九十一話・選ばれし者達
「こ、こいつは...」
わるびれもない顔でケラケラと笑っているサイカに呆れつつも...
「コホン、話を戻すけど...それじゃ、勇者様はどこにいるんだい?」
軽く咳払いをして気持ちを切り替えた俺は、再び勇者様の話の続きを
ロザリー達に聞いてみる。
「あいつの居場所?それなら、ライも知ってるじゃないのよ?」
「え...俺が知ってる?」
はて...?俺、勇者様に会った事があったっけ...?
「うん。だってあいつ、あなたの故郷のカロンに行ってるんだもん!」
「カロンに...?嗚呼、そうだったっ!?そう言えば確か、俺の町に勇者様と
聖女様が来たとかで町の中が騒いでいたよっ!?」
俺は町中で沢山の人々が、勇者様と聖女様を探して回っていた事を思い出した。
「それで勇者様と聖女様は、カロンに何をしにきたんだ?ハッキリ言って、
俺の故郷って、なんもない普通の町だぞ?」
あの時は深く考えなかったけど、よくよく考えて見ればカロンの町って、
至って普通のも町だもんな...
「あの二人はLVを上げる為に、あなたの故郷近くにある修練のダンジョンと
呼ばれる場所へ行ったんだよ!」
「修練のダンジョン...?はて...?そんなダンジョンがカロン近くにあるなんて...
一度も聞いた事がないんだけど?」
そんなダンジョンがあるって知っていたら、ギルドの冒険者は勿論の事、
あの噂好きな町の連中が、噂に出さない訳がないしな...。
「それはそうよ。だって、修練のダンジョンは王家の魔法で隠れているから、
ある条件を満たさないと見えないし、入る事も出来ない場所なんだから!」
俺の素朴な疑問にモカが、修練のダンジョンの仕組みを詳しく教えてくれた。
「なるほど、隠された場所...か」
「うん。それで、その修練のダンジョンに聖剣が眠ってるって噂があってさ、
ついでにその聖剣もゲットするという任務も兼ねての行動なんだよ!」
「聖剣を?聖剣って、サイカだけじゃなかったんだ...?」
「あれ...?私、主様にそれっぽい事を言った覚えがあるんッスけど?」
「え...?あ、ああ...そう言えば、そんな感じの事を言っていた様な...
言ってなかった様な......」
「言ったんッスよ!もう、主様は本当に物覚えが悪いッスね...」
「にゃはは...スマン、スマン!」
サイカがやれやれという表情で、ライの物覚えの悪さに呆れている。
「たはは...主のライが聖剣にまさかの説教を受けている......」
サイカとライのやり取りを見て、モカが乾いた苦笑を浮かべていた。
「こ、コホン...でも、まさかロザリー達があの英雄だなんて、本当に
ビックリ仰天だよ!」
「そういうこっちだってビックリだよ!あの伝説の勇者が使っていた
聖剣にライが選ばれていたなんてさ!」
ライもロザリー達も、お互いに驚きを隠せないで興奮に近い動揺を
していた。
そっか...ロザリー達が英雄か...。道理でこんなりっぱな屋敷やダーロット王と
面識があるわけだ。
あ...でも、そうなってくると、英雄であるロザリー達は......。
「な、なぁ...ひとつ聞いてもいいかい?」
「ん...ど、どうしたの?そんなにかしこまって......?」
「ロザリー達が英雄って事は、いずれは魔王と戦うのかい?」
「え...魔王と...?」
「うん...どうなの?」
「魔王を倒すと言う勅命は、ダーロット王や五大貴族から受けているわね...」
「そうか...それが例え、俺らと変わらぬ年齢だったとしてもかい?」
「そうだね...。もしそうだったら、躊躇はするかもしれないけど、
でもそれでも魔王を撃つ事こそが人類の為なんだろうし...」
「答えは撃つって事...なんだね?」
「う、うん。そう言う事になると思うよ...。でもどうして突然、そんな事を
聞いてきたの?」
「ちょっと、思う所があってね...はは、気にしないで!」
俺の真面目な質問に対し、少し動揺を見せてながらも答えてくれた
ロザリーが、やはり様子がおかしいと思ったのか、心配そうな表情で
こちらを見てくる。
「主様...」
そのやり取りを見ていたサイカもライの事を心配そうな表情で
見つめていた。
そうか...やっぱり人類は魔王憎しなんだ...。
そんな会話があった時間から数時間が過ぎて、深夜の時間......。
「どうしたんッスか...みんなを追い出して、私だけ残すなんて...
ハッ!ま、まままさか、主様!?」
「ん...どうしたんだ?そんなに慌てた顔をして?」
「いけません、いけませんッスよ主様!わ、私も主様ならって、
思いはするッスけど、まずは順番を守って......ムニムニ」
顔を真っ赤にしたサイカが何か言おうとしていたが、途中で
恥ずかしくなってしまい、言葉が詰まってしまう。
「順番をって...何の話だ...?」
「え...だから、主様が私を...求めて...その...一夜を...」
「お前を求める...?一夜......!?ぶぅぅぅ――――――ッ!?」
サイカの言葉を聞いて、深く考えた結果、流石の鈍感野郎ライでも
言わんとする事に気づき、思いっきり吹き出してしまう。
「違う、違う!そうじゃない、そうじゃない!勘違いだって!」
俺は慌てふためき、サイカに必死の言い訳をした。
「そっか...違うんッスか、それは残念ッスね...」
「え...」
頬を紅に染めた表情でそう発するサイカを見て、俺はドキッと
鼓動を高めてしまう。
「こ、コホン...話を戻すけど、実はお前に話をしておきたい事があってね...」
「私に話...ッスか?」
ライはひとつ咳払いをして状況を戻すと、真面目な顔をしてサイカと対峙する。
「俺は数日後、キジュさんのクエストを境にここを出ようと思っているんだ」
「ここを...ッスか?でも主様の故郷のカロンへ帰る為に、ここでミルナ様を
待つんじゃなかったんッスか?」
「嗚呼、その予定だったけど...他に用ができちまったんでな...そっちの方を
優先させてもらおうと思っている」
「他に用って...それは一体なんなんッスか主様...?」
「何の用って、お前の用でだよ、お前の!」
「へ...私の用でッスか...?」
ライの言葉を聞いたサイカが、喫驚した表情をして目をパチクリと
している。




