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そして扉は開かれた  作者: 柴咲遥
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あやまち

「では、執行役員会議を始めます・・・」

松本常務の厳しい声で会議が始まった、出てくるのは新型コロナウィルスでのマイナス影響の話ばかりで出席者からはその都度ため息が漏れていた。

「ここを乗り切らないと、わが社もリストラも考えないと・・・」

重い雰囲気のまま会議は終わった。

昼前デスクに戻ると三橋からラインが来ていた。

「高橋くんらしい小説ね、急だけど今夜空いてる?今度は私がごちそうするわ」

「今は本社、久しぶりの出社、いいよ 今夜」

「わかった、じゃあ丸の内、ちゃんと食べてるの?」

「ちゃんと自炊もしてる、学生時代に戻ったみたいだ(笑)」

「そぉ、じゃあ今夜はステーキ!私が食べたいから(笑)」

「わかった、19時には行けると思う」

「お店のURL後で送っておくわね」

「ステーキか・・・お昼は軽くしておかないとな」

「高橋部長~ランチいきましょうよぉ」

「ぁあ、ちょっと夜会食が入ってて軽く蕎麦にしようかと」

「ぇえ~蕎麦ですかぁホントは中華が良かったんだけど・・・いいですお蕎麦で」

アシスタントの斎藤美穂は少し不満そうにそう言った。

昭和にタイムスリップしたような趣のある行きつけの蕎麦屋 室町砂場は思ったより空いていた。

「じゃあ僕はもりで」

「えぇ部長それだけ?」

「言っただろ?夜会食だって」

「ホントに会食なんですかぁ」

「ホントにって?」

「じゃあ私、天もりと玉子焼きお願いします」

「ぁあ~やっぱここの蕎麦が一番だな~」

「高橋部長って、亡くなった渡邊課長の奥様と知り合いなんですか?」

齋藤美穂が玉子焼きを食べながら突然訊いてきた。

「え?ぁあ~渡邊は大学も一緒で同期だからな」

僕は冷静を保ちながらそう答えて蕎麦をすすった。

「渡邊がどうかした? いえ・・・渡邊さんってお子さんいなくて奥様とふたりじゃないですか?」

「よく知ってるね・・・」

「奥様、不倫の噂こと知ってるのかなぁって」

「ん~どうだろう?すみません~蕎麦湯ください」

「ふぅ~お腹いっぱい」

齋藤美穂はお腹を押さえながら蕎麦湯を一口飲んだ。

「部長、私・・・もしかしたら会社、辞めちゃうかも・・・」

「えっなんだよいきなり」

「いやぁ、まだわかんないですけど・・・」

「わかんないって・・・」

「仙台にいる親が、こんなコロナの時だから帰ってこいって」

「そうか・・・そりゃ心配だよな、東京こんな感染者多いし・・・」

「まだわかりませんけど、部長の耳にはって」

「そうか・・わかった本決まりになったらまた・・・」

「はい、すみません、いろいろ・・・ごちそうさまでした」


閑散とした赤坂、都会の蝉が悲しげに鳴いている。

午後からの会議を終えて地下鉄で丸の内に向かう、三橋からの誘いに少し胸ときめく自分がいた。

瞑色の空とオレンジ色に染まった皇居を右手に見ながら店へと急ぐ。

明治生命館地下には約束の2分前に到着すると真っ赤なカーペットの上にひざ丈の真っ白なクラシカルワンピースを纏った三橋が手を振っていた。

「高橋くん、いつも時間通りね」

そう言ってほほ笑んだ三橋を見つめていた。

「どうしたの?」

「いぃいや・・・」

「なに?惚れ直しちゃった?」

そう言って僕の顔を覗き込んだ。

「ばっそんな訳・・・」

「フフフ、冗談よ入りましょ」

三橋はそう言ってウルフギャングステーキに入って行った。

クラシカルな店内の一番奥の席に通されて、店内に漂うステーキの焼ける匂いが食欲をそそる。

「ねぇせっかくだからワイン頂きましょうよ」

「任せるよ」

「じゃあやっぱカルフォルニアね、ナパ・グレン カベルネソーヴィニヨン ナパヴァレーをお願いします」

「あと、ウルフギャングサラダと鮪のタルタルも」

「かしこまりました」

「仕事?忙しいの?」

「いや、毎日ZOOMばかりさ、今日は久しぶりの出社、業績も芳しくなくて」

「そぉ、今日は飲んで食べましょ!仕事のことは忘れて」

「ぁああ・・・」

しばらくして、赤ワインがグラスに注がれた。

「じゃあ・・・乾杯」

「何に?この前は献杯・・・今夜は?何に乾杯?」

「そうだな~これからの三橋に・・・」

「じゃこれからの高橋くんに・・・」

グラスを軽く合わせると、これから何かが始まる合図のような鐘の音がした。

「私ね、渡邊と離婚・・・しようと思っていたの」

私のグラスを持つ手が止まった。

「なっ なんで?」

「高橋くんのところだって、そんな簡単に説明できないでしょ?」

「そっそうだけど・・・」

そう言ってレタスと大きめのベーコンをフォークに刺した。

「渡邊ね、女がいたみたいなの」

そう言って三橋はワインを一気に飲み干した。

「知ってた?」

「ぃいや・・・」

「相変わらず嘘が下手ね、高橋くんって」

そう言って右手を挙げた。

「高橋くん赤身?でいい?」

「ぅうん」

「じゃあプライムリブアイとニューヨークサーロイン、これシェアするから、あとクリームスピナッチを付け合わせに」

「はい、かしこまりました」

「あとワインもお願い」

「はい、同じものでお持ちします」

「だいぶ飲んでるけど大丈夫?」

「なに?心配してくれるの?」

「そりゃ・・・」

「そりゃ何よ・・・ごめんまだ酔っぱらってない、ごまかさないで!」

「ごまかしてなんか!」

「じゃあ知っていたのね?」

そう言ってグラスに注がれたワインに口をつけた。



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