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スクールライフ・ラブコメディ・ウィズ・ヒーロー  作者: 東谷尽勇
第三章 思い出は、くさい臭いと共に
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第三章 その5

 噂というのは、興味をそそる内容であればあるほど広まるのが早い。

 泉葉高校でも、ある噂が広まっていた。


「ねぇ、聞いた、あの噂?」

「聞いた、聞いた。うちの生徒がストーカー被害に遭ってるんでしょ」

「何か、自宅のポストに盗撮された写真、入ってたらしいわよ」

「いやぁー、気持ち悪い」


 放課後、教室に残っている生徒の間では泉葉高校の生徒がストーカー被害に遭っているという噂でもちきりだった。

 そんな噂を、耳を大きくして盗み聞きする一人の人間がいた。

 勝善である。


 勝善は、今日の放課後はシフトを増やしたウェイターのバイトがあるのだが、教室に残り、噂を盗み聞きしていた。

 なぜ勝善が噂を盗み聞きしているのか。

 それは勝善の中にある考えがあったからだ。


 ストーカー被害に遭う。

 つまり、被害に遭っている女性はストーカー被害に遭うほど魅力的。


 被害者である女性は泉葉高校の生徒。

 つまり、泉葉高校の生徒でストーカー被害に遭うほど魅力的な女性はただ一人。

 光である。


 というわけで、勝善はストーカー被害に遭っている生徒を光であると断定し、ストーカーに関する噂を盗み聞きしていたのである。


「おい、何か校門前に車止めて立ってる怪しい男がいるらしいぞ」

「誰かの父親なんじゃねぇの?」

「いや、それが若い男らしくて、誰かの父親ってわけじゃないみたいなんだよ」

「うわぁ。じゃあそいつ、噂のストーカーなのかもな」


 そんな話が耳に入った瞬間、勝善は教室を目にも留まらぬスピードで飛び出した。




「待った?」


 校門前。車を止めて立っていた男に莉菜が親しげに話しかける。


「待ったけど、このくらい気にしてないよ。さぁ、バイト先まで送るから乗って」

「ええ。悪いわね、わざわざ休日に」

「だから気にしてないって」


 男は莉菜と話しながら車の後部座席のドアを開け、莉菜が車に乗り込もうとした時、


「ぐはぁ!?」


 男の背中に、自転車が投げ飛ばされた。


「な、何が起こ、ごへぁ!?」


 一体何が起きたのか確認しようとした男の顔面にとび蹴りが入り、男は数メートル吹き飛ぶ。

 男に自転車を投げ、蹴り飛ばした犯人は、


「よう、ゴミクズ野郎」


 勝善である。


「い、いきなり何をするんだ!」

「何をするんだ、だと? よくそんな言葉が言えるな、ストーカー野郎」

「ストーカー? …………ま、待て! 君は物凄い誤解をしているぞ!?」

「問答、無用!」


 そして、男の言葉に耳を貸さず、勝善が男に殴りかかろうとした瞬間、


「ほーい、ストップ」


 莉菜が勝善の肩に手を置き、勝善を止めた。


「ご安心ください、牧野さん。あなたのことはこの筒森勝善が守って…………姉崎?」

「そう、あんたもよーく知ってる、姉崎莉菜よ。で、何でこんなことしたの?」

「えっと、うちの生徒がストーカー被害に遭ってるって話を聞いて、これは間違いなく牧野さんだと思って、校門前にストーカーみたいな奴がいるって聞いて急いで着てみたら車に牧野さんを押し込めてから、それを止めようと」

「なるほど。筒森、ストーカー被害に遭ってるのは牧野さんじゃなくて私ね」

「…………ユー?」

「そう、ミー。で、あんたが自転車ぶん投げて蹴り飛ばしたのは、ストーカー被害に遭ってる私を心配してバイト先まで送るために車で迎えに来てくれた私の兄貴ね」

「…………ブラザー?」

「そう、ブラザー」


 勝善が早とちりして莉菜の兄に愛車、ブラックホースを投げつけ、蹴り飛ばした。

 ただ、それだけの話であった。




「このたびは! まことに! もうしわけ! ありませんでしたぁあああああああ!!」


 勝善達は校門前だと人目につくということで学校近くの公園に移動し、公園に着いた直後、勝善は莉菜の兄に土下座をした。


「いや、気にしなくていいよ」

「な、なら、せめて今回の件の慰謝料としてこれをお納めくだせぇ!!」


 そう言って勝善は財布に入っていた全額三百三十七円を莉菜の兄に差し出した。


「……莉菜、これは一体?」

「あー、兄貴。そいつが金銭渡すってのは最大級の謝罪だから素直に受け取っていいわよ。てか、受け取った方が話早く終わるから」

「……そう、なんだ。えっと、もう顔上げてくれるかな? 本当に気にしてないし、慰謝料もいらないからさ」

「そんなことおっしゃらずに! どうぞ、お納めくだせぇ!!」


 莉菜の兄はやんわりと慰謝料の受け取りを断るものの、勝善は引き下がらなかった。


「だから受け取った方が話早く終わるって言ったでしょ」

「慰謝料って言って財布から小銭しか出せない子からお金を貰うのは気が引け過ぎるよ」

「ああ、そういう考えもあるわね。でも、兄貴。ならどうするの?」

「どうするって…………あっ、そうだ」


 莉菜の兄は何か思いついたのか、勝善に話しかける。


「君、莉菜と同じバイト先なんだよね?」

「はい、その通りでございます!」

「なら、俺の代わりに今日から放課後、莉菜と一緒に帰って家に送ってくれないか?」

「はっ? 兄貴、何言ってんのよ?」


 兄の突然の提案に、莉菜は思わず兄を問い詰める。


「いやさ、仕事前の朝、お前を車で送ることはできるよ。でも、今日は休みだったけど普段は俺仕事だから放課後お前を迎えにいくことはできないだろ。だから俺の代わりに彼に放課後お前を無事、家に送り届けてもらうんだ。バイト先も同じだし、ちょうどいいだろ?」

「たしかにそうだけど……」

「どうかな? 慰謝料の代わりにこの提案を受けるってのは?」

「もちろん受けさせていただきます!」


 こうして、勝善が莉菜の兄の提案をあっさりと引き受けたことで、勝善は放課後限定の莉菜のボディーガードになるのであった。


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