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03.確か弟分を弟子にしたはずだよな?






「……人がいっぱいだ」

「それ、何度目だ?

 門のところで時間を取られたからな、日が暮れる前にさっさと宿を取るぞ」


 ど田舎のレオニダス村から、おそらく初めて外の世界に出たのだろう。

 町ではなく、より大きな街の雰囲気に呑まれているお登りさん状態のレンを、逸れてしまわない様に手を掴んで連れ歩く。

 ランディッシュの街は俺が遊覧しながら旅をしている中で定期的に立ち寄って街の一つで、常宿がある。……と言っても三回しか使ってないけどな。

 パーティーに居た時に使っていた宿は、心理的に使いにくいし、一人二人なら条件の良い宿は幾らでもある。

 そうして街に入って二十分ほど歩いて、大通りからかなり離れた通りにある建物。


 飯宿【華の輪亭】


「あら、カイルさんひと月ぶりかしら、今回は早いのね」

「やっと顔と名前を覚えて貰ったか。ひと月ほど世話になりたいが、空きはあるか?」

「あるけど、そっちの小さな子も?」

「このボウズは一応は弟子だ。あまり詮索はしてくれるな」

「ふ〜ん、まあ良いけど、面倒事はゴメンだよ」

「心配するな。犯罪絡みじゃない」

「飯は明日の朝からになるけど、パンとスープだけで良ければ、部屋にまで持って行くわよ」

「頼む」


 前金で一ヶ月分の金額を渡しておく。

 レンは詮索されて困るものでもないが、売られる現場に鉢合わせて、勢いで買ってしまったなんて、冒険者としても商人としても失格な事など、得意げに話す様な事じゃない。

 そして、俺が払った金額に目を丸くするレンは。


「高えぇ」

「阿呆、これでも安い方だ。

 高いか安いかなんて物は人によって価値が変わる。

 此処は、飯も朝夜とある上に美味いし、毎日違う料理を出す。

 部屋も決して広いとは言えないが、綺麗にされている上、シーツも数日ごとに交換してくれる。

 先程の女将とその旦那も、元冒険者なだけあって腕っ節も強いから、防犯性において一定の信頼がおける。

 おまけに、此処は部屋に良いもんが付いているからな。

 快適に過ごせてあの値段なら、俺は安いと判断している」

「ぉ…、ああ、そう言うもんなんか?」

「そう言うもんだ」


 失礼な事を言うレンを軽く嗜めてから、鍵を貰った部屋に移動するが、……あの女将、俺とレンのやりとりを、胸の下で腕を組んでニヤニヤと面白そうに笑いやがって、ついつい強調された谷間の目がいっちまっただろうが。

 思わず得れた眼福な光景を、人妻だからと邪念を振り払って部屋を開けると、其処は何時も通りの二人部屋。

 俺の場合、宿で色々作業をする事があるから、少し高くても広めの部屋を取っている。

 大きな街だと二人部屋の方が多いから、値段は多少高くなる程度で済むのもその理由だ。

 流石に今回はきっちり二人分取られはしたが、これからずっとそうなるのだから文句を言っても仕方がない。受け入れるだけだ。

 重い荷物を下ろし、外套を備え付けのクローゼットの中に掛けて一息を入れる。

 荷を解いている内に、部屋の戸を叩く音がしたので開けてみれば、早速パンとコップに入ったスープを二人分持ってきてくれた女将がいたので、礼を言って受け取る。


「……美味い」

「言った通りだろ。

 パンも今日焼いた奴だろうな。日持ちさせる事を考えてないから、柔らかいだろ」


 早速、レンと共に戴くが、親父さんの料理は相変わらず美味いな。

 スープも時間を掛けて煮込まれているから、俺が野営で作るなんちゃって料理とは雲泥の差だ。

 暖かく深い味わいのあるスープをじっくりと味わいながら、小麦の甘みと香りを感じる柔らかいパンを頬張るのは、何処となく心がホッとする。

 食事の後は、再び荷物を解いて暫くこの宿に世話になる準備を終えたら、続きになっている小部屋に行くと間仕切りがあり、更にはその向こうには湯船がある。

 この宿の目玉で女将の拘りらしいが、俺もその拘りには賛成だ。

 宿そのものに湯船どころか、身体を洗おうと思ったら、井戸で水を被るかタライに湯を貰って身体を拭くしかない所が大半だからな。

 流石に湯は別料金だけど、幸いな事に俺には魔法があるから、それで問題ないし、女将も別に構わないと言ってくれている。

 湯を持って往復しなくて済むと平気で言うあたり、拘ったは良いけど、それなりの重労働で大変なのだろう。

 中には、湯を運ぶ労働力の分、湯の料金を安くするサービスを利用している人間もいるから、なかなか柔軟な工夫を凝らしていると思う。


(水よ、恵め)

(火よ、水と共に踊れ)

(光よ、我に力を)


 多少魔力は使うが、あっと言う間に湯船に湯を張る事が出来るから、湯桶を持って往復する事を思えば、かなり楽と言える。

 身体を隅々洗い、久しぶりの風呂に心ゆく迄堪能する。

 変装を一々解いて、またする手間はあるが、この心地良さの前には大した手間じゃない。


「ふぅ、良い湯だった。お前も入ってこい」

「い、いいっ!」


 何故か拒絶する言葉を放つレンに、眉を顰めるが、まぁあんなど田舎に居たんだ、風呂なんて入った事はないのだろう。

 それでも身体を拭く事くらいは知っているはずだから、中に入ればだいたい使い方は分かるはずだ。


「いいから入ってこい。

 言いたくはなかったが。いい加減匂うぞ。

 風呂の使い方が分からんと言うなら、一緒に入ってやってもいいぞ」

「だ、誰が一緒に入るかっ。

 き、着替えがないんだよ。なら入っても一緒だろ」

「着替えは明日買いに行く、今夜は俺の予備の服でも着ていろ」

「サイズが合う訳ないだろう」

「紐で括っておけばいいだけだ。

 我が儘を言うな、そんな汚いままベットを使ったら、シーツにダニや汚れが移って宿に迷惑をかける」

「な、なら床に寝れば」

「いい加減にしろ、これは師匠命令だ。

 これ以上何か言うなら、犬猫の様に無理やり洗うだけだぞ」


 はぁ……、全く初めての事ばかりで、不安になるのは分かるが、なんで風呂程度であんな意固地になるのやら。

 しっかりと隅々まで洗って来なかったら、無理やり洗い直すぞと脅しておいたから大丈夫だろうが、慣れていないのならしばらく時間が掛かるだろう。

 いつもならこの後で色々と作業をするのだが、今夜は別にやる事があるため、その準備をした後に、アイテムボックスから取り出した本を読んで時間を潰す。

 この本は、父からの餞別品であった魔法の本。

 国の開放している方の書物庫と繋がっていて、遠くからでも書物この本の内容が一時的に転写される魔法道具(マジックアイテム)

 書物庫にある全ての本が登録されている訳ではないみたいだけど、それでも旅をする俺には物凄くありがたい物だ。

 当然、物凄く高価な物で、金があれば誰でも手に入れれる様な物ではない。

 代々国に貢献し続けたバンデット伯爵家の権力と財力がある父だからこそ、手に入れる事が出来た代物と言える。

 少なくとも、家族が好き好んで俺を放逐した訳ではないと分かる代物だ。

 バンデット伯爵家の人間として、騎士見習いにもなれない人間を置いておく訳にはいかないから、そうせざるを得なかっただけの事なのだと思う。

 本の(ページ)を捲ってゆく内に、カチャリと音を立てて風呂場から出て来たレンが姿を現し、何故か唸り声をあげている。


「……ゔぅっ」

「………お前、そんな可愛らしい顔していたんだな。

 そりゃあ好事家に売られそうになる訳だ」

「うるさいっ! だから嫌だったんだ」


 土や埃や垢をすっかり落としたレンは、子供だと言う事を差し引いても、気の毒なくらいな女顔。

 これなら、確かに値段も吹っかけられる訳だと思いはするが、レンが女顔だからと言って、俺が得する訳でもない。

 幸いな事と言っては何だが、俺にはそう言う変態的な嗜好は持ち合わせていないからな。


「まだ子供だからな。

 あと数年も我慢すれば、少しは男らしい顔付きになるさ」

「……な、ならなかったら、どうするんだよ」

「知るか、自分で考えろ。

 あとはしっかりと食べて鍛えて、筋肉ムキムキにするとかはどうだ?

 飯ぐらいはちゃんと食わしてやるつもりだから、今から鍛えれば狙えるぞ」

「やだっ、そんなの気持ち悪いっ」


 世界中のバスターソードと大戦斧持ちの人間に、頭を下げて謝ってもらいたいセリフを吐くレンに苦笑しつつ、湯上がりで喉が乾いたろうと、果汁が入ったコップを渡してやる。

 魔法で冷やしてあるから心地良いはずだ。

 甘い飲み物に嬉しそうに飲む姿に、生意気な口ばかりついてはいるけど、やっぱりまだまだ子供だなと微笑ましくなる。

 まぁこの後が大変な目に遭うかもしれないけどな。

 なにせ、魔法薬入りの飲み物だ。


「……あ、あれ?」

 かこんっ。


 困惑するような言葉と、空になった木のコップが床に落ちる音がする。

 その音に本から目を挙げると、ちょうど床に崩れ落ちるレンの姿が映るが、予定調和なので気にしない。

 薬とは言っても、力が入らないだけで動く事は出来るため、抵抗し力無く暴れるレンをベットに連れてゆく。


「う…くっ…は、はなせ。へ、へんたいやろう」


 まぁ顔を真っ赤にして悪態付けるくらいには元気なようだが、嫌な誤解だけは一応は解いておく。

 俺に子供をどうこうする趣味もなければ、同性愛の趣味もない。

 いくらレンが女顔だからと言って、子供で男の子であるレンに欲情するなどありえないし、其処まで飢えてはいない。


「何を勘違いをしているか知らんが、今から行なうのは診断だ。

 あの親父さんの元に居たんだ、どんな怪我をして放置されていたか分かった物じゃないからな。

 力が入らないのは薬の効果の一つで、他にも魔力の通りを良くするのと、痛みを和らげるための効果が含まれている。

 だが下手に力むと効果が薄れ、痛みが増すだけだぞ」


 ベットに仰向けに寝かせたレンは、まだ俺を睨みつけて威嚇するように唸ってはいるが、無視して診察を始める。

 まずは頭部だな。

 数日前まで腫れ上がっていた痣は、渡した軟膏でとっくに消えてはいるが、頭部は髪と目深に被っている帽子が邪魔をして、外からは分からないからな。

 珍しいエルフの耳を触ってみたい誘惑に駆られるが、それこそ変態行為とも言える事なので、誘惑を一瞬で切り捨て真面目にレンの身体を診てゆく事にする。

 【聖魔法】と【医療】と【同調】と【鑑定】と【解析】のスキルと使って診察をしてゆく。

 スキルレベルの低い分を知識と経験、そして魔力を喰うが複合的に使う事で補う。

 頭部や顎部に、少し内出血したものが固まったままになっている部分が幾つかあったので、これなら少しコツはいるが、簡単な治癒魔法でも癒してやれる。

 次に腕は……左の第二腕部が骨折して、少し歪んだままくっついてやがる。

 筋を少し圧迫しているから、そりゃあ力が入りにくい訳だ。

 ベット脇のテーブルに置いておいた粉末を患部に眩し……。


「痛むぞ」

「ぐうっ!」


 一度完全に破壊してから、中級(・・)回復ポーションを振り掛け。


(聖なる力よ、癒したまえ)


 中級の治癒魔法(・・・・・・・)で、底上げをしながら、両方の効果を【同調】スキルで導いて行くに伴い、患部が綺麗な形の骨へと成形され、圧迫され歪んでいた筋や筋肉が綺麗な形になっているのをスキルで確認してから、次に移る。

 右の手の甲の骨もか。表面的には傷跡になっていない物とかも考えると、あの親父、本当に碌でもねえな。


「脱がすぞ」

「い、いいっ! なんふぉもふぁいっ!」

「馬鹿を言え、頭や手だけでこれだけあるのに、胴体に何もない訳ないだろうが」

「そ、それへもひひっふぇんだっ」

「知るか、何も無いなら何もないで、それが確認できればいい」


 何を恥ずかしがっているのか、耳まで真っ赤死にながらも、力の入らない身体で必死に暴れるレンを無視して、ブカブカの俺の予備の服を脱がしてゆく、面倒だから一緒にズボンも……。


「………つ、ついて……ない?」

「うぅっ!!」


 子供の予備の下着なんぞないから、当然ズボンの下は何も履いていないのだけど、其処は俺の想像していた物とは全く違う光景。

 男なら、あるべき物が無いと言うか。

 ツルツルの丘と谷間があると言うべきか。

 とりあえず、レンが頑なに風呂に入る事や、治療のために服を脱がす事に抵抗していた理由が分かった。


「お、お前、女だったのか」

「う…、うるふぁい、へ…んふぁいっ!」


 力が入らず上手く喋れない口で悪態をつく姿は、まぁ俺の良く知るレンだと実感させられる。

 風呂に入って可愛らし顔と、ゴワゴワの乱れた髪から真っ直ぐになった髪の毛に、少し違和感を感じてはいたのだけど、間違いなく目の前の女の子はレンのようだ。

 まぁ、レンが男だろうが女だろうが、やる事は変わらないんだけどな。

 一応、恥部はタオルで隠してやって、睨みつけながら悪態を言い続けるレンを無視して、診察を続ける。

 案の定肋骨が何本か歪んでいるし、内臓にも損傷を受けた形跡がある。


「ゔうっ!」


 胸に手を当てたところで、レンが威嚇してくるけど、いくら女の子でもペッタンコの胸を触ったところで少しも嬉しくもないし、治療行為だから、あろうがなかろうが関係がないので、淡々と診察をしては異常のある場所を治療してゆく。

 そのまま下半身を足先まで見てゆくけど、此方も何箇所か治療が必要だった。

 身体の正面は終わって、今度は背中側。

 まだ人を唸りながら睨みつけるレンを引っ繰り返して、診察をするのだけど。

 ……よくもまぁ、今まで動けていたな。背骨の一部がズレてやがる。

 こりゃあ、中級回復ポーションと、少し底上げした治癒魔法じゃ悪化する可能性があるか。

 あんまりやりたく無いんだけど、仕方ない。


(無なるものよ、その虚ろを埋め、更なる力を)


 心の中で唱える呪文と共に、ごそっと持って行かれる魔力と疲労に耐えながら次なる魔法を唱える。


(聖なる光の力よ、今目の前に苦しむ者の傷を完全に癒したまえ)


 聖魔法LV8による高等治癒魔法に、レンのズレた背骨は痛みも後遺症が残る心配もなく正常な物へと還ってゆく。

 吹き出す汗と共に息を深く吐いた俺は、レンにブカブカの俺の服を着せ。

 寝かせたまま霊薬を無理やり飲ます。

 いろいろ無茶な治療をして、今夜は身体が痛むだろうから、その痛み止めと回復を促す役割の他に、眠りを深くする効果がある。


「終わったぞ、今夜はゆっくり眠っておけ」

「……へんなこと、し…、しないのか?」

「するかっ」


 まったく、変な事ばかり言やせやがって、そういう連中と同列視されていた事に怒りが湧くと同時に反吐が出そうな思いになる。……が、まぁレンの立場からしたら、警戒する気持ちも分からんでも無い。

 くだらん心配する余裕があるなら、とっとと寝ろと命じておく。

 一応、安眠効果のあるお香を、レンのベット側のサイドテーブルで焚いておいて、レンが寝息を立て始めたのを確認したら、アイテムボックスから痛み止めの薬を取り出し、一緒に出した酒と一緒に飲み込む。


 LV8相当の高等治癒魔法。

 いや、それだけじゃ無く、レンの治療に使った中級……LV4相当の治癒魔法も、本来であればLV1(能無し)である俺が使える魔法では無いし、中級回復ポーションも安易に用意出来るような代物ではない。

 無理に使った反動として、本来の五倍から十倍に相当する魔力と、使ったLVに応じた痛みが身体を襲う。

 使えるようになった当初に比べたら、痛みは大分マシになったとはいえ、まだまだ魔力制御の鍛錬が不足しているって事だろうな。

 だけどたとえ代償を払おうとも、それでも天啓スキルのレベルを超える魔法や、能力を扱う事は普通は出来ない。

 答えは簡単だ。

 そう言うスキルを俺が持っていると言うだけの事


 固有スキル、全知無能。


 使い勝手の分からない意味のないスキルとされていたけど、これは【賢者】LV1のスキルとセットでなければ意味のないスキルで、低レベルの時点でレベル上げを諦めるのが普通の中、一定以上のレベルにならないと解放されないと言う鬼畜仕様だ。

 ただ、その恩恵は解放前でも多少あり、後天的スキルの身に付きやすさの他にも、分かりやすい物で【鑑定】のスキル。

 家にいる時は使い勝手の悪さもあって、滅多に使わなかったから分からなかったけど、俺の【鑑定】はLV1でも内容が少し違った。

 知識と経験を貯めてゆく事で、その物に対する造詣が上がると共に、見える内容がLVが上がっているかのように、詳しく見えるようになっていった。

 薬草に対する知識が詳しくなれば、薬草の鑑定結果がどんどん細かくなり、その時思い出していなくても、詳細を確認する事が出来る。


 そしてその知識を支えるているのが、【全知無能】の中に含まれている知識を溜め込む能力。

 元々記憶力は良い方だと思っていたけど、【鑑定】の魔法の進化の秘密に気がついた後は、見聞した知識は全て其処に収まっており、【鑑定】の魔法や俺の知識を支えてくれる。

 そして【全知無能】の解放条件なのか、レベル35になると共に突然得た【同調】スキルによって、元々使えていた複合魔法やスキルの複合同時使用が、以前に比べて格段に扱い易くなったのと同時に、その時に使っていないスキルのレベルを貸し出しする事が出来るようになったいた。

 無能のと言うのは、能力が無いと言う意味ではなく、空の能力で何にでもなれるし、何でも入れれる器の『無』と言う意味だったようだ。

 つまり、強い疲労と身体中を襲う痛み、そして五倍から十倍もの魔力を糧に、LV10までのスキルを使う事が出来る。


 まぁ反動は痛み以外にもあるし、言うほど使い勝手のいい能力ではないけど、やれる事を一気に増やしてくれた事は確か。

 本来作れるはずのない、中級ポーションや、霊薬。

 他にも収納の鞄を作れるようになったのも、この能力のおかげと言える。

 まぁ危なすぎて、他人に知られる訳にもいかない能力だけどな。

 今の俺の能力値は……。


(鑑定、ステータス)


 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 【 名 前 】 カイラル

 【 種 族 】 人 族 ♂

 【 職 業 】 平民 冒険者 商人

 【 年 齢 】 17

 【基礎レベル】 53

 【天啓スキル】 賢 者 LV1

 【基礎 能力】

     体 力   81/ 372

     魔 力   33/6245

     筋 力   96

     生命力   87

     防御力   77

     敏捷性  124

     魔法力  535

     知 力  881

     器用さ  473

     幸 運   80

 【 魔 法 】

     魔法:地  LV1    魔法:水  LV1

     魔法:火  LV1    魔法:風  LV1

     魔法:聖  LV1    魔法:闇  LV1

     魔法:時空 LV1

 【 スキル 】

     鑑 定   LV1    錬 金   LV1

     調 合   LV1    解 析   LV1

     魔導具作成 LV1    魔人形制作 LV1

     魔法陣   LV1    魔力操作  LV1

     同 調   LV1

     鷹の目   LV1    探 知   LV1

     気配探知  LV1    物質探知  LV1

     危機察知  LV1    敵意察知  LV1

     魔力感知  LV1    警 戒   LV1

     隠 身   LV1    気配遮断  LV1

     身体強化  LV1    闘気術   LV1

     弓 術   LV1    投擲術   LV1

     剣 術   LV1    刀剣術   LV1

     抜刀術   LV1

     偽 装   LV1    生活術   LV1

     調 理   LV1    装 飾   LV1

     服 飾   LV1    速 読   LV1

     解 読   LV1    交渉術   LV1

     記 憶   LV1    解 体   LV1

     修 理   LV1    木 工   LV1

     革加工   LV1    金属加工  LV1

     鍛 治   LV1    彫 金   LV1

     医 療   LV1    薬 師   LV1

 【固有スキル】

     全知無能(ライブラリー機能、スキルレベルの貸出し、スキル同調補助、スキル習得の向上)

     魔力付与

 【 所 属 】

     冒険者ギルド、商人ギルド

 【 賞 罰 】

     無 し

 【 称 号 】

    LV1(能無し) 哀れな貴族落ち 朴念仁 ボッチ 追い出されし者 お人好し なんちゃって冒険者 スキルコレクター 巨乳好き レンの飼主

 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 脳裏に浮かぶ文字の羅列。

 毎度ながら、後天的スキルの多さ以外にも、称号に色々突っ込みたい。

 誰が付けているんだ? 神か? それとも悪戯好きの精霊か?

 もうハッキリ言って文句を言いたい物ばかりだ。

 他の者を見ても、ここまで巫山戯た内容じゃないぞ。

 特に最後の二つには文句を言いたい。

 レンは犬や猫やないから飼い主という表現は止めて欲しいし、巨乳好きは完全にプライバシーの侵害だ。

 別の好きなだけで、覗き見をしたり犯罪を犯している訳じゃないんだから、マジで勘弁して欲しい。

 そう言えば、此の際、レンも見ておくか。

 プライバシの侵害かもしれないけど、保護者としては、一応は知っておきたい。


(無なるものよ、その虚ろを埋め、更なる力を)

(鑑定、ステータス)


 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 【 名 前 】 レン

 【 所有者 】 カイラル

 【 種 族 】 人 族(●●エ●フ) ♀

 【 職 業 】 奴隷 弟子

 【 年 齢 】 12

 【基礎レベル】  2

 【天啓スキル】 (未聖霊)

 【基礎 能力】

     体 力   17/38

     魔 力   42/42

     筋 力   18

     生命力   23

     防御力   11

     敏捷性   32

     魔法力   40

     知 力   52

     器用さ   58

     幸 運  142

 【 魔 法 】

 【 スキル 】

     耐疲労  LV-

     耐空腹  LV-

     耐苦痛  LV-

     耐精神  LV-

 【固有スキル】

 【 所 属 】

 【 賞 罰 】

     無 し

 【 称 号 】

     男装少女 薄幸の美少女

 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 此方も色々とツッコミどころがいっぱいだ。

 理解不足で見えない部分はしかたないにしろ、未聖霊って、あのクソ親父、最初からレンを売るつもりでいたな。

 六歳の時に教会で受ける事のできる祝福は、戸籍確認の意味も含めて基本的には無料。

 ただし、これ以外で受けようと思うと、罰則の意味も兼ねて大金を支払う事になる。

 でも、中にはこの制度を逆手にとって、最初から奴隷として売るために、能力値を低くしておいた方が逆らわれにくいし、その方が使い勝手が良い事があると考え、敢えて祝福を受けさせない親がいると聞いた事がある。

 確か、規定の歳を過ぎた子供の祝福を受けるには、お布施が百万モルトだったか?

 ……まぁいい、そういう頭の痛い話は明日だ。

 今の本気の鑑定で、残った魔力を使い切って、マジ眠い。


「おやすみ、レン

 お前が、父親や家族からの呪縛から解き放たれる事を、心から祈っておくよ」




 =========================




「天誅〜〜〜っ!!」

 ごすっ!

「ゔぉっ!」


 掛け声と共に、人が寝ている腹部を突如として襲う衝撃に、無様に声を上げて咽せる。

 少し涙目になって目を向けた其処には、レンが俺の腹の上に跨って、ニヤニヤ笑っていやがる。

 はぁ……、まだ昨日の【全知無能】の反動が残っていて、身体が(物理的に腹部も)重いが、レンの強襲に気がつかないなんぞ、だいぶ深く眠っちまっていたようだな。


「身体に痛みや違和感はないか?」

「ない」

「隠しては?」

「しつこいっ」

「良くもなっていないと言う事か」

「そ、それは……良くなった」


 なら良かった。

 そうでなければ、レンは痛くて怖い思いをしただけだからな。


「それで、いきなり人を乱暴な手段で起こした理由を聞かせてもらおうか」

「き…、昨日…み、見たから、嫌がったのに……、無理……やり」

「アレは診察と治療だ。

 分かっているはずだろ」

「そ、それでもっ!」


 顔を真っ赤にして憤慨するレンに、今一度溜息を吐く。

 昨日見たレンのステータスを見た限り、十歳になっていないと思ったら、実は十二歳の女の子だった訳だから、まぁ羞恥心を持つのも当然と言えば当然か。

 思い出したのか、顔を赤くしながらも、唸って此方を見ている様子からして、頭では分かってはいても、感情が整理できないってところか。

 まぁ無理やりだったのは確かだったし、男だと思っていたから乱雑に扱ったのは確かだからな。


「分かった、俺が悪かった。謝罪をしよう」

「うん、ならいい」


 まぁ、口は悪くても元来素直な性格なのだろう、そう口にしてくれるレンを微笑ましく思えるのだが……。


「だが、そう羞恥心を持つなら、朝から男の腰に跨るのはどうかと思うぞ」

「このスケベ師匠!」

 ぽすっ。ぽすっ。


 真下の俺の腹に向かって拳を落とすレンだけど、不意打ちならともかく、動作丸見えの上、非力なレンが拳を落としたところで、冒険者として鍛えてある俺の腹筋が、それでなんとかなる訳もなく。

 まぁ良いマッサージと思う事にしよう。

 あと、いい加減に降りろ。




「何か朝から騒がしかったようだけど」


 レンを宥めて、着替えてから宿の食堂に向かうと、女将が一言告げてきた。

 まぁあれだけ大声を出されたらな、子供の声は甲高くて周りに響く。


「親愛なる師匠と馬鹿弟子とのコミュニケーションだ」

「皆さん、もう起きておられた時間だから良いけど、アレより早くは勘弁してくださいね」

「すまん」

「ごめんなさい」


 子弟して素直に謝罪つつ席に座ると、やがて女将がトレイに乗った朝食を持ってきてくれる。


「やっぱり女の子だったわね。

 カイルさん、そう言う趣味なの?」

「違げえよ。

 男だと思ってたんだよ」

「そっちの趣味なの?」

「違うっ!」


 揶揄われているとは分かってはいるが、ここでハッキリと否定しておきたい内容だけに仕方がない。


「おばさん、美味しい」

「あら、ありがとう。

 でも、お師匠さんより先に食べ始めるのは、よくないわよ」

「ぁ……、ごめんなさい」

「気にするな。

 せっかく美味い飯なんだから、美味しく食べる事の方が大切だ。

 作ってくれた人達や、食べさせてくれる人達の感謝を忘れなければな」


 昨日はアレだけ治癒魔法を施したのだから、お腹が空くのは仕方がない。

 高等魔法は別として、基本的に魔法で傷を癒す場合は、肉体を構成する材料は本人から搾り取ってくるからな。

 多分、今朝の騒動も、お腹が空いて苛立っていた事もあっての事だろう。

 まぁ俺も魔力が尽きたのと、【全知無能】の反動でえらく空腹を覚えているから、二人して朝から物凄い勢いで食べたから、女将が驚いていた。

 明日から増やさないといけないかねと心配していたけど、今日だけだからと言っておく。

 そもそも、レンは此れ迄の貧しい食生活の影響で、まだそれほど量を食べれないからな。


「カイルさん、今日はこの子の買い物に?」

「ああ、流石に、このまま連れて歩く訳にはいかんからな、着替えも含めて旅装を一通りな」

「なら、お付き合いさせてもらっても良いかしら?

 こう言ってはなんだけど、カイルさんが女の子の買い物を分かっているとは思えないから」

「……日当は払う」

「いいわよ。私の息抜きもあるから」


 正直、渡りに船なので、レンの旅装に関しては元冒険者でもある女将に丸投げさせてもらう。

 女将の言う通り女の子の服や必要な物なんぞ、男の俺が分かるとは思えないので、予算に関しては一般的な物であれば気にしないのと、買わなくても良い物を幾つか注文つけて、レンと共に幾らか金の入った袋を渡しておく。

 俺はその間に、自分の用事を済ませる事にする。




「おう、アンタか、今回は随分と早いな」

「比較的近場に狩りに行っただけだが、それでも一ヵ月ぶりだぞディック」

「それもそうか。

 それで今回も買取かい?」


 商人ギルドのある、少し高級な店が並ぶ通り。

 レンと女将が行っているのは、別の通りにある庶民向けのランクの落ちる店が立ち並ぶ通りだろうけど、此方は貴族も使うような店もある通りにある革商品を取扱う店。


「革を買ってもらいたい」

「どんな革だ?」

「ワイバーンだ」

「ひゅ〜っ、マジか?」

「ああ」

「言い値で買おう。

 ずっと品切れで、半年以上も入荷待ち状態なんだ。

 その癖して注文だけは入っているからな。

 おまけに貴族絡みと来ている」

「催促が煩いか」

「ああ、無い袖は触れねえってのによ」

「どうせ値段に上乗せするんだろ?」

「当たり前だ、ワイバーンの革なんぞ、時価もいい所だ」


 鞄から鞣し終えたワイバーンの革を四匹半分取り出し、ディックが品質の確認しているが、まぁとりあえず使えるレベルのようだ。


「少しずつ腕は上がっているな。

 もともと腕が追いついていないだけで、丁寧な仕事ではあったが、これなら貴族向けにも十分に使える」

「それは頑張った甲斐があったな」


 専門に革を取り扱う人間にそう言って貰うと、色々工夫してきた甲斐があったと、少しだけ自信が付く。

 最初の頃は結構駄目にした皮もあったが、やっている内に少しずつ売れるレベルになってきて、やっと真面なレベルになったと思うとそれなりに感慨深いものがある。

 それと言うのも、冒険者ギルドにそのまま未加工の皮を持ち込むのに比べたら、革に加工すれば、金額にかなりの差がつく。それも数倍から十倍以上のレベルの話でだ。

 冒険者ギルドのワイバーンの皮の買取価格は一匹あたり五百万モルト前後だが、それは無傷の状態での話で、狩る時には大抵傷だらけになっているため、其処から値引きさてゆくから、だいたい百八十万モルトぐらいが相場だと言われている。

 俺のは罠を仕掛けて相手を無抵抗な状態にしてでの狩りなので、ほぼ無傷の状態で大きな皮が多く取れるため、ほぼ最初の値段になる。

 其処に皮から革に加工して直接品を卸す事に加え、更に数倍の値段がつく。

 冒険者ギルドの下請けは、大抵は見た目を良くするために端の部分を切り落としてしまうし、切り落とした部分は別用途で売却するため、こうして俺が持ち込むような奴は、店側も一匹丸々なので、隅々まで使えてお得だと、特に此処一年半は、革を取り扱う店にはそれなりに顔を覚えてもらえるようになった。


 今回も一匹あたり千八百万モルトで売れた訳だから、地道に頑張ってきた結果と言える。

 ただ冒険者ギルドではなく、こうしてお店に直接持ち込む行為は、普通は冒険者ギルドに睨まれる行為なのだけど、商人ギルドに登録をし、きちんと商品になる物へと加工した状態で売りつけている訳だから問題はない。

 冒険者兼職人兼行商人な訳だからな。

 その代わり、冒険者としてのランクを上げるためのポイントは堪らないと言う欠点はあるが、そこは問題にしていない。

 俺としては、冒険者ギルドの高額依頼や名声には興味はないと言うのがその理由だ。


「それで、こっちが半分な理由は?」

「使う予定がある」

「はぁ? オメエさんの外套や装備なんぞ、まだ綺麗なもんだろうが。

 確かにワイバーンの方が格段に物はいいが、作り直す程の差はねえと思うんだが」

「連れが出来た。そいつの分だ」

「ほう、それは益々聞き捨てならねえな。

 連れって事は当然女だろ?

 オメエさんのセンスで満足させれる物が作れるとは思えねえ、俺んところに任せな、そして余りをそのまま寄越せ」


 何故女と決めつける。

 其れと人のセンスに文句を言ってほしくはないが、言わん事は分かる。

 俺の場合、実用重視だからな。


「金が掛かる。

 それに、女は女だが色事とは関係のない弟子だ」

「弟子だろうが女は女だ。

 そう言う事を言っているから、オメエさんは女っ気がないんだ。

 稼いでいるんだからケチくせえ事を言うな。

 余りをくれるなら、それで相殺だ」


 アレでも一応は女だから女っ気がないとは言わないと言いたいが、それはそれで負けな気がするので、余計な事は突っ込まない。


「作るのは外套、胸当て、籠手、靴、鞄だ。

 明日、本人を連れてくる」

「……くぅ、ちょっと足が出るか?」

「嘘をつけ」

「騙されねえか」

「当たり前だ。

 だが、また良い革が手に入ったら持ってくる、それで勘弁しろ」

「約束だぞ」

 

 金貨七枚と小金貨九枚を懐に入れて、次は魔法の道具店に向かう。

 ワイバーンの魔石を始め、角や牙や爪や内臓は、森の中で採取した薬草等は其方に持って行くつもりなのだが、冒険者ギルドに所属している手前、売るためには多少なりとも加工をしないといけない。

 でも、どうせ売るなら店の要望に沿った物にした方がいいだろうから、まずは御用聞きが目的だ。

 そうしてこの街にいる間に、宿で必要な処理をして売りつけるって寸法だ。

 宿代は掛かるが、魔法の道具関係はそれ以上の利益が生んでくれるし、街に滞在している間は、他にもやる事があるので、そのついでと思えば悪くはない。


「いらっしゃ…って、アンタか」

「人の顔を見るなり残念そうな顔はどうかと思うが、ライラ、俺は招かれざる客か?」

「いや、残念な男が来て残念な気分になっただけで、歓迎はしているよ」

「どう言う意味だ」

「鏡を見な」


 二十後半ぐらいの、胸の大きな女店主兼魔導具師のライラの毎度の対応に、この店大丈夫かと心配になる。

 一度本気で、嫌な客だと思うなら他所を当たると聞いたのだけど、どうやらそうでもないみたいだから意味が不明だ。

 変装する前からの付き合いで、金払いが良いので重宝はしてはいるが、変装をしてから扱いがぞんざいになった気もするが、気にしていても仕方がない。

 早速、此方が持っている素材から作れそうな物の注文を受け付けるが、……どれも面倒な注文ばかり。

 彼女も、この手の作業は出来ない訳ではないらしいけど、持っていない属性に関しては、結局は外注をしないといけないので、結局は同じ事らしい。

 俺がやるのは、彼女が使うだろう素材にするための処理と加工だ。

 何より魔物を素材とした魔法薬や魔法の素材は、その魔物が生き絶えた時に近くにいた者の魔力の影響を受けるため、倒した俺が加工した方がワンランク上の物が出来やすいと言うのも理由の一つ。

 まぁLV1(能無し)の俺が、それだけの事をやろうと思うと、丁寧に手順を追って処理をしていかないといけないので、面倒な事この上ないのだが、仕事は仕事だ。

 魔力の循環と制御の鍛錬にもなっているので、其処は自分も鍛えれて売値も高くなるメリットがあると、毎回自分を言い聞かせている。


「ああ、そう言えば、レティシア嬢がアンタの事を心配してたわよ」

「レティが?」

「ええ、元気でやっているし、あの子達のパーティーに居る頃より、儲けているわって言っておいたけど。

 まぁ、あの子が悪い訳じゃないって分かってはいるんだけどね」

「前にも言ったが、余計な事は言わなくていい。

 俺は出て言った人間だ、どう思われようと勝手だ」


 以前に居たパーティーの一人の名前に少し驚くも、俺があのパーティーから追い出された事を店主は知っているから、店主なりに思うところがあったのだろう。

 店主からしたら、俺は面倒で手間が掛かる素材の処理を引き受けてくれるお得意様だろうからな。


「とにかく面倒事は御免だ」

「どうせ暇をしているんだろうから、少しくらい連絡を取ってみたらどうだい?」

「暇じゃない。

 事情があって弟子を取ったからな」

「……アンタが弟子を? ちと早くないかい?」

「言ったろう、事情があってだと。

 おまけに男だと思ったら、女だったから余計に面倒だ」

「ぷっ、なにそれっ。

 そんなのよく見りゃ分かりそうなもんでしょう。アンタ鑑定持ちなんだからさ」

「髪も伸ばしていない、胸もない、おまけに酷く薄汚れていて分からなかったんだよ。

 あと、誰彼構わず鑑定なんて、失礼な真似なんぞできるかってんだ」

「アンタらしいと言えばアンタらしいわね。

 どこか抜けていて間抜けなところが」

「喧嘩を売っているなら買うぞ」

「ムキになりなさんなっての。

 でも、その様子だと、ちゃんと面倒を見るつもりなんだ。

 今度、店に連れてきなさいよ。アンタが性別を間違えるなんて、どんな子か見てみたいし」

「知るかっ」


 これ以上いると、何を揶揄われるか分かった物じゃないから、とっとと退散する。

 ワイバーンの肉に関しては、これは未加工でも問題ない。

 多少買い叩かれるが、ギルドに売るよりも高くは売れるし、腐りやすい生ものだから、肉類に関してはギルドも黙認している。

 キロあたり一万五千モルトの卸値だったが、まともに買ったらその五倍から十倍の値が付く程の超高級肉だ。

 店で食べたら、どんな値段になるかを想像して、どう考えても俺なんぞを入れてくれるような店では無い事は確かだろうな。

 だが、これも全て荷物となる肉を持って帰れる、収納の鞄の恩恵と言える。

 収納前にした冷凍した事と、収納の鞄の時間遅延の効果のおかげで、低温で熟成もされているから余計に高く売れる。

 肉屋の方は、地下に時間遅延と時間停止の魔法陣が掛かった倉庫を持っているから、溜め込んでも然程問題ないらしい。

 固定式の魔法陣は、持ち運べる収納の鞄ほど高価な物ではないとは言え、それ相応の資金力がいるため、こう言った貴族や富裕層向けの高級肉を扱うための投資の結果なのだろう。

 その後は、幾つかのお店を回って、自分では作れない消耗品や道具を買い込んで、明日は、レンをお店に連れて行って採寸した後は、教会とギルドに行って登録を行わないといけない。そんな予定を確認しながら宿へと足を向ける。




「お帰りなさい」

「ああ、今日は迷惑を掛けたな」


 宿に入ると女将が出迎えてくれたので、まずは礼を述べるのだが、見回してもレンが見当たらないところを見ると、部屋で大人しくしているのかもしれんな。

 そんな俺の考えを察したのか、女将が笑みを浮かべて、俺が帰ってくるのを気がついて、宿の台所の奥に逃げて行ったと教えてくれる。


「あいつは少し礼儀を教えておく必要があるな。

 仮にも保護者である師匠の顔を見て、逃げ出すのはどうかと思うぞ」

「ふふっ、今回は勘弁してあげなよ。

 きっと姿を見られるのが恥ずかしいんでしょうから」

「恥ずかしいって、恥ずかしいような服を買ったのか?」

「……はぁ。この朴念仁が。

 今まで女の子らしい格好して来なかった子が、いきなり女の子の格好をさせられたら、戸惑って当然だろ。

 とにかく私がちゃんとあの子に似合う可愛い服を選んであげたんだから、きっちりあの子を褒めなさいよ。それが私のセンスを褒める事になるんだからさ」


 ……なんで其処に繋がるのか分からんが、あの薄汚れたボロボロの格好から、まともな服になったのなら、見違える事には違いないだろうから、ちゃんと服は褒めるぞ。

 此方の様子に気が付いたのか、厨房にいた親父さんに追い出されるように、姿を出したレンは、女の子らしくスカートを履いており。


「レンがちゃんと女の子に見えるとは、服の魅力は凄いな」

「この、クソ師匠っ!」


 せっかく褒めてやったのに、暴言を吐いて部屋の方に駆けて行きやがるとは。

 おまけに、女将が頭が痛そうに、手を当てて呆れた目を俺に向けてくるのは、納得がいかない。


「……カイルさん、アンタねえ」

「いや、褒めただろ」

「服だけを褒めてどうすんのよ。

 他に感想はないのかい?」

「いや、普通にああ言う格好のレンは可愛いらしいとは思ったぞ。

 ただ元が酷かったからな、見違えすぎて、まず思ったのがアレだったと言うだけだ。

 全体のバランスもいいし、控えめだけど要所要所に蔓草が可愛らしく刺繍された服も、似合っているが、それだけじゃないよな。

 相変わらず帽子を目深に被っていたから分かり難かったが、髪も綺麗に揃えられていたし、肌も何か塗ったのか、手入れをしただろ。

 前の生活が酷すぎてだいぶ荒れていたから、ちょうど肌向けの魔法薬を作ろうと考えていたから助かる。

 爪とかも綺麗に手入れされているように見えたから、あの様子だと男の俺だとやり辛い場所まで見てくれたんだろ?

 其処は女同士の気やすさがあっての事だろうから、心から感謝をするよ」

「……其処まで、きちんと見ておいて、なんでちゃんと言わないのよ」

「言う必要があったか?」


 何故か、説教を受けるハメになった。

 子供でも女の子なんだから、キチンと気を使えって、使っているつもりなんだがな。

 予想以上に軽くなった硬貨の入った袋を返される時に一緒に渡された紙には、旅をしていても最低限補充するような物のリストが書かれていた。

 まぁ、男の俺が口にし難いような物もあるから、その辺りは少額とはいえ、金の掛かる必要な物だから分かっておけと言う事なのだろう。

 髪が整えられている所を見ると、おそらくレンの耳の件もバレているだろうが、本人が隠したがっている内は、付きやってくれと頼む。

 色々と頼んだ以上の事をして貰ったようだから、礼に何かを贈ろうかと聞く俺に。


「お肌の手入れ用の魔法薬があるって言ってたけど、私にも作ってくれれば、それで良いわ」


 それで良ければ、お安い物だ。

 何せ素材は、自分で採取した物ばかりだから、原価は一部の素材代と、瓶代くらいなものだ。

 部屋に戻った俺は、まだ恥ずかしそうに俺を睨みつけているレンだが、そのレンにも出来そうな薬草の下処理を命じて、俺は早速、魔法薬の作成に入る。

 ケムンオ草にコジルの実を主材料に幾つかの素材を粉末にした後、酒を何度も蒸留した物に魔法で完全に溶かしこんだ後、残留物を濾してから、レリックの花の蜜を魔力と共に混ぜてゆく。

 その後、魔物の核である魔石の粉末で書いた魔法陣の中心、其処に置いた瓶に精製した純水に溶かしながら、先程の原液を百二十倍に薄め。


(風よ、その身にある穢れを舞あげたまえ)

(火よ、邪な物を焼き払いたまえ)

(土よ、冬の目覚めより覚めたまえ)

(水よ、その潤いを保つ力を)

(闇よ、彼の者に安らぎを)

(聖なる光よ、疲れし者に癒しの水を)

(時よ、この物の時の流れを緩やかに)


 呪文と共に、魔法陣に書かれた文字が宙に浮き、瓶の中の液体に溶けてゆく。

 後は、これを二つに分けて、一つはレンに、一つは女将さんに渡せば良いだけだ。

 使い方は、風呂上がりに全身に塗っておけば良いだけ。

 其処までやらなくても、寝る前に気になる箇所に塗れば、数日で効果が見え始めてくるはず。

 一応、髪用も作っておくか。女性は髪を大切にすると言うからな。

 夕飯の時に、女将に約束の物を渡して、その後はレンに文字を教えながら、父から貰った魔法の本を読む事で知識を溜め込む。


「うぅうぅ……これは確か、えーとえーと」


 本の向こうに見える頭を悩ましているレンの様子に、明日、幼児向けのカルタか、絵本でも買ってくるかと決める。

 計算に関しては、指を使った簡単な足し算引き算は出来るようだし、記憶力は悪くないようだから、文字に慣れていないだけだろう。

 慣れない勉強で頭を使った事に疲れたのか、ぐったりとした顔で風呂に入っていったレンは、スッキリした顔でで出てきた事から、どうやら風呂は気に入った様子。

 流石に昨日の今日では、出してやった果実水に警戒の目を向けたが、何も入っていないと言うと、おっかな吃驚しながらも飲んでくれるあたりは、一応は俺の事を信頼してくれているって事なのだろう。

 昼間、女将に買ってもらった物なのか、短いながらも髪に櫛を通す姿は、レンが男の子ではなく女の子なのだと認識させられるが、まぁそれだけだ。

 絶壁を相手にどうこうする気はないし、それ以前に対象外だ。

 灯りは消すが、まだ俺は起きて魔力鍛錬をすると言う俺にレンは。


「おやすみなさい、師匠」

「ああ、おやすみ、レン」


 この関係が、一番心地良いと思えるからな。

 またレンが悪夢に魘されぬよう、ベットの脇にあるサイドテーブルでお香を焚いて、レンの立てる静かな寝息を背景に、俺は己が身の内にある魔力に意識を落とす事にする。






 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 通貨単位 モルト

 小鉄貨  1モルト

 鉄 貨  10モルト

 小銅貨  100モルト

 銅 貨  1,000モルト

 小銀貨  10,000モルト(一万)

 銀 貨  100,000モルト

 小金貨  1,000,000モルト(百万)

 金 貨  10,000,000モルト

 白金貨  100,000,000モルト(一億)






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