七十九話・ダーロット三姉妹
「はは...リオ様、俺との婚約を解消したくなったら、いつでも言って
下さいね。俺に遠慮なんてしなくていいので...!」
「え...!」
「ハァ...!?」
「うわぁッス...」
ライの言葉を聞いたリオが目を丸くして驚き、ネイが何を言ってんの、
このバカは?...と言う顔をして、サイカはアホを見る様な目をしている。
「そ、そんなに私との婚約がお嫌でしたのですか!?そんなあっさりと...
嫉妬もされず、いつでも解消していいだなんて...」
「うわ...。ロザリーねぇねや、モカねぇねから聞いてはいたけど、あんたって
本当に鈍感野郎なんだ...!?」
リオが喫驚した表情から今にも泣き出しそうな表情に変わり、ネイは飽きれた
口調でゴミでも見る目つきでライを見てくる。
「え~!だ、だって良い見合い話があるんだったら、俺みたいな一般市民なんか、
さっさと見切りを棄てて、そちらを選んだ方がいいと思うのですが...」
「あ、主様...。流石に今のは鈍感じゃ済まされないLVの言葉ッスよ...」
「お、俺だって、自分に好意も持ってくれている女性を蔑ろにはしたくないさ、
リオ様は物凄く可愛いし、性格も良いし...」
それにオッパイもでかいしなっ!
「そんな娘の幸せが良い方向に向くのを、考えてあげたくなっちゃうじゃんか!」
「ふう...主様、そう言うのを世間では鈍感野郎って言うんッスよ...」
「え...そうなの?これって、やっぱり俺が悪いの?」
「当然だろ!」
「当然ッス!」
ライの嘆きに間を入れずにサイカとネイが、同時にそう述べる。
「あ、あれぇ~?」
俺は正論を言ったつもりなのに、何故それが鈍感という事になっちゃうんだ...?
「ほら!リオねぇねも、この鈍感野郎に一言文句を――」
「はあぁ~好意を持った女性...それに...キャッ!私の事を可愛いと言って下さい
ましたわ~♪」
キャッキャと表情を恍惚に染め、その場を跳ねる勢いでリオが喜んでいる。
「な...もう、リオねぇねの機嫌が治っている!?こ、これが噂に聞く、上げて
落とすって言うやつなのか...!こ、このライって男、中々の策士...!?」
「正確には、天然の策士ッスね...」
サイカは自分の頭に手を置いて、ライに撫でられた時の事を思い出してそう呟く。
「し、しかしお父様から聞いてはいたけど、あのリオねぇねが...言い寄ってくる
男どもを、まるでゴミを払うかの様に追い払っていた、あのリオねぇねが...」
あんなにデレデレ、ニヤニヤするなんてとてもオレには信じられない!?
...て、言うか、変わり過ぎだろ!一体、このライって男のどこにそんな要素が
あるんだ...?
見た目は、普通...より上か...。性格は、純粋そうだが...鈍感だし...。
あ...わかった、強さか!リオねぇねは、こいつの強さに惚れ込んだ...
きっと、そうだ!間違いないっ!!
「ん...?どうしたんですかネイ様?お、俺の顔をジッと見て......って、
うわっ!?な、何で拳を構えて突進してきてるのぉぉぉっ!?」
「不意討ち、御免!てりやぁぁぁ―――――っ!!」
「御免って、言われて―――――ハギャンッ!?」
いきなり訳のわからない謝罪をネイ様が発した瞬間、飛び出す様に突進し、
唸らせた拳を俺の頬めがけて、思いっきり打ち込んできたっ!
その打ち込まれた拳の反動で俺は回転しながら空中を舞い、そして
地面にゆっくり落ちていく。
「......って、あ、あれ~?」
「あれ~?......じゃ、ございません!ネイ、貴女はいきなりなんて事を
するんですか!?」
喫驚したリオが倒れ込んだライの元へと移動し、ネイに対し窘める様に
説教する。
「い、いや...リオねぇねが、こいつに惚れ込んだ要素って強さなのかな~って
思ってさ...そう思ったら、その実力を見てみたくなって...つい...アハハ!」
リオの説教の言葉に、ネイが冷や汗を頬に掻きながらニガ笑いを浮かべている。
「ち、ちょっと、今の音は、一体なんなんだ!?」
リオがネイに説教をしていると、突如ガシャガシャと金属音を鳴らしながら、
奥の部屋から謎の騎士が出てきた。
「...て、リオとネイじゃありませんか!貴女達なのですか、今の騒音は!?」
「あ、すいませんガーネットお姉様!ネイが少し粗相をしてしまいまして...」
「粗相...?ん...リオ、貴女が抱き上げているそこの男性は...?」
リオに抱き上げられているライの事を、ガーネットがジロリと見つめる。
「ほら...こいつがお父様の言っていた、例のリオねぇねの婚約者(仮)だよ」
「何...この男がお父様やあのミルナ様達に一目置かれているという人物...
ライ・シーカットですかッ!?ふふふ...これは丁度、良かった...」
ガーネットがそう言うと、腰にさげていた剣を引き抜きてライに向けて
身構える。
「ちょっと、ガーネットお姉様!何を為さるおつもりですかっ!?」
「お父様からその事を聞いた時から、わたくし一度ライ殿とお手合わせを
お願いしたかったんですよっ!」
「ちょっとおやめ下さい!ガーネットお姉様!」
「その必要はないぜ、ガーネットねぇね。そいつの実力なら、もうオレがさっき
試したしな!」
「試した...なるほど、だから情けみっともなく地面に転がっているのですね...。
ハァ、お父様やミルナ様達から一目置かれていると言うので、どんな殿方かと
思えば...何ともガッカリな...へたれな人物でしたね...」
ガーネットがそう吐き捨てると、ライをまるで下卑た者でも見る様な目で
見てくる。
「ガ、ガーネットお姉様っ!いくらなんでもそれは言い過ぎですよっ!!」
リオはガーネットを睨みつけて、その言葉を窘める様に叫声を荒らげる。
「そう言われましても、そんな醜態を晒す様な御方をどう褒めよと言うのです?
全く、ミルナ様やリオはこれのどこに―――」
「そこの女騎士いい加減にするッス...それ以上の主様への冒涜、狼藉はこの私が
許しませんよ...」
サイカはゆらりとガーネットの前に立ちふさがり、苛立った表情でそう言い放ち
戦闘体勢に入った。




