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流星群の夜に  作者: 影津
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コリーとユーリ

 花の甘い匂いと火薬の臭い。また、目が覚めた。いつもと同じ朝だがいつもと違う。


 さっきまで夢を見ていたことをすぐに忘れてしまうように鼻腔に残っていた微かな臭いは消え失せ、ベッドではなく草原に裸足で立っていることに気づく。


 こんなところで何をしていたのか。転がっている靴を拾って考えるとユーリが俺に声をかけた。


「コリー、何で履きなおしてるんだよ。今飛ぶんじゃなかったのか?」


「飛ぶって何を」


 ユーリは赤毛で緑の瞳をした俺より少し年上の少年だ。俺より背は低くて首から下は全て痩せすぎなぐらいに細い。肌は血の気がなくて不健康そうに見えるが根はすごく明るい幼馴染なのだ。顔を合わせたのはここ数か月が一番多い。


 俺はユーリより背が高く髪は黒く肌も浅黒い。ユーリと並ぶと俺の方が体格もいいのでどっちが年上か分からなくなる。きっと傍から見れば俺がユーリを小間使いにしていると思われるだろう。


 実際今、泥の池に飛び込むので、後からお前も飛び込めと命令したのに、俺は何でそのことを忘れていたのか。


 ユーリは俺がもたもたしていることに腹を立てたのか俺の尻を蹴飛ばして、無理やり泥にはめた。顔から落ちて鼻にも泥が入ったが俺は笑って(笑ったら口にも入った。ミミズみたいな味だ!)怒鳴った。


「ユーリてめーなにすんだよ」


 泥から上がってユーリを捕まえて投げ込んで同じ目に合わせる。小一時間まるで恋人が湖で遊ぶみたいに馬鹿騒ぎした。


 いや、この町の人間はおしとやかなので恋人はボートを漕ぐだけか。


 ここは小さな町ウォーデン。丘の上に牧場があり牧歌的に自給自足の生活を営んでいる。この草原の向こうには隣町が見えるというのに何故誰も行きたがらないのか。


 アーソーンはウォーデンと同じ大きさの町だが七年も交易がない。漆黒の壁や黒い屋根。濡れたような呂色ろいろのペンキで塗り固めた町が陽を受けても照り返さないのは、活気のなさを象徴しているようだ。


 近くの川に寄って汚れを落として服が乾くまで川辺で寝そべり、俺はさっきまで本当に夢でもみて眠っていなかっただろうかと倦怠感を覚えた。だが、この倦怠感は今に始まったことではないと俺は何度も思っている疑問を口にする。


「俺、さっきまで寝てなかったか?」


 ユーリは俺を小馬鹿にする。


「さっきから何寝ぼけてんだよ。お前は昨日俺と喧嘩してせっかく仲直りの証にこうして遊んでやってるってのに」


「いやいや、昨日は喧嘩してない。お前の方こそおかしいぞ。だって俺は昨日は」と言いかけて、昨日の記憶がないことに気づいた。確かに喧嘩をした気がするが、それが昨日だったかは不明だ。試しに昨日の天気や晩ごはんを思い出そうとする。


 晩ごはんはメアリおばさんの手作りチーズとブタの煮込みハム、レタスが少し。天気は流れ星がふりそそいでいたからよく覚えている。そうだ、町中で流星群だと大騒ぎしたじゃないか。


「星は見たか?」


「はぁ?」


「お前の好きな流れ星だよ」


 名前は何だったかな。ユーリの方が星には詳しいはずなのに。


「見てないよ」


「嘘だろ。うちのメアリおばさんも外に出てたじゃねーか」


「だから何のことだよ」


 何かがおかしい。背筋が寒くなるような悪寒。ああ、ユーリだけは救えたと思っていたのに。


 いや、待て、ユーリだけは救えたとは俺は何を焦っているのだろう? 俺はユーリを守らなければならない。でも何故? 腹の底がぐつぐつするじれったさを覚えた。


 太陽の日差しとじゃれ合っている場合ではない大変なことが起きている感覚が蘇った。鳥肌が立つ。まるで今にも誰か消えてしまうかもしれない予感。そうだ、もう一人忘れ難い人がいる。


「メアリおばさんは?」


 気がかりなのは唯一の肉親であり、太陽のように優しいおばさんが無事かどうかということだった。何故、生命の危機が迫っているのかと思ったのか。ただの予感としか言いようがないが、俺にとってのあ・ん・な! おばさんはほかにいない。


「また、昼寝でもしてるんじゃないの?」


「おばさんはそんなぐうたらじゃない。きっと俺のために晩ごはんの買い出しにでも行ってくれてるはずだ」


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