九話・ミルナの頼み事
「ん、どうしたの?そんな顔をして?
嗚呼!さては、僕が突然いなくなったから
寂しかったんでしょう!」
「そ、そんな訳、あるか!」
「もう...照れるな、照れるな♪」
ミルナは俺の表情を見て、
ニヒヒと口角を上げ、ニヤニヤしている。
「それで...突如、ギルドから消えたのは
一体、何故なんだ?」
「何々~やっぱり、気になっちゃうの?」
「そんなの当たり前だ!突然、目の前から
消えられて、どこを探してもいないんだ!
どうしたのかと、心配して当然だろうっ!」
ミルナの不真面目な態度に、
俺は少し、憤怒のこもった叫声を吐く。
「うん...そ、そうだよね!
ゴメン、心配させちゃった...反省するよ!」
ライの心痛な言葉を心に受けたミルナは、
シュンっとなり、その表情は反省の色を見せている。
「ああ...!こほん、ま、まあ...今度から、
気を付けてくれればいいさ!」
俺は、その場の空気感を変えようと軽く咳払いをして、
ミルナに反省しろと言葉をかけた。
「ありがとうライ、心配してくれて!
今度からは、突然いなくならない様にするね!」
ライの思いのこもった言葉に、
ミルナは頬を紅に染め、素直な言葉を口にする。
「そ、それでね...改まって何なんだけどさ、
ちょっとライに頼みたい事があるんだ...」
「お、俺に頼み事?」
「うん。どうかな?僕の頼み...聞いてくれるかな?」
両手の指先をちょんちょんとしながら、上目遣いで
頼み事をしてくるミルナ。
「それで...その頼み事の報酬はいくら出すんだ?」
俺は冒険者らしく、報酬の事を
ミルナに問いかける。
「ええ~!僕からお金を取るつもりなのっ!?」
「当然だ!俺は冒険者なんだぞ、
クエスト達成の報酬を貰うのは当たり前の行為だ!」
叫喚するミルナに、俺は冒険者のなんたるかを、
ビシッと教え込む。
「ぶぅ...お金はないしなぁ...しょうがない。
お金の変わりになるものでもいい?」
「ああ、クエスト内容と、
その報酬が見合う物なら構わないぞ!」
「それじゃ...恥ずかしいけど...ハイッ!」
ミルナは表情を紅に染めながら、
ライの前に立ち、そっと胸を突き出した。
「ハイッ!って...何故、胸を突き出して
ジッとしているんだ?」
「いやだな~報酬だよ、報酬!」
「報酬?」
「そう、僕のオッパイを好きなだけ揉んでいいから、
その代わり、僕の頼みを聞いてね!」
「好きなだけか......って、揉むか!」
俺はミルナの発言に慌てふためき、
顔を真っ赤し、視線を横に向けて叫喚する。
「ええ!だって、ギルドに向かう途中で
そんな事を心の中で叫んでなかったっけ?」
「ちょ、だから何でわかるんだよ!
やっぱりお前、テレパスが使えるだろう!?」
くそ...これから、こいつの近くでは、
迂闊な事は考えられないぞ...。
「く...これでも駄目なら、致し方がないが、
ライなら別にいいかな...」
「ち、ちょっと待て~!な、何で服のボタンを外している?」
「服の上から駄目なら、じかにならオッケーかなって思って!」
「だあぁっ!て、定食だ!定食を奢ってくれればいいっ!」
ミルナが服のボタンを取り終わる前に
俺は突然、思い付いた報酬を口から叫声する。
「定食ってどういう事?」
「この町の食い物通りに、新しく食堂が出来たんだが、
そこの特上定食っていうのが、美味しいって評判で、
それを奢るのが、お前の報酬って事でいいよ!」
「いや...別に僕は、オッパイをじかに――」
「だああっ!定食を奢るでいいと言ってるだろうが!
それで決定だ、それ以外はなしっ!」
俺はまだ、ボタンを外そうとしているミルナに、
報酬の決定の言葉を叫ぶ。
「わ、わかった...それでいいんだね。
ありがとう!僕の頼みを聞いてくれて!」
ミルナは、頼み事を引き受けてくれたライに、
破顔した表情で感謝の言葉を述べる。
「でもそっか...ライ的には、僕の生オッパイは
定食以下なのか...」
ミルナの口から、無念の言葉が洩れる。
「そんな事はない。生オッパイ大歓げぇ···
...って、うぉわっ!?」
危ねぇ、危ねぇ!思わず、口走るところだったっ!
本音を洩らしそうになった俺は、
慌てて口を手で押さえ、言葉を飲み込んだ。
「え!今、何か言った?」
「イヤ!別に何も言ってねえし!」
「嘘だ~!ほれ、正直に言ってみぃ!」
ミルナは、鬼の首を取ったが如く
ニヤニヤした表情で、ライの頬を人差し指で
ツンツンとしてくる。
「うるさい!これ以上言うなら、
クエストを受けるのを、取り消すぞ!」
「だあぁ!それは困る~!」
ミルナは慌ててライから離れ、両手を合わせ
謝ってくる。
「たっく...。
それで俺に頼み事というのは、一体なんだ?」
俺は気を取り直し、ミルナの頼み事は
何かと問う。
「うん...それはね、
僕のLV上げに付き合って欲しいんだ!」
「LV上げ?」
「僕...あるパーティにいたんだけど、
込み入った事情で、そのパーティ連中の一人と
LV上げをしなきゃいけない事になったんだ。
「ほうほう、それで?」
「でもさ、そいつとは全然、相性が会わなくて
ある日、とうとう我慢の限界がきてちゃってね、
後は、自分でLV上げをやるって、
啖呵を切って、そこから出てきたんだ...」
「ふ~ん、啖呵をねぇ...」
まあ、ミルナみたいな性格とは合わないって奴は
ごまんといそうだしなぁ...。
俺は、ミルナのこれまでの態度を心の中で
思い出し、うんうんと頭を垂れる。
「それでも、LV上げはしなきゃいけなくてさ...」
「さっき、出てきた込み入った事情でか?」
「うん。でも、一人でLV上げは
やっぱり、ちょっとキツくてさ...そこで...」
「俺が、そのLV上げを手伝うか...」
「どう?引き受けてくれる?」
「さて...どうするかな?」
「じゃ、やっぱ...定食と合わせて、生オッパイを...」
面倒事が基本的に嫌いなライが、
どうしようかと頭を悩ませていると、
やれやれ、このスケベさんが...とでも言いたそうな表情で、
ミルナが服のボタンに手をかける。
「だああっ!引き受けるから、手をボタンに
持っていくんじゃない!」
「引き受けてくれるの!ありがとう~!」
「うわ!突然、抱き付くな!」
「いいから、いいから!お礼の感触を受け取って♪」
「たっく...」
そう言いつつも、満更ではない
俺なのであった...。