七十六話・伝えるべきか?伝えないべきか?
「おい、大丈夫か?だから、気をつけろって言ったのに...」
「うう...い、痛いッス!」
転がって行った時に頭をぶつけたらしく、頭に手を置いて何度も
擦る様に撫でている。
「ほら...立てるか?」
「撫でて...」
「え...?」
「頭...撫でて下さいッス...!」
そう言うとサイカがライの方へと、自分の頭をスゥーと向けてくる。
「ハイハイ...これで、いいか?」
「うへへ...ありがとうッス、主様~。これは中々、いい気分ッス~♪」
ライに頭を撫でられているサイカの表情が、ふにゃっと垂れて
頬は紅に染まり、ポワンポワンとしている。
「うっしゃ!充電完了ッス!さぁ、主様!行きましょうッス!」
「お、おう...!」
鳴いたカラスがなんとやらで、撫で撫で復活したサイカが雄叫びの如く叫声を
荒らげると、ライの腕を引っ張りダーロットの方へと足を向けて移動する。
「お、これはライ様お帰りなさい!それでクエストの方はどうでした!」
ダーロットの門前に辿り着くと、門番の兵士がこちらに気づき話しかけてくる。
「はい、何とか無事に達成しましたよ!」
「おお、それはご苦労様です!では、ギルドまでお気をつけて下さい!」
門番の兵士との挨拶を交わし終え、俺達はギルドへと歩いて行く。
それから歩く事、数十分後...。俺達はギルドに辿り着き、そしてギルド内に
移動する。
「おお、ライとサイカじゃねぇか!お帰り~!...で、どうだ?クエストは無事に
達成できたか?」
俺達がギルド内に入っていくと、冒険者達が休憩する場所でクナが酒をグビグビと
飲みながら、こちらへと出迎えの挨拶をしてくる。
「はは...まぁ何とか、ちょっとしたドラブルはありましたが、無事に達成でき
ました!」
「ガハハ!そうか、そうか、ドラブルか!まぁ、何にせよ無事に帰ってきたんだ、
それで良しってなもんだ!ひっく...お~い、ケーラァ~ッ!」
ライの達成の言葉にクナが高笑いすると、奥へ向かって大声で上げて受付嬢を
呼ぶ。
「ハイハイ~ギルマス、呼びましたか~?」
クナの声を聞き、奥の部屋から受付嬢...ケーラが営業スマイルで微笑みながら
出てきた。
「あ、これはこれは、ライ様じゃありませんか!お久しぶりですね♪」
「お久しぶりって...。メイリとここへ一緒に来た日から、まだ数日も経って
いませんけど...」
「あらあら、そうでしたかしら?おほほ...すいませんね♪」
ふう...この受付嬢、本当に言動が軽いな...。カロンのギルドの受付嬢...
リスティーさんとは、完全に真逆の性格してるよなぁ...。
リスティーさんか...。こっちに来たせいでしばらく顔を見てないけど、
元気にしているかな?
「ケーラ...すまんが、ライのクエスト達成の受理を頼むわ!」
「クエスト達成の受理ですね。ハイハイ、わかりました~!ではライ様、
ギルドカードをよろしいでしょうか?」
「え...ああ、はい。どうぞ...!」
受付嬢からギルドカードの提出を催促されると、準備していた懐から
ギルドカードを取り出し、受付嬢へと手渡した。
「あ、そうそう...トラブルと言えばダーロット城が、今まさにそんな状態
らしいぞ...」
「ダーロット城が...ですか?」
「何だ...?ロザリー達からその話を聞いていなかったのか...?」
「ロザリー達から......」
嗚呼~そう言えば、思い出したっ!確か...ロザリー達が朝から緊急で
ダーロット城から呼び出しを受けていたっけ...?
え~と、確か...聖剣が紛失したとか.........っ!?
ああぁぁぁぁ――――っ!!
「ど、どうしたんッスか!私の顔をジッと見て...」
ライが何かを思い出し喫驚すると、慌てる様にサイカの顔をジィッと
見つめる。
「ちょっと、何でそんなに私をジッと見てるんッスか!は、恥ずかしいッスから...
あんまり見ないで下さいッスッ!」
未だに自分を見つめているライの事がよほど恥ずかしいのか、サイカは顔を
真っ赤にして、あたふた慌てる様に顔を隠す。
「あ...!サイカのあの恍惚な表情...。ライの野郎、また天然ジゴロを発動
しやがったな...。こりゃ~メイリの奴が荒れそうだ......ハア~!」
顔を真っ赤にしているサイカをジト目で見ているクナが、呆れた表情で
メイリの事を考えると、思わず深い嘆息が口から洩れる。
そんな噂をされているとは露知らない、等の本人...ライはというと、
今絶賛、お悩み中だった......。
これはヤバい事になったな...。もしサイカの事がダーロット王にバレたら、
俺の野垂れ死にルートが確定じゃないか!
でも言わなきゃ言わないで、聖剣紛失状態になってダーロット城は
大騒ぎだろうし...。
じゃあ、どうする...?
バラす...?バラさない...?
どっちがいいんだぁぁぁっ!?
ウキャァァ――――ッ!!あ、頭が痛いィィィ――――――ッ!!?
「ち、ちょっと、主様~!いきなり悶えはじめて、一体どうしたんッスか!?」
頭を抱え、雄叫びをあげている様に悶絶しているライ対し、喫驚したサイカが
心配な表情を浮かべ、近寄って行く。
「だ、大丈夫ッスか、主様!?」
「あ、ああ...大丈夫だ。ただ俺の悩みの内容が、俺のスペックを超えた
だけだから......」
「な、悩みッスか?それは一体、どんな悩みっだったんッスか?」
「お前だよ...お前!聖剣の事を素直に伝えたらいいのか、それとも伝えずに
黙っておくべきか、この二つの間で際まみれていたら、頭がボンッと
ショートしちゃった...はは」
ライが頭がポリポリと掻きながらそう述べると、その表情にはニガ笑いが
浮かんでいた...。