八十二話・新たな婚約(仮)その1
「お父様、お父様ぁぁ!」
「何じゃ、ネイ...。相変わらず、騒々しい奴じゃのう...」
「あ...お父様!そこにいたんだね!」
キラキラした瞳でダーロット王を見つけたネイが、駆け足で近寄って行く。
「ど、どうした、そんな輝く瞳をして...?ハッ!?い、言っておくが今月は
もうこずかいはやらんからな!」
ネイの笑顔を見て勘違いしたダーロット王が、こずかいの駄目出しを
してくる。
「そんなものはいらないから、オレの話を聞いてよ、お父様!!」
「な...なんじゃと...こずかいをいらんじゃと!?お前がこずかいより
優先するものとは...一体、何なんじゃ!?」
ネイのこずかいいらない発言に困惑したダーロット王は、頬に冷や汗を
一つ掻き、生唾をゴクッと飲み込んだ。
「じ、実は......」
ネイがダーロット王の耳元に口を近づけて、ゴニョゴニョと何かを伝える。
「...と、言う訳なの...」
「な、なんじゃとぉぉぉぉ――――――ッ!!?」
――――――――――
「ネイ...遅いですわね。一体何をしているのでしょうか!?」
リオが首を傾げてネイの帰りを待っていると、遠くからドタドタと
騒がしい音が聞こえてきた。
「ん...この音は?誰かが駆けてきている音...?ネイの足音でしょうか?
それしては、少々下品な足音ですが...?」
リオとガーネットがドタドタ騒音を響かせている方向へ首を向けると、
そこにはよく見知った人物...ダーロット王が駆けてきていた。
「お、お父上!何ですか、一国の王たる者がそんなみっともない行動を...!」
「ゼーゼー...だ、だって...仕方がなかろう...!ネイの奴から、とんでもない事を
言われたのじゃから...!」
息を乱しながらダーロット王が、呆れているガーネットへ返事を返す。
「そうですか...お父様もネイから...それはさぞやビックリなられたでしょう...?」
「ビックリ所ではないわ!こ、コホン!えっと...ら、ライ殿...先程ネイから
聞いた事は...その...誠なのか?」
神妙な面持ちをしたダーロット王が軽く咳払いをすると、ネイから聞いた事の
答えをライに聞いてくる。
「え、ええ...。間違いありません...ネイ様の言った通りです...」
ダーロット王の問いに、俺は静かにコクンっと首を縦に振って返事を返す。
「それじゃ...ネイへ言った言葉を認めるという事でいいのじゃな...?」
「はい...それで間違いありません...」
再び問うダーロット王へ、俺もまた静かに返事を返して首を縦に振る。
「おおっ!本当にいいんじゃな!おい、ネイ!お主の言った事を、
ライ殿がお認めになられたぞ!」
「ん...?本当にいいんじゃな...?それ、どういう意―――」
「ヤッホーッ!オレ、本当に嬉しいよ!ライにぃに~っ!」
「うわぷっ!?」
ダーロット王の発した噛み合っていない言葉にハテナ顔をしていると、
ネイが屈託のない笑顔を見せながら、いきなり俺の懐に飛び込んできた。
「ち、ちょっと、ネイ!わ、私のライ様になんて羨ま...コホン、抱きついて
いるのかしらっ!?」
ライの胸に抱きついてキャッキャッ言っているネイを見て、リオが
羨ましくて嫉妬の叫声が口から洩れる。
「だって、ライにぃにがオレとの婚約を認めてくれたんだよ!こんなに
嬉しい事はないよ~♪」
うわ...このタユンッて俺の胸に伝わってくる感触...
ネイ様って、意外にオッパイが大きいんだ...見た目はスレンダーなのに...。
...って、違う、違う!そうじゃないっ!!
「ネイ様!こ、婚約って一体、何の話なんですかっ!?」
「嫌だな♪俺とライにぃにの婚約に決まっているじゃんか!キャッ恥ずかしい♪」
ライの胸に顔をつけたまま、上目遣いでこっちを見てニカッと微笑むと、ネイが
顔を真っ赤にして照れている。
「はいぃぃっ!?ネイ様と俺の婚約ですってっ!?」
何かがどうなったら、そういう話になるんだっ!?
「何を言っとる、先程わしの問いに対し、ライ殿がそうだと認めておられた
だろう?」
「認め...っ!?ち、違いますよ、あの認めるは、その認めるじゃありませんっ!?」
ダーロット王から発された衝撃な言葉に、俺は首を左右に激しく振って否定する。
「ん...それじゃ、何を認めた言うのじゃ...?」
「あ、あれは...聖剣の事だと思って返事をしただけで...」
「聖剣じゃと...?」
今ダーロット中で血眼になって探している聖剣の言葉をライが発した事に、
ダーロット王の眉がピクッと動いた。




