九十三話・理由
「はにゃ...やっぱり、ライお兄さんの撫で撫では骨身に染み渡るよ~♪」
「染み渡るって...俺の撫で撫では、温泉か!」
しかし本当モカの奴、俺の撫で撫でが好きだよな...よ~し♪
もっと、スピードアップして♪
「わしゃ、わしゃ、わしゃ♪」
「はにゃ~!うにゃ~!はわわ~!いい感じ...いい感じですよ、
ライお兄さん!うはぁん...♪」
ライに激しく撫でられるモカの表情が、どんどんと紅に染まって
その口からは喘ぎに似た声が洩れる。
「ちょっと、モカ!今はそんな事をしている場合じゃないで
しょう!」
「はにゃにゃ...ハッ!?そ、そうだった!撫で撫でが気持ち良くて
つい、我を忘れていた!?」
我に返ったモカが、何故自分がここに意気込んできたのかを思い出す。
「コホン、ライお兄さん!それで...ここを出て行くって話は本当なんですか?」
モカが気持ちを戻す為に咳払いをすると、改めてライに真相を問うてくる。
「うん。数日後を目処に...ね」
そして俺は、コクンッと首を小さく縦へ振って、その問いに答える。
「どうしてなの?だって、ここでミルナお姉さんを持つんじゃなかったの?」
真面目な顔で質問に答えるライに、モカの表情が困惑に変わり、動揺した
言葉でそう述べる。
「それについては自分が説明するッスよ...」
サイカがそう言うと、キジュという人物から依頼クエストを受けて、
その依頼主のいる場所へ行かなきゃいけない事をロザリー達に伝えた。
「なるほど...そのクエストを受けてか...」
「でもそれなら、何でここを出て行こうとしているの?そこに
しばらくいるとしても、それが終わって帰ってくればいいじゃん!」
モカがその事へ納得いかないと、ライに正論な言葉を投げかける。
「そ、それは...!?」
言えるワケないじゃん...だって英雄のロザリー達といると、魔王である
ユユナと敵対する可能性があるからだなんて...。
「その理由...ウチ達に言えない事なの...?」
「うう...それは...その...」
「ハッ!?......もしかして...ねぇ、サイカさん...」
「なんッスか、ロザリーさん?」
「その依頼主って...女性?」
何度聞いても口ごもるライに何かピンッときたロザリーが、
確信を得る為にサイカの耳元へ近づいて質問する。
「ええ、女性ッスよ!それもとびっきりの美女ッス...!」
「ほほ~やはりか...」
あっさりと述べるサイカの答えを聞いて、ロザリーがライの顔を
ジト目でジィィーッと睨む様に見つめてくる。
うわ...ロザリーさん、めっさ疑い全開の眼で見つめてくるな...
もしかして、俺がここを出ていく理由に何か感づいたのか!?
「え...何がやはりなんだい、ロザリー?」
俺はそれを確認する為に、恐る恐るとロザリーへ問いかける。
「決まっているじゃない!ここを出ていく理由はその美女と
二人きりでイチャイチャしたいからでしょう!」
ロザリーがその身をブルブルと震えさせ、人差し指をビシッと
ライに突き出した。
ちょぉぉ――――っ!何、そのイチャイチャってぇぇ―――――っ!?
「ち、違う、違う!二人きりでイチャイチャなんて、考えてもいないよ!?」
「そうッスよ!ロザリーさん!二人じゃなく、五人ッスよ、五人!」
突き出した手をフルフルと振ってライが否定すると、サイカが間を入れず
更にロザリーを憤怒させる事を口にする。
「ご...」
「五人......ですか...」
ロザリーとメイリがゆら~っと能面な表情でライに近づき、メラメラと
激昂なオーラがにじみ出ている。
「あ、そうだ!私も入れたら六人だったッス♪」
頭をポリポリと掻きながら、サイカは舌をチロッと可愛く出す。
「へえ~六人か...ふ~ん...」
「その六人とイチャイチャするんだ...?」
笑っているのに笑っていないその瞳で、ライをジィィーッと見つめてくる
ロザリーとメイリ。
「な、何度も言うけど、それはロザリー達の勘違いだからね!?」
「じゃ...どう、勘違いなのか説明できますよね、ライお兄さん?」
焦って動揺を見せるライに、真面目な顔をしたモカが説明を求めてくる。
「う...説明か...」
まず、ユユナが魔王という事を黙っておくのは決定で......
「え...と、俺に依頼クエストを頼んできた...キジュさんって言う人から
あるクエストを任されたって言うのは、さっき言ったよね?」
「うん、その依頼クエストが原因でここを出ていくって言っているのよね?」
「はは...それがここを出る全部の原因って、ワケじゃないんだけどね...」
ユユナの所に行くって事は、竜人族や帝国と戦闘になる可能性がある...。
でもそれを言っちゃうと、心配性で優しいロザリー達はきっと...ううん、
絶対についてきてしまうかもしれない。
だけどロザリー達は英雄...俺なんかの為に使っていい力じゃない。
「それじゃ、別に何か理由があるの...?」
俺が悩みを見せている最中、ロザリーが更に話を続けてくる。
「それはッスね、竜の王女様が関係あるんッスよ」
「り、竜の王女様っ!?」
俺が言葉を詰まらせごもっていると、代わりにサイカが理由の1つを
口にする。
「竜の王女様って、竜の国のあの竜の王女の事?」
「それ以外に何があるんッスか...。その竜の国の王女様ッスよ!」
サイカから発された竜の王女の事で、ロザリー達が喫驚している。




