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そして扉は開かれた  作者: 柴咲遥
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冤罪

「総務部に匿名で告発があったんです!」

「匿名って?だれ?」

「それは今、どうでもいいんです!その内容が、派遣社員の松嶋さんのことで、彼女が盗難の犯人だったみたいなんです!」

「盗難って?あの現金がなくなったのが?」

「彼女が、朝早く来て誰もいないオフィスで引き出しを開けていたのを、目撃していたみたいなんです!」

「そうなのか・・・でもそれと俺のセクハラとは?」

「直接は・・・でも、その件で総務が派遣会社通じて本人に確認取っているみたいです」

「そんなことが・・・」

「本人がこの盗難の件で自白したら、高橋部長のセクハラのことも調査することになっています、そうしたら本当のことが・・・」

涙声になって震えている宮島の声が聞こえる。

「宮島、ありがとな」

「高橋部長、早く帰ってきて、おいしい鰻ごちそうしてください!」

「わかった、うまい鰻 ごちそうするよ!」

宮島の、みんなの僕を信じる気持ちが本当に嬉しかった。


宮島からの電話のあと会社からの連絡はなく自宅謹慎が続いた。

僕は『桜色の涙』の17章『最後の誕生日』を書き始める。

堤は離婚したあと柴咲亜美の住む大好きな街、鎌倉の長谷へと移り住む。

それは、堤が少しでも彼女のそばにいたかったのと、連絡が途絶えてしまった亜美と街のどこかで逢えるかもしれない、純粋な恋心。

そして、最後の誕生日に真っ白な花束が、堤から亜美の元に届く。

「書いていて、胸が苦しくなるな・・・」

そして、いよいよ最終章『HARUとSORA』 最後の章の題名は亜美が飼っている秋田犬の名前HARUと堤が小学生のころ飼っていた犬の名前SORAを合わせたものを題名にした。柴咲亜美はもうここにはいない・・・堤はそれを知らずにFacebookで亜美に想いを伝え続ける。

「切ないよな・・・堤は亜美がもうこの世にいないって知らないんだから」

そんな堤を見かねた亜美の一人娘、遥は母が堤と撮った写真を見て、その時着ていた真っ白なワンピースに袖を通し、堤の待つ春の鎌倉駅へ向かう。

「そこで、知ることになるんだよな~彼女が亡くなったこと・・・」

「亜美を失った堤の悲しみはどれ程だったんだろうな?」

僕はそんな妄想を抱きながらパソコンのキーボードを叩き続けた。

彼女のお墓参は鎌倉の海が見える山の中腹で・・・お墓参りの後、彼女に渡しそびれたスウェーデンのお土産を娘の遥に渡す。

「どんな気持ちでそのお土産を渡したんだろう?そして、海に行くんだ・・・海で思いっきり泣くために・・・」

「あぁ~ダメだ、自分で書いていて泣けてくる・・・」

まさか、自分で書いていた小説で泣けるとは、そんな自分が少し可笑しかった。

そして、エンディングを書き終えて最後の章『HARUとSORA』をアップする。

「うわぁ やっと書けたぁ」

誰もいないアパートの一室で僕は大の字になって叫んでいた。


コロナで各地のクリスマスイルミネーションも自粛されるニュースを観て、昨日買ったキビヤベーカーリーのクロワッサンとコーヒーの朝ごはんを食べていると、会社から連絡があった。

「もしもし?おはようございます、総務の大谷です、高橋部長、今よろしいですか?」

「あっはい・・・おはようございます」

「急で申し訳ないんですが、今日の午後、出社していただけますか?」

「今日の午後ですか?どこに?」

「とりあえず、10階の・・・この前と同じ役員室に、午後1時に」

「承知しました、1時にお伺いします」

「じゃあ、よろしくおねがいします」

僕は、クリーニング屋に出しておいたブルーのワイシャツとピンストライプのスーツを出してクロワッサンを食べてコーヒーで流し込んだ。

「どうなるんだろうな・・・まぁいずれにしても、なるようになるさ」

「あっこんなこと言ったら宮島にまた怒られるか」

そう独り言を呟きながらシェーバーで伸びた髭を剃った。

ブルーのレジメンタルタイを締めて、久しぶりのスーツ姿を鏡に映し、気が引き締まる。

「よし、じゃあ行ってくるか!」

自分自身で気合を入れて北鎌倉駅に急ぐ、路地には枯れ葉が舞っていた。

午前10時を過ぎた横須賀線 君津行は乗客も少なく、いつものように窓が10センチほど開けられていた。

「自宅謹慎になってそんなに日がたってないのに、なんだか懐かしいな」

11時過ぎに溜池山王駅に着いて、早めにお昼ご飯を食べる。

「やっぱ今日は勝負どころだから とんかつだよな!」

ロースかつ定食、キャベツ大盛を注文して分厚いかつ を15分で平らげる。

数日ぶりのオフィスに入ると数名の社員が駆け寄ってきた。

「高橋部長!自宅謹慎解けたんですか?」

「いいや、とにかく今日の午後、10階に来るようにって」

「そうなんですか?もう解けたのかと・・・」

「そうだといいんだけど・・・」

「あの写真も合成なんじゃないかって!」

「いいや、あれは本物!」

「えぇ!あれってホンモノ!じゃあセクハラも?」

「そんな 訳ないだろ!写真は勝手に撮られたんだ!・・・それも丸の内で偶然会った時に」

「ですよね・・・とにかく、おかえりなさい!」

午後1時、10階役員室に行くとエレベーター前に吉田常務と大谷部長が待っていた。

「高橋くん、ご苦労様、呼び立ててすまんね!」

「いえ、自宅謹慎で逆にリフレッシュ出来ました!」

「まぁ、その話は部屋の中で・・・」

そう言って3人は役員室に入っていった。

「まぁ、座って、あっ高橋部長にお茶持ってきて!」

吉田部長が役員秘書の小森さんに言った。

「高橋くん、すまん!」

「え?常務、あたまを上げてください!なにが?」

「高橋くんの冤罪は晴れたんだよ!」

「冤罪って?まるで犯罪者扱いだな・・・」

僕は吉田常務を睨んで小さく呟いた。

秘書の小森さんが出してくれた玉露を一口飲んで深呼吸をした。

「あの派遣の・・・誰だっけ?詳しくは大谷部長!説明を」

「はい、では説明させていただきます。派遣会社から松嶋涼子の今回の調査結果が届きまして・・・彼女がオフィスのデスクから現金、約17万円を盗んだことを認めたと・・・」

「それで?それは窃盗の・・・」

「はい、その際に高橋部長と撮った写真も勝手に撮ったもので、セクハラもされていないと・・・いやぁ~良かった!」

「そうですか・・・」

「いやぁ僕たちは高橋部長を信じていたけどね、コンプラの規則でね・・・冤罪晴れて良かった」

「だから、冤罪じゃ・・・」

「全社には今日にでもこの事実を通知して、高橋部長の名誉を回復したいと・・・」

「はぁ、そうですか、わかりました、でもなんで?」

「内部告発ってやつでね・・・」

大谷部長がいつものように耳を掻きながら話し始めた。

「内部って言っても社員じゃなくて、出入りしているビルメンテナンスの女性がね、朝掃除していた時に何度か見たらしくて!そのぉ〜デスクの引き出し開けている派遣社員の・・・松嶋涼子」

「その告発なければ、ホント・・・女性の方を信じるしか」

「そのビルメンテナンスの方のお名前は?」

「いやぁ、なんて言ったかな?匿名でって 強く言うもんだから」

「派遣会社も平謝りでね・・・17万円の弁済と、高橋部長にも大変な迷惑かけたって、今度お詫びに来たいって、当面はその派遣会社は出入り禁止にするけどね、いやぁ 高橋くんいろいろと申し訳ない」

「わかりました、わかってもらえれば僕はもう・・・」


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