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スクールライフ・ラブコメディ・ウィズ・ヒーロー  作者: 東谷尽勇
第一章 バカの恋物語、そして始まる新たな日常
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第一章 その4

 光と別々のクラスになるかもしれないという可能性の未来は勝善に深いダメージを与えた。

 そのため勝善は魂が抜かれたかのように机に突っ伏し続けていた。


「って、いつまでそうしてるのよ」


 放課後。そんな勝善に、莉菜が話しかける。


「あ……あ……」


 しかし、勝善はまともに返事をすることさえできなかった。


「……はぁー。そんなに牧野さんと離れるのが嫌ならさっさと告白して付き合っちゃえばいいでしょ。それじゃ、私帰るけど、あんたもいつまでもそうしてないで帰りなさいよ」


 それだけ言って莉菜は教室を出た。

 一方、勝善はそのあともしばらく机に突っ伏したままだったが、莉菜の言葉を頭の中でリピートする内にあることに気付いた。


「…………そっか、告白しちゃえばいいんじゃん」


 それは勝善にとってコロンブスの卵並みの発見だった。


 光に告白し、恋人同士になれば例え二年生になって光とクラスが別々になっても確実に一緒に過ごす時間は増える。

 というか、それこそが自分の最終的な目標なのだから、むしろやるべきだ。

 そんなことに、勝善は気付いたのだ。


 筒森勝善、遅すぎる気付きである。


「でも、俺に告白ができるのか?」


 そう言いながら勝善は自分の光に対する態度を振り返り、光に対する高感度が上がるのに比例してどんどん勝善は光ときちんと話せていないことに気付く。最近にいたっては顔を合わせるだけで照れてしまっている。

 そんな自分が光にきちんと告白できると、勝善は思えなかった。


 だが、今告白しなければ最悪の未来の可能性がある。

 最悪の未来になったら光の手作り卵焼きを食べることはできない。

 だから、勝善は決断した。


 光に告白する、と。


「…………よし!」


 覚悟を決め、まだ教室に残っていた光に告白するべく勝善が席を立った時だった。


「あー、忘れてた、忘れてた」


 勝善のクラスの担任が慌てて教室に入ってきた。

 光に告白すると決め、席を立った勝善は教室に入ってきた担任に出鼻をくじかれ、席を立ったままの状態で担任に視線を向けた。


「先生、どうしたんですかそんなに慌てて?」


 と、教室に残っている生徒全員が思ったことを真希が代表して担任に聞いた。


「あー、実は美術準備室の整理を頼まれて引き受けたはいいものの、急に忙しくなってやる暇がなくなっちゃったんだ。で、申し訳ないんだけど、俺の変わりに何人かで美術準備室の整理をやってほしいんだ」

「あの美術準備室ですか」

「そう、あの美術準備室」


 あの美術準備室とはどういうことかというと、泉葉高校の美術の教師は非常にズボラな性格をしていて片付けられない人間である。

 早い話、美術準備室とは美術準備室という名の物置部屋になっているのだ。


「……仕方ないですね。先生、私がやります」

「本当か、弓木?」

「ええ。美術準備室なら以前にも整理したことがあるので、私がやれば早く終わります」


 真希が美術準備室の整理をやるのに名乗り出た。


「助かる。あとは誰かいないか?」

「先生、私やります」


 と、光が手を挙げて立候補してきた。それを見た勝善も慌てて手を挙げる。


「お、俺もやる!」

「牧野と筒森か。よし、三人なら十分だろ」


 勝善は心の中でガッツポーズをする。

 自分が率先して美術準備室の整理をすれば、光の自分に対する高感度が上がり、告白も成功しやすくなると考えたからだ。


「先生、整理の方は私と筒森君だけで十分です」


 しかし、勝善の考えは真希の話によって崩れ去ることになる。


「何でだ?」

「整理を頼んできたってことは美術準備室、物で溢れかえってるってことですよね? あそこ、物で溢れかえってると狭すぎて三人も人、入れないんですよ。で、前回整理したから分かることなんですけど美術準備室に溢れてる物って大きい物も多くて気軽に廊下の外に出せなくて中で整理するしかないんです。だから前回整理したことのある私と力仕事ができそうな筒森君がいれば十分なんです」

「なるほど。それなら弓木と筒森だけでいいな」

「えっ?」


 勝善の担任が真希の説明に納得し、勝善は自分にとってまずい流れを感じる。


「そっか。それならしょうがないね。筒森君、がんばってね」

「えっ? えっ?」


 光も真希の説明に納得し、笑顔で勝善にエールを送り、勝善は自分にとってとてもまずい流れを感じる。


「それじゃ、筒森君よろしくね」

「あれー?」


 かくして、光に告白すると決めた勝善は、真希と二人で美術準備室の整理をすることになるのだった。




 美術準備室の整理をすることになり、どうしてこうなったと思いながら首をかしげている勝善は真希と共に美術準備室に来たのだが、


「狭っ! 汚っ!」


 勝善は見るも無残な美術準備室の惨状に驚いた。


「こりゃ、たしかにせいぜい入れて二人だな」


 そして勝善は、真希が言ったことが正しかったのだとようやく納得した。


「でしょ? 前回整理した時、物が溢れないよう定期的に整理してくださいねって言ったんだけどね……。まぁ、ぐちぐち言ってもしょうがないわ。さて、筒森君。美術準備室の整理、今日中に終わると思う?」

「無理」

「素直な答えね」

「いや、誰に聞いたってそう答えるって」


 勝善がそう断言するほど美術準備室は物で溢れかえっているのである。


「たしかにそうかもしれないわね。でも、大丈夫。筒森君が私の言う通りに動いてくれれば美術準備室の整理は今日中に終わるわ」

「なら、委員長の言う通りにする」


 勝善はそう返答した。

 なぜならこういう時は真希の言う通りに動いた方がいいということを真希とクラスメートになってからの約一年の間によーく学んでいるからだ。


「それじゃ、始めましょ」

「おう」


 こうして勝善は真希と共に美術準備室の整理を始めたのだが、結果から言ってしまえば、真希の指示は的確であり、勝善と真希は美術準備室の整理をあっという間に終わらせた。


「終わったー」

「お疲れ様、筒森君」

「いやー、委員長のおかげで早く終われたよ」

「筒森君が手伝ってくれたからよ」

「そうか? まぁ、ならお互い助け合ったということで」

「そうね」

「ところでさ、終わってから言うのもなんだけど委員長はよく率先して美術準備室の整理をやろうとしたな?」

「ああ、それは私がやっておかないと今日中には終わらなくて、結局後々私がやるはめになりそうだからそうならないようにしただけよ」


 つまり真希は、進路調査票の時と同じように先回りしたということだ。


「なるほど」

「でも、筒森君も率先して手を挙げたわよね?」

「えっ!? あ、ああ、ちょっと何か手伝いしたいって気分だったからさ。あー、にしても体がボキボキだ。ストレッチしとこーと」


 真希の問いを誤魔化すため、勝善は体を伸ばし始める。


「私もしておこうかな」


 そう言って真希は体を伸ばすのだが、真希が体を伸ばしたことで、真希のそこそこ大きい胸が強調され、勝善は思わず真希の強調された胸を見てしまう。


 ちなみにかなりどうでもいい余談として、莉菜の胸は真希の胸より一回り小さく、光の胸は勝善が大丈夫、需要はあるし、俺は気にしないよ、とフォローする大きさである。


「ん? 何、筒森君?」

「えっ!? い、いやー、何でもないよー。あー、足も伸ばしておこうかなー」


 と、真希が勝善の視線に気付き、勝善は視線を誤魔化すべく足を伸ばそうとする。


 しかし、勝善のこの行動が悲劇を起こす。


「あら?」


 勝善は足を伸ばそうと壁に手をつこうとしたのだが、勝善が壁だと思ったのは積み上げられたダンボールであり、ダンボールは勝善が手をつけたことでバランスを失い崩れてしまう。


「えっ、ちょ!?」


 崩れたダンボールは立てかけておいたキャンパスや折りたたみイスを勢いよく倒し、倒れたキャンパスや折りたたみイスがいくつかの棚に当たり、その衝撃で棚にしまっておいた物が床に落ち、とどめとばかりに真希の近くにある棚の一番上に置かれていた紙束が真希の頭上に降り注ぎ、美術準備室は整理をする前とそう変わらない光景を取り戻した。


「…………」

「…………」


 真希は、一言も発しない。


 勝善も、一言も発しない。口を開いたら殺されると思ったからだ。


 そして、長い長い沈黙が美術準備室を支配したあと、真希が口を開いた。


「……………………筒森君」

「は、はい!」


 勝善は直立不動で返事をした。

 真希が、笑顔だったからだ。


「整理を、しましょ」

「あ、あのー」


 勝善は真希に謝罪しようとするが、


「さっさと、し・ま・しょ」


 笑顔のまま話す真希を前にして何も言うことができなくなり、


「…………はい」


 おとなしく真希の言う通り、自分が原因で散らかった美術準備室の整理を始めた。


 しかし、先ほどの整理の時とは違い真希は的確な指示を一切せず、勝善はそんな真希におびえて作業効率を落としてしまう。

 その結果、美術準備室の整理は最終下校時間になっても終わらず、最終下校時間後も活動が許可されている部活に所属していない勝善と真希は下校しなければならなくなり、整理は明日に持ち越されることになってしまう。


 そして、帰り際に真希は勝善に対し、笑顔でこう言った。


「筒森君、明日絶対に学校休まないでね」


 勝善は、明日は例え槍が雨のごとく降ろうとも登校する決意をした。


 その一方で、真希は何だかんだやさしい。きっと怒っていない。明日になったら気持ちも落ち着いて許してくれる。

 といった具合に、勝善はポジティブに物事を考えていた。


「大丈夫、大丈夫。きっと明日はいつも通り」


 でないと、明日絶対に登校するという決意が折れてしまいそうだったからだ。




 一月二十三日(木)  今日の天気 くもり


 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! あのバカ、死ね!!


 何なのよ、あのバカは!?

 今日一日平和に過ごせていたのにあのバカ、最後の最後で私の平和を壊して!

 あれさえなければ本当に今日は平和な一日だったのに!


 だいたいあのバカはいつも私にストレスを与える。

 昨日も、一昨日も、日記を読み返せばあのバカに対する恨みばかり書いてある。

 絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対にあのバカ、ゆるさない。


 というか、今日の一件で決意した。

 あのバカには一度、教育が必要だ。

 でないと、例えクラスが離れたとしてもあのバカは残り二年間の高校生活で私を苦しめ続けることだろう。

 明日。明日、かならずあのバカを教育してみせよう。


 …………てか、あのバカのこと書いていたらまたイライラしてきた。

 色々と考えたいこともあるのにイライラのせいで考え事もできないじゃない。

 ああ、もう本当に死ね!!


 さて、今日も一日お疲れ様、私。明日も頑張れ、私。

                        (弓木真希 今日の日記 高校一年生編より抜粋)




 なお、真希は前述の日記の内容通り、明日になっても勝善を許すことはなかったりする。


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