八十九話・今度はロザリー達に...
俺は婚約発表はあくまでも、その後に(仮)はつけて下さいねっと、
一応の釘を指して、ダーロット城をあとにする。
それからしばらく歩く事、数十分後...。
「ハァ...」
俺は表は婚約を認めたが、心がまだ婚約に対して納得していないのか、
先程から溜め息がつきないでいた。
「もう、主様!いつまでもウジウジと悩んでないで、いい加減、
腹をくくって現実を受け入れるッスよっ!」
「そんな事を言われてもさ~!やっと、お前という現実を受け入れたって
いうのに、その隙もなく姫様三姉妹が婚約な展開なんだぞ...。俺のキャパを
遥かにオーバーなんだよ!」
本当、何なのこの怒涛のイベントの嵐は...。ミルナと出会ってからここ最近で、
現実離れした展開がいくらなんでも増え過ぎじゃないの...!?
「ハァ...これって、完全にのんびり破滅へのカウントダウンが入っているよね...」
俺は今までに起きた数々の展開を頭の中で思い浮かべると、ゾゾッと寒気が
全身を走り抜け、その身が震えてくる。
「ハァ...今度はロザリー達にサイカの事を話さなければいけない訳だが...
絶対にイヤな予感しかしないぞ...」
「あ・る・じ・様~!さっきから聞いていると、な~んか溜め息が多い気が
するんですけど...まさか、気持ちがネガティブになっているんじゃ...!?」
ライの顔をサイカがジィィッと見つめながら、真面目な口調でそう述べる。
「うわ、そんな事ないです!ネガティブなんて、全然なっていないです!
だから、その顔と丁寧語はやめてぇぇ―――っ!!」
もう、あの轟音唸る鉄拳を食らうのは、死んでもイヤだぁぁぁぁ―――っ!!
俺はギルドの壁をぶち抜いて吹っ飛ばされた事を思い出して、喫驚しながら
慌ててサイカと距離を取る様に後退りする。
「だったら、ほら!シャキっとするッス、シャキっとっ!」
「はういっ!?」
元気な声でサイカがそう発すると、俺のお尻を思いっきりバンッと
叩いてきた。
「イテテテテ...。ちょっとサイカさん!お尻を叩く威力があり過ぎて、
もはや気合を入れるって、レベルを凌駕してるんですけどっ!
おかげで、お尻が二つに割れちゃったんですけどっ!!」
「何を言っているんッスか...元々お尻は割れているじゃないッスか...」
「うわ...何て、冷静で面白味のない解答なんだ...。俺はサイカの...」
「えぇぇっ!?だ、大丈夫ッスか、主様っ!?お尻が割れてるなんて、
それは一大事じゃないッスかっ!?」
「...と言う、サイカの可愛い反応が見たかったのに...」
俺はサイカの事をジト目で見ると、やれやれと言う口調でそう述べ、
口から深い嘆息を吐いた。
「そんな事を言われても困るッスよ。大体そのシャレって、何百年も
昔から存在するシャレじゃないッスか!それに反応するのは流石に、
難しいッスよ...」
「ちょい、サイカさん!真面目な顔をして、ド正論を言わないで~!
何か、こっちがめっちゃ恥ずかしくなってくるからぁ~っ!」
...って言うか、このシャレって...そんな大昔から存在するの...!?
そんなやり取りをサイカと続けていると、ロザリー達の屋敷門前に
辿り着いた。
「嗚呼、ライさん、やっと来ましたか。少し遅かったですね?
おかげでメチャクチャ心配しちゃいましたよ!」
門前で待機していたアーミカがライを見つけると、暗かった表情が、
ライを見て安心したのか、少し安堵の表情へ変わる。
「ごめん、ごめん!少し込み入った事情が発生してしまって...」
「込み入った事情...ですか?」
濁して話すライの言い訳に、キョトンッとした顔でアーミカが首を傾げる。
「はは...それは後で、おいおい話すとして...ロザリー達はもう屋敷に戻って
きているの?」
「ロザリー様達ですか?ロザリー様達なら、屋敷に戻ってきていますよ♪」
「そっか、戻ってるんだね。それなら急いで戻るとするか!んじゃ、行こうか
サイカ!」
「ハイハイッス!」
ライに呼ばれたサイカが馬車へ一緒に乗り込むと、屋敷に向けて移動する。
馬車に揺られる事数十分後......。
「お待たせです、ライ様!無事に我が主の屋敷へ到着です!」
アーミカが馬車の外からライ達のいる中へ顔を覗かせ、屋敷への到着を
告げる。
「ふう...ご苦労様、アーミカ!よいしょっと...!さて...屋敷の中に入ると
しますかね...」
俺は馬車から降りると、アーミカといったん別れて、サイカと共に屋敷内へ
移動する。
「ただいま~!ライ・シーカット、無事に帰ってきました~!」
「「「お帰りなさいませ、ライ様!」」」
俺が元気よくご帰還の挨拶をすると、玄関先で待機していた執事達やメイド達が
その挨拶に返事を返してくる。
「嗚呼、ライじゃないか!今まで一体どこに行っていたのよ!心配したんだぞ!」
執事やメイド達の後ろから、ロザリーが掻き分ける様に現れると、ライが屋敷に
いなかった事へ対し、プンプンと腹を立てている。
「ごめん、ごめん!ちょっと暇だったから、クエストをしにギルドへ行ってたんだ!」
「ギルドに...?」
「あれ..でも.おかしいな...?確か、アーミカに門まで送ってもらった時、その事を
言付けとして頼んでおいたはずなんだけど...?」
うん...間違いなく伝えたよな...?ほら、サイカも縦に首を振って、そうだと
言ってるし...。
「え...アーミカから......?嗚呼っ!?そうそう思い出した!そう言えば...何か、
そんな事をアーミカが言っていた様な気が...?」
「もう...ちゃんと聞いた事は覚えていてよね...」
その言付けの事を今ロザリーが思い出したのか、誤魔化す様にニガ笑いを
こぼしている。
「だって、しょうがないじゃない!聖剣の事で、ウチらやダーロット城が
てんやわんやしていた時に聞いたんだもん...」
言い訳をしながらロザリーが、プク~ッと頬を膨らませてふて腐れている。
「所で...ライ?さっきから、その...気になっていたんだけど...その後ろの娘...誰?」
ロザリーがライの後ろに立っているサイカに指を差して、何か疑っている表情を
浮かべて聞いてくる。
「え...自分ッスか?私はサイカー・フォースって言う者ッス!」
「へ...さ、サイカー・フォース...!?その名前...確かどこかで聞いた事が.........
...って、あるわ!それって、聖剣と一緒の名前じゃないか!」
ロザリーがサイカの名前を聞いた途端に目を丸くして、この間のライと同じ様な
ノリとツッコミを披露する。




