八話・コウガの頼み事
「ただいま~!」
「お兄ちゃん、おかえり~!」
玄関のドアを開け、ライが帰宅の挨拶をすると、
奥の部屋から妹...シスが出迎えの挨拶を返してくる。
ここで前に割愛した、我が妹を紹介しよう。
妹...シスは俺より2歳年下。
髪色はベビーピンクで、
腰よりちょっと上まで伸びた髪を
一本の紐状にし、後ろで纏めている。
瞳の色は、キレイなルビー色。
身長はアルテと殆ど変わらないが、
体のグラマーさは、圧倒的に妹の勝ちである。
そのせいでアルテから、
一方的にライバル視されている。
しっかり者で、兄の俺の方が世話される事が多い。
「ふう、今日は疲れた...」
「...って、あれ?今日はやけに早い帰りだね?
クエストを失敗でもしちゃった?」
シスがライの顔を見るなり、意地悪めいた言葉で
からかってきた。
「バカ言え、今日のクエストはちゃんと達成だ!」
俺は、シスにクエストと素材で手に入れた
硬貨の入った皮袋を見せる。
「じゃ、何でこんな早いの?
いつもなら、ギリギリの夕方近くまでかかってるのに?」
「ちょっと、色々あってな...」
今日起こった色々な経緯(ミルナ以外)を、
全て、シスに話した...。
「なるほどねぇ~!その爽やか少年のおかげで
いつもより、早かったのか!」
「でも、その爽やか少年の所に、リィーナさん達を
置いてきちゃって、お兄ちゃんは心配じゃないの?」
「ギルマスにも言われたんだが、コウガは強いから
心配なんて全然してないさ!」
「いや...そうじゃなくて、ほら!男と女が...
まあ、いいか。そうなってくれた方が
私的にも、チャンスだしね...!」
「何がチャンスなんだ?」
「ううん、な、何でもないっ!そ、それより疲れたでしょう?
今から、お風呂を沸かしてくるね?」
自分の思いをうっかり吐露しそうになり慌てたシスは、
ライにその事を気付かれない様に、
お風呂場の方へと、脱兎の如く逃げていった。
それから、数時間が経った......。
「そろそろ、あいつらも帰って来たかな?」
夕焼け色に染まった外の風景を見て、
リィーナ達が帰って来たかもと、俺は座っていた椅子から
スッと立ち上がり、分け前の入った皮袋を手に持った。
「ちょいと今から、リィーナとアルテの所に行ってくるよ」
「今の時間に...って、ああ!分け前でだね...。
うん、いってらしゃい!」
シスは俺の手に持った皮袋に気付き、
手を振って、見送ってくれた。
「......何か、急に心配になってきた」
リィーナ達の家へ向かう道の途中、
あいつらの事をギルマスやシスが心配していたのを
ふと思い出た俺は、
だんだんリィーナ達の事が気になり始める。
「少し、早足で行こうかな...!」
俺の心配と、ギルマスやシスの心配とは
全くの別ものとは、露知らず...
リィーナ達の家へ向かう足取りを早くする。
数十分後......。
リィーナの家に辿り着いた。
「さて、リィーナは無事に帰って来てるかな?」
俺はリィーナの玄関のドアをノックしようとした時、
奥から、聞き覚えのある少年の声が聞こえてきた。
「この声は、確か...?」
声が聞こえてくる部屋の近くへ外から移動し、
その部屋の窓から、そっと中を覗き見る。
「そうなんですよ!リィーナさんとアルテさんは
本当に頼りになりました!」
「いやだな~コウガったら、褒め過ぎだよ~!」
「ですです~!」
部屋の中には、爽やか少年とリィーナの親、
それに、何故かアルテまでいて楽しく談笑をしている。
「へえ~リィーナの奴って、あんな顔で笑えるんだ...
それに、アルテも楽しそうにしてるな...」
いつも一緒にいる幼馴染みの見た事ない、
喜色満面な表情を見て、俺は喫驚している。
そういえばあいつら、頼れる強い男性が好みとか、
言っていたもんな...。
コウガって、まさにその理想の男そのものだし、
そりゃ~あんな表情にもなるか...。
リィーナ達が前に語ってくれた、
理想の男性像を思い出し、コウガがピッタリじゃんと、
俺は首をうんうんと何度も上下に振る。
「ねえ、リィーナにアルテ。もし良かったらでいいんだけど、
明日もLV上げに付き合ってくれないかな?」
「も、勿論、OKに決まってるわ、ねぇアルテ!」
「ですです、嫌だなんて言う訳ないですよ!」
「本当にいいの!ありがとう、嬉しいよ!」
「もうコウガったら、そんなに畏まらなくていいよ。
困った時はお互い様だしね!」
「本当にありがとう。実は俺と一緒にLV上げに来た子が、
突然と、どこかに行っちゃって困ってたんだ。
だからその言葉は本当、助かるよ!」
良い返事が聞けたコウガは、満面な笑顔で
リィーナ達に一礼をする。
「明日もLV上げか...。二人...イヤ、三人とも頑張れよ!」
俺はLV上げに意気込んでいる三人に
頑張れよと、呟く様にエールを送った。
さて...俺がここで中に入っていったら、
あいつらツンデレと照れ屋だから...
きっと、てんやわんやになっちゃうよなぁ~。
「仕方がない...メモと分け前の硬貨だけ置いて
帰るとするか...」
俺は、玄関のドアをそっと開け、
その近くメモと硬貨の入った皮袋を置き、
リィーナの家から遠ざかる。
「ふふ...明日はゆっくり、遅くまで寝ていられそうだな...」
そう...あいつらにとってお邪魔虫な俺を
明日、起こしに来るはずはないのだ!
つまり......
おっしゃ!久々の自由時間を手に入れたぞぉ―っ!
久しぶりにノンビリできるその事実に、
俺の頬は緩み、顔が緩んでしまう。
「な~に、そんな間抜けな顔をしてるの?
どうせ、Hな事でも、考えてたんでしょう?」
「そ、その声は...!?」
後ろから突然、聞き覚えのある声が聞こえ、
俺は、その声のする方向に顔を向けた。
「はは...どう、ビックリした?」
「や、やっぱり...ミルナじゃないかっ!」
ミルナの突然の登場に、嬉と驚が入り交じった声を
俺は思わず、発してた。