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そして扉は開かれた  作者: 柴咲遥
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信じ抜く力

松嶋涼子が送ったメールでセクハラを疑われ自宅謹慎となった僕は、自転車を由比ヶ浜の方へ向けてこぎ出した、秋晴れのいい天気で海も穏やかだった…離婚のこと、今回のセクハラのこといろんな想いが吹き出してくる。

「どうしてこんなことになっちまったんだよぉ」

マスクを外して遠くに見えるサーファーに向かって叫んでいた。

青空を見上げて旋回している鳶をぼぉ~と眺めているとポケットのスマートフォンが震えた。

「022?って?どこから」

スマートフォンには見覚えのない電話番号が表示されていた。

「もしもし?高橋ですけど・・・」

「高橋部長?齋藤です!大丈夫なんですか?」

「斎藤?斎藤だったのか?022って誰かと思ったよ、大丈夫って?」

その電話は仙台に帰った高橋の実家からだった。

「宮島から高橋部長がおかしな派遣の女にはめられて、自宅謹慎になってるって連絡あって」

「そっかぁ、はめられたって・・・大げさだな」

「なに言ってんですか!会社のコンプラ委員会が問題にしてそれが本当なら・・・本当じゃないと思うけど・・・降格とか配置転換とかだって・・・あるんじゃないですか?」

齋藤は今にも泣きだしそうな声で言った。

「ごめん、俺が・・・心配かけて」

「そうですよ、お腹の子にも悪いですからね!こんなストレス!すみません・・・冗談です」

そう言って笑った声が聞こえた。

「でも、ひどい話ですよね、勝手に写真撮ってそれバラまいて挙句の果てに付き合ってもないのに捨てられた!って」

「疑わないのか?」

「なにを?」

「俺のこと・・・」

「疑う訳ないじゃないですか!会社のみんなも同じです!ぜぇったい!」

「・・・そうか、ありがと」

「宮島、電話で泣いてたんですよ!もしかしたら高橋部長辞めさせられるかもって、疑い晴れたら彼女にもごちそうしてくださいね、美味しい鰻!」

「宮島がそんなこと・・・わかった!疑い晴れたらごちそうするよ!」

「じゃ、また連絡します」

「身体気をつけてな、2月だよな?連絡待ってるから」

「はい、ありがとうございます」

齋藤の励ましは本当に嬉しかった、そして僕はパソコンを開いて第15章『桜雨』を書き始めようとした時、また読者からの感想が届いているのに気づく。

「あれ?感想きてる・・・この前の 上原遥?から」

「季節感溢れる鎌倉の情景が浮かんできます、10mがもどかしくて・・・やっぱり堤さんのお土産は絶対ラブレターですよね!亜美さんの症状がどんどん悪化していくの読んでいて切ないです!何とかなりませんか?すみません勝手な事書いちゃって、次回も楽しみにしています」

「何とかなりませんか?って言われてもな・・・でもこの人、きっと良い人だよな・・・」

僕はこの上原遥という人になんともいえない親近感を感じていた。


第15章『桜雨』は鶴岡八幡宮の表参道で、まだたどたどしい堤に向かって亜美は突然写真を撮ろうと提案する。もう自分の命が長くないことを悟っていて、堤との思い出を残しておきたかったんだと思う。ふたり並んで撮る最初で、最後の写真。

段葛の桜並木から舞い散る花びらはまるで、ふたりを祝福しているライスシャワーのよう・・・

「あれ?俺、泣いてる?」

キーボードを打ちながら涙が溢れてきた。

ふたりは鶴岡八幡宮にお詣りした帰り、やっとお互いの気持ちを確かめ合うようにふたりは手を握り合う。

「わぁダメだ!書けない・・・だってこのままじゃ 死んじゃうじゃん!」

誰もいない海に向かってまた叫ぶ・・・

16章の『すれ違う想い』までをやっとアップして、自転車で御成町へ向かう。

「どうせ、自宅謹慎で時間はあるんだし何か上手いものでも食べよう!」

前から行きたかった定食屋『Sahan』の前に自転車を停めて、急な階段を上がっていくとレジとキッチンが見えてきた。

「こんにちは~定食お願いします」

「ありがとうごさいます、今週はご飯の定食になります〜」

まだ12時前だったせいか、客は僕も含めて4名だった。

「番号札5番でお呼びしますね!」

(ここの番号札もコバカバと同じ…鳩か〜)

定食は、茹で葱の豚しゃぶ、里芋のあんかけ、小松菜ときのこのごま和え、お麩が入ったお味噌汁と、ご飯。

「いただきます~ぅう旨い!これはうちでも作れそうだな・・・レシピ教えてくれないよな~」そんなことを思いながら食べ進める。

あっという間に完食して、キレイに食べ終わった食器を下げた。

「ごちそうさまでした!とっても美味しかったです!」

「ありがとうございました、また来てくださいね!」

「はい、出来れば毎週来たいです!」

そう言うと作ってくれた女性は笑顔で会釈をした。

また、通いたいお店が鎌倉に増えた、そんなことを思って急な階段を下りていた時、スマートフォンが震えた。

「もしもし、高橋です」

「あぁ高橋部長、総務の大谷です、今どこに?」

「自宅謹慎なので、自宅近くの定食屋ですが?」

「あっそうですか・・・明日、コンプラ委員会が開催されることになって・・・あの写真が相当のインパクトでねぇ」

「そうですか・・・」

「あと、また別の・・・」

「なんですか?別のって?」

「はい、高橋部長のフロアで現金の盗難があったみたいなんですよ」

「僕のフロアで?盗難?」

「はい、デスクの引き出しに入れていた現金が、それも3名」

「え?それって・・・」

「いや、コンプラ委員会とは別に・・・ホント高橋部長、災難ですなぁ」

大谷部長が耳を掻いているのが頭に浮かんだ。

「とにかく、そのまま自宅待機でお願いします」

「はい、承知しました」

僕はそのまま駅前の東急ストアで買い物をして家に帰った。

特にすることもなく、アパートでまた小説を書くためパソコンを開く。

「あれっ、もう感想 書かれている!」

「桜雨、泣きながら読んでました、亜美さんはクリスマスのスタバで堤さんと出逢っていたんですね。ふたりで段葛の桜並木を歩くシーンは嬉しくもありとても悲しいです。亜美さんが鶴岡八幡宮で私のことを忘れないでって願ったところで号泣してました、出来たらでいいんですが、私 橘あきら先生に会ってみたいです!会ってこの作品について話したいです、ダメですか?」

「おいおい、自宅謹慎しているサラリーマンだぞ!俺は」

そう言って冷蔵庫から今買ってきた冷えたビールを開ける。

「まだ3時だけど自宅謹慎だしいいか」

「でも、そんなに褒めてもらうとな・・・いやいや、見ず知らずの読者に?会う?会ってみる?その前に最終回書かないと」

昼のビールで少し酔いが回ってそのまま寝てしまって、スマートフォンの振動で起こされる。

「ん?6時?だれだ?この番号?」

「もしもし?高橋です・・・けど」

「高橋部長?宮島です!」

「ぉお宮島?どうした?」

「部長?寝起きですか?まさか昼からビールとか飲んでないですよね?」

「そ、そんな訳ないだろ!」

「まぁ、いいですけど・・・それより救世主が現れました!」

「なに?救世主って?だれの?」

「高橋部長のですよ!」

宮島の少し怒っている声が耳に響いていた。


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