八十話・サイカの怒り
「主様...?主様と言うのは、そこに倒れているへたれで情けない御方を差して
言っているのでしょうか?」
リオに抱き上げられているライに剣先を向けて、ガーネットが見下した表情で
ライに対し、蔑んだ言葉を吐きすてる。
「主様が情けないッスか...。まぁ確かに、この主様は情けないお人ッスよ...。
でもそれは別の意味、そう...情け深いの方ッス......」
サイカが目をつぶり、ライの優しさを語っているとどんどんサイカの身体へ
怒りのオーラが溜まっていく...。
「な、何ですか、あの気迫はっ!?この娘から物凄い力のオーラがどんどんと、
沸き上がっている!?」
サイカの怒りのオーラにガーネットが威圧されて、少しずつ後退りしていく。
「つまりが、お前如きの物差しで計れるモノじゃないんッスよ......」
「主様の情けなさはぁぁああぁぁぁ―――――――――っ!!!」
サイカが叫声を荒らげ目を開いた瞬間、溜め込んだ気合のオーラが一気に
吹き出し、鎧の様に身体中を包み込んだ!
「何、この凄まじい気力はっ!?何でこんな娘が...これ程の強大なオーラを
放てますのっ!?」
「主様の従者...サイカー・フォースが...いざ!参るっ!」
サイカは大地を蹴り上げると、拳を手刀に変えてガーネットへと突進する!
「なっ!は、早い!?ぐぅうう―――――――ガハァァッ!?」
しなる様に打ち込んだサイカの手刀がガーネットの鎧に決まると、勢いそのままで
弾かれる様に吹っ飛ばされ、奥の壁へ激突する!
「ん...どうしたんですか、お偉い女騎士様?まさかと思いますが、その程度の
実力で私の主様を笑ったのでは...ないですよね?」
「ぐう...ば、馬鹿な!?お、女の身で次々と男共を凪ぎ払い、親衛隊長まで
昇りつめたこのわたくしが...こんなふざまに...グウウッ!」
サイカの繰り出した手刀攻撃のダメージが、ガーネットの身体にかなり残っており、
立ち上がろうにも、全く立ち上がれない。
「な、何故です!たった、一撃食らっただけですよ!?それが、何でここまでの
ダメージを受けるのですっ!?」
何度立ち上げろうと力が入らず、その度に腰をベタンと地面につき、そんな自分が
歯痒いのか負け惜しみの言葉が口から洩れる。
「簡単に教えるなら、私のLVが128だからでしょうか?」
そして、その負け惜しみに留めを差す為か、サイカが自分のLVをガーネットへと
冷静な声で呟く様に教えた。
「な、何んですって!LVひゃくにじゅう...はち...!?そ、そんな馬鹿な!?
貴女の若さで、そんなLVありえるわけございません...!」
「証拠なら、ほら...このステータスカードを見るといいよ...!」
そう言うと、サイカは自分のステータスカードをガーネットの手前に投げる。
「LV、いち、じゅう、ひゃく...!?た、確かにLV128ですわっ!?」
ガーネットが、放られたステータスカードを拾い上げLV欄を見ると、確かに
そこにはLV128の数字が刻みこまれていた。
「さあ、それで疑問はなくなったでしょう?では、戦いの続きをしましょうか?」
「た、戦いの続きって...わたくしのLVは42なのですよ!そ、そのLVで貴女に
勝てる訳がないじゃないですか!」
自分とのあまりにものLVの差に、ガーネットの心が畏怖を感じたのか、身体中を
ブルブルと震わせ、サイカとの戦闘を否定する言葉を口にする。
「ハア...LVの差があったら何なんですか...?貴女が馬鹿にした私の主様は
LV20台なのに、帝国四天王の一人と勇敢に戦って、見事勝利しましたけど...?」
「なっ!?て、帝国四天王の一人ですって、そんな信じられませんわっ!?」
「信じる、信じないはそっちの勝手ですが、私はそれを見ていた...そう、ただそれを
見ている事しかできなかった......。それでも主様は戦い、そして勝利を掴んだ......。
その勇敢で情け深い主様を馬鹿にする奴は......」
「全て、この世から排除しますぅっ!ハアアアアァァァァ――――――ッ!!」
サイカが両拳をギュッと強く握りしめ、気合を高める燃焼する為に、唸る様な
叫声を上げる!
「あ...ああ、オーラが...あの娘のオーラがどんどん高まっていく...殺される!
わたくしはここであの娘に一方的に、何も出来ずにただ黙って殺されてしまう......」
サイカと自分の実力の違いに驚愕したガーネットが、このまま殺されると言う確信だけが
頭の中に残り、その場を動けずに茫然自失している。
「が、ガーネットねぇね!?」
「ガーネットお姉様!?」
「どうやら、それが貴女の覚悟の様ですね......。それでは、主様を侮辱した自分を
呪いながらあの世にい―――――ハギャッ!?」
「たっく...人が気絶している間に、何をやっているんだお前は......」
ガーネット様に物騒な発言をしているサイカに、説教を込めたげんこつを
俺はその頭上に叩き込んだ。
「だって、だってぇ~!こいつ、主様を馬鹿にして情けないとか言うッスよ!
あんなに気高く勇敢に戦った主様を、へたれ呼ばわりしたんッスよっ!」
ライにげんこつを食らったサイカが、膨れっ面でプンプンと抗議の言葉を
投げかける。
「これはもう、万死に値する行為ッス!よって、この世から完全に抹殺しなければ
いけ――――ハギャンッ!?」
「何でだよ!?お前の中で俺の地位はどれだけ高いんだぁっ!!」
「う~ん...神の次くらいッスかね?」
ライに再びげんこつを食らった頭を撫でながら、あっさりした言葉で自分の思いを
口にする。
「高過ぎるわ!神の次って、どれだけ偉いんだよ俺は~っ!?」
サイカの俺に対する好意に目を見開き、叫声を荒らげてビックリしてしまう。
「す、凄い...ガーネットねぇねが手も足も出なかったサイカさんを、あんなに
軽くあしらえるなんて...これが、あいつの...ううん、ライにぃにの実力...!?」
「あ、あの...ガーネット様、こいつがすいませんでした、悪気があったわけじゃ
ないので、許してやってもらえませんか!ほら、お前も頭を下げる!」
「い、嫌ッス!なんでこいつに頭を―――ウギャッ!?」
膨れっ面で謝罪を嫌がるサイカの頭上に、俺は再度げんこつを食らわせた。
「い、いいえ!わ、わたくしの方こそ、ライ様には大変失礼な態度を取って
しまいました!本当に申し訳ございませんでした!そ、それと...先程は、
わたくしの事を助けて頂き、ほ、本当にありがとうございますっ!」
ガーネットが、あわあわと慌てる様な口調で頭を垂れて謝罪した後、
先程ライから助けてもらった事への感謝の言葉を、頬を紅に染めながら
口にする。




