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そして扉は開かれた  作者: 柴咲遥
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読者と作者

クリスマスが近づいて、プラチナ色に輝く街の明かりが、コロナで沈んた心を少し癒やしてくれているようだった。

『桜色の涙』を書き終えて、読み返すと誤字脱字もあって少し修正が必要なことに気づいた。

「あっ、また感想届いてる・・・上原遥・・・」

僕はいつの間にかこの読者から届く感想を、待ち遠しく思っている自分に気づいていた。

「橘先生、最終章まで読ませていただきました、お疲れ様でした。読み終わったあと涙でしばらく動けませんでした。亜美さんはとても幸せだったと思います、こんなにも愛されて、うらやましいです(笑)亜美さんは、シングルマザーで苦労して、病気で大好きな仕事も失って・・・でも最後に堤さんに出逢えて本当に良かった。あえて亜美さんの亡くなる瞬間は書かずに娘の遥ちゃんを主役にしたのは、橘先生のやさしさなのかな?亜美さんが真っ白なワンピースを着て、鎌倉駅で待ち合わせするシーンと遥ちゃんが亜美さんの真っ白なワンピースを着て堤さんに逢いに行くシーンがシンクロして、まるで映画のワンシーンを観ているみたいで・・・『吉野山 みねのしら雪踏み分けて いりにし人の あとぞ悲しき』堤さんは、本当に亜美さんのことを愛していたんだなって、この歌、義経の最愛の人静御前の歌ですよね、私、調べたんです!すみません感想、長くなっちゃって、私の周りにも堤さんみたいな部長さんいるんですよ!いつも挨拶くらいしかしないんですけどね、なんか似てるんですよね(笑)橘先生、次も書くんですか?私、勝手に待ってます次の作品」

僕はこの上原遥という読者の感想文を読んでいて、涙が溢れていた。

「なんだか、嬉しいな・・・わかってくれる人がいるって」

僕はこの上原遥という女性?に、どうしても逢ってみたくなって、逢わなくてはいけないような気がして、返信を書くことにした。

「上原さん、感想いつもありがとうございます。前にお会いしたいって、今でもその気持ち変わっていませんか?もしその気持ち変わっていなかったら今度会いませんか?」

スマートフォンのメールアドレスと一緒に返信した。

12月12日新型コロナウイルス感染もとうとうステージ4に突入し医療体制も逼迫していった、そんな中スマートフォンに上原遥からメールが届く。

「連絡ありがとうございます会っていただけるなんて感激です。私、仕事の都合で朝がとても早くて、仕事は午後2時に終わります。午後3時くらいとか大丈夫ですか?」

(午後3時か~俺は普通のサラリーマンなんだけどな・・・)

「わかりました。では22日火曜日、午後3時、東京駅丸の内とか?いかがですか?」

「はい、わかりました!仕事場から丸の内線で一本なので助かります。丸ビル1Fのクリスマスツリーの前でお待ちしています、目印は、VIRONと書かれた真っ赤な袋を持っています、私ここのカヌレが大好きなので」

「了解しました、では22日」

メールを打ち終わったあと、なぜかドキドキしている自分に驚いていた。

「俺どうかしてるよ・・・読者とこんな・・・」


12月22日、イギリスの変異ウイルスも確認されて、緊急事態宣言が出されるのも時間の問題の様だった。

「おはようございます!」

「おはよう~だいぶ寒くなってきたね~水仕事大変だよな!」

「そんなこと言ってくれるのは高橋さんくらいですよ!」

「そっか?今日もよろしく頼むよ!」

ビルメンテナンスの方といつものようにそんな会話をしてエレベーターに乗ってデスクへ急ぐ。

「高橋部長、今日の午後の会議の資料です」

「ん?午後会議なんてあった?」

「メール届いているはずですよ!1時から8A会議室です」

「そうか・・・わかった」

(上原遥との待ち合わせは午後3時か・・・少し遅れるかも・・・)

そう思ってスマートフォンからメールする。

「すみません、3時に少し遅れそうです」

「大丈夫です♡ツリー見て待ってます」

(ハートマーク・・・作者がこんな、おじさんサラリーマンって知ったらがっかりするだろうな・・・)

会議室の時計は2時20分をさしていた。

「それでは、次の議題ですが・・・」

(まだあんのか?)

僕は少しイライラしてパソコンを睨んでいた。

やっと会議が終わって2時45分急いで会社を出て溜池山王駅に向かう。

「やっぱ15分くらい遅れそうだな」

赤坂見附で丸の内線で乗り換えて東京駅で降りてから小走りで丸ビルを目指しエスカレーターに乗ると息が上がる、時計を見ると3時13分をさしていた。

「はぁはぁ、ふう~」

エスカレーターを登りきると右手にシャンパンゴールドに輝いているクリスマスツリーとMISIAの歌声が聴こえてきた。

僕は呼吸を整えてそのクリスマスツリーの周りを見渡した。

「赤い・・・VIRON 赤い・・・赤い」

ツリーを観ている人は皆後ろ向きでなかなか真っ赤なVIRONの袋を見つけることが出来ないでいた。

「どこだ?VIRONは?ホント来てるのか?どこ?」

MISIAの『Everything』が流れ終え観ていた観客が散らばって、ツリーから振り向いた時、ライトベージュのコートを着て、真っ赤なVIRONの袋を抱えた女性がこちらに歩いてきた。

「いた!真っ赤な袋!彼女か?」

ショートボブのその女性が周りを見渡しながら僕の横を通り過ぎようとした時だった。

「あれっ?高橋さんじゃないですか!」

その女性が僕の顔をみて近づいてきた。

「え?あっあの~」

「フフフ、私ですよ!」

そう言って右手を眉毛に当ててこちらを向いた。

「あぁ!ビルメンテの?」

「そうです~いつもキャップ被ってマスクしてるから、気づかなかったでしょ!高橋さんも?ツリー?観に?そんなはずないか!」

そう言って笑った。

「あっいや・・・僕は・・・」

「私はなんだか待ちぼうけで・・・ホントに来るのかもわからないし」

彼女のキャップを取った時の髪型を見たのも初めてで・・・こんなにも近くにいた彼女がまさか、僕の小説の読者だったなんて」

「あのぉ・・・名前…」

「え?あぁ、私は高橋さんのこと知っているのに・・・改めて自己紹介っていうか毎朝のように会っているのに、なんだか照れくさいけど・・・上原遥と申します!」

シャンパンゴールドのクリスマスツリーがまた輝き出して、上原遥の横顔を照らしていた。

「やっぱり、間違いない・・・本名だった」

「え?なんですか?」

MISIAの歌声にかき消された僕の声は彼女には届かず、このまま本当のことを伝えるべきか僕の気持ちは大きく揺れ動いていた。



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