八十七話・ミルナの報復
「り、リオねぇね!それは一体全体、どういう事が起こるから一大事なんだよ!
もったいぶらずに教えてくれよっ?」
一大事、一大事と言ってくるが本題を伝えてこないリオに苛立ちが募り、
両腕をブンブンと上下に激しく振る。
「それはですね......もし...もしですよ、暗殺部隊が襲ってきてライ様の身に
何かあった場合......」
「ライにぃにの身に何かあった場合...」
「あのミルナ様の報復で、このダーロット城も帝国も終焉を迎えるのでは...?」
「「「――――――ッ!?」」」
リオの発した言葉がダーロット王や姉妹の二人に伝わると、一瞬その場の
空気がとまる。
「ギャアアッ!!そ、そうじゃったぁぁぁぁ―――――――ッ!!!」
「み、ミルナ様の事を忘れていましたぁぁぁぁ――――――ッ!!!」
「キャァァァ――――ッ!ミルナねぇね、怖ぁぁぁ――――ッ!!!」
そして一瞬が過ぎるとそれぞれが一斉に喫驚して、ミルナの名前を叫喚する。
ダーロット王は頭を抱えて悶絶し、ガーネットが手に持っている剣を落とし、
そして...ネイの表情から色が抜けてその身をブルブル震わせた...。
「や、ヤバい!これは非常にヤバい展開じゃ!?ここは全力で...
このダーロット城の全てを以て、ライ殿を暗殺部隊から守護しなければ!」
「そ、そうですよ!お父様!完全な守護を願いいたしますわ!もし...もしライ様に
もしもの事があって、ミルナ様の怒髪天へ触れたら...あの帝国は勿論の事ですが、
この城と城下町もペンペン草も残らず浄土と化すのは、目に見えていますもの!!」
自分の想像が現実にならぬ様に、ダーロット王が早急に対策を考える姿を見せると、
ガーネットもそれに共感して後押しをしてくる。
「そこまで慌てなくてもいいッスよ、ダーロット王、それにガーネット様。
何せ主様の近くには、この私...サイカー・フォースがついているんッスよ!
たかが一国の暗殺部隊如きに、遅れなんてとらないッスから!」
あわあわと焦り動揺しているダーロット王達に、サイカが胸をドンと叩いて
ドヤ顔をして自分に任せろっと豪語している。
「おお!そうじゃった!ライ殿にはサイカ殿が...聖剣サイカー・フォースが
ついておるんじゃったなっ!」
「ふふ~ん、そうッスよ、ダーロット王!主様にはこの私がついているッス!
高々、帝国如きの暗殺部隊なんか、一瞬で一網打尽ッスよ!」
「おおっ!流石、伝説の聖剣サイカ殿!最高~!素敵~!カッコいいっ!!」
胸をドンと叩くサイカに、瞳をキラキラさせたダーロット王が感嘆の言葉を
投げかける。
「いや~照れるッス!」
ダーロット王の懸命なヨイショに、サイカがデヘヘ...と口角を上げて
ニヤケ顔で照れている。
「あ...お父様、ミルナ様が怖くて、完全にサイカ様に丸投げした...」
「ハァ...お父上...。流石にそれは情けないですわよ...」
サイカをテンションを一生懸命上げているダーロット王の姿に呆れた
リオ達が、ジト目になって見ている。
「ちょ!?娘よ、そんな目で見んといてっ!?わ、わしは一番近くにいるで
あろうサイカ殿こそ、帝国の暗殺部隊からライ殿を守り得る存在と信じて
託しているだけあって...!」
「......」
「......」
「......」
「け、決して、わしがミスをおかした時のミルナ殿の報復が怖いから関わり...
ゲフン、ゲフン!帝国の暗殺部隊が怖いから関わりたくないわけじゃないぞ!」
あまりにジィィーッとガン見してくる自分の娘達の威圧感に、つい本音がっという
LVじゃないくらい、ダーロット王の本音がモロにこぼれ落ちる。
「お、お父様...それ、咳払いで全く誤魔化せていませんよ......」
「うわ...あそこまで、思いっきり本音を間違えて言った人を初めてみた...」
「お父上...気持ちはわかりますが、いくらなんでも他人任せ過ぎです...」
ダーロット王の王らしくない発言に、リオやネイ、そしてガーネットが呆れて
ニガ笑いも浮かばない顔で困惑している。
「うう...嗚呼、そうじゃよ!そうじゃよ!わし、ミルナ殿がめっちゃ怖いよ!
だって、憤怒した時のあの能面な笑顔で迫られたら...わし、気絶する自信が
あるもん!イヤ!絶対に気絶するねっ!」
呆れてジィィーと見てくる娘達の視線に、耐えられなくなったダーロット王が、
清々しいまでの本音を暴露してくる。
「うう...た、確かに...その意見には肯定ですね......」
「じゃろ!お前達だって、さっきあれほどミルナ殿の事を怖がっておった
じゃないか!」
「はは...清々しいまでの逆ギレをしているッスね、ダーロット王......」
「し、しかし...ミルナの奴、本当にみんなから恐れられているな......」
俺はダーロット王親子のやり取りを見てて、本当にミルナって何...?
...と、深く考えるのだった。
そんな感じで時間が過ぎること、数時間...アーミカが屋敷の門前へ
迎えに来てる時間がやってきた......。




