓は心配そうに欣秀の顔を覗き込む。
(近いわッ! あとその胸に手を当てないでッ!)
「い、いえ。毎日、バイクに乗ってる生活なんで…。車なんて久しぶりで、なんか変な感じだなー…なんて。」
「あらあら。酔っちゃいましたか? 私、お薬持ってますよ?」
「いえ大丈夫です! お気になさらず! ………大丈夫ですから! 顔、覗き込まんでください! ほんとだいじょぶですからッ!」
~~
タクシーは街を横切る河川沿いに進み、やがて沿岸部に出る。港湾の北部は造船所や石油備蓄基地のある工場地帯となっており、その道路を隔てたすぐそばに〝もぐらんど〟はあった。
「なんというか…本当に、ちっちゃいですね…。」
もぐらんどは4階建ての六角柱が二つ並んだような外観となっていて、その規模は東京で見られる小型のテナントビル2棟ぐらいといったものだった。
「うふふ。確かにここから見ると、小さすぎますね。
でも、ところがどっこい! なんですよ。さぁ、行きましょう。」
「あ、はい! ま、参りましょう…。」
軽い足取りで進む楓を追い、欣秀はギクシャクとした足取りで玄関ホールへと入る。
「大人二枚、お願いします~。」
「あ、ここは私が…!」
「いえいえ、旅人さんはおもてなしされる側なんですから。ここは私に払わせてください。」
「ダメです! それは! 断じて! お願いします、ここは私に…!」
(ここで財布を出させたら、男が廃る…!)
欣秀はまるで自分に言い聞かせるかのような語気で、少ない千円札を二枚引き出す。
「まぁまぁ。では、お言葉に甘えましょうか。」
受付の女性に入館料を支払い、二人はチケットを受け取る。
「あら、楓ちゃん。また来てくれたのね~。今日はカップルかしら。」
「カッ…!」
(ップル…に見えるのかなぁ…!?
…仮にカップルだとしても、片方こんな格好してるカップルやべぇんじゃねぇかなぁ…)
「うふふ。お誘いされちゃったんですよ~。」
「ちょっと…!」
確かにその通りなのだが、そう言われてはまるでナンパをしたようである。いや、形式上そうなのだが。
ふふふと女子二人が笑い合っていると、受付の隅で作業をしていたもう一人の若い女性が、冷ややかな視線をこちらに投げかけてくる。
「いーですね、避難民さんは。ヒマそうで。」
長髪で切れ長の目を持つ、楓とは正反対の涼し気な魅力をもつ女性は、同じく楓とは正反対の、まるで侮蔑するような、挑発的な声音で話す。
「ちょっと菊池さん!」
「いいんですいいんです。さ、欣秀さん。行きましょうか〜」
「あ、はい…。」
急に敵意を向けてきた女性が気になりつつも、楓に促され、水族館の奥へと歩いて行く。
そう、奥へと。
「うお…すっげぇ…!」
分厚い防潮扉の先に。巨大な地下通路があった。
「じゃじゃーん! 驚きましたか? もぐらんどは、日本で唯一の地下水族館なんですよー! だから見た目以上に、けっこう広いんです!」
楓は両手を広げ、まるで幼児でも相手にするかのように欣秀を案内する。その様子に苦笑しつつも、目の前の施設構造に感銘を受ける欣秀。
展示は魚ではなく、石油備蓄やトンネル掘削に関する解説から始まっていた。
ここは国の石油備蓄基地の一つであり、それが地下に保存する様式であること、それはどのように成されていて、いつ、どのように使われるのか。
近年の消費エネルギーの変遷や、トンネル掘削の歴史…などなど、100mほどにわたって解説板が並んでいる。
「日本最初の有料トンネルは、大分の青の洞門なのか…。」
楓に申し訳ないと思いつつも、欣秀はついつい立ち止まりながら、ゆっくりとトンネルを歩いて行く。
その最奥から、さらに横へと通路は続く。魚の展示は、そこから始まっていた。
「見てください! 海女さんの、衣装ですよ~! カッコいいですねぇ。練習すれば、私にもできるんでしょうか? 素潜り…。」
『ふるさとの海水槽』と名付けられた看板のそばに、名物らしい素潜りをして貝や海藻を獲る、海女の装備が展示されている。楓は何度も足を運んでいるようで、「これをかぶって、この重い靴を履いて…―寒い日は、セーターを着るんですよ」と、一つひとつ解説してくれる。水槽の中の魚たちについても、同ように紹介してくれた。
「うふふ、ここの解説板は、地元の子供たちがつくってくれてるんですよ。かわいいですよね~。
あれがダイナンギンポで、あれがヒガンフグで、あれがババガレイ…。」
「あっアイナメですよね!」
「あら! 正解です! すごいですね!」
「はは、いえそれほどでも…(このまえ食べたからな…)」
対話を楽しみながら、展示の紹介をしてくれる。欣秀にとっては、入館料を引き受けただけの価値がある、願ってもないガイドである。
―のだが。
「ご褒美に、頭撫でてあげましょーか!」
「は? いやいや!」
~~
「ヒトデさん、じょーずに触れましたか? ハイ、ハンカチです!」
「すぐ乾きますから!」
~~
「このクラゲさんゾーンは暗いので、手をつなぎましょっか。」
「一人で歩けますから!」
~~
「上の方の水槽、見れますか? 高い高いしてあげましょうか!」
「やれるもんならやってみてくださいよ!」
出逢った時から思っていたことだが、楓の言動は、まるで幼稚園児に対するそれであった。
「あのッ…私、そんなガキに見えます?」
「ああ~………いえいえ。そういう訳ではないんです。ごめんなさい。よく言われるんですが…。」
楓は笑いつつも、両手を合わせて申し訳なさそうに謝る。どうやら馬鹿にされている訳ではなさそうである。
「ごめんなさい。なんといいますか、私…人のお世話を焼くのがちょっと好きでして…。」
「ちょっとではないでしょ。」
「私、少し前まで児童養護施設にいまして…その影響でしょうか。…というのも私自身、そこ出身でして。」
思いがけず複雑そうな話が飛び出てきて、欣秀は背筋を伸ばす。
「そうだったんですか…それは、申し訳ないことを聞いて―」
「気にしないでください。私も、全然気にしてないですから。」
事実、まったく気にしてないというように、楓は笑顔のまま話を続ける。
「施設に入ったのは、私が10歳の時でした。朝起きたら、お母さんもお父さんもいなくて…。
残されていたのは、1歳になったばかりの弟だけだったんです。弟にミルクをあげながら何日か過ごしたんですが、二人は帰ってこなくて…。それを見かねた近所のおばさんが、施設を紹介してくれたんです。」
話を聞きながら館内を進んでいくと、やがて頭上と両脇を魚たちが泳ぐ、もぐらんど目玉のトンネル水槽へと差し掛かる。
「あっここですここです! 欣秀さんにぜひ見ていただきたかったの!」
トンネル水槽の上に設置された照明が、水槽の中の水流に乱反射し、頭上にはキラキラとした光の波が揺らめいている。床ではその波が作り出す影が複雑に動いており、短い奥行きではあったものの、神秘的な青の空間がそこには広がっていた。
「ふふ。かめ吉くん、今日も元気そうですね~。」
水槽には魚だけでなく、かめ吉と名付けられたアオウミガメ(雌)も泳いでいる。それが頭上を通ると、楓の顔に影が落ちる。
楓はトンネルにもたれかかり、再び話し始めた。
「両親のことは、今は恨んでいません。きっと、何か止むを得ない理由があったんだと思います。
ただ、お母さんの温もりを知らないで育つ弟は、可哀そうで仕方ありませんでした。だからせめて、私があの子のお母さんになってあげようって思ったんです。」
物心のついていなかった弟は、ある意味ではまだ幸せだったのかもしれない。
つい昨日まで一緒に暮らしていた両親が、急に姿を消す――。そんな体験は、10歳の少女にいったいどれだけの恐怖を与えただろうか。
しかしそれに押しつぶされないよう、楓は弟を守ってきた。
先ほどまでは正直〝変わった娘〟と認識していた欣秀だったが、しだいに尊敬の念を抱く。
「あの子が不安にならないよう、たっくさん甘やかしてあげよう~!って接してたんですけどね。気付いたら、それが癖になっちゃったみたいで。弟にも注意されるんですけどね~。
だからか、今度は施設に居た子の面倒も見てあげたくなっちゃって…。ふふ、ごめんなさい。気持ち悪いですよね。さっきの欣秀さんみたいにドン引きされたことも、もう数えきれないほどあります。」
「いやそんな…。ドン引きどころか…羞恥プレイでした…。」
しかし考え物だとは思うものの、拒絶反応を起こすほどではない。欣秀はなんとか、励ましの言葉を探す。
「多分、人を甘やかしたくなっちゃう…っていうのは、人の笑顔が見たいってことですよね。笑顔を見て自分も満足できる…っていうのは、楓さんが優しい証拠ですよ。
だからまぁ……その…そう気を落とさんでください。」
笑顔だの優しいだの、日常ではあまり使わない言葉を言いながら恥ずかしくなり、ボリュームダウンしながらの励ましとなる。が、楓は目を細くして笑ってくれる。
「まぁ、まぁ。嬉しいことを言っていただけるんですね。欣秀さんは。」
青い光を浴びながら微笑むその姿に、欣秀は息を呑む。
楓という女性は、馬鹿馬鹿しくなるほど本当に、心の根っこから純粋な娘であった。
「お礼に、頭なでなでしてあげます~。」
「それは勘弁してください。」
~~
もぐらんどの玄関を出て、二人は木の葉の下でタクシーを待つ。
「どうですか? 楽しんでいただけましたか?」
「はい。優秀なガイドさんのおかげで、とてもためになる時間を過ごせました。」
「ふふ、欣秀さん。マジメなんですね。弟とよく似ています。」
「ほー、弟さんはデキる子なんですか。」
「ええ。まだ遊びたい盛りの中学生なのに、家事とか進んでやってくれて。とってもいい子です。…でも、ちょっぴり寂しいですね~。」
世話好きな楓にとって、もっとも世話を焼きたい唯一の家族が独り立ちしていくのは、嬉しい反面、残念なことでもある。
「わかってるつもりなんですけどね。過保護はよくない!って。施設の他の方からも言われたんですが~…。
…でもやっぱり、どんな子だって、甘えたい時期はあると思うんです。そういう、甘えられる時にたっくさん甘やかしてあげないと、いつか、その子が大きくなったとき、誰かを甘えさせられないんじゃないかな、って…。」
「なるほど…一理あるかもですね。」
自分まで甘やかされるのは、反対だったが。
「欣秀さんは、お母さんにたくさん甘えましたか?」
「そうですね~…。」
欣秀の視線が、少し下がる。
「甘えられたか…は、正直わかんないです。でも、大好きでしたね。…はい。
多分、母が居たから、私は非行に走ったりしないのかも。…あはは、私、案外マザコンかもですね。」
曖昧な回答に、楓は不思議そうな視線を送る。
「ああ、えっと。まぁ要するに、ですね。母親の愛…てやつは、大事だと思います。生まれて初めて受けるのが、それですからね。それを知らない人が、誰かを愛することなんてできない…なんて、月並みな言い方ですかね…――って、うおお!?」
妙な鳥肌を感じ、視線を上げ楓の方を見た欣秀の目に映ったのは。木の枝から垂れ下がり揺れる縄…否、ヘビであった。
「ほあちゃぁー!」
きょとんとする楓をよそに、欣秀は一瞬にして腕を振るってヘビを薙ぎ払う。ヘビ嫌いではあるが、美人を前に弱音は吐けない。
「まぁ、ヘビさん! 危なかったですね~。」
ヘビは道路に上に飛ばされ、唐突な出来事に驚いたのか、じっとその場でうずくまっている。
「欣秀さん、大丈夫ですか? おケガは―」
「…とと、そこはいかん…!」
欣秀はまた忙しなく駆け、近くに落ちていた長めの木の枝を以て、ヘビを乱雑に道路の脇、雑草の方へと弾き飛ばす。そして茂みの中にヘビの姿が消えたのを見届けると、ふうと一息つく。
「ふう、またかよ…。
楓さん、大丈夫ですか? 噛まれたりしてないですよね?」
「いえいえ、全然。欣秀さんスゴいですね、ヘビさん平気なんですね!」
拍手をするジェスチャーとともに楓に見つめられ、欣秀は気恥ずかしく頭をかく。
「い、いや。実はメチャクチャ苦手なんですけどね…。」
「でも、ヘビさん助けてあげたんですね。えらいですよ。きっとヘビさんも、〝ありがとう〟って言ってると思います。」
「あー…いや、そんな大層なことでは…。だってあれで轢かれても、寝覚めが悪いですし…。」
「〝愛〟、ですかね。」
清々しいほどの笑顔を直視できず、欣秀は顔を赤くして空を仰ぐ。
(今回は、ヘビに感謝かもな…)
~~
タクシーに乗り、二人はSHIOSAIへと帰ってくる。時刻は夕暮れごろで、昼とは打って変わって店内はそこそこ賑わっており、オーナー夫妻が忙しなく動いていた。
「まぁ、大変。手伝わないと…。」
店のガラス扉に手を掛けようとする楓に気付き、オーナー婦人が店の外に出てくる。
「二人とも、おかえり。
旅人さん、助かってるよ。〝あんなバイク見たことない〟って、一見さんも多く来てくれてさ。」
「お役に立てたようで何よりです…。」
「お店、大丈夫ですか? 私、すぐ入りますよ。」
「いいっていいって。今日はもう帰りな。旅人…は、どうだい。店ん中のソファでよければ、今晩ぐらい泊まってっていいよ?」
「えっ! いえいえ、迷惑ですし…。」
「しかしそうすると、閉店まで待ってもらわにゃだね~。」
「あっでしたら、私のアパートでお世話しますよ~。」
(はぁっ!?)
再度絶句。
「ほ~~? すっかり仲良くなったみたいだね。そういえば、出かけたときよりか、どこか似合う雰囲気になってきたような…。」
うんうんと婦人はうなずき、じゃあなおさら今日はもう帰れと、楓を促す。欣秀としてはさすがに断りたいところだったが、トントン拍子で話はまとまってしまっているようで、もう止めようがない。
「それじゃあ、予定通り次は明後日で。ヨロシクね。」
「あ、あのっ!」
楓と話し終わり手を振るオーナー婦人に、欣秀は一つだけ問いかける。
「あの、なんでここまでしてくださるんですか? タクシー代とか…見ず知らずの人間に。」
拍子抜けした顔のあと、婦人はニッコリと目を細める。
「見ず知らずの旅人だからだよ。ここは、アタシたちとしては好きな町だけど…。ぶっちゃけ、旅行にわざわざ寄るような場所ではないと思ってたんだ。
そんなとこに旅人さんが来てくれたって事実が、なんだか嬉しかったのさ。
格好見りゃあわかるよ。そこそこ、苦労して来てくれたんだろう?
だから、もてなした。そんだけ。」
宮城でも高野に世話になった欣秀。人の暖かさというものに胸を打たれ、その頭を深々と下げる。
その代わり、バイクは見世物として置いてってよと懇願されたので、欣秀はバックパックと刀を回収し、楓とともに彼女のアパートへ歩くこととなった。
~~
「良い人ですよね、オーナーさんたち。私も、たくさんお世話になったんです。」
「ええ、ほんとに…。楓さんにも、世話になりすぎちゃって、申し訳ないです。」
「いいんですよ。私がそうしたいだけですから。きっとオーナーたちも、同じ気持ちの筈ですよ。」
空はうっすらと暗くなり、暑さも少しずつ引いてくると。欣秀は、改めて現状の異常さに気付き始める。
(………えっ…マジで上がり込むつもりなのか…)
他人の家というだけで緊張するのに、女子のいる家。
(…美人局とか…考えたくないな)
しかし今更断る訳にもいかない。せめてその自宅に着くまで、少しでも言葉を交わさなくては…と考え、抱いていた疑問をぶつけてみる。
「あの、今はあのお店で働いてるんですよね。児童養護施設は、もう止めちゃったんですか?」
「ああ~……。実は私、全く別の地域の児童養護施設にいたんです。ですが、震災で…。」
楓は困ったように笑う。どうやらまた地雷を踏んでしまったらしい。
(ああ…またか……)
津波にまつわる苦い思い出が、欣秀に陰を落とす。
「じゃあ、津波でそこが流されて…。」
「いえ、津波は大丈夫だったんです。ただ、放射能の影響があって…。」
地震における被害は、揺れや津波だけに留まらない。それに起因した二次災害も、必ずと言っていいほど起こる。
かつての東北における震災では、津波によって冷却施設が麻痺し、沿岸部の原子力発電所が炉心溶融した事故もあったという。放射性物質の漏洩を招いた悲劇が、その傷跡をより深刻たらしめていた。
「暫くは、向こうの仮設住宅で過ごしてたんですが…。あまり物資もなくって。当時小娘だった私には、余裕をもって生活するのが難しかったんです。そんな時、こちらでも避難民を受け入れてくれる場所があるって話を聞いて。こっちに来ることにしたんです。」
「頼る相手もいなかったでしょうに…大変でしたね。」
「まぁ、そうですね。…でも、弟のことを思えば。なんだってできる気がしました。」
「それにしても…あっちのほうからここまでって、けっこう遠くないですか?」
「えへへ。それは、ここが私の好きな町だったからなんです。
両親が居た頃、一度だけ家族旅行で連れて来てもらった場所で…。もぐらんども、その時初めて行ったんですよ。」
水族館に対する深い思い入れは、それが要因だった。家族との唯一ともいえる思い出だったから、何度何度も訪れたのだ。魚一匹一匹の、種類を覚えてしまうほど。
(ユウトに会わせたら、話が弾みそうだな…)
そんなことを、欣秀は思う。
「それに向こうは未だに傷跡が残っていますので…。弟のことを考えても、新天地に移住した方がいいかな、って思ったんです。
ありがたいことに、来てみたらほんっとにいろんな方がお世話してくださって…。今は、働く場所もいただけました。」
「へぇ~。いっそのこと、もぐらんどで働いちゃえば楽しそうでしたけどね。」
「私もはじめはそう思ったんですが。ちょっと事情が難しそうでして~…。」
もぐらんどの受付の一人が、楓に悪態をついていたのを思い出す。
「…そういえば、なんだか感じの悪い人いましたね。」
「あの人も、悪い人ではないんです。ただ、いろいろと事情がありまして…。」
楓が語るに、あの受付嬢もまた、津波で家を流されてしまった一人なのだという。そういう点では楓と同じ被災者ということになるが、二人には決定的に違う点があった。
それは津波で家を失くした者と、放射能で故郷を失くしたもの、という点。
津波と違い、放射能は人災というような認識がされている。明確にはわからないが、放射能被害にあった避難民は、国から多額の補助金が与えられるそう。しかし津波被害の人々には、比較すると十分な補償がないとのこと。
同じ仮設住宅に過ごす者同士だが、片や資金に余裕があり、片や立ち直るには不十分な財力。それが格差を生むのは、明白だった。
「もちろん、暖かく迎え入れてくださった方は、たくさんいらっしゃるんですよ。慣れない土地だからって、みんな仲良くしてくれました。…でも、皆がみんな納得する…というのは、難しいですよね。」
「………なるほど。」
あの震災は、本当に色んな傷を残している。視線を落とす楓に、欣秀は何も声をかけられなかった。
楓の住むアパートは、駅より北、昼間タクシーから見た川を、渡った先にある。カーブを描く橋の上り坂に差し掛かり、欣秀は「よいしょ」とバックパックを背負い直す。
「すっごいお荷物ですねぇ。重たくないんですか?」
「へへ。重たくないと言えば嘘になりますが…修行ですんで。」
「まぁまぁ。努力家なんですねぇ。なにか武術をやられてるんでしたっけ?」
「ええ。刀と、あと中国武術を。」
「中国武術…? カンフーってことですか?」
「そうですそうです。」
「すごーい! あの、型?とかあるんですか?
私、ドラゴンが燃えるところ、見たいです!」
「なんの映画みたんです?」
まだ、自信を持って技を披露できるほど成熟していない。とは思う欣秀であったが、いろいろと世話になった些細な礼になると思えば、お安い御用だった。
橋を渡り切り、二人は河川敷へと下りていく。遊歩道脇の草地に楓は座り、その傍に荷物を置いた欣秀は、楓の前方へ15歩ほど進む。立ち止まり直立となると、ゆらりと腕を揺らし始め、ヘビがうねるような動きで体の周りに弧を描き始める。
三盤落地。中国武術における型――套路の始まりを知らせる、開門式である。
欣秀は自分の側面に仮想敵を生み出し、それをキッと睨む。それから、体をねじるように身をかがめたたかと思うと、捻り込んだ腕をバネのように一気に開放して、振り回し始めた――
~~
「ぜぇっ、はぁっ…!」
欣秀が行なった套路『沫面拳』は、数ある套路の中でもかなり長い部類である。3分近くもの間、欣秀は肩を地面スレスレまで落としたり、片足立ちになったり、跳んだと思ったら、また身を沈めたり…という激しい動作を行ないながら、両腕を鞭のように複雑かつ大きく振り回し続けた。套路を終え、終式でそれを締めるころには、もうその息は荒い。
「すごーーい!」
パチパチと拍手しながら、賛辞を贈る楓。
「いえ、…ハァッ、まだまだ、です…。」
(これで息が上がってるようじゃ、未熟もいいとこだ…)
腰に手を当て、ゼエゼエと息を整える欣秀。
「あらあら、大丈夫ですか? ほら、ここに寝っ転がって、いーですよ?」
楓は正座になり、ヒザをポンポンと叩く。
「…?! いや! それはちょいと…!」
荒い息を止め、雑念に頭を抱える欣秀。
それを楓がきょとんと眺めていると、頭上から違う声が浴びせられる。
「カッコいーーー!」
声の方には、橋の上からこちらへ走ってくるジャージ姿の若者がいた。
「あらまぁ、レンちゃん!」
楓にレンちゃんと呼ばれた中学生と思われる男子は、タタタッと軽快な足取りで河川敷へと下りてくる。
「姉ちゃん、こんなとこ居たんだ。その人が、言ってた旅人さん?」
「はい、そうですよ~。」
「君は…。」
快活に話す青年に、欣秀は身構える。
「回収役かッ!」
「ええっなんのこと!?」
どうやら美人局ではないらしい。楓の弟のようである。楓は帰宅するにあたり、あらかじめ欣秀のことを連絡していた。
「はじめまして! 僕、清水 蓮っていいます!」
爽やかな短髪の好青年。顔は、楓に似て優しそうな面持ちである。
「こちらこそはじめまして。磐城欣秀です。
…今日はなんだか、厄介をかけてしまうみたいで申し訳ないね…。」
「いいですよいいですよ! 皆でご飯食べたほうが、楽しいし!」
楓に育てられたからだろうか。実直な人間である。
「あら蓮ちゃん、どうしたのその指? ケガしたの?」
「ああこれ? 大したことないよ、部活で突き指しただけ。それよりもさ、磐城さんがさっきやってたのって、カンフーってやつですか!? カッコいーなぁ!」
「う、うん…まぁね!」
カッコいいと言われると、やはり悪くない気分になってしまう。
「如来神掌やってください! 如来神掌!」
「できるわけないだろ!」
ほんとうに、一体なんの映画を観ているのだろうか。
「あの! そういうのって、どこで習えるんですか? 磐城さんは、誰に習ったんですか? 教えてほしーです!」
蓮は、欣秀に食いついてくる。
「んん…そうだなぁ。」
「あ、それ。私もよろしければ聞いてみたいです! 欣秀さんのこと、まだあまり知りませんし。」
あまり知らない人間を、よく泊めようと思ったものである。
欣秀は苦笑したが、身元をはっきりさせるという意味でも、多少は話しておかねばならないと思った。楓の過去ばかり聞いて、自分は何も明かさないというのも、居心地の悪い話である。
「そうだなぁ……。どっから話したものか…。」
欣秀は荷物の傍に座り、空を見上げ思案する。蓮も座り込み、姉弟してワクワク、といった顔で、話が始まるのを待ち望んでいる。
「師匠とは……東京で出逢いました。」
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
ビジュアルノベルにしたものを作ってみました↓
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_12485.html




