九十二話・盗み聞き
「あ...もしかして、私の楔を砕くってやつのせいッスか...?」
「それもあるんだが、ここにいたらユユナと激突する可能性が高い
からっていうのもある...」
「そうッスね...ここにいたんじゃ、まず聖剣使いの主様がそうなるのは、
ほぼ間違いないッスね...」
ライの神妙な言葉を聞いたサイカが、真面目な表情でそう語ってくる...。
――――――――
このライとサイカの会話から少し時間を遡る......。
「怪しい...!」
「そうだよね...いくら元が聖剣だとはいえ、女性と二人きりに
なりたいだなんて...」
「気のせいじゃないですか?わるい言い方ですけど、あの鈍感野郎の
ライですよ...?」
モカとロザリーがライとサイカの仲を疑っていると、メイリが
その可能性が低いのでは?...と述べてくる。
「あまい!あまいよ、メイド長!男の子の成長はちょっと見ぬ間に
めっちゃ、成長するもんなのよ!」
メイリの安直な意見にロザリーが目を見開き、窘める様に説教する。
「シィー!うるさいよ、そこの二人!今、部屋のライお兄さん達の会話を
盗み聞きしているんだから!」
「はは...ゴメン、ゴメン!それでモカ、中の声は聞こえた...?」
「窓際にいるから、半分くらいしか聞こえないけど...なんとか...
聞こえているわ!」
モカがドアに耳をペタリとつけて、聴覚をアップさせる魔法をかけて
聞き耳を立てる。
「何々......求める?......一夜を......?何これ..どういう意味かな!?」
「「ブゥゥゥゥ―――――ッ!?」」
「求める」と「一夜」の二つの単語を聞いて、メイリとロザリーの二人組が
思わず、吹き出してしまう!?
「うわ!?きったないなぁ...!何を二人して吹き出しているのよぉ!!」
頭に吹き出したロザリーとメイリの唾液を拭いながら、モカが激おこ
している。
「だって、求めるに...一夜を...って、それは...あ、あれだよね!?」
「モカ...そこを退いて頂戴...そのドアを壊せないから......」
ロザリーが能面な表情でスーッと槍を抜き、ドアへ向かって身を
構えている。
「ちょっと、何をやろうとしてるのよ、ロザリーお姉さん!?
ライお兄さんが気づいちゃうじゃないか!?」
ドアを壊そうとしているロザリーの前に慌ててモカが立って、
それを阻止する。
「そこをどきなさいモカ!邪魔をするなら...そのドアと一緒にあなたごと
叩き斬―――はうぅっ!?」
ロザリーが槍をモカに向けて構え、オーラを貯めようとした瞬間、
呆れたメイリがその頭上に重いゲンコツを落とす。
「ちょっと冷静になって落ち着きなさい、ロザリーさん!」
「これが落ち着いていられますかって!早く中に入って邪魔しないと
ライと聖剣がぁぁっ!?」
何故か冷静な態度を取るメイリとは違い、ロザリーは動揺しまくりの
アワアワとした姿を見せながら、その場を右往左往している。
「私だってあなたと同じく、今にも部屋の中に入って、二人の邪魔を
したいですよ...!」
「だったら!」
「もし...もしですよ...中に入った瞬間、目の前でライとサイカさんが
いちゃいちゃ以上の事をしていたら...どうするんですか?」
「はうっ!?」
「そうです...もしそんな場面を目に映したら、私、ショック死する自信が
あります...」
「う、ウチも...同じくだわ...」
メイリの言葉で冷静に戻ったロザリーが、深刻な表情で静かに頷く。
「だから...ここは慎重かつ、冷静な判断力で行動しませ―――」
「ちょっと、ライお兄さん!今の言葉はどういう意味なんですかぁぁっ!!」
「「ぶぅぅぅぅ―――――っ!?」」
ロザリーとメイリが慎重な行動を取ると決意を固めた矢先、激昂したモカが
ドアをいきなり蹴破るので、二人は思わず息を吹き出してしまう。
「も、モカ...!?さっきはあれほど侵入の邪魔をしたくせに、いきなりドアを
蹴破るなんて......」
「そ、そうですよ!もし...中で二人が......」
モカに文句を言いながらも、ロザリーとメイリが指の隙間から恥ずかしそうに
ライ達のいる部屋を覗いてくる。
「おい、モカ!いきなりドアを蹴破って入ってくるなんてっ!?なんちゅう
登場のしかたをするんだよ!?」
「そ、そうッスよ!ビックリで気を失いそうだったッスよ!」
突然、勢いよく部屋の中へ乗り込んできたモカに対し、ライとサイカが
ビックリ仰天して目を丸くする。
「そんな、些細な事は後回しだよ、後回し!それよりライお兄さん、さっき
言っていた事は本当なのっ!?」
「さっき、言っていた事...はて?」
「はて...じゃぁぁないっ!数日後に、ここを出て行くって話だよっ!」
素っ惚けてハテナ顔をするライに、激昂したモカがジト目の表情で
睨んでくる。
「え...!?」
「ライがここを出て行く...!?」
モカの口から告げられる衝撃な言葉に、ロザリーとメイリも
ショックで、その身を固めてしまう。
「なんだ...聞いていたのか...」
「うん...サイカさんと二人きりなのが心配で......ごめん」
ライが呆れ口調でそう述べると、モカが素直にペコリと頭を
下げて謝ってきた。
「はは...いいよ、いいよ。自分もやられたら同じ様な行動を取った
だろうしな...」
シュンッとして頭を垂れているモカを見て、俺は気にするなと、
ニコッと微笑みを浮かべると、モカの頭を優しく撫でるのだった。




