九十八話・ライ、屋敷を出る
ロザリー達に、サイカの事...ミュン様の事...そしてここを出ていく事を
伝えて数日が経った......。
「ふう...流石に、馬車なしでこの門までくるのには、結構しんどいな...
少し休憩するか...よいしょっと!」
乱れた息を落ち着かせる様に呼吸をして、俺は腰を門近くに下ろす。
「ちょっと、主様...。これくらいで息切れって、運動不足じゃないんッスか?」
ライとは対称に、全く息を乱していないサイカが呆れて口調で述べる。
「はは...その言葉は否めない...」
「それより、本当にいいんッスか、主様?」
「いいんッスかって、なにが?」
「ロザリーさん達に、お別れの挨拶をッスよ!黙って出てきちゃいましたけど...
本当に良かったんッスか?」
「うん。あいつらの顔を見ると別れが辛くなっちゃうし...だから書き置きで、
知らせてきたよ」
「書き置きッスか...。でもそれでお別れって言われても、きっと怒るッスよ...
ロザリーさん達...」
「やっぱり、怒っちゃうかな?」
「昨日の態度を見る限りは、怒こられるのは確定ッスよ!」
サイカはこの前のロザリー達の態度を思い出して、苦笑を洩らす。
「たはは...やっぱりか...」
俺はロザリー達の行動力を知っているので、サイカと同じく苦笑を洩らす。
「よいしょっと...さて!プチ休憩も終わったし、そろそろ行きますか!」
乱れた息も無事回復したので、俺は立ち上がって門の外へと足を向けて
移動する。
それからサイカと談笑をしながら、しばらく歩く事、数十分後......
俺とサイカはダーロット城前に辿り着いた。
「ハァ...ダーロット城へ来たはいいけど、中に入りたくないな......」
だって、王族関係の人達や偉い貴族が来ているんだろ?
何で、一般市民の俺がそんな大舞台へ飛び込まなきゃいかんのだ!
「ほら、主様!そんな所でボケッとしていないで、さっさと城の中へ
入りますよ!」
「ちょっと、待てぇぇ!タンマ、タンマァァ!?まだ準備ができて
いないんですけどぉぉ―――――むぎゅっ!?」
ウダウダしているライに痺れを切らしたサイカが、その首根っこを
ギュッと摘まんで、引きずる様にダーロット城へと連れて行く。
「こんちッス、門番さん!ここちょっと、通りますよ~!」
「は、はい!サイカ様!ライ様!どうぞ、お通り下さいませ!」
サイカが門番の兵士達に挨拶を交わした後、ライをそのまま引きずって
城の中へ入って行く。
――――――――――
「はいはい、そこのオッサン!ここを通らせてもらうッスよ~!」
「誰だ...わしに失礼な口を聞く奴は不敬罪で掴ま.........っと、その姿形は、
ま、間違いなく聖剣サイカ様!それに...ライ様!?ハッ!ここをお通りに
なられるんですね!さ!どうぞ、どうぞ!お通り下さいっ!!」
失礼な口を聞く輩に、睨みを効かそうとした貴族だったが、ダーロット王から
聞いていたサイカ達の特徴と目の前の人物が同じだと気づくや否や、
ビシッと敬礼をして、サイカ達を通す。
「ちょっと、そこ邪魔ッスよ!端へ寄ってもらえないッスかね!」
「あぁぁぁ~ん!貴様...誰にものを言ってるん......あびゃやぁぁ―――っ!?
にゃ、にゃんでもありません!ささ、お通り下ひゃいいぃぃ――――っ!」
先程の大臣と同じ様に、失礼な輩に対し、睨みを効かせた貴族だったが、
サイカの威圧感タップリのオーラを浴びると腰を抜かしそうなり、
ビクビクしながら、その道をサイカへ譲った。
そんな感じで、サイカが貴族や大臣達の前をあれよあれよと通過して、
ダーロット王の待つ部屋の前に立つ。
「こんちッス、ダーロット王様!」
「おお!よくぞ城へ参られた、サイカ殿!」
そして勢いよくガチャッとドアを開けて部屋に入ると、部屋の中で
待機していたダーロット王がサイカに気づく。
「ん...?所で、肝心のライ殿はいずこに?」
ダーロット王がキョロキョロと見渡してライを探すので、サイカがちょんちょんと
下の方を指で差してダーロット王の目線を向けさせる。
「ムギュ......」
「ちょ、ライ殿!何でそんな状態になっておるんじゃ!?」
すると、そこにはサイカによって強引に引きずられたライの姿が目線に映った。
「ふう...酷い目にあった...」
「往生際がわるい主様がいけないんッスよ!」
「だからって、城中を引きずる事はないじゃないかな!」
悪びれもなくそう述べてくるサイカに対し、俺はプンプンと
膨れっ面を見せて怒ってしまう。
「ふう...まぁいい...。それより、リオ様達はここにいないんですか?」
軽く溜め息を吐くと、リオ様達がここ部屋のどこにも見わたらないのに
気づいた。
「リオ達か?リオ達なら、パーティーの為の準備をしておる最中じゃよ!
なんじゃ?自分の嫁が見えなくてガッカリしとるのか?」
リオ達を探すライの姿に、ダーロット王がニヤニヤとした顔をして、
ライの事をからかってくる。
「そっか...それなら、丁度都合が良かったかも......実はダーロット王
あなたにお話したい事がありまして......」
そんなダーロット王をよそに、俺はいいチャンスとばかりに口を開く。
「わしに話じゃと?それにその真剣な表情......今から話す事はよほど
真面目な話しなんじゃな?」
ライの姿を見てダーロット王が何かを感じたのか、その表情を真面目に変えて
今からライが述べようとしている言葉に耳を傾ける。
――――――――――
「なるほどのう...竜の国の王女様のお相手をする為にか......」
「はい。ですから、しばらく、この町を出ていく事をお伝えしようと
ここへ来た次第で......」
「リオ達がいると、それをとめられる思って先程の言葉なんじゃな?」
ダーロット王の言葉に、神妙な面持ちのライが静かに頭をコクンと下げてくる。




