七十七話・信じて下さいッス!
「わ、私の事で...?だったら、正直に私が聖剣って言えばいいだけの事じゃ
ないッスか!」
「それは駄目だって前にも言っただろう!もし俺が聖剣使いだとバレてみろ、
どこぞの戦闘に駆り出されて、誰に知られる事もなくひっそりと野垂れ死に
しちゃう運命なのは目に見えてるよっ!」
「そんな~大袈裟な!」
「大袈裟じゃないの!本当に確定な未来なの!」
俺は駄々っ子の如く、両腕をブンブンと振りながら、サイカの言葉を否定する。
「大体、俺って単なるどこにでもいる普通の一般市民なんだぞ...」
それが聖剣使いで、英雄になるだって...?
「ふふふ...チャンチャラおかしくて、ヘソで茶が沸くって言うの...あはは...!」
なげやりな口調で自分の思いを呟く様に語ると、その後...ただ、ただ虚しく、
口から深い嘆息を洩れる。
「主様...歯を食い縛るッス......」
「え...!?」
「歯ぁを食い縛れぇぇぇ―――っ!
そんな駄々ごと、この拳で全部、叩き壊してやるぅぅぅぅ―――――っ!!」
「へ...ちょっと、待っ―――――――――ッッッ!!!!」
サイカの轟音轟く拳を見た俺は、慌ててストップコールをかけようとするが
間に合わず、きづくとギルドの壁をぶち抜いて、外へと飛ばされた!
「どうですか、主様...。今の痛みで少しはネガティブ心が取れましたか...?」
ぶち抜かれた壁の向こう側で転がっている俺の元に、スタスタとゆっくり
歩いてきたサイカが、俺に反省の言葉を聞いてきた。
「と、取れたって言うべきか...そんな暇がなかったと言うべきか...」
「そうですか...それなら、もう一度......」
「はううっ!う、嘘です!取れたました!ネガティブ心なんて、もう微塵の
残っていませんです、ハイッ!!」
俺はサイカの威圧におされて後退りする様に下がり、完璧な土下座でサイカの
言葉を肯定する。
「そうですか...それは良かったッス!」
「は...はは...本当に良かったです...!」
はひゃ~!サイカの奴、怒るとハンパねぇぇ!流石、LV128の威圧感!それに、
サイカさん、怒ると言葉使いが普通に戻るんだ...。
しっかし、これだけの派手にサイカに殴られたっていうのに、殆どケガが
一つもない...。
これは恐らく、サイカが殴る瞬間...俺の体に防御魔法をかけてくれたんだろう...。
「信じて下さいッスよ...主様...」
サイカがそう小さく呟くと、俺の元にスゥーと近づいてくる。
「...って、ちょっとサイカさん......うっぷっ!?」
そして、俺の顔を自分の胸へとギュッと強く抱きしめてきた。
「ちちち、ちょっと、サイカさん、いきなり何をするんだ――うぷっ!?」
いきなりの事に慌てて言葉を発そうとするライの顔を、もう一度自分の胸へと
抱き寄せて、落ち着かせようと頭を撫でる。
「ほら...落ち着いて、主様...。そして、私の言葉を聞くッス...」
うわわ...か、顔にお、オッパイが...!?さ、サイカの奴、聖剣なのに
中々のバストさんだ...。
それにこうして自分が頭を撫でられるのって、本当に久しぶりな気がする...。
そうか...頭を撫でられるって、こんな気分だったんだな...。
はは...顔にオッパイの素敵感触を堪能しながら、頭を撫でられる...これはまさに
至極で至福の落ち着きだ...ハァ~幸せ...。
「ねぇ...主様...。私の側に主様がいるように、主様にも私が側にいるんッスよ...
だから、そんな...野垂れ死になんてさせないッス...」
「サ、サイカ......」
「それに、聖剣...私に選ばれたから、どこかで野垂れ死ぬって言われると、少し...
ううん、かなり悲しくなってきちゃうじゃないッスか...」
そう言ったサイカの表情は、今にも泣きそうなくらいに悲しそうにしている。
「そ、そんな意味で言ったんじゃ...っ!?あ...。そ、そうだよな、そう言って
いるのと、同じだよな...済まん、サイカ...」
言い訳を繕うとするが、同じ事を言っている事に気づいた俺は、シュンっと頭を
垂れてサイカに謝る。
「いいッスよ...気にしてくれただけで...。でも、これだけは主様に言って
おきたいッス...。もし、自分の力が信じられないならっていうのなら、
私に...聖剣に選ばれた自分を信じて欲しいって事をっ!」
「聖剣に選ばれ自分を信じろ...か、あはは...何か俺には難しい言葉だな...。
でも...そうさな。さっき、あんなにサイカに俺を信じろって言っておいて、
自分がそうじゃないって...全く以て締まらないよな...!」
「そうッスよ!あの時のように、主様の素晴らしくも勢い凄さをズバッと見せて
欲しいッス!」
「うっし!わかった!この先どうなるかはわからんが、お前が選んでくれた俺を
信じてみるよ!」
キラキラ笑顔でそう言ってくれているサイカに、俺は相好を崩す微笑みを浮かべて
信じる事を誓う。
「だけど...この状況で、このシリアスな誓いは変な感じだな...」
未だにサイカの胸に埋まりながら、頭を撫でられている自分を見つめてニガ笑いが
こぼれ落ちる。
「でも、このふんわりオッパイと、撫で撫でのコンボにはとてもじゃないが、抗えそうに
ないしなぁ......はにゃ~~!」
「はは...そうッスか。ちょっと恥ずかしいけど、そこまで幸せそうな表情をされると
私も感無量ッス...♪」
ライのふにゃけた表情にサイカは、照れて顔を紅に染めるも、自分自信も満更ではない
幸せの中にいた...。
「あ、あいつら...いきなりケンカを始めたと思えば、今度はイチャイチャし始めやがった...」
壊されて空いた穴からクナが出てくると、遠くでイチャイチャしているライ達を見て、
呆れる口調で苦笑している。
「しっかし、これ...どうすんだよ。この間、メイリにやられたのをやっと修繕したってのに...」
この後、クエスト達成の報酬から壁の修理代を抜かれてしまい、結果、ライの手元には、
三枚の銀貨しか残らなかった...。




