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流星群の夜に  作者: 影津
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四回目(タイムリープ四回目)

 花の甘い匂いと火薬の臭い。また、目が覚めた。首筋にそっと手を当てて締められた痕がないことを確認する。左手の親指の爪が剥がれたままだと気づいた。


 この指はずっとこのままのようだ。両足でしっかりと草原を踏みしめてループから抜け出せていないことを確認する。靴を履くより先にユーリに飛びついて、もう一人で死ぬのはごめんだと泣きついた。


「飛ばないのかよ! しかも泥で死ぬのかよ。ったく弱虫だな」


 ユーリは俺が大げさなリアクションをしていると思っているだろうが俺はもう三回も死んでいるんだ。いや、もっとかもしれない。


 さっきの影がギルおじさんだとして、俺にやらそうとしていたことは何だろう。お前がやらないなら俺がやるしかないとは。ギルおじさんが町のみんなに何かしたのか?


「行くぞ。ギルおじさんを探すんだ」


 ユーリはすっとんきょうな声を上げた。


「はぁ? 泥に飛び込むのが嫌でおじさんを探すって?」


 森にユーリを連れていくと早い時間に着いたからか日の光が入ってきて先程よりは不気味な感じはしなかった。まっすぐ進むと小屋もすんなりと見つけられた。


 ドアノブにはナメクジの這った跡があるので、あらかじめその辺で拾った葉でふきとってドアを開けた。中は先程と同じ埃と木の臭いで満たされている。


 卓上の紙切れも雨風に曝されているようで文字は読めない。ドアを振り返るべきか、このまま気づかないふりをして物色しようか。試しに机の羽ペンやごみくずを移動させたが俺を見ている影はユーリがいるからか何も言ってこない。


「なあ。机の引き出しとか調べたんだけどこんなのが出てきた」


 ユーリが物色したのは簡単な手書きの地図だ。何本にも枝分かれした道、入口と記された箇所もある。これは町の近くの炭鉱の地図だ。


「ほかにも何かないか探してみるよ」はりきっているユーリは珍しく年上らしかった。


 影を振り返ってみるともういなくなっていた。俺が一人のときにしか現れないのだろうか。やはり幽霊みたいなものだな。


 ユーリが空の本棚から紙切れを発見した。今度のはだいぶ赤裸々な文面が書かれている。


《もう終わりだ。八月二十一日になったらお終いだ。分かっているのか? お前がやらないから俺が代わりにやってやるんだ。でないと俺たちは死ぬんだぞ》


 今日のことだ。やはりギルおじさんがからんでいる。おじさんは何か今日しでかすのか?


 しかし誰との会話文だろうか。ギルおじさん一人の策略ではないのだとしたら何故、文面に残す必要がある。これが独白とも思えないが。文字に見覚えはないが俺たちは死ぬというのは、まるで今の状況のようだ。嫌な予感がする。炭鉱に行ってみるか。


「メアリおばさんはそろそろ夕飯を作れって言わないかなあ?」


 ユーリが俺が探偵ごっこをして時間を浪費していることに少しうろたえている。何をそんなに心配する必要があるのかメアリおばさんは家事を強制する人ではない。


 ユーリの不安げな表情が、俺の胸に突き刺さる棘みたいなものがあると実感させた。何かがおかしい。この八月二十一日を繰り返していること自体がすでにおかしいのは分かっているんだが。


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