九十七話・番外編16 ミルナと幼馴染み
「凄い爆発音が聞こえたから来てみれば...何なんだ!この惨状は...!?」
その人物が周りを見渡すと、ミルナとセーファの戦闘で崩れた壁、崖の岩、
この場所を照らしていた光魔法が入ったランプ等が錯乱している。
「なっ!あんな空中に人が......そ、空を飛んでいるのかっ!?」
その人物が自分の上の方に視線を向けると、そこには空中に浮いている
セーファの姿があった。
「あらあら?どうしてこの部屋に人が入ってきているのかしら?
確かここには、特別な許可を持った者しか入れない魔法が施されいる
はずなのですけど...?」
セーファはニコニコ顔をしているが、その人物の登場に困惑の色を
見せている。
「ん...?あれは人影...?あの浮いている人物の他に、もう一人誰か
いるのか...?」
その人物がセーファの飛んでいる下近くに、もう一人誰かいる事に気づく。
「おい!君達は一体何者なんだ!どうやって、ここに入った!?」
セーファ達に聞こえる様な大声でその人物は叫声して問いかける。
「それは私が聞きたいですね~?ここは特別な許可がないと入れない
はずなんですが?」
「イヤ...あんたも許可なく、ここに入ってるでしょうが!」
それをお前が言うな!と言わんばかりに、僕はセーファの言葉に素早く
ツッコミを入れた。
「その言葉は心外ですよミルナさん。私はちゃ~んと、許可を貰って
いますよ...500年前のダーロットの王様に♪」
「それ...とっくに効力が切れているんじゃないの?」
僕は馬鹿な事を言うセーファに、再びツッコミを入れる。
「なっ!ミルナ?今、ミルナって言ったのか?」
その人物がミルナの名前に驚きの表情を浮かべて、ミルナ本人なのかを
確かめてくる。
「嗚呼、やっと気づいたんだ?そうだよ。僕ですよ、コウガ...!」
やれやれといったポーズを取って、ミルナが呆れた顔をしている。
「やっぱり、ミルナか!ここに来るのがイヤだと言っていた君が
何故、ここにいるんだい?」
「別にここがイヤって訳じゃなくて、単にあなたと一緒が嫌だっただけ!」
「ぷ、誰かは知りませんが、随分と嫌われた者ですね♪」
ミルナの冷めた返答を聞いたセーファが、腹を抱えて空中で笑い転げている。
「一体、俺の何が気に入らないんだい?特に君を困らせた記憶が全然ないん
だけど?」
「う~ん、そうだね...。一言で言うのなら、その爽やか過ぎるド真面目さが
...かな?」
「そ、それのどこがいけないんだい、だって俺は、ゆぅ――」
「コウガ、そこに誰かがいるの?」
「あ、待って下さい、下さい!」
ミルナへ抗議を言おうと口を開いたその時、ミルナの声を聞いた謎の人物達が、
コウガの抗議を遮る様に、その場所へ早足で駆けてくる。
「...って、何よこれ!アッチもコッチもメチャクチャじゃない?」
「神秘さも台無しLVです、です!」
その人物達もコウガと同じく、この場所の惨劇に喫驚している。
「もう、リィーナもアルテも待っててと言ったのに!」
「ゴメン...なんか言い争っている声が聞こえたものだから、つい...」
リィーナはバツがわるそうに、コウガに謝っている。
「でも、あれなんなんですか?空中に浮いてますけど、けど?」
アルテは空中にいる謎の女性を指を差して驚いている。
「そ、それにあの後ろに見える翼は...って言う事は、あの女性...
まさか、天使族!?」
「パチパチパチ...ハ~イ!正解ですよお嬢ちゃん♪」
リィーナの発言にニコニコ顔で、セーファが拍手を贈る。
「だ、誰がお嬢ちゃんよ!私はそんな年じゃないわ!」
「チッチッチ...これでも私って、千年以上生きているのよ。
だから私から見ればお婆ちゃんだって、お嬢ちゃんなのよ♪」
目を見開き、憤怒な表情をしてくるリィーナに対し、指を振りながら
セーファはそう説明する。
「せ、千年以上生きてるですって!?」
「それじゃ...あんな見た目でも、相当のババアって事ですね、ですね!」
「うう、ババアですか...これは結構、効きますね...。まさに人の振り見て、
我が振り直せ...ですね♪」
相変わらずのニコニコ顔だが、アルテの心無い言葉を受け、セーファの声の
トーンは困惑な口調になっている。
「......」
よし、セーファの視線も意識もあっちに向いている......!
逃げるなら、今かっ!
「それじゃ...わるいんだけど、後の事は任せるわね!コウガっ♪」
「なっ!ミルナ、この惨劇を起こした天使族を残して、一体どこに
行くつもりなんだ!」
「そんな奴に構っている暇はないんだよ僕、大急ぎでダーロットに
戻らなきゃいけないからさ!」
「しまった、あの魔法の詠唱はテレポートッ!?」
ミルナのテレポートの詠唱を見て、セーファが油断したという顔を
している。
「え、今...あの天使、テレポートッて言わなかった!」
「それにあの娘、一人称が僕って言ってましたよ、ましたよ!」
「じゃ...も、もしかしてあなたがシスちゃんから聞いた、ライの恋人発言を
したっていう、僕っ子娘なのっ!?」
リィーナは目の前にいる僕っ子娘に、シスから聞いたライの恋人とぬかした本人と
同一人物なのかと問いかける。
「うふふ...ライの恋人と言えば、僕ですっ!...としか答えようがないかな!」
ミルナはライの恋人と呼ばれ、キャッキャと頬を紅に染めて嬉しそうに
している。
「じゃ...ミルナ!キミがリィーナ達から聞いた、ライの事を拐かしたって
いうのは、やっぱり事実なのか!?」
リィーナ達からミルナの仕出かした事情を聞いていたコウガが、目の前で
キャッキャしているミルナを見て、わなわなと動揺し目を丸くして問いただす。
「ええ...!拐かしたはヒッドイなぁ~っ!」
「そうじゃないと...そうじゃないと...あの鈍感野郎が、ききききき...」
「ききききき?」
「キスなんてするワケないじゃないかぁぁぁぁぁ――――――――っっ!!」
リィーナはライの性格を知っているので、あいつからキスなんてする訳がないと、
その思いが乗った魂の叫びをミルナに向けて絶叫する。
「うん、そうだね。ライの奴ってば、超鈍感さんだもんね~♪だから...
僕の方からチュッて奪っちゃった...テヘ♪」
ミルナは悪びれた事もなく、ライのファーストキスを頂いた事を自慢する様に
リィーナ達へ楽しそうな笑顔で話す。
「...潰す...てめえ、絶対ぶっ潰すッ!!」
リィーナはその言葉を吐くと同時に大地を蹴り上げ、ミルナ目掛けて棍を
思いっきり振り上げて突撃する!
「そっか、そっか~!ぶっ潰すか~♪でも、それは出来ないかな?だって...」
「なっ!?」
リィーナが棍を振り被った瞬間、ミルナが目の前から消え失せ、振り被った
杖の軌道の音が虚しく響き渡る......。
――――――――――
............。
「これは森の木......じゃ、ここは外の風景!」
僕は周りの風景をキョロキョロと見渡してみて、ここがダンジョンの
外だと確認できた。
「やれやれ...大変な目に遭ったな...」
僕は先程のダンジョンの方へ目線を向けて、頬に掻いた汗を拭う。
「それしても、あの娘達...ライの事で何か怒ってたけど、もしかして
あれがライから聞いた幼馴染み達だったのかな?」
ライとの他愛ない談笑中に聞いた幼馴染みの事を、ふと思い出した。
「じゃ、あの場所に放置はまずかったかな...」
僕はライの憤怒を想像すると、思わず体がブルッと震えてくる。
「でもまあ、あの場にはコウガがいるし...何とかなるでしょう...!」
......って、なるよね!?
何か、一抹な不安を残した僕は、ひと息吐くとダーロットに向かって
テレポートするのだった。




