表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

04.教会と冒険者ギルドと商人ギルド、そしてレンの修行。






「おめえさん、そう言う趣味があったのか?

 言いたかねえが、それは病気だぞ」

「違うっ」


 採寸のため、レンを連れてディックの店に顔を出すなり、俺に暴言を吐くディックに頭が痛くなる。

 ぞんざいに扱える男の子だと思ったら、実は女の子だったと言うだけだと説明したら。


「こんな可愛い子を見て、男と普通見間違えるか?

 本気で言っているなら、其れは其れで目を診てもらった方がいいぞ」

「弟子にした時は物凄く薄汚れていて、髪も伸ばしてないし鳥の巣状態だったんだよ。

 見ての通り、まっ平だしな」


 げしっ!


 何か蹴られたようだが、小柄で軽いレンの体重から出される蹴りなど、丈夫な革のズボン越しではたかが知れているし、今のは説明のために必要だったとはいえ、俺が悪いと分かっているので気にしない。


「あとは世話になっている宿の女将に任せたら、こうなった」

「ああ、あそこの女将な。可愛いのが好きだからな。

 なるほど、確かにあの服はおめえさんの感性じゃ選べねえな。

 良く似合っているじゃねえか」


 とりあえず、女の子であるレンの採寸は女性店員に任せて、俺はディックと軽い雑談をして時間を潰す。

 ディックはディックで、アレなら差し引いても十分利益が出るなとか言っているから、レンの小柄の身体では、使う革の量も知れているのだろう。

 だからと言って、革をケチった物は作らないだろう事は信じている。

 それこそ貴族も相手にする店の看板に、泥を塗る事になるからな。

 とりあえず、この街を出るまでには受け渡しが出来るようには言っておく。


「普通なら特急料金を戴くんだが、元はと言えばコッチの我儘だからな、そっちもマケておいてやるわ」

「言ってろ、今ならキャンセルもできるぞ」

「もう革は受け取っちまったから、今更キャンセルしても革は返さんぞ」

「ならしっかりと仕事をしろ、それが取引ってものだ」

「しっかし、幾らなんでもワイバーンの皮で装備を揃えてやるなんぞ、贅沢じゃねえか?」

「ディックの御厚意のおかげで、元手は掛かっていない。

 それに夏が終われば、朝夕は冷えてくるし、冬は極寒だ。

 女は子供であろうと、身体を冷やすのは良くないと聞く」


 ワイバーンの革製品は軽くて丈夫なだけでなく、保温性と防水性に優れているため、旅をする者や騎士などには実用性があるので、値段が高くても人気がある。

 まだ体力も力もないレンが俺について旅を続けるには、必要だと判断しただけの事で、其処に他意はない。

 だから貢ぐとか、人聞きの悪い事を言うなっ。


「冗談はともかく、此処まで将来が楽しみな子だと、攫われる可能性もあるな」

「教会とギルドに登録をしておく、多少は抑止力にはなるはずだ」

「金を掛けるなぁ、其処まで気に入ったのか?」

「成り行きだが、引き取った以上は責任を持つのが当然だろう。

 必要と判断したから行う、それだけの事だ」


 夏だと言うのに、目深に被っている帽子で隠れてはいるが、レンのエルフの血を引いた特徴のある耳は、良くも悪くも厄介事を引き寄せかねない。

 一応はこの国はエルフにも人権を認めているし、出歩くエルフはいない訳では無いが、大抵は何か起こっても自分で何とか解決できる実力者ばかり。

 なにせ種族的に美形ぞろいの上、若い姿を長く保つため、犯罪組織に狙われやすいと聞く。

 そんなエルフに外観だけが似ている子供のレンでは、とても危なくて放ってはおけない。

 金は掛かるが、教会とギルドにレンの所有権を登録しておけば、それがレンのしている奴隷の証である首輪に刻印が施されるし、誘拐されても勝手に売買する事はできない上、教会が持つ強力な探知の魔法が、彼女の居場所を、おおよその位置で見つけてくれる。


「まぁ、それなら此方も気合を入れて作らせてもらうわ」


 ディックの言葉に見送られながら、レンと共に訪れたのは教会。

 六歳の時に聖霊の儀を受けていなかったレンに、聖霊の儀を改めて受けさせるためと、レンの所有権を登録しておくため、……なんだが、此処でちょっとばかし問題が発生した。

 一つはこう言った場所なので、帽子を取るのが習わしなのだが、レンが帽子を取りたがらなかった事。

 まぁこれは、其処迄嫌がるならと先方が言ってくれたので助かったが、問題は俺の身分詐称疑惑。

 教会は神の教えの下に行っている公共の機関。

 要は神の教えに反する犯罪に対して、一応は目を光らせてもいる存在でもある。

 碌な食生活ではなかったためだろう、レンの年齢に相応しくない小柄な身体と、奴隷の証である首輪。

 この国では、十歳未満の奴隷は禁止されているため、一応はと言う事で、身分証明の提出を求められたのだが、冒険者ギルドの所属証も、商人ギルドの所属証も、俺の生まれた年が記載されてあるため、逆算すれば年齢は十七歳だと言う事になる。

 そして俺はと言えば、商人として舐められにくいように、変装している訳で……。

 まぁ、俺のミスと言えばミスなんだが。

 仕方ないので、事情を話して変装を解くのだけど。


「悪い事は言いません、そのままでいた方が宜しいかと。

 神は人を欺く事はよしとしないでしょうし、貴方様を知る方も欺かれたままでいる事を望みはしないでしょう」


 と、何故か残念そうな顔で、これまた残念そうに今後は変装しない事を条件に、登録を許可すると言うから、意味が分からん。

 それでも一応は抗議したのだが受け入れてもらえず、疾しい事がなければ問題はないはずだと言われ、これ以上教会に疑われても良い事などないから渋々受け入れざるを得なかった。

 そして肝心のレンはと言うと……。


「オッサンが、チャラそうなお兄さんになった」


 あいも変わらず口が悪い。

 まぁオッサン呼ばわれされる心配がなくなったと思う事にしておくか。

 肝心のレンの聖霊の儀を受ける事に関しては、百万モルトと言う高額なお布施で無事にしてもらえた。

 精霊を受けた際に戴ける、教会の鑑定の結果としてはこん感じ。


 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 【 名 前 】 レン

 【 所有者 】 カイラル(所有者固定)

 【 種 族 】 人 族(●●エ●フ) ♀

 【 職 業 】 奴隷 弟子

 【 年 齢 】 12

 【基礎レベル】  2

 【天啓スキル】 精霊の祝福 LV7

 【基礎 能力】

     体 力   38

     魔 力   42

     筋 力   18

     生命力   23

     防御力   11

     敏捷性   32

     魔法力   40

     知 力   52

     器用さ   58

     幸 運  142

 【 魔 法 】

     精霊召喚 LV7

     精霊の癒しLV7

     付加魔法 LV7

 【 スキル 】

     耐疲労  LV5

     耐空腹  LV5

     耐苦痛  LV5

     耐精神  LV5

 【固有スキル】

     ●●●●●●

 【 所 属 】

 【 賞 罰 】

     無 し

 【 称 号 】

     元男装少女 薄幸の美少女 カイラルの弟子 被過保護奴隷少女

 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 祝福を受けた事で色々と増えている様だが、教会の鑑定でも読めない部分があるって、どう言う事だ?

 疑問には思うが、分からないものを考えても仕方ない。

 スキルに関しても、レアスキルの上に高レベルか、あの親父、損したな。

 これだけのスキル持ちなら、普通に育てて貴族に売った方がよっぽど高値で売れただろうに。

 精霊召喚は、時空属性以外の地・水・火・風・聖・闇の精霊を呼び出して魔法を行使するエルフ特有の魔法と言えるし、精霊の癒しは自分には効果がないものの、それ以外を癒すと言う意味では、聖魔法の治癒よりも効率が良いとされている上、癒すのは生き物に限った事ではないと言う事。

 付加魔法は、文字通りでレンの場合は、精霊の加護を剣や盾に一時的に与える事が出来る魔法で、此方も普通の付加魔法よりも強力な物になる事が多いとされている。

 こりゃあ、金を掛けてでも教会に登録して正解だったな。

 特に今回の場合、レンが聖霊の儀を受ける前に登録をしているから、たとえ貴族がレンを欲しがって強硬な手段を用いようとも、俺の所有権の方が認められる。

 しっかし、称号にまで過保護扱いされるとは……。

 俺は、当たり前の事をしているだけだぞ。




「うぅ……、師匠の姿に違和感を感じる」

「それは俺も一緒だ。先日までボウズだと思っていたんだからな」


 教会を出て冒険者ギルドに向かう中、レンの言葉に俺も反応するが、出会って半月以上の付き合いがあるのに、ここ二日で互いの見た目が変わったのだから、そりゃあ違和感を感じて当然だろう。

 まぁ俺は元に戻っただけなんだが、付き合いのある店に言い訳を考えないといけないと思うと頭が痛い。

 到着した冒険者ギルドの中は、色々立ち寄って昼頃になった事もあって、比較的空いている。

 然程並ばずに買取用の受付に辿り着けたので、ギルドの所属証と共に道中で遭遇したオーク討伐の証である耳と魔石を提出。

 一匹あたり一万モルトの報奨金と、別途に魔石の代金を戴く。

 命の危険がある割には、雀の涙の安い金額だけど、其処は高く売れるオークの肉を持ち帰らなかった冒険者側の判断の結果という事になっている。

 まぁ、俺としては冒険者の資格を剥奪されないための貢献値稼ぎと、哀れな犠牲者を出さないためなので、その辺りは俺だけでなく大抵の冒険者達は納得している。

 オークの犠牲者というのは、ある意味喰われていた方が幸せと言えるからな。

 女なんぞ悲惨なもので、大抵は心が壊れるし、もし奇跡的に救われたとして、死ぬまで苦しむ事になるだけだ。

 治癒魔法では心の傷までは癒せないため、少しでも理性が残っている者は、その場で自害するか、死を望む事が多いから、助けた方も心を病む。

 一番良いのは被害者が出る前に、一匹でも多く始末しておく事だと言う事を、その現場を経験した者は嫌でも心に刻まれる。

 それはともかくとして、今はオークの事よりもレンの事だ。

 別の事務手続き用の受付に並び直すが、此方は先程以上に人がいないため、直ぐ順番が来る。


「この子をギルドに登録したい」

「……奴隷兵としてでしょうか?」

「何方かと言うと弟子としてだ。

 登録しておいた方が、厄介事に巻き込まれにくいからな。

 教会にも登録してあるが、頼めるか?」


 レンのような見た目が幼い子供を奴隷兵として登録する事に、一瞬嫌悪の目を向けられるが、生憎と弟子登録なんて物はないので、其方を選んだと言う此方の説明と、首輪に教会にも登録されている証を見て、受付の女性も態度を改めてくれる。


「それならば、家族相当登録などは如何でしょうか?

 奴隷兵としてではないと言うのならば、此方の方が保護者と被保護者としての権利が強く保護されます。

 その代わり保護者は被保護者を保護し、導く義務が課せられますが、貴方様の申し出が本当であれば何も問題はないかと」


 初めて聞く制度だが、子供の柔らかい肉は魔物が好むため、おそらく肉の盾や撒き餌に使われないための処置でもあるのだろう。

 聞いてみると、ここ数年の内に出来た制度で、被保護者の損失や大きな損傷には調査が入り、場合によっては記憶探査を受ける事になるらしい。

 ……どこまで疑われているのかと思うが、疾しい事のない俺としては、寧ろ紹介された制度の方が好都合なので、其方でお願いする。


「では、彼方の部屋でお話を伺いましょう」


 細かな手続きがあると言われて移動してみれば、何故かレンと別々の部屋に入れられる。

 担当官の話からして、本人の意思であるかどうかの確認らしい。

 確かに、こう言う制度があるのなら、悪用する連中もいるだろう。

 特にレンのような少女となれば、変な意味で囲う奴もいない訳ではないだろうからな。

 と言う訳で、どう言うつもりであんな幼い女の子を買ったとか、詰問するのは止めてくれないか?

 旅をしている以上、小間使いがわりに使うには、人を雇うよりも買った方が都合が良いのと、買った時は男の子だと思ったと説明したら。


「先程チラリと見ましたが、あんな綺麗な子を普通男の子と間違えますか?」

「先日まで薄汚かったんだよ。

 言葉遣いも乱暴だし、本人も女である事を隠していたしな」


 世話になっている宿の女将に、旅装を任せたらああなったと言ったら、なんとなく納得してもらえた。

 元冒険者なだけあって、あの女将の可愛い物好きはギルドでも知っている者は多いようだ。

 そうこうして問答を繰り返している間に、レンの方の面談が終わったようで、面談の結果、問題ないと判断されたのは良かったが、疾しい事がない以上、当然と言えば当然の結果だ。

 因みにどう言う問答をしたかをレンに聞いたけど、担当官に秘密だと言われたと言うので深くは突っ込まない。

 どうせ、俺にとって不名誉な碌でもない質問を受けていただろう事は、先程の俺の質問で容易に想像できる。

 そんな訳で、ひと騒動はあったものの、無事にレンの冒険者としての登録完了。

 ついでに、レンの所有権に対しての固定登録もしておく。

 こうしておけば勝手にレンを攫って売買できないし、パーティーへの所属登録も行いえない。

 更に家族相当制度の追加の有料プランで、俺の死が確認された場合、又は行方不明になった場合でも、数年はギルドが保護し、独立出来るように支援する書類を作成。

 登録料と年会費はそれなりに掛かるが、俺が不測の事態に巻き込まれた時を考えれば必要な事だ。

 今のレンは子供で貧相ではあるが、将来美人になるのは多分間違い無いだろし、レアスキルを持っているから、独立できる力を得ないまま一人になった時、どんな扱いを受けるか分かったものじゃ無い。

 だから必要な経費だと納得はしているが……レンに関わってから、片手分の小金貨が消えたと思うと、少しだけ侘しくなる。

 だが済んでしまった事を、何時までも言っていても仕方がない。


「こっちだ、簡単に教えておくぞ」


 ギルドの所属証を発行している間に、レンに冒険者ギルドの事を簡単に説明。

 一応、手続きをしている時に規約とかを説明はされてはいるが、手続きを別の人間に変わったため、その職員が手抜きなのかは分からないが、かなりおざなりの説明で、やってはいけない事を中心としたギルドを運営する上での視点の話で、冒険者の視点に立った内容ではなかった。

 仕事しろよと思いもしたが、俺がいるからしなくても良いと思ったとか言われそうなので止めておいた。

 どうせ、大した説明じゃないしな。

 とにかく実際に冒険者として生きていく最低限の最初の知識として、冒険者と言うと魔物の討伐やダンジョンの攻略などがよく話に出てくるけど、レンのような非力な子供がやるのは、薬草などの採取が多い事などを説明しておく。

 たいした薬草ではなくても、街などの拠点の近くで群生地を見つけておけば、危険も少ないし、最低限の収入を得やすい。

 俺も駆け出しの頃は、これで結構日銭を稼がせてもらったからな。


「受けれる依頼は、自分のランクの一つ上までだ。

 レンは最初のGランクだからFランクまでだが、Gランクの採取系は常設依頼なので依頼の受付手続きをする必要はないが、街の中のお手伝い系や運搬系の依頼は、それなりに競争率が高いから、早朝か夕方に見に来た方が良い」


 おそらく子供に無茶をさせないためなのだろうが、家族相当登録のおかげで、俺が受けれるのもFまでになっちまったのは少し納得がいかないが、レンをキチンと鍛えるための時間だと思っているし、そもそもこの一年半は、ランクを維持するための最低限の依頼しかしていないので、どうでも良いと言えば良い話とも言える。


「Fランクは、Gより難しい物が多いが所詮はFランクだ

 それと討伐系の依頼は例外はあるがEランクからになる。

 一つ上でもFランクの冒険者は受けられない。

 倒せるか倒せないかではなく、成功率と生還率と損傷率を求めた結果らしい。

 あと、Gランクは一月半に規定のポイント分を稼がないと資格剥奪になる。

 Fランクは三ヶ月だな。それを過ぎるとランクが一つ下がる。

 Eランクは半年で、俺が持っているDランクは一年だ」


 Cは一年半で、Bからは期限がなくなる代わりに、指名依頼を受けさせられる事が多くなるのだが、まぁこの辺りや上の事は追々教えていけば良い。


「とりあえずは、旅をしながらと言う事を考えると、レンの当座の目標はFランクに上げる事だが、まぁ俺と一緒に薬草を採取していれば、ひと月で上げれるだろう」

「此処まで来たみたいに?」

「この街に来るまでレンが採取した物の中には、違う物が色々混ざっていたから、もっと正確に見極めれるようにならないといけないが、まぁあんな感じだ」


 しばらくは、レンに付き合ってやらないとな。

 本人の魔力にしか反応しない特殊な所属証を受け取ったので、屋台で薄焼パンに野菜と、鳥の照り焼きを挟んだ物を買って昼にする。

 本当に美味しそうに頬張るレン横顔に、まぁこう言うのも悪くないと思いつつ、ちなみに昨日はどうしたのかと聞くと、お店に入ってクレープを御馳走になったとか。

 甘いお菓子を生まれて初めて食べたらしく、興奮しながら話して来たから、とりあえず甘い物が好きなのだと覚えておこう。

 その後は商人ギルドに行ってレンを登録。

 俺の代理で物を売買出来るようになったし、此方も家族登録の事を聞いたら、あると言うのでお願いした。

 此方は冒険者ギルドでした事を告げると、特に面談を受ける事なく手続きをしてくれたので非常に助かった。

 また同じような事を詰問されるかもしれないと思っていたから、内心ではゲッソリとしていたからな。


「師匠、此処は何をするところなんだ?」

「俺の様な流れの商人には、普段はあまり関係は無いな。

 ただ、あまり関係ないと言っても、それなりに関わりはあるが、とにかく商人として働くためには必要な組織だ。

 とにかく商売に関わる事を色々な事を管理や手続きをしている。

 商品の特許だったり、商品の売買が正常に行われているかを管理したり、相場の調整をしていたり、金を預けておける口座や、金の両替、為替の発行、金の貸付、商売で発生した問題事の調停と様々だが、一番は税金の管理だろう」


 基本的に商人として物の売買をする際には、金のやり取り以外に所属証に、その売買の内容が魔法で記録される。

 ギルドカードは見た目の割りに、高度な魔法が施されており、遥か昔に栄えていたと言う古代魔法王国の遺物が作り出した物で、数少ない動作している大型の魔道具で、地脈を通して、幾つもの大陸や島を超えても使える凄い物らしい。

 端末と呼ばれる魔導具はかなりの数が残っており、カードの製作も古代文明の遺産の魔道具が行ってくれているのだとか。

 そんな訳で、庶民は税金をきっちりと基本的に口座から自動的に引き落としされてしまう。

  たとえ少額でも俺は所属証に登録する事にしているが、そんな古代の超文明を使った魔法でも、色々と抜け道はあるらしい。

 だだ、何かの拍子で官吏に査察を受けて、取られる時間や罰金や罰則を考えると、割りが合うとは思えないからやらない方が賢明と思っている。

 俺みたいな流れの商人など、後ろ盾がないから、遠回りでも真面目にやるのが一番だ。


「カイラル様、別件でお話と手続きがありますので、ギルド長室まで起こし下さい」


 ん? 何かあったか?

 ギルドに目をつけられるような事をした覚えはないが、言われるままに部屋に行くと、白髪白髭が似合う貫禄のある老ギルド長が、書類仕事をしながら迎えてくれる。


「君がカイラル君か、今の書類が終わるまで、座って待っていてくれたまえ」


 言われるままに座って待ていると、職員がお茶を持ってきてくれる頃には丁度ギルド長も一区切り着いたらしく、此方に来て互いに改めて挨拶を交わす。


「話しというのは身構えてもらうような大した事ではなくてな。

 実はカイラル君のランクを上げる前に、規則として一応は面談をしておきたいと思ってのぉ」

「はぁ……、ランクと言う事はBランクにですか?

 正直、俺としてはどうでも良いのですが」

「まぁ君は流れの商人だからのぉ、大きな店か商会でも持っていない限り、そう思うのは仕方あるまい。

 流れの商人が上のランクになっても税金が下がる訳ではないし、今のカイラル君では、関所や街に入る時に信用度が上がる程度で、さほど恩恵はないからのぉ。

 だか、取れる時にはとっておけば、歳を取って店を持つ時などは色々と優遇が効くぞ」


 後は、口座を複数作れる事や、融資を受ける金額が上がったり、手形で扱える金額が上がったり、大店と取引する際にランクが高ければ高いほど、信頼を受けやすいと言うだけの事。

 十年経っても関わりがあるとは思えないんだが、取っておいて損な事がある訳でもないのは確かか。

 だがそれでも少しばかし引っかかるな。

 商業ギルドのランクは、単に年間取引の総金額と取引相手とギルドへの所属年数等の総合値が元で、Cランクまでは比較的簡単に上がり、冒険者ギルドほど厳しくはない。


「こう言っては何ですが、俺はCランクになって、まだ半年も経っていないのに、必要ではないと分かっているBランクのお話、何か裏がある様にしか思えないですね」

「ふぉっふぉっふぉっ、まぁそう思われるのも当然でしょうな。

 カイラル君は此処一年で、何を売買したか覚えておいでかね?

 高額な魔物の素材の加工品だけでなく、様々な魔法薬を売買している。

 特に半年程前のレイモードの街においての魔法の治療薬では、多くの人間が命を救われておる」


 レーモード、……ああ、あれは酷かったなぁ。

 たまたま普段立ち寄らない街に立ち寄ったら、百日コロリと言う遥か昔に絶滅していたと思われていた古い疫病が流行っていて、だいぶ住民がやられて寝込んでいた。

 幸いな事に、溜め込んだ知識の中に治療方法に該当する物があったため、キリセレナ苔とジャナード草を煎じた物を主材料に作った魔法薬でなんとかなるような物だったけど、街とその周辺の村で疫病が発生していたから、魔法薬の必要量が膨大だった。

 しかたなしにギルドに協力を仰いで、街中の錬金術師と魔導具師を掻き集めてもらって作り方を教えた後は、群生地を探したり採取して、【全知無能】で底上げした【薬師】と【調合】と【錬金】スキルで魔法薬をひたすら作るの繰り返し。

 なんとか山場を越したところで、それほど高くないレベルだったとはいえ、【全知無能】の使いすぎによる反動で寝込んだのも併せて、ひと月近くも足止めを食らったからな。

 其処まで大変だったのに、緊急事態と言う事で、街を管理する領主の命令で魔法薬の値段は買い叩かれていたため、主材料以外の材料代と宿代で足が出るかと思った。

 ケチがついたので、早々に立ち去って二度と立ち寄るかと思ったのだが、まぁ多くの人間が助かったと言うのなら、少しは俺の苦労も救われたと思える。


「その魔法薬の件だが、だいぶ買い叩かれたとか」

「ええ、非常事態なのだから協力するのは当然だと、材料代と宿代でほぼ消えましたよ」

「ふぉっふぉっふぉっ、それは災難じゃったのぉ。

 だが、その件が国にまで報告が言ったらしくてのぉ、領主は陛下に大目玉を喰らったそうだ。

 特にカイラル君は病気の症状を見抜き、更には特効薬の製法を知っていて、それを惜しみもなく開示したそうだからね。

 そんな人間になんの褒美も取らせずに街から出したとなれば、領主が叱責を喰らうのは、ある意味当然と言えよう。

 下手すれば、他の街どころか国中に広がった可能性もあるのだからね」

「いい気味ですよ。

 ……なるほど、それで領主が公的に発言した事を取り下げる訳にはいかないから、その代わりに協力した者達には、所属するギルドの貢献値にと言う事ですか」

「まぁ、そんなところだと思ってくれたまえ」


 商業ギルドからすると、其処の領主に頼まれた手前、俺に利が無いような事でも、人から見たら利があるように思える形で協力した事を示しておく必要があると言う訳か。

 つまり、ギルドに所属している俺に拒否権はないと。


「……分かりました。お話をお受けいたします」

「ふぉっふぉっふぉっ、理解が早くて助かる。

 調べたところ、カイラル君は真面目な流れの商人のようだからね。

 此方も頭を悩ませずに済む話で助かった。

 書類一枚と、こうして面談をして終われるからのぉ」


 領主からの頼まれるような事は大抵厄介事が多いから、流れの商人を捉まえて、こうして話しをする事ぐらいは、確かに楽な部類なんだろうな。


「まぁ今までのカイラル君には、1モルトの価値もないと思っているかもしれんが、本当に持っているだけでも損はない物だぞ。

 例えば、其処の奴隷の幼いお嬢さんを連れ歩いていても、Bランクの商人なら要らぬ疑いを掛けられる事はまずないからの。

 それが、商人ギルドのBランクの信頼の力と言う物じゃ」


 ……つまり、最初に此処に来ていたら、教会でも冒険者ギルドでも不快な思いをせずに済んだと。

 そんなの、分かる訳がないだろうが……、そう思ったら、猶更、何かかどっと疲れた。

 簡単な手続きの割りに、精神的に疲れる事になった商人ギルドの建物を出た後は、レンの勉強用の教材になりそうな物と、採取に必要な道具をレン様に揃えたりをして宿に戻ると。


「ふ〜ん、やっと素顔を見してくれる気になったんだ」


 女将がえらくニヤニヤした笑みで、人を揶揄ってくる。


「気がついていたのか?」

「レンちゃんを横に連れて戻ってきたら、カイラルさんだって気がつくなんて当たり前でしょ。

 それに、これでも宿屋の女将だから、人を見る目はあるつもりよ。

 変装していたカイラルさんは違和感だらけで、どうにも怪しさ満載だったのよね。

 でも泊めてみたら意外に礼儀正しいし、見た目の割りに時折反応が若いしね、だからなんとなくね」


 ……俺としては、巧く化けれていたつもりだったんだがな。

 この分だと、他でもバレていそうだな。


「それで、どう言う風の吹き回しなの?

 やっぱり、レンちゃんに若く見せたかったとか?」

「教会にレンの所有者登録をしに行ったら、教会に変装などするなと言われてね。

 それを条件として出されただけだ」

「ふふふっ、なにそれ。

 教会も粋な事するわね。でも、絶対にその方が良いわよ」


 言葉は褒めてはいるが、女将の目が、どうみても人を揶揄う気でいやがる。

 まぁ、見た目の幼いレンを心配してって事なんだろうが、其れならば一層の事、もっと老けていた方が、レンと親子として見てもらえたのなら、不審者扱いにならずい済んだかと思ってしまう。


「それにしても、幾ら若いと言っても、髭どころか毛穴一つ無い肌って羨ましいわ」

「……好きでなった訳じゃ無い」


 女将からしたら羨ましいのかもしれないが、俺からしたら、妹のマリーの魔法の練習に付き合わされた結果でしかないく、男らしい髭が生えない事に対する悩みの種でもある。

 聖魔法は高レベルの物になると、美容関係の物が幾つかあり、脱毛や毛穴除去もその一つ。

 当時は髭など無くても、魔法の成功の有無は分かるらしく、実験台にされた俺は、十七になっても髭どころか腕毛や臑毛や脇毛すら生えてこない。

 世の中の女性には、羨ましい話かもしれないが、俺に取っては髭は憧れと言える。

 髭面の変装は、その反動とも言えたのだか、……教会に不条理な条件を出された今となっては、もう考えるだけ面倒になってきた。




「ゔぅっ…うっ」


 部屋に戻って、レンには表に絵、裏に文字が書かれたカードは幼児用の遊具ではあるが、文字を勉強させる分には覚えやすいだろと、取り敢えずそれで勉強させている。

 絵柄だけでも遊べるが、文字を合わせた方が遊べるゲームが増えると言った事が聞いているのか、それなりに真剣に覚えている様子。

 時折レンから問い掛けが飛んでくるが、俺はその間に魔物の素材の加工と魔法薬の作成。

 ある程度スキルのレベルがあれば、作業の行程を飛ばせるのだが、加工に必要なスキルのレベルが低い分、一つ一つ丁寧に工程を消化してゆく。

 レベルがなくても、一つ一つ確実に行う事と複合スキルで、結構なんとかなる物だからな。

 ワイバーン五匹分の経験値でレベルアップしていたから、尚更、前回よりも作業が楽な気がする。

 魔物は、討伐する人数が少ないほど、得られる経験値が高くなるみたいだから、その恩恵と言えよう。

 一説では、得られる討伐に参加した人数で経験値が割られるだけではなく、危険度でも増えるとか言われているけど、実際の所は神のみぞ知るって奴だろう。

 そんな事をしている内に夕飯の時間になったから、食堂で食事を取っていると。


「はぁ、毎日こんなお腹いっぱい食べれるだなんて、夢にも思わなかった」

「……以前は、毎日食わせてもらえなかったのか?」

「うん、パンの欠片を貰えたけど、足りないから、言われた仕事の合間に森の中で採って来ていた」


 子供が一人で森に入って採れる物なんて、たかだか知れている。

 予想はしていたが、レンが年齢の割に身体が小さいのはそのせいか。

 食べる量も、この街に来るまでに少し量が増えたとはいえ、それでも普通にはほぼ遠い量しか食べれない状態だ。

 宿にいる間は、女将に朝晩消化が良くて栄養価の高い果物でも出して貰うか。

 食事の後は、昨日とは違うレンにも出来る作業を教えて、その後は魔力の扱い方を教える事にした。

 せっかっくレアスキルを天から戴けたんだ、使う使わないかはレンが決めるとして、使えるようにしておくに越した事はないだろう


「レン、両手を出せ」

「う、うん」


 俺とレンは互いに両掌を合わせて向き合う。


「今からお前に魔力を流すから、感じ取れ」

「ぇ…と、どうやって? …って、うわっ!」


 手を合わせた両手から魔力を流し込むと同時に、突然ビクッと驚くレンの様子に、【精霊の祝福】のスキルからして、魔力への親和性が高いと思ってはいたが、これは話が早そうだと判断する。

 才能のない奴は、魔力を感じれるようになるだけでも、時間が掛かるものだからな。


「どうなふうに感じた?」

「う、うん、何かに押されて、別の何かが腕から身体の方に長れてきたような感じが」

「何かに押しされた様に感じたのが俺の魔力で、腕から体に流れてきたように感じたのがレンの魔力だ。

 じゃあ、今度は片方の手から流して、もう片方の手から俺の方に戻る様にするから、今みたいに抵抗したりせずに、受け入れろ」

「……ゔっ」

「抵抗するな、苦しいだけだぞ」


 少し乱暴な手だが、魔力が流れると言う感覚を知るためには、自分の中に異物が流れていると感じるのが一番だからな。

 魔力の流れをレンの魔力に絡めながら、両方の魔力を感じられやすくするのは、それほど難しくは無いのだが、問題はその速さと量と力加減。

 未熟なレンの魔力は脆く、そこへ長年掛けて鍛えた俺の魔力を、なんの加工もせずに力尽くで流し込むのだから、気をつけないとレンの身体を内部から壊す事になりかねない。

 精細な魔力の制御に内心悲鳴をあげながらも、あまり長く持ちそうにないから、早く慣れてくれと天に祈る。

 それなりに長くて短い時間が過ぎた頃には、俺もレンも汗びっしょりだ。

 俺の魔力を身体に受けていたレンなんぞ、顔まで火照って真っ赤にしてやがる。

 此処まで汗を掻くなんぞ、この方法は暑くなったらやるもんじゃないな。

 かと言って冬にやったら身体が冷えて風邪を引きかねないから、この時期で正解なのだろう。

 正直、今夜は此処で終わりにしたいが、今の感覚をレンが覚えている内に、次をやっておきたい。

 俺は額の汗を拭ってから床に胡座で腰掛け。


「今度は、背中を向けて俺の膝に腰掛けろ」

「……ぇ、…その……」

「何を勘違いをしている知らんが、真面目な鍛錬だぞ」


 耳まで真っ赤にして勘違いしているレンの様子に、頭が痛くなる。

 意外に耳年増だと呆れつつも、もう一度言って、渋々膝の上に座らせる。

 予想以上に軽い体重と、以前と違い汚れた匂いではなく、少女特有の匂いが鼻に入って来るが、まぁレンだしな、間違っても変な気にはなりそうもない。

 湧き上がるのは保護欲くらいか。


「両手を握って、先程の感覚を自分で再現してみろ。

 俺はその補助をする」


 先程の感覚が残っているので、自分の魔力は感じ取れてはいるみたいだが、どうやって動かして良いか分からずに苦労している様子に、懐かしさを覚える。


「ゔぅ…ゔぅ……」


 上手く出来なくて呻いてはいるが、当然だろう。

 本来の魔力の鍛錬は他人の手助け無しで行うため、自分の魔力を感じ取れるようになるだけで数ヶ月掛かる。

 俺が今レンに遣らせているのは、双方に負担の掛かる邪法の類だが、それでも一石二鳥と言う訳にはいかない。


 教会で聖霊の儀を受けたばかりのマリーやトールも、かなり苦労していたから、今の俺なら補助出来たのにと思いつつも、碌に力になれなかった弟妹の代わりにレンに力を貸す。

 小柄なレンの身体を後ろからしっかりと抱きしめ。


同調開始(トレース・オン)


 レンの体内の魔力に干渉して、魔力を操作する。

 【同調】のスキルの応用。

 自分のスキルにだけでなく、魔法薬や物を作る際に素材に同期して品質を上げるのによく使うのだが、その対象を【魔力感知】と【解析】スキルと一緒に使えば、人にも行えると言うだけの話。

 流石に、生きた人間に対してのスキルの発動なので、俺への負担も少しあるが出来ない事ではない。


「……」

「……はぁ、……」

「……」

「はぁ……、はぁ……、ん…ぁ…」


 どれくらい時間が経っただろうか、レンの負担にならない様に、時折、魔力の操作を止めたりしながらも、なんとか僅かに動かせる様になっている時があるのを確認できたので、今日の所は止めておく。

 たぶん明日には、また出来なくなっているだろうから、自分で魔力の循環ができる様になるまでは、毎晩、補助してやらないと。

 頃合いを見て、お疲れと言ってレンの頭に手を当ててやると。

 後ろから覗き見える耳を真っ赤にして、僅かに荒い息を吐いているレンの様子に、思った以上にレンに負担が掛かっているのか?


「はぁ…、はぁ…、し、師匠、これやばい。

 なんか気持ち…、いい…の」

「……嫌なら、とっとと自分で出来る様になれ。

 そこまで責任取れるか」


 顔を真っ赤にして、トロンとした顔のレンに、すぐに風呂を準備してやるから、とっとと入って来いと命じる。

 おそらく、素直に俺の魔力を受け入れ過ぎた結果なのだろうが……、まったく面倒臭い。

 直前まで行なっていた行為と症状から、魔力酔いの一種だと簡単に推測できる。

 おそらく酒に酔ってフワフワと気持ち良い感じと似た様なものが、レンの身体を覆っているのだろう。

 ただ、本物の酒と違って魔力による軽い酔いなら、風呂にでも入っていれば自然と落ち着くだろうと、急いで湯船に魔法で湯を用意してやる。




 次の日からは、朝から街の外に出て薬草採取。

 街から一時間以上歩いた森の中で、薬草が生えそうな環境や、薬草毎に違う必要な部位と、その採取方法の注意点を一つ一つ教えてゆく。

 そのためより多くの種類の薬草を【物質探知】のスキルで探すのだが、俺の探知スキルはレベルが低いため、探知範囲が狭いのを歩き回ってカバーをする必要がある。

 それでも、何もなしで探す事を思えば、余程楽だとは言えるがな。

 ちなみに、この【物質探知】だが【探知】スキルの枝スキルとも言えるスキルで、実はレアスキル。

 他にも【気配探知】も同様に【探知】から分岐する枝スキルだけど、此方は通常スキルの分類ではあるが、何方にしろLV1(能無し)の俺では、あったら便利程度の能力でしかない。

 早速見つけた薬草を摘むレンに注意を促す。


「枯れた部分は丁寧に取っておけ。

 後でも良いが、たくさんある場所はその場で十本ずつ纏めておくと、籠にそのまま突っ込むより痛みにくなるから、売る際にも値引きされずに済む。

 面倒だが手間を惜しむな、一つ一つは僅かな差でも、量が重なれば生まれる差は大きくなるぞ」


 一応、この街に来る前にも少し教えてはいるが、今までは何方かと言うと、薬草の見つけ方を主体にした物で、細かな事は後回しにしていた。

 今日からは俺は一切手を出さずに、師匠役に徹底しているので指導に集中できると言うのもあるが、街近くの薬草採取は、低レベル冒険者である子供の大切な収入源だからと言うのが一番の理由。

 中堅下位相当に当たるDランクの冒険者だとは言え、此処等を使う子供達よりも上のランクの俺が手を出して荒らしたら、駆け出しの子供達が困るし、ギルドにも注意を受ける事になりかねない。

 現に他の子供達が俺の姿を見て、なんだと言う目を時折俺に向けて来るから、非常に居心地が悪い。

 途中で小川を見つけたので罠を仕掛けておいたので、昼の休憩がてらに成果を確認しに行ったら、横取りしようとしていた子供達を発見したので注意。

 証拠を見せろと言って来たが、こう言う事は冒険者に成り立ての時に慣れていたので、罠には魔法で印をつけてあり、印を付けた人間の魔力でしか反応しないそれを見せてやったら、悪態をついて返してくれる辺り、まだ素直な子だと言える。

 性質(たち)の悪い奴は、関係ないとばかりにの罠の道具ごと持って行くからな。

 罠の仕掛け方や、使う罠をレンに教えるためにだったので、ある意味、今のやりとりもレンには良い勉強になったろう。


「おい待て、ボウズども」

「なんだよ謝っただろうが」

「ちょっと待ってろ」


(雷よ、穿て)

(光よ、我に力を)


 雷の魔法を小川に落としてやると、プカプカと何匹か魚が気絶をして浮いてくる姿に唖然とする子供達。

 今のは唯の魔法の練習だから、人の物を不当に得ようとした迷惑料として、浮いている魚の後始末を命じておく。

 その間に俺とレンは火を焚く準備をして、罠に掛かっていた魚を使った野営料理の指導を始める。

 素人の適当な捌き方ではなく、きちんとした魚の捌き方を敢えてゆっくりと口に出し、味付けも今回は塩と其処等に生えていた香草を使って臭みを消す方法。

 魚の種類によっては、泥を吐かせた方が良い事などもレンに教えておく。

 先程の子供達が、その様子を盗み見しながら聞き耳を立てているのを、レンが何やら気にしているけど、其処は敢えて無視。

 今日の所は簡単調理法として、内臓を取り出してから塩をふり、匂いの素である水気を少し出させてから綺麗な布で拭き取り、腹の中に香草を詰めて、其処等の枯れ枝で串にして焚き火で遠くから炙って調理する事。

 ただ、使う枝によっては、臭みが増したり毒があったりとするから注意するように。


「例えば、このカンジュの木の枝で串にした日には、腹痛を起こして三日はえらい目にあうぞ」


 遠目に、問題の枝を拾って居る子供がいたので、声を大きくして見本の枝を手に少し厳しめの声で教えてやると、ビクッとした手と物凄く驚いた表情でその枝を床に落とす子供の姿に、吹き出しそうになるのを堪えるのは少々苦労した。

 レンは巻き添えとも言えるが、串にする枝や皿代わりにする葉をきちんと選ばずに、酷い目に遭う事を思えば、これくらいは許してもらいたい物だ。

 最悪、体調を悪くしている時に、魔物や盗賊に襲われる事もあるからな。


 昼を済ませたら、午前中の続きを少しだけやるつもりだが、何やら周囲にいた子供達がゾロゾロと付いてきて、此方の声が聞こえるギリギリくらいのところで、薬草摘みをしているが、引き続き知らんぷりをしておく。

 その頃にはレンも空気を察したのか、午前中に教えた事を言葉にして確認して来るあたり、口は相変わらず悪いけど、やっぱりレンは心根の優しい子だと思う。


「さてと、あまり遅くなると危なくなるし、ギルドの買取用の受付も混むだろうから、今日のところは終わりだ。

 早めに戻って採取した薬草を整理して売れば、その分買い叩かれずに済む。

 明日は西門から出て、森でなく山の方で採取の勉強をするぞ」

「は〜い、師匠」


 子供なんぞ幾ら元気に見えても、身体の大きさ的に体力は知れている。

 山歩きは意外に体力がいるから夕方近くまで採取をしていたら、翌日に疲れを持ち込みかねないし、そんな状態で下級とはいえ魔物に遭遇したら、命の危険にも繋がる。

 夜は魔物の時間で、多くの物達が動き出すからな。




 =========================




「カイルさん、例のアレ、調子が良いわぁ」


 レンに薬草の採取を教えながら、レンのギルドの貢献値を貯める日々を五日ほど過ごした頃、宿の女将が満面の笑みで、頼んでもいない甘いお菓子を持って声を掛けてくる。

 どうやら、以前に渡したお肌の手入れ用の魔法薬の効果が目に見え始めてきたらしく、大変御機嫌らしい。

 まぁ確かに、女将の髪の艶や張りが良くなった様に見えるし、肌も何となくしっとりしている様に見える。

 レンは、若い分回復が早いのか、髪は出会った頃のボサボサが信じられない程サラサラした髪になっており、緑色の髪は新緑を彷彿させる。

 肌に関しては、今までの食生活が食生活だけにまだ時間が掛かりそうだが、だいぶ血色は良くなってきてはいるので、この街にいる間は、せいぜい真面な物を食べさようと心に決めている。


「お気に召してくれたのなら、作った甲斐があったよ」

「あれって、買うと高いのかしら?」

「さぁ、売り物にしていないからなんともね。

 使った薬草もそうだけど、俺独自の方法を使っているから、それなりにはなると思う」


 魔法薬は、薬草をそのまま加工していった物に比べれば、総じてそれなりの値段はするので、庶民の日用品にはあまり向いていない。

 技術以前に適応したスキルと属性がないと出来ないし、適応したスキルを持つ本人がその方面に走るとは限らないから、自然と世に出回る量は少なくなるのが主な理由だ。

 俺はLV1(能無し)でも【賢者】スキルのおかげで全属性持ちだし、後天的スキルも身につけやすいため、低いレベルの物なら工夫次第で大抵の事はなんとか出来る上、【全知無能】を使えば、高レベルの物も少量なら作れたりもする。

 まだ身体の消耗や反動がキツくて、あまりやれないけどな。

 その辺りも基礎レベルと魔力の制御が上がれば改善して行くとは分かってはいるけど、使い熟すにはまだ時間が掛かりそうだ。


「ええ〜〜、勿体ない。

 作って売り物にすれば良いじゃないのよ」

「俺一人では、需要に応えられる気がしない」

「……それもそうね。

 でも、この宿を利用している時ぐらいは、作ってくれると嬉しいかなぁと」


 作るのは構わないが、それだと私も私もと言う人間が出て来かねないし、商人として、あまり褒められた状況ではない。

 この手の物を売るのであれば、ある程度公平にすべきだと思う。


「今後、宿を利用させてもらう時に、レンの相談事に乗ってくれるのであれば、そのお礼と言う事で、個人的なお土産として贈るのなら構わない」


 だが、あくまで身内が世話になる礼としてなら、問題はないだろう。

 ちんちくりんだが、レンも一応は女だからな。

 男である俺では相談に乗りにくい事もあるだろうし、そう言う事の出来る相手を作っておくのは悪い事ではない。

 他の街の常宿でも、この手が通用すると此方も話が簡単なんだが。


「一瓶?」

「半月以内の滞在なら一瓶、それ以上なら二瓶」

「レンちゃん、いくらでも相談には乗るわよ。

 カイルさん、女心にはとことん駄目そうだもの。

 それに、これで旦那をもっと喜ばせてあげれるのだから、遠慮は無用よ」


 俺の事はともかくとして、相変わらず夫婦仲が睦まじくてなによりだこと。

 十代の頃からの付き合いで、三十代半ば未だ周りが羨む夫婦ぶりなのだから、羨ましいかぎりだ。




 =========================




 次の日も、いつも通りレンの薬草・薬木の採取に付き合う。

 街の四方向を順番に回る様にはしているが、それでも同じ場所で採取する事は出来るだけ避ける様にしている。

 そうしないと幾ら採る量を調整していても、採り尽くしかねないし、弱らせてしまうから、可能な限り長いローテーションを組めるようにと、レンに教えて行く。

 うん、まぁ他にもいるから、当然先に採られる事もあるよね。

 其処は、複数の巡回ルートを持って工夫するなり、新たな群生地を開拓するなどして対応してゆくしかない。


「「「「ふん、ふん」」」」


 周りで何か聞いている子供達は、あくまで無視。

 子供達は、此方の邪魔にならない様に左右に散ってくれているし、首を傾げている子がいるのをレンが気がつくと、もう一度質問して詳しい説明を求めると言った作業の繰り返し。

 俺としては、レンが周りを見て行動する練習になるので、俺も敢えて気が付かないフリをしている。

 そうすると自然と向こうも、どうしたら自分が知りたい事を相手に知らせれるだろうと頭を巡らす事になる。

 そんな子供達の様子を、良い傾向だと感じる。

 レンのお零れを与っている事を自覚し、下手に俺に直接要求しないあたり、ある程度弁えている中で、知りたい事を知るために、存在を敢えて無視している俺に直接でない分、数段と深く考えないといけないため、そうやって考える癖をつけるのは、これから生きて行くには大切な事だからだ。


「こいつは木の皮が薬になるから、枝を一晩水に浸けてから、皮を剥いで乾燥させた状態で持って行くと、その分の手間だけ高く引き取ってくれる。

 枯れ枝は枯れ枝で小刀で皮の部分を削って、それを叩いて細かくして、スリコギなどで粉末にすれば、別の用途に使えるから、地面に落ちてる枯れ枝も取っておくと良い」

「どんな用途になるの?」

「色々あるが、主だったもので言えば、最初のは麻痺用の下級解毒ポーションの材料の一つになるし、後者は腹下しの薬の材料の一つになる。

 傷薬にしろポーションにしろ、需要が高いだけに色々な種類もあるし、作り方も存在するから、それに応じた材料がある。

 一般的な傷薬だけでも、使われている薬草類は百種類を超すが、この辺りで採れる傷薬に使われる薬草類は十数種類だが、この辺りで採れる薬草その物は百種類前後だ。

 薬草摘みに出る度に一つ覚えておけば、半年も掛からず覚えれるぞ」


 季節毎に取れるものは違ってくるだろうけど、それでも知っている知っていないの差は大きくなる。

 他にも幾つかの罠の作り方や捌き方、よく見かけるスライムの効率の良い倒し方。

 陶器の器に生きたまま捕獲して持ってゆけば、廃棄物の処理用として引き取ってはくれるけど、強酸性の液を吐き出す事があるから要注意だ。


「バレ芋は安いが、芽の所や緑に変色した所には毒があるから、切り取って捨てるように。

 日光の当たらない、暗くて涼しい所に置いておけば、芽も出にくいし変色もしにくい。

 後は切って茹でても良いし蒸しても良いし、遠火で焼いても美味い。

 量が心配なら擦りおろすなり、叩き潰すなりして、スープに溶かす様に煮るといい。

 其処に、パンを浸してやれば、石の様に硬いパンも汁気とともに旨みを吸って美味く食える。

 そのパンも擦り下ろして煮てやれば、スープにトロミが付いて麦粥の様になるから、同じ材料を使った料理をいくつか覚えるなり工夫すれば、飽きが来にくい」


 レンに調理を教えながら、昼飯の支度をしていれば、周りの子供達も、最近は簡単な調理器具を持って来て真似をする様になった。

 宿に戻れば、夕食前はレンは文字の練習で、夕食後は薬草などの扱いの勉強、風呂に入る前に魔力の循環の鍛錬を熟す毎日。




 ああ、一応は言っとくが、幾ら少し荒い息を吐きながら、顔を真っ赤にしてトロンとした表情をされようとも、子供のレン相手に変な気なんて欠片も起きないから、変な想像をしないように。





ここまで読んでいただきありがとうございます。


気が向いたらブックマーク、評価など頂けるとありがたいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ